次回は二番目に票を集めた奴になります。
それにしても前のアンケートの時よりもお気に入りが増えたはずなのにん投票数が大して変わらないのはなぜ?
皆さん、もっと気軽にやってくださると嬉しいです。
「レプ、出るぞ」
自宅で外出の準備を終え、仮面を付け終えた魔術師は同居人に声を掛けた。
「はーい、マスター。そういうわけだから、このクソつまんないゲーム終わり!!
今からマスターと一緒にお出かけするから。じゃねー」
レプはゲーム配信の真っ最中だった。
超能力者を養成するというお題目のレトロゲームを実況していたのだが、クソゲーとして有名な作品らしく呆れながらプレイしていた。
運ゲーでしかないミニゲームをひたすら単調に繰り返すだけ、という内容のこのゲームをノーミスでクリアし続けてゲームクリアするというチャレンジをして暇をつぶしていた彼女もいい加減飽きたのか配信を打ち切った。
「またゲームか」
「マスターも遊ぶ? プログラムの確率をリアルタイムで操作するだけの簡単なゲームだよ」
「それは人間の遊び方ではないが」
「だって、海外のRTA学会で妖精はレギュレーション違反だってことになっちゃったんだもん!!
バグ使わないとタイム縮められないのって煽ったのがそんなに頭に来たのかな?」
「馬鹿馬鹿しい」
世俗的なことにあまり興味のない魔術師はレプを肩に乗せて自宅から出立することにした。
二人の目的地は、都内にある。
電車を乗り継ぎながら、彼らは人混みの合間を行く。
「日本人って変な生き物よね。
せっかく移動手段が発達してるのに、早く移動できるならその分休めばいいのに、より働こうとするんだから」
通勤ラッシュに辟易する妖精の戯言を聞き流していると、彼は乗り継ぎの合間のとある駅のホームにて足を止めた。
「何か揉め事かな?」
何やら遠巻きに見ている数人の人だかりを見て、レプが興味を向けた。
「君、いい加減にしないか!!」
「うるっせぇんだよ、おっさん!!」
若い男と、中年のサラリーマン風の男がホームの隅で揉めていた。
その間には、ベビーカーに乗せた赤ん坊を連れた女性がオロオロしているのが見えた。
そのまま過ぎ去ろうとした魔術師が魔力の脈動を感じて振り返る。
なんと、サラリーマンらしき男が見えない何かで壁に押し付けられているではないか。
どれほどの圧力が掛っているのか、彼は苦しそうに呻いた。
「これで分かっただろ、俺は異能者だ」
能力を解除し、崩れ落ちる男を見やり鼻を鳴らす若者。
周囲では小さく息を呑む音や、怯える雰囲気が広がり始めていた。
「俺はさぁ、誠意が欲しいだけなんだよ、オバサン。
わかるぅ? ちょっと痛い目みさせても、俺は構わないんだぜ?」
一体どういう経緯でこのような事態に至ったのかは知るところではなかったが、この若者からは自分が何をしても警察に捕まることは無いと高を括った様子が見て取れる。
「おやめなさい」
ただの揉め事なら、魔術師は見過ごしただろう。
だが彼は異能者と一般人の間に立つという宿命を背負っている。厄介ごとは、向こうからやってくるのだ。
「なんだ、てめぇ。そのふざけたお面は。ネットの有名人の真似事かよ」
「かもしれませんね」
彼は若者の声を受け流し、痛みに呻いているサラリーマンを助け起こす。
「あ、あなたは、まさか、本物……?」
「さて、どうでしょう」
驚く彼に、魔術師は曖昧に返した。
「どちらに非があるのかは知りませんが、暴力を持ち出すのはいけませんよ」
と言いながら、仮面の魔術師は怯える女性の元へと歩み寄る。
「ましてや、それをもって恫喝など言語道断の所業でしょう」
ここ最近、調子に乗った異能者が軽犯罪を起こすという事件が数倍に増えたとニュースでやっているのを思い出しながら、彼は若者に警告した。
「あんたには関係ないだろうが!!」
「怒鳴るくらいなら、赤ん坊を連れた女性を恫喝する根拠を述べなさい。
貴方に正当性があるならそのような態度に出る必要などないのでは?」
「うるせぇ!!」
話にならない、と彼は若者を無視して女性に振り返る。
「いったいどうしたのですか?」
「こ、この人が、そこの角でベビーカーにちょっとぶつかってしまっただけで、難癖付けてきて……」
女性は涙目になりながら魔術師にそう答えた。
彼は静かにうなずく。
「だそうですが、そちらの言い分は?」
「うざいんだよ!! てめぇ、邪魔すんじゃねぇ!!」
自分の思い通りに事が運ばないことにいい加減イライラしだしたのか、若者は邪魔者を己の異能で再び排除しようとした。
何も、起こらなかった。
「うッ……」
いや、若者は気づいてしまった。
目の前の存在との、あまりにもかけ離れた力量の差に。
「ところで、ケルト神話における有名なクーリーの牛争いについて知っていますか?」
じゃれつく子供の手を払いのけるように、不可視の力場を霧散させ、仮面の魔術師は問う。
「この戦争の話において事細かく説明するのは難しいのですが、アルスターという陣営の男たちはある事情があってその戦争に参加できなくなってしまうのです」
蛇に睨まれたカエルでも、もう少しまともだろうと思えるほど若者は青くなっていた。
彼は目の前の存在からもう既に何度も逃げようと試みていた。
だが、うめき声一つ出せなかった。
「女神マッハが呪いを掛け、彼らは五日もの間女性の陣痛の痛みを味わうことになったからです」
すっ、と彼は若者を指差す。
「あなたにそれと同じ呪いを掛けました。
その苦痛を持って、反省しなさい」
それだけを告げて、魔術師はその場を去った。
その背後に、激痛にのたうち回るような悲鳴を受けながら。
§§§
「くすくす、容赦ないねぇ」
「女性に無条件で優しくしろ、とは言わないがあの態度ではなぁ。
ただ見逃すだけならまたやるだろうし、あの手の輩は早めに灸をすえておいた方がいい」
「屈強な戦士が戦闘不能になる呪いを五日も耐えられるかなぁ。くすくす」
一般的に、男性に比べて女性の方が苦痛に対する耐性があると言われている。
その最大の理由が、陣痛の痛みに耐える為とされている。
仮に男が陣痛を経験するなら、その痛みに耐えられないと言われているほどだ。
それを五日間。灸をすえるというには残酷なまでの期間だ。
「大丈夫だ。この呪いで死には至らない。
確実に五日、苦痛が続くと言うことでもあるが」
「きゃはははは!!」
何が琴線に触れたのか、レプは魔術師の肩の上で笑い声をあげた。
そうして雑談しているうちに駅から出て、ある施設の前へと辿り着いた。
「宗教法人『輪廻の扉』か……」
立派な門構えに張られたプレートの文字を確認し、彼はインターホンを押した。
程なくしてドアを開けて現れたのは、喪服のような黒い服の女だった。
「……お待ちしておりました、魔術師様。
私がこの施設の代表を務めさせて貰っている者です」
彼女は彼を一目見ると、一礼した。
当然、彼は事前にアポを取ったが、いつ来るかや、自分の容姿など説明した覚えはなかった。
「あなたも、同業者ですか」
「ええ、まあ、占いなどを少々。お陰で教祖などと祭り上げられてしまいました」
と、彼女は謙遜するように微笑んだが、魔術師は真に受けなかった。
「奥へとどうぞ。
我らがご神体。──“預言者”様がお待ちです」
魔術師が通されたのは、教団の奥にある白い部屋だった。
その部屋の黒いシミのように、預言者は待っていた。
「初めまして、待ちくたびれたよ」
部屋の主は魔術師の姿を見て微笑んだ。
黒い少年、或いは青年。
その中性的な顔立ちから女性かもしれない。
声では判別できない。そんな曖昧さが混在しているのが、“彼”だった。
「あなたが、“預言者”?」
「まあ、“そういうこと”にはなってるね」
まるで自分の立場など興味が無さそうに、預言者はそう答えた。
「なんで、こいつらが……」
件の預言者がどんな奴か楽しみにしていたレプは、露骨に顔を逸らした。
「彼女に会えって言われたんでしょ?
君を押し付けるなんて、酷い嫌がらせだ」
どことなく不満げな表情を作って、彼は言う。
「ボクに会おうが会わまいが、君の行動がブレることなんて無いのにね?」
部屋の主は客人に構うことなく、紅茶を口にする。
「あなたは、あの女に協力しているのか?」
「この教団の存在意義の為にね。差配は代表に任せているけど」
優雅に紅茶を飲む預言者を見つめながら、彼は疑問を口にしようとした。
「なんでボクが代表じゃないか、って?
ボクの役目はこの教団を創ることであって、運営することじゃないからさ」
声に出るより先に、預言者は言った。
「意味が分からない? そうだろうね。
でも見えないところのディティールを気にしてもしょうがないだろう?
生憎ボクは職人気質じゃないんでね」
まるで世捨て人か仙人か、彼の価値観は言葉にするのにどこか独特だった。
「イヴにとってボクは、──ああ君はラノベとか読まないか。でも俗世の表現は分からないからそのまま続けるけど、領地経営モノに出てくる都合がよく頭が良くて計算もできる脇役みたいなものさ。
主人公が物語の展開を広げるために自分の領地から出る時、いい感じにその間任せられる便利な舞台装置。そんなところかな」
預言者は価値観も独特なら表現方法も独特だった。
「君は、自分の強さに疑問を持ったことはあるかい?」
早々に会話を諦め始めていた魔術師に、彼は問いかける。
「最強が最強であり続けるってのは、実際には難しいよね。
君はもしかしたらこの世界で一番強いのかもしれない。
そこの妖精を屈服させて従わせているように、君の強さの基準は一線を画している。
でも、物語の最初から最後まで最強の存在が居続けるのは珍しい。
ある時は主人公の壁、或いは目標、最近だと踏み台が多いかな?
君の強さも所詮、後付けでどうにでもなる程度なのかもしれない」
「あなたが何を言いたいのか分からないのですが」
「ああ、ごめんごめん。一方的にまくし立てるのがボクの悪い癖なんだ」
彼はちっとも悪いと思っているように見えないが、魔術師はそこに言及することは無かった。
「じゃあもっと別の話をしようか。
どうせ君は、ボクのところに来た“だけ”なんだから」
まるでこの邂逅に意味を見出していないかのように、彼は語る。
「君は調停者として多くの人間を見て来たと思うけど、今の異能者たちの事情についてどう思う?」
「特には。思うところはあるけど、私の役目は変わらない」
「そう言うと思った。
僕はもうちょっと振れ幅のある人間が好みかな」
つまらなそうにしている彼は、そんなことを口にした。
「結構いるよね、君みたいな人。最初から最後まで主人公に付き従う味方みたいに、善人なら決して悪事をしないみたいなキャラ設定の奴。
人間ならもう少し、心に魔が差すぐらいでちょうどいいと思わない?」
ここで初めて、預言者はレプに視線を向けた。
彼女は一言も発さず、白い壁に顔をそむけたままだった。
「まあ、ボクが言えた義理じゃないけどさ。
そんな余計な機能があることが羨ましいとも思っているわけでもなし」
いい加減、魔術師も帰りたくなってきた頃。
「さて、せっかく君もここまで来たんだ。手土産に預言の一つでもしておこうか」
そこで初めて、預言者の表情が意地悪そうに──本当に楽しそうに笑った。
「────イヴは今年中に数百人もの人間を殺すだろう。
他ならぬ、君を含めた異能者たちの為に」
彼は預言する。
確定した運命を語るかのように。
「場所も言おうか? ここ、東京だよ。
それによって不幸になる人間は世界中を含めて何千万人にも及ぶだろう。
だけど、未来を含めて同じ数以上の異能者を救うだろう」
魔術師は手に、汗が浮かぶのを感じていた。
ああそうだ、厄介ごとは向こうからやってくるのだ。
まるで彼を試すように、神々は彼に試練を与える。
「さて、君はどっちの味方をするのが公平かな?」
預言者は仮面の奥の強張った表情を見透かすようにニヤリと笑うのだった。
§§§
「狂ってるわ……」
イヴと召喚士に計画の全容を聞かされたサラは、己の胸中に浮かんだ言葉をそのまま吐き出した。
「あなた達、自分が何をしようとしているのか、わかっているの?」
召喚士の事務所の応接室にて、対面する二人に彼女は言った。
すがるように、今の話が間違いであることを祈るように。
「まあ、かなりの人数は死ぬでしょうね。
事前の試算だと、千人以下には減らせると思うけど」
「そういうことを言ってるんじゃない。
私に、そんな計画に加担しろって言うの!?」
「別にあなたが実行するわけじゃないわ。
そして世間も私たちが実行すると知るわけでもない」
単純に数字を語るだけのイヴと違って、サラは震えが止まらなかった。
この二人は、東京を地獄絵図に変えようとしているのだから。
「それに、どうせ私たちがやらなかったらもっと大勢死ぬわ。
それともあなたはいつ起こるか分からない災厄に怯える方がいいの?」
「それとこれとは話が違うでしょう!!」
「まあ、意味合いは違うでしょうね」
淡々としているイヴと召喚士。
その態度が余計にサラを苛立たせる。
「この計画が、私たちにとっても、この国にとっても最良の選択のはずよ。
それに、死人が出るのはある意味自業自得よ。だって私は事前に通告するんだから──そこに居ると死ぬよ、とね」
「そんな話を、一体どれだけの人間が鵜呑みにすると思ってるの!?」
「その為に今準備を進めているのよ。
そしてあなたの協力を必要とするのも、その一助になってほしいから」
イヴは一貫してサラに協力を求めているが、彼女を断らせるつもりも無かった。
彼女は最初からこう言っている。お前が協力しなかったらそれだけ死人が増える、と。
「なんで、なんで、私なのよ……」
「心が読めるあなたに、わざわざ答える意義を感じないわね」
そう、サラは現実を受け入れられないだけだった。
なにせ二人は、万が一にもサラが断れば、──生きて帰すつもりなどは無いのだから。
「なんで、私がッ──ぐすッ」
彼女は年相応の少女らしく、嗚咽を漏らしながら泣き始めた。
サラに二人が課そうとしている役目は、それだけ重いのだから。
「別に私たちの為に一般人どもがどれだけ死のうが構わないじゃないの。
私は十分に配慮しているし、結果的に世界が変わる。あなたも住み心地が良くなるわ」
「まあ、簡単に受け入れられないのは分かりますよ。
ですが、やるしかないのもまた事実。既に多くの国内外の賛同者を得ている。
あなたがどう答えようとも、計画を実行することには変わらない」
面倒そうに言うイヴと、淡々と話す召喚士。
そんな二人に、サラはサイコパスどもがと罵りたかった。
サラは経験上、何人ものストーカー被害に遭い、その中にも良心が欠如した危ない相手も居た。
この二人もそうだった。罪悪感なんて欠片も感じていない。
これから自分たちがある種の虐殺をしようとしているのに。
「わ……わかった、から……ぐすん、お願い、私を、こッ、殺さないで!!」
「最初から殺すつもりなんてありませんよ」
なんて言う召喚士の言葉に、サラは心底恐怖する。
彼女にとって、誰かを悪魔に成り代わらせるのは“殺した”という内に入らないのだ。
サラは異能を得て様々な悪意を見て来たが、ここまで純粋に邪悪な存在は初めてだった。
「じゃあ、あなたには言うまでもないことだけど、あなたにはマスコミ掌握の手伝いをしてもらうわ。
先に言った警告には彼らの力も必要だし。それが終わるまでには、都知事選も終わるでしょう。
それを以って、私はこの国の政治経済情報に介入する術を得ることができる」
満足そうに、イヴはそう語る。
サラは思った。
これは、侵略だと。
魔王による日本侵略なのだ、と!!
「これで漸く憂いが無くなりますね」
「ええ。やっと、やっと、これでやっと──あなたのところに行けるわ。マスター」
二人の計画実行は、秒読み段階まで来ていた。
「ところでイヴ、この儀式の名前はどうしますか?」
「名前? まああった方が良いわね。
じゃあ何か案があるかしら?」
「いえ、特には。神話的伝承をもじり、『脱衣』とか?」
「それじゃあ私が露出狂の変態みたいじゃない。
敢えて名付けるのなら――
『人位遡行』
かしら、ね?」
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