転生魔女さんの日常   作:やーなん

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どういうわけだか日刊ランキングに乗ったので、嬉しくなって急遽書きました!!


魔性について

 

 その日の小池はとても居心地が悪かった。

 

 

 前日、彼のスマホにメッセージが入った。

 

『最近暑いし、海にでも行かない?』

『行きます!!』

 彼は即答した。

 あまり積極的ではない彼は、自分の彼女に負い目もあってなるべく誘いは断らないことに決めていた。

 それでも、交際相手の水着姿を拝める機会があるなら逃すわけにはいかない、という男子高校生的な欲求ももちろん存在していたが。

 

 そして翌日。彼は後悔した。

 

 目的地の海岸までの最寄りの駅まで新幹線で向かうことになったのだが、それに乗る駅に集合ということで待ち合わせの時間に三十分早く彼は向かった。

 

 そうしてそわそわと待ち人を待っていると。

 

「あれ、小池さん、お早いですね」

 集合時間の十五分前、知り合いの女子グループの一人である望海がいつもの四人組と一緒に集合場所に現れたのである。

 当然、全員手荷物を持っている。水中ゴーグルや空気のない浮き輪まで。

 

「あれ、君たちがなんで?」

「聞いてませんか? 今日はみんなで海に行こうって、あの方に誘われたんですけど」

「……聞いてない」

 てっきり二人きりだと思っていた小池は、少しだけ落胆した。

 

「まあ、私たちは少し離れたところで遊ぶからさ」

「そっちの邪魔はしないし」

 夏芽と千秋はそんな風に彼に声を掛けた。

 

「……」

「まあまあ、落ち着いて春美ちゃん」

 すごい表情で彼を睨んでいる春海と彼の間に、真冬が入って彼女をなだめていた。

 

「お待たせ」

 そして待ち合わせ時間の五分前、主催者の魔女が嫌そうなカタリナを伴って現れた。

 いつもケープを羽織っている魔女さえもその下はすぐに脱げるような薄着なのに、カタリナはいつも通りの修道服だった。

 

「これは何の催しですか?」

「カタリナさんも聞いてないの? 海に行くんだよ」

 夏芽からそれを聞いて、カタリナはさらに嫌そうな表情になった。

 

「帰ります」

「えー、カタリナさん帰っちゃうの?」

「水着の用意もありませんしね」

「じゃあさ、向こうに着いてから買えばいいじゃん」

「あ、いいね、それ。カタリナさんは何色の水着がいい?」

 夏芽に続いて千秋までわいのわいのとカタリナに迫っていく。

 

「師匠、なんて言って誘ったんですか?」

「私はみんなで遊びに行こうって言っただけよ。彼女、海が苦手みたいだし。面白そうだったから」

 彼女に恨みがましい視線を向けられている魔女は望海とそんな会話を交わしていた。

 結局カタリナは周囲の空気やら同調圧力やらに負けて、渋々と付いていく羽目になった。

 

 女子七人に対して男子一人。

 居心地の悪さはこれだけではなかった。

 

 道中の新幹線での移動の合間、八人は席を向かい合わせにして四人ずつ座っていたのだが。

 

「わかってるんですか? 私はこれでも生前は男だったんですよ」

「今はれっきとした女性じゃない」

「そうですよ!! 考えようによってはオイシイ体験じゃないですか!!」

 小池のいる席は、カタリナと魔女、そしてなぜか真冬が座っていた。

 

「なぜそんな力説をするんですか……」

「ラノベ界隈じゃ、前世は男で今世は女性ってのは定番の展開なんです!! 

 精神は前世の男に引っ張られ、でも今は女性の体でってその戸惑いとか葛藤とかが素晴らしいんじゃないんですか!!」

「いや、理解できないんですが。

 そんなのが好きな人間が居るんですか?」

「TSとか、精神的BLが嫌いな人が“ここ”*1に居るわけないでしょう!?」

 謎の説得力を発揮する真冬だった。

 

「そうでしょう? 小池さん」

「え、僕に話題を振るの? いやまあ、確かにTSしたって設定があるのに、男性の頃と全く変わらない振る舞いで、ファッションTSみたいに進む物語とかは分かってないとは思うけど」

 小池は真冬におずおずと意見を返した。

 この二人、実のところ趣味が似ていたのである。

 

「そうそう。女性として生きることになって、気になる男性ができてしまって、ああでも自分の前世は男だから、女性の体は彼の仕草や言動に魅かれてしまって……じゅるり」

「う、うん、そうだね……」

 尤も、彼は真冬ほどの深みに入り込んではなかったが。

 

「……理解が追いつきません。それって男色に当たるのですか?」

「ホモもBLも全然違います!!」

「は、はあ……」

「でも気になるわね。あなたは女性として男性に心魅かれたことはあるの?」

 ちょっと困惑気味のカタリナと真冬の会話を面白そうに見ていた魔女が問うた。

 

「あるわけないでしょう、ついこの間まで教会にほぼ閉じこもって生活していたんですから」

「でも前世では女性経験ぐらいはあったのでしょ? 

 傭兵だったんだから。男所帯じゃ溜まる一方でしょうに」

 小池が居心地の悪い理由の一つ、それは女子の会話に混ざれないからではなかった。

 彼の彼女が割とぐいぐい際どい話に積極的なのが原因だった。

 

「えッ、まさかあなた童貞だったの?」

「悪いですか?」

 カタリナの反応の悪さから察した魔女が、彼女にしては信じられないといった表情になった。

 

「傭兵なんて奪い、殺し、犯す、そういう生き物じゃない」

「否定はしませんが、うちの傭兵団はその三つの内の殺し以外は私が許しませんでした。

 先代のうち何人かはそれらを許した者も居たそうですが」

「それは、本当に意外ね」

「現代的な倫理観に沿った理由ではありませんがね。

 異端とした相手の、一切合切を焼いただけです。結果論ですよ」

 褒められるようなことではない、とカタリナは前世の所業をそう語った。

 

「おかげで私の代は経営が火の車でしたよ。

 経営者としては副長の方がよっぽど優秀でした。でも彼のやり方ではうちの人間は付いて来なかったでしょうね。

 うちの所属団員はいくつかの家系で成り立っていたので。

 団長はその中で最も神に忠実で強い人間が成るので、私が子孫を残す必要性は感じませんでした」

「傭兵の収入源って略奪だそうね。

 そりゃあ、経営は大変だったでしょう」

 うんうん、と魔女は頷き。

 

「生真面目なあなたの事だから、どうせ自慰もしたことないんでしょ? 

 キリスト教徒って確か自慰はダメなはずよね。

 信じられないわ、それでどうやって生きていけるのかしら。

 私があなたの前世に最後に会った時って、たしか四十歳手前ぐらいでしょう?」

「臆面もなく人前でそんなことを言わないでください!!」

 さしものカタリナも彼女の物言いに恥じらいを感じたのか、顔を赤らめて声を荒げてそう言った。

 当然、彼女のド直球な物言いに小池も真冬も言葉が出ない。

 

「産まれてから死ぬまでずっと禁欲って、生きてる意味あるのかしら」

「少なくとも、奔放すぎるよりはずっとましですよ」

 特にそれは皮肉でも嫌味でもなかったので、カタリナは少しだけ不機嫌になるだけだった。

 

「あなたも、交際相手を選ぶ権利ぐらいあるんですよ」

 そしてその話題を締めくくるように、カタリナは何とも言えない表情になっている小池にそう言ったのだった。

 

 

 

 §§§

 

 

「海だー!!」

 砂浜に着くやいなや、すぐに夏芽は上着を脱いで海に飛び込んだ。

 フリルの付いたビキニ姿の彼女は、その健康的な水着姿を晒しながらばしゃんと水しぶきをまき散らす。

 

「夏芽ちゃん、こっちの準備手伝ってよ……」

 真冬はみんなと一緒に海の家で借りてきたビーチパラソルの下にビニールシートを敷いたり準備をしながら、真っ先に海に飛び込んでしまった幼馴染に呆れていた。

 

「春美ちゃーん、一緒に泳ごうよー!!」

「もう、夏芽ちゃんってば」

 水泳部所属の夏芽は生き生きと波打ち際付近を泳ぎながら手を振っていた。

 仕方がない、と言わんばかりに春美も上着を脱いだ。

 ワンピースタイプの水着が露わになるが、活発な印象の無い春美は決して肉付きは悪くなかった。

 昔、水泳をやっていたと言うだけあって、海の中で夏芽と競争を始めていた。

 

「はあ、あの二人は元気ですね」

 対して、泳ぐ気が全くない様子の望海はセパレーツの上にパーカーを羽織っていた。

 元来小柄であるが活動的な彼女だったが、発育には恵まれなかったのが上着の上でからでも見て取れる。

 

「夏芽ちゃんは水場に来るとあんな感じだから」

 真冬の水着はビキニであるが、その慎ましやかな胸部を隠すように可愛らしさ優先のフリル面積が多いタイプだった。

 その泳ぐのに適さないデザインは、普段はインドア派の彼女の水泳技術の力量を物語っていた。

 

「二人ともー、周りの人に迷惑はかけないでよね!! 

 まったく、日焼け止めぐらい塗ればいいのに」

 そしてこのいつもの五人の中で最も女性らしい千秋は、その日本人にしてはそれなりに肉付きの良い肢体に日焼け止めクリームを塗り始めた。

 シンプルなビキニ姿の彼女は、己の発育の良さに自信を持っているのが伝わってくるようだった。

 

「それにしても……体育の時からなんとなくわかってたけど」

 真冬は慣れない水着を着て落ち着かない様子のカタリナを見やる。

 近場で水着を購入し、実際に着てみると彼女の印象は全く変わったのである。

 

「おおきい……」

「世の中理不尽ですよね」

 ビニールシートの上に座る二人は、持つ者と持たざる者の差にこの世の無情さを感じ取っていた。

 

「ほら、あなたも日焼け止め塗りなさいって」

「ちょッ、急に触らないでくださいッ、やめッ、そこは塗る必要ないでしょう!?」

 普段は修道服に隠されている豊満なブツを強調するような白ビキニを着たカタリナと、今日は黒いラッシュガードを羽織っている魔女が乳繰り合っていた。

 小池は意図してそちらを見ないように努めていた。

 

「私のは、小池君が塗ってくれる?」

 後ろからの声に、振り返らず小池は首を真横にブンブンと首を振った。

 彼は声だけで彼女の今の格好を想像し、どのような表情でそんな言葉を投げかけているのか想像してしまっていた。

 

 黒いラッシュガードの下はシンプルなバンドゥビキニだけで、その抜群なプロポーションを上着だけで隠しきるのは不可能だった。

 カタリナのように豊満な乳房があるわけでも、千秋のように全体的に肉付きが良いわけでもないのに、すらりとした日本人らしいすっきりとしたスタイルに当人の仕草も相まって色気だけなら断トツだった。

 決して他の六人が色気とは無縁なだけとは言ってはいけない。

 そんな彼女をまともに直視したら体中が大変なことになると確信する小池だった。

 

 

「千秋さん、昼間には混むと思うので今のうちに昼食を確保しておきませんか?」

 結局自分で日焼け止めクリームを塗り終えたカタリナがそう言った。

 彼女は時折他の観光客の視線を感じて居心地が悪そうにしている。

 

「そうですね、あそこの海の家はテイクアウトもしてくれるみたいだし。

 定番の粉モノでいいわよね。一応こっちで食べるだろうから、おにぎりを少し持ってきたけど」

 千秋はバスケットを見て、他の面々の反応を窺う。

 

「あ、自分運ぶの手伝います!!」

「ああ、小池君助かるわ」

 とにかく自分の彼女にからかわれている状況に耐えかねた小池が手を挙げた。

 そうして三人は海の家の方へと歩いて行ってしまった。

 

「真冬さん、そろそろ大丈夫じゃないですか?」

「もうそろそろぱんぱんになったかな?」

 流石に海に来たのに水に入らずに帰るのもあれなので、空気入れで浮き輪に空気を入れていた二人がそれを持って海辺に歩いていく。

 

「あら、私だけ取り残されてしまったわ」

 気づけば、ビーチパラソルの下には魔女一人だけだった。

 

「まあ、ちょっと期待しながら待つのもいいかしら」

 そんなことを言いながら、彼女は借りてきた折り畳み式のビーチベッドに寝そべった。

 サングラスでも掛ければ完璧に絵になる光景だった。

 

 そして数分も待つことなく。

 

「ねえ君、もしかして一人?」

 疑似餌に食いつく魚のように、数人の男たちが声を掛けてきた。

 その姿を見て、くすりと魔女は笑みを深めた。

 

 

 

 …………

 …………

 ………………

 

 

「あれ、誰もいない」

 昼食を調達しに行った三人が戻ってくると、そこには誰もいなかった。

 

「もう、荷物を見てる人ぐらい居てもいいのに。不用心なんだから」

 千秋は少し怒気を交えながら、テーブルに買ってきた焼きそばやお好み焼き等の容器を乗せる。

 

「……おや」

「どうかしたんですか?」

 飲み物を両手に四つ抱えた小池が、誰がどこにいるか把握しようと周囲を見渡していたカタリナに目を向けた。が、胸部に目が行ってしまい慌てて視線をずらした。

 

「あれですよ」

 呆れたようなカタリナの視線を追うと、水着姿の魔女が日焼けした屈強そうな男たちと一緒に歩いている姿があった。

 

「うわぁ、知らないって可哀そう」

 千秋はその様子を見て、憐れむようにそう呟いた。

 男はオオカミと言うが、狩ろうとする対象はあまりにも悪かった。

 

 そこでふと、唖然としている小池と、彼女の視線が合った。

 どういう含みがあるのか、くすり、と魔女は妖艶に笑った。

 

「待ちなさい」

 自然と体が動いた小池の肩を、カタリナが手を置いて止めた。

 

「放っておきなさい、どうせ徒労に終わります」

「でも、行かないと!!」

 少なくとも、小池にとって彼女と遊びに来てその相手がナンパされて連れていかれるのを黙ってみているのは、なんだかすごく嫌だった。

 

「そうですか」

 カタリナはそれ以上は何も言わなかった。

 

「あ、あの!!」

 小池は精一杯勇気を振り絞って、駐車場に歩いていこうとしている魔女たちに声を掛けた。

 

「あら小池君、どうして来たの?」

「えッ」

 彼女は実に意外な物を見るような目で、彼を見返した。

 

「え、こいつ誰?」

「この子は先に俺たちがナンパしたんだけど」

「君の知り合いなの?」

 彼女を取り巻く男たちが次々と嫌悪の視線を小池に向けた。

 

「ええ彼は私の彼氏なの」

「おいおい、彼氏と来てるのに俺たちの誘いに乗ったのかよ!!」

「何それ、笑えるんだけど!!」

 男たちの嘲笑が、遠ざかっていく。

 

 表現しようのない悔しさと悲しさで、彼は立ち尽くすことしかできなかった。

 

「蛮勇と勇気は違いますよ。

 ……なるほど、そういうわけですか」

 様々な想像でどうしてこうなったか自問自答している彼の背に、カタリナが声を掛けた。

 そして一人納得したように頷くと、小池の手を引いて自分たちのスペースに戻ることにした。

 

 

 

「ぎゃ──!! サメだ──!!」

「きゃはははは!! 金髪巨乳の女はどこだー!!」

 その後、コッソリ付いて来ていた妖精コティがどこからかサメを手懐けて水陸空中を遊泳可能にするという魔法を掛けてビーチに襲来するという騒ぎがあったが、特に問題なく事態は終息した。

 

 

「はぁ……」

 そんな騒ぎが終わっても、小池は沈んだままだった。

 

「こんのクソガキ!! あんたのせいで今日は遊泳禁止になっちゃったじゃない!!」

「あはははは!! あっかんべー、こっちおいでー!!」

 B級映画から出てきたようなサメを追い返すのに疲れ果てた面々だったが、夏芽だけは怒り心頭でコティを追い回していた。

 

「小池さん、どうしたんですか?」

「あまり触れないであげて」

 昼食を食べるしかビーチでやることが無くなった面々は千秋たちが買ってきた粉モノを食べ始めた。

 

「ところで、師匠は?」

「そっちも触れないであげて」

 春美の疑問も千秋の気遣いによって封殺された。

 

「みんなお待たせ、何だか騒ぎがあったみたいね」

「あ、師匠。どこいってたんですか?」

 すると、ひょっこりと魔女が戻ってきた。

 望海が彼女にそう尋ねると。

 

「せっかくビーチに来たんだから、ナンパがどんなものか体験してみたくてちょっと誘われてみたの」

「うわ、小池君が居るのにひどい」

「勿論断るつもりだったけど、ニオイがしたのよ」

「ニオイ、ですか?」

 特に批難するでもなく、望海は師に尋ねた。

 

「ええ、薬物のニオイよ」

 その魔女の言葉に、カタリナ以外の全員がギョッとした。

 

「彼ら、薬物を使って女の子に酷いことをしてるみたいだったし、ちょっと懲らしめておいたわ。

 くすくす、でもあんな粗雑な安物で私をどうにかしようとか片腹痛いとはこのことね」

 今頃警察署かしら、と魔女は声も無く笑っていた。

 

「ええと、じゃあ」

「もしかして小池君、私があいつら程度にどうにかされるとでも思ったのかしら。

 あなたは私の為に危ない真似をしなくてもいいのよ。そんなこと、求めてないんだから」

 希望を持って顔を上げる小池に、魔女は優しくそう言った。

 

「そういう問題では無いと思いますが」

 この中で唯一男心を理解できるカタリナは溜息とともに首を振った。

 

「悪女だなぁ、魔女さんってば」

「ホント、小池君はこれからも大変そう」

 千秋と真冬はそんな二人を見てそのように思うのであった。

 

「それで、この後どうするのかしら?」

 魔女の問いかけに、中止となった海水浴の代わりに午後の予定を話し合い始める面々であった。

 

 

 

 

*1
ここ=ハーメルン




前回の宣言通り、今回は水着回でした。
魔性の魔女さんに振り回される小池君のお話でもありましたが。

こんな感じでこれからも彼は苦労することでしょう。

それではまた次回!!
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