八月●日 晴れ
今日は友達たちと一緒に、お祭りへと行くことになった。
ようやくこの宿題の日記に書けそうな出来事ができた。
なんでも、神隠しの伝説がある町らしく、私は興味が引かれつつも少し不安だ。
八月◎日 晴れ
たった一日でとんでもなくいろいろな出来事があった。
友達が神隠しに遭い、それを助ける為に座敷童を追ったり、その正体が妖精だったり、と言葉がまとまらない。
そしてつい勢いで、その妖精を預かることとなった。
正直後悔しているが、私はワクワクしていた。
たとえ魔法の力を授からなくても、妖精に会うのは昔からの憧れだったのだ。
八月◇日 晴れ時々曇り
憧れは所詮、憧れでしかないことを思い知った。
先日の事件で思い知っていたことだが、この妖精という生物は酷く性悪だった。
この宿題の日記を書こうとすれば筆記用具を隠されるし、スマホについて教えたら今日の朝には充電器のコンセントを抜かれていた。
このくらいは序の口で、暇さえあれば私の神経を逆撫でするようなことばかりするのだ。
このままでは両親にこいつの存在が露見するのも時間の問題なので、私は親にこのことを打ち明けることにした。
八月□日 曇り
両親の仕事場にまで出向いて、昨日電話で伝えたことを実際に見せることになった。
うちの両親や事務所の人たちはあっさりとこいつのことを受け入れてくれた。
うちはそういうところは寛容だったが、夏芽が面倒見れないならうちの事務所で預かる、とかママが言い出したので慌ててそれはダメだと言っておいた。
こいつを事務所に置いておいたら、たぶん仕事どころじゃなくなるだろう。
私は両親に迷惑を掛けるのだけは嫌だった。
こいつが両親の前だと妙に行儀よくしていたのが余計に腹が立った。
八月×日 曇り午後から晴れ
今日は朝から歯ブラシが自分用のとパパの奴と入れ替えられていた。
それどころか、歯磨き粉の中身が練り辛子になっていた。ギリギリで回避した。
正直、我慢の限界だった。
ここに書いていないだけで毎日最低十回以上も、この性悪妖精に悪戯されている。
私はこういうことに詳しそうな人に頼ることにしたのだけど、今忙しいらしくちょっとしたアドバイスを貰っただけだった。
曰く、分かり合おうとするだけ無駄だから、そういうものだとして諦めろ、とのことだった。
そして今更追い出そうとしても、恨みを買って酷い目に合うだけだと。
私は友達に愚痴ることにした。
§§§
今日も今日とて夏休み。
学生たちの憩いの時期。
そんな彼女らがいつもたむろしている夏芽の家の彼女の部屋で、いつもの四人組はテーブルを囲んで宿題をしていた。
「ホント、マジあのクソ妖精ありえないんだけど」
ぶつくさ愚痴を言いながら、夏芽は社会の宿題を進めていた。
「今日さ、二度寝しようとしたらあいつに叩き起こされたわけ。
部屋中の小物をがたがた揺らしてさ!! 私の寝てるベッドもだよ!!
心臓が飛び出るかと思ったよッ!?」
「それは大変ねぇ」
ここ数日、毎日SNSで彼女の愚痴を聞いていた千秋は適当に相槌を打った。
「春美ちゃーん、ホントにあいつどうにかできない?」
「あの子、ここに住むつもりなんでしょ?
他の移住先を探すわけでもなく。それに夏芽ちゃん、加護を受けたって言ってたじゃない。
今更追い出そうなんて考えない方がいいと思うよ」
春美は宿題の手を止めて、夏芽に真摯に応対した。
そう、どういうわけか夏芽はあの妖精に気に入られてしまった。
話すのに不便だと言って、自分が見えるようになる加護まで与えたと言うのだから疑問の余地はなかった。
「よかったじゃない、妖精さんの加護。
そういうの好きだったじゃない」
「止めて!! そういうのは卒業したし、あいつが見えるようになるだけだもん。ちっとも嬉しくないし」
己の黒歴史をほじくり返されて涙目になる夏芽。
そんな彼女を見て千秋はおかしそうに笑った。
「どうせだから、開き直ればいいじゃない。昔みたいに」
「だから昔の話は止めてって!!」
真冬にまでいじられ、夏芽は机に突っ伏すのだった。
「もう、ホント無理なんだって。あいつデリカシーとか無いし」
「妖精にデリカシーを期待してもなぁ」
「なんなら、宿題のネタにしてみたら?
自由研究をさ、妖精観察日記とか題して」
「ああ、いいんじゃないの、それ」
そして彼女はそんな好き勝手言う幼馴染たちを恨めし気にみやる。
「まあ、自由研究って言っても何も考えてなかったけどさ」
「そんな夏芽ちゃんに、とりあえず妖精の生態についてまとめた動画を見繕っておきました」
用意が良いのか、偶々お気に入りに入っていたのか、ノートパソコンを取り出して動画サイトを開いた真冬が夏芽に画面を向けた。
そこには、ネットで何かと話題になっている妖精レプの騒動についてのまとめ動画などが羅列されていた。
そのうちの一つを彼女は再生した。
動画のタイトルは、「ゲーム妖精レプちゃんつよつよ&よわよわまとめ」だった。
…………
…………
………………
場面は定番の落ちモノパズルゲームの最中であるようだった。
レプはドヤ顔で対戦相手を圧倒していた。
「あれあれー、これで世界大会常連とかホントなのー?
人間ってレベル低ーい。こんなザコザコでトップクラスになれちゃうんだー、きゃはは!!」
対戦相手はそれなりに有名なプレイヤーらしいが、レプは相手を鼻歌交じりで歯牙にも掛けていない様子だった。
『マジで迷いが無い……』
『これ、ホントにツールとかじゃないの?』
『カメラの前で操作しとるやん』
『せやかてレプちゃんがツールみたいなもんだし』
『機械やゲームに精通してる妖精』
というように、コメント欄からはこの光景が見慣れたものであることが窺えた。
動画は別のシーンに移り変わる。
人類には攻略不可能、などと言われているシューティングゲームをまさに人類以外がプレイしている場面であった。
「ええー、うっそー、人類の限界ってこれぐらいなのー?
文明も低レベルなら限界も低レベルなんじゃないの、きゃはは!!
肉体に縛られてるってかわいそー。人間に産まれるのかわいそー」
上下左右からゲーム画面を埋め尽くす勢いで放たれるカラフルな弾幕の数々。
避ける隙間は弾と弾のエフェクトに隠れる当たり判定しか無いというのに、レプの操る自機はするすると難なく移動している。
発売して数年、未だクリア人数ゼロの超高難易度のこのゲームをクリアするのは人間ではなかったようであった。
『うそやん……』
『これはさすがに無理だと思ったのに』
『何が起きてるかわからんわ』
『やっぱ根本的に人類と違うんやなって』
『一部から未だ実在が疑われてるだけあるわ』
ゲームのクリア画面を視聴者たちは唖然と見ることしかできないようだった。
「はぁ~、これが人類の作り出せる難しいの限界なのかー。
失望したなぁ、くすくす、もっと難しいゲーム無いの?」
などとイキリちらしていたレプであったが。
「はぁ!? あんた達ふざけんなこのやろー!!」
次はこれまたおなじみの某レースゲームだった。
相変わらず人間には真似できない正確な操作をするレプだったが、カミナリが落ちたり甲羅が飛んできたり、と周囲のプレイヤーから悉く妨害されていた。
「これが、これが人間のやり方かぁ!! ちっきしょー!!」
その結果、最下位争いをする段階にまで追いやられたレプは涙目でゴールを目指す。
『フルボッコで草』
『相変わらず妨害有りのゲームはよわよわすなぁ』
『技量がツール並みでも頭がクソガキだから……』
『レースゲームは駆け引きも大事だしね』
『レプちゃんリアルタイムアタックとか絶対得意だと思うんだけど』
「うわーん、レースゲームなんてキライ、もうやらない!!」
以降、レプは一切レースゲームはしなかったそうな。
どこからどう見ても完全に子供だった。
真冬が次の動画をクリックする。
それは作業配信の様子の動画だった。
「え? 妖精の国とかって本当にあるのかって?」
レプはカメラの前で自分用の靴を作っているようだった。
その合間にコメントの質問などに答えていた。
「あるにはあるけど、あんたたちが想像しているようなところじゃないよ」
レプの作業工程は革靴の作成に似ていたが、似ているだけだった。
材料は植物の葉が主原料で、花の蜜を絞って接着剤として使用したり、魔法的工程にて加工が施されたりと、既存の人類の技術とは完全に隔絶していた。
視聴者たちがそこに文明の匂いを感じるのは当然のことだろう。
彼女の放送は今や多くの有識者が考察するに至っているのだから。
『妖精の国って言えば、ティルナノーグとかだよな』
『楽園って意味ならアヴァロンもそうだっけ?』
『妖精は洞窟とかに住んでるらしいけど、レプちゃんみてるとな』
『どこまで伝承が正しいんだろうか』
不思議なことに、レプの放送のコメント欄は荒れる時は荒れるが、真面目にレプや妖精について気になるという人間が多かった。
彼女を人類以外の知的生命体と見なしているのか、単純に彼女の反応が面白いからなのかは個々に寄るだろうが。
「私は日本でこの放送してるけど、日本って昔は黄金の国だなんて言われてたんでしょ?
まあ私の故郷もそんなかんじだよ。あんたたちの文明よりよほど優れてるけど、クソつまんない。娯楽とか、無駄なことに関しては無駄に多いだけあって人間の方が上手いかもね」
と言ったことを、靴の成型をしながら語るレプ。
『そんな無駄無駄言わんでも……』
『黄金どころか他の資源にも乏しいしな』
『そっかー、妖精の国もそんな感じなのか……』
『それでも行ってみたいけどなー、レプちゃんの故郷』
そんなコメントの中に、こんな言葉が流れた。
『妖精ってどうしてチェンジリングするの?』
「チェンジリング? ああ、あれ?」
レプは至極普通に世間話をするようにこう言った。
「暇だからに決まってるじゃない」
彼女はニヤッと笑ってカメラに向き直った。
「私たちの故郷にはね、ルールがあるの。
故郷から出る時は、必ず誰かを連れてこないとダメなの。
たまに人間を育ててみたいなんて理由で子供を連れてくるのも居るけど、それは変わり者かなぁ」
常に流れているコメントの量がぐっと減り、その奥の視聴者がどんな表情をしているのか想像してレプは可笑しそうにしていた。
「あなたたちだって大好きでしょ?
自分たちより文明の劣る生物の居る別の世界に行って、下等生物相手に優越感に浸るの。
────きゃはははは!!」
そしてこの日、特に煽ってるわけでもないのにレプの放送は炎上した。
アンチも増えたが、考察は深まったらしく、専用の掲示板では激論が交わされているという。
…………
…………
………………
「この後、あの数百人の体調不良者を出したレプちゃんショック事件とかあったんだけど、これはアーカイブとか切り抜き動画とか全部消されちゃってるから見れないんだよね」
「ああー、なんかニュースでやってたね」
「昔のアニメみたいなことしとるのか、この妖精」
家に連れてきた妖精と大差ないレプの言動に呆れる夏芽と千秋だった。
ちなみにその事件とやらは、レプが視聴者に煽られて妖精らしいことしてみろ、と言われた結果、彼女が挑発に乗って幻覚作用のある光みたいなのを見せたことで起こった事件である。
この一件でレプはしばらくアカウント停止を食らった。
飼い主の魔術師も謝る羽目になった。普通に大事件だった。レプは訴えられるものなら訴えてみろと言わんばかりの態度だった。大炎上した。
平日の昼間の放送でなかったら、被害者の総数は一桁増えていただろう。
「一応、アーカイブとかの映像には幻覚作用のある効果は無いらしいけど、運営側も対処しないといけないからね」
どこか直接それを見れなかったのを残念そうにしている真冬だった。
すると。
「くすくす、面白そうね、夏芽!! 私もこの、配信ってのしてみたい!!」
その声に、くわっと目を見開いて夏芽がテーブルの上を睨みつける。
いつの間にか彼女らが連れてきた妖精が一緒になって動画を見ていたのだ。
「ダメ、絶対にダメ!! こればっかりは何があっても!!
あんたにネットなんて触らせたらすぐに個人情報駄々洩れになるもん!!」
夏芽はとんでもないと言わんばかりに首を振った。
春美は無言でその様子を見ているが、他の二人は夏芽が急に騒ぎ出したようにしか映らなかった。
「居るの?」
「居るよッ、一緒に住んでるんだから!!」
そりゃそうか、と納得した千秋だった。
「夏芽ー、私もやりたいやりたい!!
同郷の仲間があんな面白そうなことしてるなんて知らなかったんだもの。
私もたくさんの人間をおちょくって遊びたい!!」
そして駄々をこね始める妖精。
夏芽のイライラは目に見えて上昇していった。
「あー、妖精さん、聞こえる?
私がネットの使い方を教えてあげるから、妖精さんについて教えてほしいな!!」
「えッ、ほんと?」
「真冬!! ダメだって!!」
とんでもないことをしようとしている幼馴染に、夏芽は目を剥いて止めに入ったが。
「いいんじゃないの、教えても。
そうしないと、たぶん勝手に覚えて夏芽ちゃんのスマホを弄って好き勝手し始めるのも時間の問題かもよ」
「うぐ……」
春美の提言に、夏芽は最悪の想像をして固まってしまった。
「それに、私も興味あるし。妖精の住む世界についてとか。
自由研究、いいじゃない。妖精について調べるの。私たち四人でやってみない?
夏芽としても、共生関係は早いうちに築いた方が良いと思うよ」
「私も春美ちゃんに同意見かなぁ、この子、出ていく気無いんでしょ?
座敷童みたいなものだし、仕方ないんじゃないの」
千秋も春美の意見に賛同した。
彼女は座敷童に嫌われると家が衰退するのを知っていたのである。
「……だそうだけど、あんたはどうなの?」
「それくらいのことでいいの?
そんなどうでもいいことに興味あるなんて、人間ってホント変なの。
でもあなた達四人と遊べるのなら何でもいいよ。くすくす、ほら」
夏芽が妖精に視線を向けると、彼女はそう言って手を振るう。
すると、光の粒子が撒かれるように舞った。
それを見えたのは春美と夏芽だけだったが、すぐに千秋と真冬も周囲に光る鱗粉のようなものが撒かれていることに気づいた。
そして。
「あ、見える、見えるよ夏芽ちゃん!!」
「ホントだ、あの子だ」
真冬と千秋の二人にも、テーブルの上にぺたんと座っている妖精を視認できるようになっていた。
「これで一緒におしゃべりできるでしょ。
これでこれで、私たちみんな友達だからね!!」
妖精は無邪気に笑ってそう言った。
「大丈夫かなぁ」
「大丈夫じゃないから、こうして懐に入って管理するのよ。
妖精、だなんて今の私たちは言ってるけど、師匠は小悪魔の方が適切だって言ってたし」
「悪魔って」
「女性を形容する小悪魔って意味じゃなくて、小さいスケールの悪魔ってことだからね?
夏芽ちゃんも聞いたことぐらいあるんじゃない?
妖精は零落した神だとか、そういう伝承。それって伝承に過ぎないけど、その力は誇張じゃないから」
「マジ?」
「マジだよ」
春美は真顔でそう言った。だからあれほど止めた方が良いって言ったのにと言わんばかりである。
その言葉に、夏芽も顔色が悪くなる。
ことここに至って、ようやく夏芽も自分が招き入れてしまった存在について正しく認識したのだ。
「それ、さきにいってよ……」
「日本で言ったら妖怪なのよ、好き好んで同居したがる方がおかしいじゃない。
妖精の分類自体だって、アンシーリーコートって悪性を意味する言葉もあるし」
春美はそっちが聞き分けが無かったんじゃないか、と語彙力が喪失してる夏芽にそう言った。
「でも、昔から日本人はそう言った存在に対して、崇め奉り畏れ敬って対応してきたでしょ。
この子が妖怪としてあの街で存在していたようにね。
距離感さえ間違わなければ、きっと彼女は恩恵をくれると思うわ。今みたいにね」
「……わかったよ」
夏芽は恩恵がどうというよりも、自分たちに害が及ばないかの方が心配だった。
しかし、仮にも専門家の弟子にそう言われては受け入れざるをえなかった。
「……ああ、こういうことなんだ」
そこでふと、さっそく質問をしている二人を見てボソッと呟いた。
自分や友人たちの安全の為と言ったが、本質は違った。
古来より、妖精は伝説に登場し数々の恩恵と破滅を齎してきた。
自分は、その両方を天秤に乗せて恩恵を求めた。
「これじゃ、夏芽ちゃんのこと言えないな」
これが魔道に足を踏み入れると言うこと。
魔性に魅入られるということなのだと、彼女は自覚してしまった。
そして春美は、以前に己の師に言われたことを思い出していた。
才能が有るのは望海で弟子にしたいと思うが、春美の方がこの道に向いている、と。
ぎこちなく妖精とコミュニケーションを取ろうとする夏芽たちを見て、本当に自分が彼女たちの友人でいていいのだろうかと、心のどこかで春美は思うのだった。
先週はゲームに夢中で更新できませんでした。でも私は悪いと思ってません。嘘です、ごめんなさい。
さて、今回はいつもの四人組のお話でした。
早いもので、もうすぐこの小説も五十話になりそうです。
この小説を投稿しはじめて半年もたちましたし、何か特別なお話を書こうと考えています。
せっかく夏という時期設定なので、水着回でしましょうか?
あまり具体的に描写しなかった容姿についてとかどうでしょう。胸とか。胸の大きさとか。