前回の次回予告は後回しになりましたのであしからず。
その日、学校は阿鼻叫喚の地獄絵図となっていた。
「この学校は我々、反ミュータント組織『人類の栄光』が占拠した!!」
アサルトライフルを持った軍人風の外国人たちが前触れも無く大挙して押し寄せて来て、教師や生徒たちを脅してグラウンドに追いやって一か所に集めさせた。
彼らのリーダーらしき男が言う。
「この学校は悪しきミュータントどもを匿っているとの情報を得た!!
おぞましいミュータントは一人残らず滅さなければならない!!
この中に連中が居るのは分かっている!! さっさと名乗り出ろ、さもなくば!!」
銃を持って生徒たちを取り囲んでいる男たちが、その凶器をみんなに向けた。
かろうじて恐怖で震えて黙っていた生徒たちから悲鳴が上がり始める。
「ど、どうしよう……」
その中の一人である夏芽も恐怖に震えていた。
今日に限って魔女さんもカタリナも居ない。
何の力も無い彼女は震えることしかできなかった。
「きゃあ、やめて!!」
そうしているうちに、春美が男たちに捕まってしまった。
「春美ちゃん!!」
夏芽は悲鳴じみた声を上げるが、銃口を向けられ黙らざるをえなかった。
「そんな、どうしてこんなことに」
「何とかしてあげようか?」
すると、なぜかポケットの中から妖精──コティが顔を出してそう言った。
「コティ!! あなた、学校まで付いてきたの!?」
「でも、私が居てよかったでしょ?」
にやにやと相変わらず笑ってそんなことを言う妖精だった。
「何とか出来るなら何とかしてよ」
幸い、妖精は一般人には見えない。
夏芽は小声で彼女にそのように訴えたのだが。
「私は何もしないよ。くすくす。
その代わり、夏芽が何とか出来る力をあげるよ」
「なにそれ、意味分からない……」
「前、一回やってあげたでしょ?」
彼女にそう言われて、夏芽はこんな状況なのに顔が真っ赤になった。
「たしかに、あれをやれば何とかなるかもしれないけど」
「じゃあやってみなよ」
ふわり、と妖精コティの魔法が夏芽を包む。
そしてその手には粗く削られた木のステッキが存在していた。
やるしかない、と夏芽はヤケクソ気味に思った。
「アンチマテリアライズ!!」
そしてそのステッキを掲げ、夏芽は叫んだ。
その瞬間、未知の輝きがステッキから放たれて、夏芽の体が光に包まれた。
一瞬にして、彼女の衣服が制服からカラフルでひらひらな妖精のような羽のついたファンシーな物へと様変わりしていた。
「魔法少女フェアリーサマー、ここに参上!!
お前たちの横暴もここまでよ!!」
別に名乗る必要もないのに夏芽は女の子のオモチャみたいなカラーリングになったステッキをテロリストたちに向けた。
「ミュータントだ、殺せ!!」
そしてリーダーの男の指示は簡潔で素早かった。
四方八方からの銃撃が、夏芽を襲った。
しかし、常人なら瞬く間にひき肉になるだろう量の銃弾を食らっても、夏芽は無傷だった。
まるで物理法則が彼女に対して機能していないかのようであった。
「夏芽は今、私たちと同じように物質に依存しない上位の概念にシフトしてるのよ。
人間どもの火薬の武器なんて効くわけないじゃない」
夏芽の肩に乗って涼しい顔をしているコティがテロリストたちをあざ笑った。
「ほら、銃声にビビってないで反撃したら?」
「あ、うん!!」
あくまで暴力を伴った喧嘩すらしたことのない夏芽は、コティに言われてようやくステッキを振るった。
その軌跡が七色の輝きを伴った波動となり、物理的な衝撃としてテロリストたちを木っ端のように吹っ飛ばした。
「そうそうそんな感じそんな感じ。
もっといろいろな機能があるから試してみなよ」
「わかった!!」
魔法少女と化した夏芽はコティに言われるがまま、様々なステッキの機能を試した。
彼女はそうして、舞台装置に過ぎない人質の教師や生徒たちのことなど忘れて、都合の良い悪人たちを好き放題倒すのだった。
§§§
「…………まあ、夢だよね」
寝ぼけ眼を擦りながら上半身をベッドから起こして、夏芽は働かない頭でそう呟いた。
自分が魔法少女に変身してから都合よく舞台から排除された邪魔な教師や生徒たち、倒しても倒しても次々と補充されるテロリストたち。
そして夏芽が満足するとそれも終わり、激しい戦闘の間どこにいたのか生徒たちが現れ彼女を称え始めた。
すっごく楽しかったが、現実に戻ると思わず幼稚だなってニヒルな気持ちになる夏芽だった。
「学校にテロリストがきて華麗に撃退するとか、今時の子も妄想するのかな」
そんなことをぼやきながら、彼女は棚の上にあるミニチュアハウスに目を向けた。
「──コティ!! あんたでしょ、あんな夢を見せたの!!」
「なんで私、怒られてるの?」
不思議そうに、妖精コティはミニチュアハウスに備え付けられているテーブルとイスに座ってお茶を飲んでいた。
「ふぅ、お茶は人間の文化でも数少ない優れたものよね」
「なんであんな夢見せたのよ!!」
「え、だって好きなんでしょ?」
コティが手を振るうと、押し入れの扉が独りでに開いてずぞぞぞぞーっと封印されし夏芽の黒歴史が詰まった段ボールが部屋の中に入ってきた。
「勝手に開けないでよ!!」
しかもそれは封を切られた形跡があり、夏芽は慌ててベッドから飛び出してそれを押し入れに押し込んだ。
「予想通りだったけど、夏芽って根本的に浅ましいのね。
都合の良い悪役や都合の良い被害者を作って、正義のためにと言って敵を踏みにじる。
暴力という解決手段が選択肢に現れた時、それを行使できる人間なのよ、あなた。
くすくす……でも、別にあなただけじゃないわ。人間ってそういう生き物でしょ?」
夏芽がこの妖精と同居することに我慢ならないのは、いちいち彼女が夏芽の神経を逆撫でするようなことを言うからだった。
「あんたがそういう夢を見せたんでしょ」
「私は夏芽が見たい夢を見せただけよ。
私は楽しかったわよ、夏芽と一緒に暴れられて」
憮然とした態度の夏芽と対照的に、コティは無邪気に笑っていた。
その表情を見て、夏芽は不満と怒りの矛先のやり場を失ってしまった。
一週間以上夏芽は妖精という人外の知的生命体と過ごして、わかったことがあった。
彼女は人間をアリのように観察するような一面を見せるのに、自分の楽しみを優先し時折他者を巻き込む。
高い知性を持ち達観した思考をしているのに、その精神性は幼いというちぐはぐさだった。
「夏芽も楽しかったでしょ? だって生き生きしてたもの」
「だからって、やめてよね。あんな夢を見せるの。
どうせ夢の中のことなんだし。空しいだけじゃない」
夏芽はとっくに中二病を卒業していた。高二病に病状が進行しただけかもしれないが。
まあそれは彼女の年齢的に仕方がないことなのかもしれない。
「じゃあ、実際にあったら同じことするの?」
「しないから!! あんな恥ずかしいこと……」
「でも、その恥ずかしいことを大真面目にしてる人も居るよ?」
コティは夏芽の親にねだって買ってもらったタブレット端末をぺたぺたと小さな手で操作して、とあるニュース記事を開いた。
『我らがヒーロー“テンペスト”!!
ビル火災を超能力にて一瞬で火を消し止める!?』
という、海外のニュース記事が和訳され転載されていた。
「その人は、特別じゃない」
世界最高と目されるその超能力者の活躍は、遠い日本でも時折報道されるくらいで夏芽もたまに目にする。
でもそれは、彼に力が有るからだ。
彼は力のある者の責任を果たしているに過ぎない。ノブレスオブリージュというやつだ。
「えー、せっかく他の三人も誘って春夏秋冬魔法少女戦隊みたいな感じでやってみるのも面白そうだと思ったのに」
などと口を尖らせるコティ。
「私の友達を巻き込まないでよ」
夏芽は朝から額を揉む羽目になった。
こんなことなら、暇つぶしに与えた昔録画した魔法少女物のアニメなんて見せなければよかったと思うのだったが。
「せっかく変身アイテム作ったのに。
もういいや、真冬にあげよーっと」
「いやいや、ちょっと待って!! どういうこと!?」
「どういうことって、夢でやってみたでしょ?
あれと同じ変身アイテム、用意しておいたの」
そう言って、コティはまさしく夢で見た粗削りな木のステッキをどこからか取り出した。
「いや、あれって夢でしょ?」
「夢だけど、あなたの脳の領域を使った、えーとシミュレート? みたいなものだよ。
それに私たちも、語弊はあるけどあなたたちにとって意志のある夢のような存在だし。
流石にあそこまで自由自在ってわけにはいかないけど」
そのあまりにも非現実的な言葉に、夏芽もぽかんとしてしまう。
夢の中の夏芽は、飛んだり跳ねたり魔法で絨毯爆撃し銃弾が効かないとやりたい放題の無双ぶりだった。
それを容易く実行できる道具を、この妖精は何でもないように作ってしまったのだというのだから当然だった。
「あんなにすごいの、そんなに簡単に作っていいの?」
「え、こんなのただのオモチャじゃない?」
人類にとっては人智を超えた品物も、この妖精にとっては手慰み程度の代物に過ぎないのかもしれなかった。
「……うー」
夏芽は少し、いやかなり葛藤はあったが、そのステッキを手に取りへし折った。
「あー!! なにするのよ!!」
ぷんすか、と夏芽の暴挙に怒り出すコティ。
「あんたが言ってたことでしょ、暴力が選択肢に在ったらそれで解決するのが人間だって。
だから私はこうするの!!」
「そうやって道徳とかモラルとか、自制心とかを美徳にするのも傲慢で馬鹿馬鹿しいと思うけどなぁ」
自制心とかとは無縁な妖精が、夏芽の人間らしさを理解できず小首を傾げていた。
「そういうのって、結局は規範に沿うことで自分たちは素晴らしいって言っているのと同じじゃない。
所詮は秩序を保つ為の方便なのに」
「あんた達だって、暴力に頼るのを浅ましいとか思うんじゃなかったの?」
「別に。暴力って選択肢一辺倒になるから馬鹿だって思ってるだけだよ。
むしろ、自分から暴力って選択肢を排除して自分の可能性を狭める方が愚かだと思うなぁ」
あくまでコティは暴力を否定も肯定もしていなかった。
ただ必要な時もあるからわざわざ捨てる意義を見出せない、夏芽はそう感じた。
「じゃあさ、妖精にとって秩序とか道徳とかって意味のないことなの?」
夏芽はパジャマを脱いで私服を準備しながら問答を続ける。
「うーん、そういうのって、私たちにとって随分と前にどうでもいいものになったと思うかな」
「どうでもいいって、あんた達って一応国とかあるんでしょ?
そこじゃあみんながみんな、自分勝手に過ごしているっていうの?」
「ほーら、すぐまた自分たちの常識に当てはめる。
肉体に比重が多いとその性能に引っ張られるから可哀そうだよね」
遠回しに、お前馬鹿で可哀そう、と言われてカチンと頭に来た夏芽だった。
だが実際のところ、夢で魔法少女と化した夏芽の体は殆ど彼女ら妖精と同じ存在にシフトしていた。
その時の全能感や万能感、思った通りに体が動いたり思考が異様なほどスムーズだったことを思うと、彼女ら妖精にとって肉体とは重い足枷なのかもしれなかった。
「ねえ夏芽、あなたは自分たちの文明の最果てが想像できる?」
だが、急に彼女はそんなことを言い出した。
「え? どういう意味?」
「昨日、テレビでSF映画やってたのを見たけど、そういう未来の文明の姿よ。
あなた達が想像できる、そのすべてが実現したとしたら?」
「例えば、宇宙進出して宇宙船がワープ移動したり、人類誰もが不老不死みたいな?」
夏芽は己の貧困な想像力で、可能な限りの極限の未来を想像したが、出てきたのはそんなありふれたものだった。
「そうそう。私たちはね、とっくの昔に自分たちの文明の最果てまで来ちゃったの。
その前までは私たちにも肉体があって、あなた達みたいに国家みたいなのもあったらしいけど、今じゃ……時間の概念も違うから、今って言い方は変だけど、私たちはもうとっくに文明の維持なんて止めちゃった。
肉体があった頃、私たちは地球でいうところ植物に近かったのかな。人間みたいに個別に意識を必要としなかったみたい。
私たちがこうなったのは、国家やそれが維持する利益が個人で出来ることを上回ってしまったから。
私たちの故郷にあるのは、漫然とした退屈だけだよ」
夏芽はあまり社会とかの成績はよくないので、コティの話の全てを理解したわけではなかったが。
「それってつまり、もう滅ぶことを受け入れてるってこと?」
「そうかもね。別にどうでもいいことだとおもうけど」
なんとなく、妖精という生き物の精神性が幼い理由が分かった気がした夏芽だった。
「あ、そうそう。くすくす、それ、折れたくらいじゃ元の機能が失われたりしなから、気が向いたら使ってね」
「……」
コティが折れたステッキを指差してそう言うものだから、夏芽はなんだかおちょくられたような気分になるのだった。
そして、今回のオチ。その日のお昼。
「アンチマテリアライズ!!」
夏芽は早速、妖精のステッキの力を使う羽目になった。
「はい、それじゃ次の問題に行こうか」
「うぐぐ、屈辱……」
ふりふりふわふわな格好のまま、夏芽は千秋に教えられるまま数学の宿題を解いていた。
「すごい、前に何回説明してもわかってくれなかった公式をこんなにあっさり使いこなしてる」
そして真冬が褒めてるのか貶してるのか分からないような言葉を呟いた。
「きゃはははは!!」
そしてそんな彼女を見てコティは大笑い。
「これ、事実上の罰ゲームじゃん!!
なにが嬉しくてコスプレしながら勉強を教わらないといけないの!!」
「夏芽が覚える気が無いからでしょ!!
これが終わったら英語もやるからね。記憶力が格段に上がっているうちに詰め込むわよ」
「社会も苦手だって言ってたところやろう。休み明けテストは平均80点は行きたいし」
悲鳴を上げる夏芽の意思を無視して、千秋に加え春美も試験問題を吟味している。
「これ変身解除したら知恵熱出るやつじゃ……」
夏芽は涙目になりながら宿題を進めるのだった。
更新が遅れて申し訳ありません。
週に一度は更新したいと思っているんですがね。
さて、次回はついに五十話。第百話までの折り返しとなります。
世間も作中もクソ暑い時期なので、水着回をやるぞ、うおー!!
つまり化粧屋の活躍はさらに後回しという……。
あとで前回の次回予告消しときますね。
それではまた、次回!!
お楽しみに