転生魔女さんの日常   作:やーなん

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今回は魔術師さんの話と前回のあとがきに書きました。
だけどこうして出来たのは警察組。でも私は謝らない。
私は嘘つきじゃありません、ただいい加減(以下略


仮面について

「まさかこんな時期にこのイベントをする羽目になるなんてなぁ」

 警視庁鑑識課警察犬係に籍を置く犬養巡査は小さくため息を吐いた。

 

 彼女と同僚たちは、以前より企画されていた警察犬と一般市民が触れ合うという触れ込みのイベントを行っていた最中だった。

 本来なら先の事件によって中止になるところだったのだが、世情もあってそうはならなかった。

 

 犬養は自分が担当している警察犬に視線を向けた。

 

「わぁー、おっきなわんちゃんだー!!」

「顔がいっぱいついてる!! つよそー!!」

「ねぇねぇ、火ぃ吐けるんでしょ? 見せて見せて!!」

 子供たちに群がられ、面倒くさそうに四つ足を折って地面に座り込んでいる黒い三つ首の怪物がそこに居た。

 これがこのイベントの目玉だった。

 

 いつもなら大して盛り上がりを見せないはずのイベントであるが、今回ばかりは違った。

 彼が一般公開されるのは、今回が初めてなのだから。

 

 神話にしか登場しない怪物の周囲は子供たちに囲まれ、その黒い毛並みをべたべたと触られている。

 少し離れた位置ではスマホで写真を撮る者が絶えず、会場は彼を一目見ようと周辺の道路が混雑するほどであった。

 会場の外は順番待ちで並ぶ客が長蛇の列を作り、周辺住民は今日はコミケの日だっけと勘違いする有様だった。

 交通整理の為に急遽交通課が出張る羽目になり、このケロべロス担当だった犬養も現実逃避したくなる盛況ぶりだった。

 その日のトレンドワードは当然“ケロべロス”であり、日本だけでなく世界のトレンドでもトップに躍り出た。

 

 当初は犬養も「危ないから離れてくださいねー」と言っていたが、この人海の前では彼女のか細い声など届くはずも無く。

 あまりにも想定外の事態に、主催者側も処理能力を大幅に超えてしまっていた。

 

 このイベント、このケロべロスに関しては一般公開だけで、今回ただ居るだけなのにこの有様だった。

 この会場では彼の能力を披露するには狭すぎる為だったが、それは正解のようであった。

 

 彼がここまで異様な人気が出たのは、先の警視庁の一件で活躍したと報道されたと言うのもあった。

 それを強調して発表したのもあるが、実は警察は今こんな糾弾を受けていた。

 

 

 ──警察はネクロマンサーを捜査に協力させて、倫理的に問題あるのではないか、と。

 

 化粧屋が異能係に協力者として入り浸っていることが、本格的に世間に知られてしまったのである。

 警察は倫理に問題のある行為での捜査協力は行っていないと主張したが、世間というものは信じたい物を信じる物である。

 先の警視庁の事件のことも相まって、今の警察上層部はガタガタだった。

 

 当初、異能係の伊藤刑事が責任を取らされるのではないか、と皆は思ったのだが。

 

「あ、伊藤ちゃんがクビになるなら私との協力関係はそれまでな」

「私も彼が居なくなるなら大人しくしていてやるつもりはないな」

 化粧屋が軽い口調で、ティフォンが脅し交じりにそんなことを言うものだから、伊藤刑事の代わりに更に上の人物が処分されることになった。

 先の事件が警視庁の人間に落とした恐怖が計り知れないという証左であった。

 誰だって、異能係の係長などやりたくないと言うことでもあった。

 

 犬養巡査は思う。

 このケロべロスが、近く警視庁に訪れるだろう改革の波の象徴になるのだろう、と。

 

 

 

 §§§

 

 

 異能係の事務室には、型落ちだがテレビが設置してある。

 以前休憩室の備品を入れ替えた際に倉庫に押し込まれた物を化粧屋が引っ張り出して暇潰しに用いている。

 

 職員が書類仕事をしている横で化粧屋やティフォンが自分たちの好きな刑事ドラマや特撮を見ているものだから、その内容の批評まで始めるようなら彼らは内心イラっとすることもある。

 とは言え化粧屋には言っても仕方が無いし、ティフォンは異能係に押し付けられた特例の保護観察状態のようなもの。

 仕事の邪魔だから出ていけ、とは言えないのだった。

 

 さて、ここ数日そのテレビの前でスライムソファーに腰を落としているのはティフォンだけだった。

 先の事件で首から下が使い物にならなくなった化粧屋の体の修復に時間が掛かっているのである。

 

「よッ、ハロー、伊藤ちゃん」

 だがその日、伊藤刑事が登庁するとティフォンと一緒になって化粧屋がニュースを見ていた。

 もう完全に体の方は元通りだった。

 

「お前、生首状態を見た時から思ってたがホントに体が損壊しても問題ないんだな」

「手頃な死体があればそれで代用したんだけどな。

 日本は居心地が良いが、素体の入手が面倒なのがいけない。おかげでイヴの奴に面倒な仕事押し付けられちまった」

 億劫そうに化粧屋はそう答えた。

 

「化粧屋よ、思ったのだが、其方なら発展途上国辺りに行けば幾らでも素材は調達できよう。

 魔術を畏れる地域や信仰のある地域で活動し、裏マーケット辺りで死体が売られている場所などもあろう」

「おいおい、私はこれでも錬金術の薫陶を受けてあの時代にはペストが大体どういうものか把握してたんだぜ? 

 馬鹿どもがハンセン病が神の罰だとかペストが呪いだとか言われてた時に衛生とかちゃんと気にしていたんだからな? 

 私がこの国に居を構えてるのは衛生がしっかりしてるからだ。それ大事だぞ。マジで」

「前世でも国外に出たことのない私にはわからないが、そんなに酷かったのか?」

 化粧屋が実に真面目に言うものだから、思わずティフォンも聞き返してしまった。

 

「あの時代のフランスとかの宮殿の花壇に行けばションベン臭いし隅の方には大きいのが転がってるのがザラだった。

 街中を歩けば茶色い物体が踏みならされて広がってるし、臭いが酷いところは昼間から戸が閉められてたくらいだ。

 俺が生きてた時代にコレラが流行しなかったのが不思議なくらいだぜ」

 まさに実際に見て来た光景を語る化粧屋の言葉に、伊藤刑事も横で声を聴きながら今の時代の日本に産まれてよかったと思った。

 

「朝っぱらからそんな汚い話をしないでくださいよ」

 話の内容が内容なので、妻鳥から苦情が出始めた。

 他の職員たちも、何度も頷いている。

 

「はいはい、悪かったよー、と」

 投げやりに化粧屋がそう応じると、彼女はテレビのニュースに視線を向けた。

 

「もう都知事選の時期か。次の都知事は誰かねぇ」

 政治に関心なんて無さそうな彼女がそんなことをぼやいた。

 

「今の世情で都知事になっても罰ゲームだろうがな」

 ティフォンも腕を組んでそう呟く。

 ニュースでも評論家が、異能者対策が当選の争点になるだろう、と語っている。

 

「そりゃあ、あの人がとんでもないことしちゃいましたからね」

「その後もな」

 副長の恐怖を間近で味わった妻鳥や、魔術師に一杯食わされた伊藤刑事も苦々しい表情になる。

 

『私たちは異能者の起こす犯罪などに対し、厳格に対処しなければなりません!! 

 市民の安全こそ、何よりも優先されることです!! 

 法が機能しないというのなら、都政で対応するしかないのです!!』

 と、街頭演説で立候補者らしき人物が選挙カーの上で演説をしていた。

 

『こういった演説の内容が多くみられる中、ひと際注目を上げているのが──』

 続けてニュースキャスターの進行に従い、別の候補者の映像が映る。

 

『異能者は確かに恐ろしい!! その力に溺れ、驕り、害を成す者も居るでしょう!! 

 だがしかし、彼らは人間です!! 異能を保持しているからと恐れ、遠ざけ、差別的な政策が許されるのでしょうか? 

 我々と同じ国に産まれ、同じ人権を持った国民に違いはありません!! 

 我々が本当にすべきなのは、過去の人類が犯した過ちのように彼らを隅々まで見つけだし、狩り出すことでしょうか? 

 ……これを見てください』

 その候補者は、写真立てを取り出した。

 そこには幼い少女が病院のベッドで笑顔を浮かべている姿が映っていた。

 

『これは四歳になる私の娘です。

 産まれた時から難病を患い、十歳まで生きる確率は0.1%だと言われました。

 しかし、ある時外国で医者を探している時に知り合ったとある異能者に藁をも縋る思いで魔術による治療をお願いしたのです。

 すると、現在の科学では治療不可能だった娘の難病が快方に向かったと担当医に言われました』

 彼が語るのは、実に分かりやすい美談だった。

 

『我々がすべきなのは、異能者を規制の縄で縛り付け、未知だからという理由で法や力で押さえつけることですか? 

 私たちがすべきなのは、彼らと手を取り合い、理解し合い、その異能の恩恵を分かち合うことではないのですか? 

 そうして初めて、私たちは理不尽な異能に対する対処方法を得られるのではないのですか? 

 私が目指す都政は──』

 そこで、化粧屋はリモコンでテレビの電源を切った。

 

「最後まで見ないのか?」

「当選はあいつで決まりだ。投票に行くのもめんどくさい」

 興味を引かれたのかそんな風に尋ねてくる伊藤刑事に、いい加減そうに化粧屋は返した。

 

「それはお前の霊感か?」

「いや、既定路線だ。少し前から気になってたんだ。

 イヴの奴がどうして日本に居やがるのかって」

「……ああ、そういうことか」

 顔を顰めている化粧屋に対し、ティフォンが得心が行ったとばかりに頷いた。

 

「今の候補者、前にイヴの屋敷に行った時に接待されてた奴だ。

 権力者に取り入って、様々な恩恵を与えて便宜を図らせ、自分たちに有利な状況に持っていくのは師匠の十八番だったからな」

「マジかよ……」

 勿論僅かにチラ見しただけの伊藤刑事は覚えていなかった。

 

「うむ、社交界に根を張り、資金援助させるのは錬金術師殿の常套手段だった。

 前に話したであろう、刑事殿。我々はやろうと思えば国を裏から牛耳るのは容易だった、と。

 既に権力を持つ者ではなく、自分の息を掛かった者を入れるか。これは何か仕掛けるつもりだろう」

「…………」

「これは警察上層部も、彼女の鼻薬を嗅がされた連中で埋まるだろうな。

 あの病室での一件があって未だ刑事殿の処分が保留のままのところを見て、異能事件の捜査で処分が下る前例を作りたくなかった、というところか?」

 ティフォンは意味あり気に伊藤刑事を見やる。

 彼はその視線を受けて、背筋に冷たいものが走った。

 まるで、巨大な陰謀の歯車にされたような、そんな得体の知れない恐ろしい何かを感じたのだ。

 

「鼻薬、ねぇ。やっぱり錬金術師だから、金の延べ棒とか渡したんでしょうか?」

 冗談交じりに妻鳥がそんなことを言った。

 

「いや、私が以前聞いたところだと、年老いた老人に若さを与えたり、凡人に魔術的施術を施し超人にしたり、今のように不治の病の治療を取引材料にしたらしい」

「とんでもないな……」

 ティフォンの話を聞いて、脳裏にあの非人間的なまでに整った笑みを思い起こした伊藤刑事だった。

 

「錬金術師殿は昔自慢していたよ。

 自分は数多くの英雄や天才を生み出した、と。

 それらの活躍や発明によって、この世界の文明は進んだのだ、とね」

 まさしく自分たちがあの時遭遇したのは、数百年を歴史の裏側に潜む怪物であったと身震いする一般人二人だった。

 

 

 

 

「おい、化粧屋」

「なんだよ伊藤ちゃん」

 お昼の休憩時間、他の職員たちが食堂へと向かうのを見計らって伊藤刑事は化粧屋に話しかけた。

 

「あ、そうだ、伊藤ちゃんさぁ、実家に押しかけるのは無しだろぉ? 

 あの後、家族会議よ。家族会議。お袋はちょっと精神的に脆いところがあるんだからもうやめてくれよな」

 彼が何かを言う前に、化粧屋がまくし立てる。

 

「……なぜ、俺たちの為に戦ったんだ? 

 お前が警察の為に体を張る必要なんてなかっただろう?」

 だが、伊藤刑事の言葉に化粧屋は顔を反対まで逸らした。

 

「私のスタンスは何一つ変わらない。

 私は私の美学に従って動いただけだ」

 どこか努めて素っ気なく、彼女はそう答えた。

 

「でも意外だったよ。いつも享楽的にしか見えない言動しかしないのに、形振り構わず自己犠牲をするなんてな」

 化粧屋はその見た目や言動から分かりにくいが、その行動は一貫して他人の為だった。

 少なくとも伊藤刑事は自分の利益や金銭の為に行動しているようには見えなかった。

 勿論、魔術の実践こそが目的だと言われればそれまでだが、それが理由なら警察は窮屈なだけだろう。

 事実、世間で言われ始めているように倫理に反する魔術を彼の間の前で使ったことは一度も無かった。

 

「……」

 化粧屋はサングラスを付けていても分かるほど眉を顰め、パイプを取り出した。

 

「おい、未成年だろ。タバコを止めろ」

 ただでさえ、その中身は目が飛び出るような劇物のオンパレードだったのを思い出す。

 吐き出す煙は無毒らしいが、煙たいには変わりない。

 

「なんでタバコが悪いんだ、刑事さん?」

 すると、そんな不良が学校の先生に揶揄するような口調で彼女はそう言った。

 

「そりゃあ、体に悪いからだろ」

「ほほう、この体に悪いからか!! 

 そりゃあ面白い意見だな!!」

 馬鹿馬鹿しい冗談を聞いたかかのように笑う化粧屋の態度に、伊藤刑事も顔を顰めた。

 

「よくわからないが、本体と感覚は共有しているんだろ? 

 どう考えてもそのタバコに依存してるじゃないか」

「素人意見だなぁ。魔術はリスク管理だって言ったろ。

 この体を通すことで本体には実害が出ないし、不必要な感覚を切ることで依存症も無視できる。

 そうやって恩恵だけを享受することこそが魔術なんだよ」

 大人を言い負かす屁理屈を言ってやったと言わんばかりに笑みを浮かべる化粧屋に、彼もため息を吐いた。

 

「私が吸ってるのはゾンビパウダーの一種でな。

 この体で活動するにはこれをこの体内に取り込まないといけないんだよ。

 私の霊感が高いのも、これで年中ハイになってるからなんだな」

 知りたくない事実だった、と伊藤刑事は思った。

 

「分からん。前世の記憶ってのは、そんなにも今生に引っ張られるもんなのか?」

 頭をガシガシと掻き、彼は肩を落として溜息を吐いた。

 中身が年ごろの少女だからではないが、どうしても彼は化粧屋を理解しきれなかった。

 

「“私”の場合、“俺”の記憶はショッキング過ぎた。

 “私”は自分の心を守るために、無意識に“俺”という外殻を作った。

 私は私で、俺は俺という区分を決めたんだ」

「お前、二重人格だったのか?」

 伊藤刑事は時折化粧屋が一人称を使い分けていることぐらいには気づいていた。

 普段は“私”、前世の自分を言及する時は“俺”というように。

 

「ちょっと違う。右手と左手みたいに使い分けている感じだ。説明は難しいな。

 最近の言い方でいえば、ペルソナが近いのか? 

 RPGで敵の人間を銃で撃ち殺しても心が痛まないのと似ているな」

「それは……」

 それは無理やり現実感を欠如させているのではないか、とまで彼は言えなかった。

 

「もしお前が、前世の事を負い目に感じてるなら」

「それは違う。違うよ伊藤ちゃん」

 気を遣う彼に化粧屋は首を振って否定した。

 

「言ったろ、私は私だ。

 なぜ俺の悪行を私が背負わないといけないんだ? 

 あんたは映画で虐殺者が登場して、そいつの行いに責任を感じるのか?」

「だが……」

「こんな意味の無い問答に、貴重な休憩時間を使う必要なんてないよ。

 私は、俺は、人生をこの上なく謳歌している。それだけが事実だよ」

 そう言って、パイプに口を付ける化粧屋を見て伊藤刑事は次の言葉が出てこなかった。

 

「あー、もう、年ごろの女子も、異能者もまったくわからん!!」

 なんて言いながら、彼は事務室を出て行った。

 

「そうさ、私も俺も、偽物じゃない」

 タバコの効能に身を委ねながら、化粧屋は静かにそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 




いい加減な私が次回予告しても全然守れないので、もういっそ次回はアンケートにしようと思いました!!
最近、アンケートのネタにも困ってたしね!!
そういうわけで、次回の話に何を書くかアンケート取ります!!

書きたいことしか書けない私ですが、試しに、ということでご協力くだされば幸いです!!!


次回の話は何がいい? 期限7/22まで

  • レプちゃんのチェンジリング
  • 魔術師さん、預言者に会う
  • 妖精コティの夏祭り
  • ホムンクルスに恋した男
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