転生魔女さんの日常   作:やーなん

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規範について

 がたんごとん、とカタリナは大きめのスポーツバッグを片手に鈍行列車に揺られていた。

 都会の駅から乗り継いで行きながら、次第に高層ビルや家々が少なくなっていく光景を彼女は何をするでもなく眺めていた。

 

 やがて、車窓の外の風景が自然ばかりを映すようになり始めた頃、彼女は目的地にたどり着いた。

 

 彼女が下りた駅は、田舎によくある無人駅だった。

 プラットホームの敷地も最低限で、車線も一か所しかないような絵に描いたようなド田舎の駅である。

 

 カタリナはたまにクラスメイト達が自分たちの住む学校周辺を田舎だと嘆いている光景を目にする。

 それを思い出して、ずいぶん贅沢な悩みだ、と思った。

 自分たちの通学している学校の周辺にはそれなりに商業施設が一通り備わっている。

 だがこの駅の前にあるのは風光明媚な田園風景ばかりだった。

 携帯電話を見れば電波も怪しい有様である。

 

 だが、カタリナはどこかその光景を見て安堵していた。

 彼女の記憶にある前世と変わらない風景がそこにはあったのだ。

 なつかしさすら感じる土の香りに、真夏の太陽の暑さの中を駆け抜ける風の心地よさ。

 今生は知らないはずの光景が、既視感となって彼女の胸の内にこみ上げてきていた。

 

 そうして、自然の美しさを全身で感じていると。

 

 道の向こうから、軽トラックが駅前に停車したのだ。

 運転手である麦わら帽子の老人が、ぐるぐるとドアの内側の取っ手を回して車の窓を下げてカタリナに向けた顔を向ける。

 

「お前さんが孫娘の言っていたカタリナさんかい?」

「ええ」

 事前に連絡した時は迎えを寄越すと言っていたので、カタリナはうなずいた。

 

「そうかいそうかい、こんな田舎にまで来てくれるお友達ができるなんて嬉しいねぇ。

 ささ、汚いけど乗りな」

 老人に促され、カタリナは軽トラックの助手席に入った。

 彼の言葉は謙遜ではなかった。車内は度重なる農作業の形跡で埃っぽく小汚かった。

 だがカタリナはそれすらも懐かしかった。

 

 穀物の買い付けに農家に交渉に出向いた時に商人の荷馬車に乗り合わせことを思い出していた。

 だからこんな自然の中に軽トラックという科学の産物が混在しているのに、彼女はそれを違和感だと思わなかった。

 

「うちの孫娘は学校でよくやれているのかい?」

「ええ、まあ」

「そうかい。あの子はなかなか学校の事とか話してくれないからねぇ」

 老人は軽トラックを走らせると、道中次々と質問をカタリナに投げかけてきた。

 それに応えているうちに、カタリナは目的地へと辿り着いた。

 

 そこは、田舎だということを差し引いてもそこそこ大きな木造の一軒家だった。

 代々そこに一族が暮らしていたというのが見て取れる古いとだけでは言い表せない趣があった。

 

 彼女の記憶にある豪農のような屋敷ほどではないが、それなりに由緒ある裕福な農家なのは一目瞭然だった。

 

「あら、いらっしゃい」

 車の音を聞きつけたのか、納屋の方から麦わら帽子に田舎の農家の婆さんが着てるような格好の魔女が現れた。

 

「あらあら、こんな何もないところによく来てくれたねぇ」

 その普段の彼女とはかけ離れた様子に面を食らっていたカタリナは、彼女の後ろから現れた老婆に反射的に軽く一礼をした。

 

「お邪魔します」

「とりあえず、用件は私の部屋で聞きましょう」

 カタリナは顔を上げると、家に案内しようとする魔女にうなずいて見せた。

 

 

 

 §§§

 

 

「単刀直入に尋ねますが、空港を経由せずに海外に行く方法はありますか?」

 カタリナがこんなド田舎にまでやってきて尋ねたいことというのが、それだった。

 

「あのね、それのどこが単刀直入なの?」

 普段の黒衣に戻った魔女が麦茶の入ったコップを差し出しながらそう言った。

 

「海外に行きたいのなら、普通に飛行機で行けばいいじゃない。

 今からパスポートを申請すれば、休みの間に取れるでしょう?」

「あんなものに乗るとか正気じゃありません」

「まあ、魔術師シモンのようにはなりたくないわよね」

 少なくとも彼女は飛行機を嫌がるカタリナを馬鹿にはしなかった。

 

「じゃあ船で行けばいいじゃない」

「それでは時間が掛かりすぎる事態は急を要するのです」

「じゃあ飛行機ぐらい我慢しなさいよ」

「それだけはダメです」

「どうしてよ……」

 そこでは彼女は、はたと気づいた。

 

「もしかして、飛行機に乗るのが怖いの?」

 飛行機に乗って神の奇跡で撃ち落とされるのが怖いのではなく、単純に飛行機で長時間空中にいるのが怖いのかと思って尋ねてみると。

 

「あんな鉄の箱に乗って飛ぶなんて、怖くない方がおかしいでしょう!!」

 割と切実な、カタリナの主張であった。

 

「……」

「ついでに言うと、私は船にも乗ったことがないのです。

 木造だろうが鉄製だろうが、あんなものを水の上に浮かべてその上に人が乗ろうだなんてどうかしている」

「じゃあノアはそのどうかしている連中の代表格じゃない」

「あれは神に言われたから良いのですよ」

「呆れた……」

 手段をえり好みしているカタリナに、彼女は額を揉んだ。

 

「仮に私が何らかの手段を提示できたとして、それがそちらでいうところの邪悪な魔術の産物だったとしたらどうするのよ」

「それはもちろん、あなたを斬りますよ」

「めんどくさいわねぇ」

「ですが何事にも例外はあります。神も火急を要する事態ならば目を逸らしてくださるでしょう」

「帰って。私は状況に応じて都合のいいこという人間が嫌いなのよ」

 少なくとも歩み寄りの姿勢を見せないカタリナに、彼女も協力はしてやれなかった。

 

「私は、どうしても海外に行かなければならないのです」

「それはなぜ? そもそもどこに行きたいのよ」

 次に彼女から出た言葉は重々しく、魔女は肘をついて聞く体勢を維持しておくことにした。

 

「イタリアです。私の一団が使用していた隠し倉庫に用があるのです」

「それ、今でも残っているの?」

「幾重にも偽装が施され、人が近づかないようにしてあります。

 その倉庫の扉の開け方も代々総長にしか伝えられていません」

「つまり、テンプル騎士団の末裔の遺産ということね」

 テンプル騎士団が聖遺物を収集していたという話は古今東西で有名な話だ。

 その逸話も相まって、その神秘性は現代でも薄れていない。

 そしてその性質を色濃く受け継いだ総長の傭兵団も、同様なのだろう。

 

「世に出ていない聖釘のレプリカもありますよ。

 尤も、今の時代にはボロボロになっているでしょうけど」

 どこか皮肉気にカタリナはそう口にした。

 その倉庫に収められている収集物は、もしかしたらそんなものばかりなのかもしれなかった。

 

「だけど物騒ね。

 あなたが必要だと言うのだから、それらは本物かどうか関係なく強力な術の触媒でしょう? 

 一体それを何に、誰に使うつもりなの?」

 彼女はカタリナが先ほど意図的に答えなかった質問を追求した。

 

「……あなたには、関係のないことです」

 それは感情を押し殺したような、苦々し気な言い方だった。

 

「友人としてではなく、同業者として頼ってきたのは分かるのだけど、それだけじゃあ協力はできないわ」

「私としてはあなたたちと同業者呼ばわりされるのは甚だ不本意ですが」

「今あなたの置かれている状況って、そんな些細なプライドに固執している場合なのかしら?」

 返事は返ってこない。

 仕方なく魔女は麦茶のコップに口をつけていると、数多の葛藤に苦しんでいたカタリナが口を開いた。

 

「以前、かつての私があなたの弟子を殺したことを恨んでいないと言いましたね。それはなぜですか?」

 そして出てきた言葉は、彼女にとって些細なことだった。

 

「彼女らも子供じゃないのよ、自分の行いに責任を持つべきでしょう。

 私は、私を頼ってきた相手に生きる術を与えたわ。それをどう使い、どのように溺れていったのかまでは責任はとれない」

「かつての私が率いた傭兵団は、使命や神の教えは守るべき規範でした。

 そういった教育をするのは、当たり前の義務ではないのですか?」

「規範? 教え? はっははは!!」

 カタリナの物言いは正論だった。

 ただ、彼女の目の前の魔女には通用しないことではあったが。

 

「ああごめんなさい、あなたを笑ったつもりじゃないの。

 ずっと昔だからあんまり覚えていないのだけれど、私の前世の子供の頃にこんなことがあったのよ」

 彼女は何かを言いたげなカタリナに向けてそう言った。

 

「私の生まれた村ではね、毎年豊穣を祝うお祭りをしていたのよ。

 村に赴任していた神父様も携わっていた恒例行事でね。その日はごちそうが食べれるから楽しみにしていたのを覚えているわ」

「それが何か問題あったのですか?」

「そう、問題があったのよ。

 いつだったか、何かの用で村にやってきたそこそこ偉い司祭だか役人だったかが、その祭りは異端であると言い出したのよ。

 私たちだけじゃなくて、神父様も驚いていたのを覚えているわ。

 彼も、私たちも、それがキリスト教に則った正しいものだと信じていたのよ」

 笑えるでしょう、と彼女は肩を竦めてそう言った。

 

「……その神父様は?」

「安心して、その当時は異端狩りだの魔女だの、そんな苛烈な罰則はなかったわ。

 別の場所に左遷されたくらいで、それで終わりだったわ。私たちに何も罰則はなかった」

「それは、よかったですね」

「その話はその程度で済んだのよね。

 それが、私が一番最初に世の中の規範に疑問を抱いた出来事だったわ」

 カタリナはその経験談に対して、何と言えばいいのか分からなかった。

 地域によって当たり前の祭りがキリスト教の行事と混合するケースは珍しくはなかった。

 日本でも戦国時代に日本にやってきたキリスト教の宣教師が布教をした際、人々はその神を仏さまと間違えるといったこともあったのだと言う。

 

「そのあと紆余曲折あって、魔道に足を踏み入れた私は百年ちょいぐらいした頃に、世間の目を逃れるために修道院を隠れ蓑にしたりしていたわ」

「だいぶ話が飛びましたね」

「長生きすると思い出ばかりが増えるもの。

 もちろん、修道院の中でぐらい真っ当な修道女をしていたわよ。

 厳しい寮長ややかましい友人たちと一緒に過ごすのは、まあ悪くはなかったわ」

 この時カタリナは、自分の前世よりよほど彼女の方が聖職者としての経験があるのではないか、と思ってしまった。

 無論、口には出さなかったが。

 

「だけどある時、同室の友達がどこからかウィジャ盤を持ち出してきて悪魔を呼び出そうなんて言い出したのよ」

「……それで?」

「成功するはずなんて、無かった。

 だけど、そこには私が居たわ。偶然、悪霊を呼び寄せてしまいその子は憑依された。

 すぐにエクソシストが呼ばれて、悪魔を追い出すという名目で苛烈な拷問をさせられたわ」

「あなたは何もしなかったのですか?」

「迷っていたのよ。そこの修道院は悪くなかったし。

 だけどあの子の悲鳴を聞いて、決心したわ。私が、彼女に悪魔を降ろした魔女だと名乗り出てね」

 その言葉に、カタリナは額に手を当てた。

 それは悪手だということを、嫌というほど彼女は知っていたのだ。

 

「私がそのエクソシストを追い出して修道院を去った後、風の噂でその修道院が跡形も無くなったと聞いたわ。

 その後も未練だったのかしらね、別の修道院を隠れ蓑にしたりしたけど、そこでは本職の私から言わせればお粗末な阿片が蔓延していたりしたわ。

 それ以来、私は教会や修道院に近づこうとも思わなくなった」

 そんな話を笑い話のように魔女は語る。

 カタリナはそんな話を氷のように感情を凍てつかせて聞いていた。

 

「そんなものよ。世の中なんて、規範なんてそんなもの。

 人は神の御許とは程遠い、浅ましい生き物なのよ。それを作った神とやらの程度が知れるわ」

「だから、かつての私を恨んでいない、と」

「恨む恨まない以前の話よ。

 話の通じない相手に何かを期待するだけ無駄でしかないのだから」

 結局のところ、この魔女は規範を根底とする価値観に意味を見出せなかったのだ。

 そんなものは時と場合によって、幾らでも言い繕えるのだから。

 

「どうやら、相談する相手を間違えたようです」

 はぁ、とため息を吐いてカタリナはそう呟いた。

 

「帰ります」

「待ちなさい。物騒なものを取り出す必要がある相手が居るのでしょう? 

 あなたが怪我でもして帰ったら、あなたのところの神父様が心配するでしょうし、仕方ないから付き合ってあげるわ」

 その魔女の物言いに何か言いたげな表情をしたカタリナだったが、自分の親代わりの事を持ち出されては何も言えないのだった。

 

 

 

 §§§

 

 

「正直なところ、彼女の協力を仰ぐことは視野に入れていました」

 二人が鈍行列車で揺られること数十分、やってきたのは都内の元ヤクザ事務所だった。

 

「ですが、あなた以上に彼女に手を貸してもらうのは躊躇われたのです」

「彼女らはあなたの思っている以上にビジネスライクよ。

 余計な干渉をお互いにしなければそれでいいでしょう?」

 カタリナは不満げだったが、魔女は召喚士の事務所のインターホンを躊躇いなく押した。

 

 事務所の面々は、来客が二人だと知るとすぐに中へと彼女たちを通した。

 

「これはこれは魔女殿。お弟子さんにはいつもお世話になっています。お連れの方もどうぞこちらに」

 対応に出たのは若い営業のケンジだった。

 

「それで、今回はどういったご用向きで?」

「かの召喚士殿のご助力を願いたい案件なのよ。

 彼女なら海外からでも指定した物体を呼び寄せたりできるでしょう?」

「え、まあ、出来るでしょうけど」

 魔女が用件を伝えると、そこで彼は少し困ったような表情を見せた。

 

「できるだけ早く頼みたいのだけど、ダメかしら」

「あー、少々お待ち戴けませんか? 

 姉御は今、他の来客に対応している最中でして」

「なら、その後で構わないわ。多少なら待つけれど?」

「ああいえ、他の用事があったらすぐに呼んでもかまわないって言われてるんでちょっと聞いてきます」

 ケンジは気が進まない様子だったが、すぐに応接室の方へと歩いて行った。

 

 壁の向こうで二三ほどやり取りがあると、そそくさとケンジが応接室から出てきた。

 それに続くように、召喚士が現れる。

 

「私に頼みたいことがあるとのことだそうですが、いったい何の用です?」

「それより、そちらの客はどうしたの? 応対中だったんじゃないの?」

 単刀直入に話に入るせっかちな召喚士を遮り、魔女は遠慮してそう言ったのだが。

 

「いいんですよ、お茶を飲んでいただけですから」

「はぁ」

「それで、用件とは?」

 召喚士が再び尋ねた時だった。

 

「私のイデアにわざわざ用事ってどんな奴かと思えば、同業者なのね」

 応接間から、イヴが出てきたのである。

 来客とは彼女の事だったのだ。

 

「イヴ、重要な客人です。仕事の邪魔をしないでください」

「私以上に重要な客がいるわけないじゃない」

「怒りますよ?」

 召喚士が睨むと、うっとイヴは身を引いた。

 

「あら、あなたもしかしてイヴじゃない?」

「ん? ……げッ、あなたは」

 彼女の姿を見て魔女が目を見開く。

 対照的に、イヴは彼女に染み付いた薬品の臭いでその正体に一瞬で思い当たった。

 

「知り合いですか?」

「彼女の主人には世話になったわ。

 博士は今もご存命なのかしら。あの人がそう簡単に亡くなるとは思えないけど」

 魔女は召喚士ににこやかに答えて見せた。

 

「あの時よりあなた、見違えて表情豊かになったわね。

 博士もきっと喜んでることでしょう。あなたも彼女と知り合いなのね」

「ええ、前世からの付き合いですよ」

 居心地が悪そうにしているイヴの横で、そんな会話を繰り広げる二人だった。

 

「……ああ、思い出した、あなたはあの錬金術師の従僕ですか」

 記憶を漁っていたカタリナも、何とイヴと面識があるようだった。

 

「あなたも知り合いだったの?」

「知り合いというほどでは。

 うちの傭兵団とやりあったことがあるんですよ」

「傭兵団? じゃああなた、一時期うちのマスターを付け狙ってたエセ騎士団の人間だったの!?」

 カタリナの方の前世にイヴも驚愕を隠せない様子だった。

 

「奇妙な縁があるものですね。

 イヴが苦手意識のある人間がいるとは思いもよりませんでしたが」

「昔話したでしょ、この人が中世で現存していた中でも最古の魔女よ。

 顔を合わせる度に私をオモチャにするから会いたくなかったのに」

 イヴの唇はへの字になっていた。

 それが召喚士はおかしくて仕方がないようだった。

 

「旧交を温めるのは後にしましょう。

 それで、用件とは何でしょうか?」

「……イタリアにある、この住所にある隠し倉庫の中からとある物品を呼び寄せてほしいのです」

 カタリナがあらかじめ用意していたメモを彼女に手渡した。

 

「……安くはありませんが、いいのですか?」

「その倉庫にはほかにも魔術的価値が有るものが保管されているはずです。

 それをそちらの手間賃に見合うだけ差し上げます」

「ちょっと見せて」

 召喚士とカタリナの交渉の横から、イヴがメモを掠め取ってその文字を見やる。

 

「その隠し倉庫って、今もあるの?」

「有るはずです」

「ちょっと待ってて。私のイタリアの部下に、その場所に今もちゃんと存在しているか確認するように言うわ」

 イヴはそう言って、羊皮紙を取り出してそこに何かを書き始めた。

 彼女が文字を書き終えると、その下に独りでに文字が浮かび上がる。

 

「自動筆記を利用した相互通信なのね。

 普通に携帯電話を使えばいいじゃない」

「こっちの方が慣れているのよ」

 魔女の意見を物ともせず、イヴは連絡を待った。

 返信はすぐに返ってきた。

 

「なになに……あー、その隠し倉庫の場所に、今マンションが建ってるみたいね。

 それを建てる時に何か見つかったって話は無いようだから、有るには有るのかもね」

「マンションですか。かなり辺境にあったのですが」

「とにかく、物があるのなら試してみましょうか」

 召喚士は徒弟たちを呼び寄せると、儀式の準備に取り掛かった。

 

 

 そうして、召喚士が召喚した物品の数々に、まだ魔道の片足に突っ込んでいるだけの徒弟たちは戦慄した。

 

 箱に収められた人骨や頭蓋骨、ミイラ化された手足といった常軌を逸した品物が次々と現れたのだ。

 

「あなたの傭兵団って、盗掘団の間違いじゃないの?」

「あながち否定できないのが悲しいですね」

「聖遺物なんて、そんなものですよ」

 慰めではないだろうが、呆れている魔女にそんなことを言われたカタリナに召喚を終えた召喚士がそう言った。

 

 人体の一部以外にも、ガラクタにしか見えない物や十字架や杯などなど、その種類は雑多としか言えなかった。

 

「ありました、これです」

 その中で、カタリナは錆びた鉄の塊を手に取った。

 

「それは、剣ですか?」

 興味を示した召喚士がそれを見る。

 酷い錆びでボロボロだったが、それは確かに一振りの剣だった。

 

「ちょっと貸してみて、錆びを落としてあげる」

 イヴも興味が湧いたのか、カタリナから剣を受け取って油を掛けると魔術を行使した。

 彼女が剣を撫でるように翳すと、錆びは彼女の手のひらの中に納まっていた。

 錆びの下には、十字架の意匠がある美しい剣が存在していた。

 

「驚きました……実在していたとは思っていましたが」

 まさか現存していたとは、と召喚士は驚きを隠せない様子だった。

 

「残りの遺物はそちらに差し上げます。どれもが聖人や聖女の遺骸の一部や所持品ですが、願うならば冒涜的な扱いだけはしないで頂きたい」

「ハッキリ言って、どれも本物なら歴史的に途方もない価値があるでしょうけど、一応目録だけは作らせてください」

「手伝うわ、あなたたち運び出すの手伝って」

 イヴは召喚士の徒弟たちに指示をして、かなりの数のある聖遺物の運び出し始めた。

 

「本当なら、すべて所縁のある場所へと返すべきなのでしょうが」

 カタリナは美しさを取り戻した刀身を見やり、そう呟いた。

 

「啓示の剣よ、どうかこの私に神の加護を」

 そのように祈り捧げるカタリナの姿を、魔女はじっと見つめていた。

 

 

 

 




最後にカタリナが手にしていた剣は、ジュワユーズのように実在していたという伝説の剣です。
日本ではかなりマイナーな代物だと思います。私もこの間はその存在を初めて知ったくらいですから。
本編の情報だけで、何の剣か分かった人がいたらすごいです。まあキリスト教に所縁のある剣というだけで大ヒントなんですが。
検索とかしないで、あの剣だってわかる剣マニアの人とかいるんでしょうか。

とにかく、別々に動いていた警察組と動機を語らないカタリナの道が次回交わります!!

それではまた、次回で!!
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