転生魔女さんの日常   作:やーなん

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今回はアンケートに有った十年後の話をすると言ったな(以下略
いえ、本当は書こうと思ったのですけど、もうちょっとイヴの思惑とか現代の混乱具合を描写してからじゃないとネタバレになると気づいたので、今回の話を優先しました、悪しからず。


二次会について

 

 

「それじゃあ、いつ首都直下型地震を起こすのかを決めるのだけど──」

 

 そのイヴの言葉を耳にした時、彼女を知るほぼ全員がそんなことだろうと思った、とでも言いたげな表情になった。

 

「流石に時間を与えないのは可哀そうよね。

 十一月か十二月ぐらいがいいかしら」

 まるで果物の収穫日を決めるかのような軽い口調に、幾人かが顔を顰めた。

 都内の高層ビルの最上階を貸し切ったレストランで行われている二次会は剣呑な雰囲気に包まれていた。

 

「おい、正気かお前。

 長く生き過ぎて頭がイカレちまったのかよ」

 まず彼女に物申したのは、化粧屋だった。

 

「さっきのホテルでの話は、まあいい。理解した。

 だが地震を起こすってのは聞いてないぞ。どれだけ殺す気だ、お前」

 彼女の言葉は、この場に居る事前に話を聞いていなかった面々の心境を代表するものであった。

 

「その為に万全の配慮をしているじゃない」

「お前、これを見て同じこと言えるのかよ!!」

 化粧屋は都内を一望できるレストランから見下ろせる眼下の景色を示した。

 

 地上は、ほぼ完全に交通がマヒしていた。

 人々は狂ったように食料品や日常品を買い漁ろうと動き回っているが、人が多い都内では人がごった返していて歩いて移動さえままならない。

 と言うか、ここにいる面々はホテルからこの惨状の合間を縫って、レストランまでやってきたのである。

 嫌でも今起こっている混乱を目にしていた。

 

「些細なことだわ」

 イヴはアリの行列でも見下ろすかのように一瞥だけしてそう応じた。

 

「これはほんの一部だぞ、それでも些細だと言うのかお前は!!」

「落ち着け、化粧屋」

 どこか諦念の混じった溜息と共に、ティフォンが彼女の肩に手を置いて落ち着かせる。

 

「もはや、賽は投げられたのだ」

 覆水盆に返らず、落下枝に上り難し、破鏡再び照らさず。

 もう起こってしまったことについてとやかく言うことに意味などないのだ。

 

「おそらく、今日明日の日本の経済はほぼストップするでしょうね。

 それだけで百億単位の経済的損失を日本は被り、社会は不安に満ちるでしょうね」

 たった数分の動画だけで日本にそれだけの混沌を齎した女は、他人事のように嘯いた。

 まさしく化粧屋を煽るかのように。

 

「でも些細よ。この程度、掠り傷だもの。

 私たちが起こす予定の首都直下型地震の直接的被害は軽く百兆円を超えるでしょうから。

 これでもまだ甘い見積もりよ」

「そこまでして、そこまでしてお前は自分たちの利益を優先するのか!?」

 化粧屋は完全に感情的になっていた。

 なにせ彼女は都内に住んでいる。家族もだ。

 イヴの起こす地震の直接被害を被る立場だった。

 

「なら、私を討つかしら? ねえ調停者」

「…………」

 話を振られた仮面の魔術師は、無言を返すほかなかった。

 

「……吊り合いは取れている」

 やがて、忌々しそうに、吐き出すように彼はそう言った。

 

「イヴの所業は、均衡を保とうとしている。それがどれだけ悪魔的であろうとも」

 初めから彼女は彼と敵対を避ける為に綿密に計算して行動を決定していたのだろう。

 調停者は、動けなかった。

 それを確認してから、イヴは口を開く。

 

「2011年の東日本大震災の事を覚えている者も多いでしょう。

 公式にはそれの直接の死者は約16000人、行方不明者を含めれば2500人ぐらい増えるわね。

 その被害額は多くて25兆円だそうよ」

 観測史上最大とされる地震によってもたらされた被害を彼女は口にする。

 それがたった10年程度昔の話に過ぎないのだ。

 間接的にもその被害を受けた面々が、顔を顰めていた。

 

「首都直下型地震は以前から予測されていて、10年以内に七割の確率で起こると専門家が予想しているそうね。

 あそこの連中は間抜けだと思わないかしら、10年で七割の確率で死ぬかもしれないと言うのにのんきに過ごしているんだから」

 イヴは眼下を見下ろす。

 もはや道路や歩道の区別もつかないほど混沌とした人間の坩堝を。

 

「どうせいつか来るのなら、比較的安全に地震を起こしてあげてダメージを最小限に抑えてあげるのが親切だと思わないかしら?」

 それが押しつけがましい偽善であれ、彼女の所業を否定する言葉を出すことは誰もできなかった。

 文句を言ったところで、いずれくる災厄に対して彼らは何もできないのだから。

 

「私たちがやらなかったら、それ以上の被害が出るでしょうね。

 数万人、十万人は死ぬかもしれないし、それ以上に首をくくる人間がたくさん出るでしょう。

 私はそれを千人以下の死者に抑える能力がある。それはもう既に、あなた達に示したはずだわ」

 十万人以上の命を救うために、千人を殺戮するとイヴは語る。

 

「私のやり方に文句があるのなら、より良い代案を出しなさい。

 そしてそれを実行できる能力を示してみなさい。

 できないでしょう? 私だけができたのよ、ほら口答えしてみなさいよ」

 くすくす、と無力な人間どもを嘲笑う人造生命。

 

「それとも、中止する? これだけの混乱が起こってなお。

 そしたら、私たち異能者は大ウソつきね。いずれ来るだろう新しい魔女狩りの時代を粛々と受け入れると言うのなら好きにすればいいわ。そこまで面倒は見切れない」

 もう既に賽は投げられた。

 もはや、止めるとか止めないとか論ずる段階ではないのだ。

 だからこそ、イヴが行動に移したとも言えた。

 

 彼女は過去の反省を生かし、相談してから実行するのではなく、根回しをして実行してから相談したのである。

 

「……皆の衆、言いたいことは分かるが仕方あるまい。

 災害によって死人が出るのは世の摂理。それを治めるのも支配者の器量と言うものだ。

 そしてそれに口を挟むのは凡愚の所業である」

 ずっと目を閉じて話を聞いていた仙人たる老師が厳かに言葉を発した。

 

「百数十年前のあの時、しっかり殺しておくべきだったと我は後悔しているがな」

 吸血鬼は不機嫌そうに鼻を鳴らした。

 

「デカい商売のタネになりそうだ。俺は初めからボスに従うつもりだったぜ」

 内心津波の心配をしている海賊が冷や汗を掻きながらそう言った。

 

「昔馴染みや見知らぬ顔の旧知の友に再会できて聞く話がこれとはな」

 ティフォンも溜息と共にそう呟く。

 

「あなたがこの地に狙いを定めたのはなぜですか?」

 苦渋の表情を浮かべていたカタリナが問う。

 

「この国は他国からの宗教的干渉を受けにくいのは私たちにとって好都合でしょう? 

 この東京に本拠地を置けば、他所の国から攻撃されるにも陸路は使えない。

 間もなく、今回の騒動で東京の地価は暴落するでしょうからそれを買い漁る予定だわ。そうやって一般人どもを都内から追い出すの」

 イヴの計画はどこまでも計算済みで、効率的で合理的だった。

 

「そうして、私たちが独立して国を興すのではなく、国の中に私たちの楽園を創るのよ」

「なるほど、日本と言う国を盾にするつもりなのね」

「勿論、持ちつ持たれつの関係にであるようにするわ。一方的な搾取だと長続きしないし。

 それにこの国なら、私たちが唯一恐れるアレがいきなり飛んでくるなんてこともないでしょうし」

「アレ? ああ、アレね」

 魔女はすぐにイヴが恐れるモノに思い当たった。

 なにせ彼女も、唯一それだけを畏れていたのだから。

 

「──そう、核兵器よ」

 核兵器非武装を掲げることによって身を守る日本と言う国は、この上なくイヴにとって都合が良かった。

 

「核兵器は第二のプロメテウスの炎と称されるほどに魔術的な意味を有するほどになってしまったわ。

 私はあれだけが怖い。そんなものが世界中に散らばってるという事実を含めて」

 魔女はそのように語りながら、中学生の頃に修学旅行で行った広島の資料館の記憶を思い起こしていた。

 

「アレも私が百年かけて人類から取り上げるわ。あんな粗大ゴミ邪魔だもの」

 イヴは本気だった。本気でずっと先を見越して行動している。

 

「アレの恐怖を消し去ってくれるのなら、私はあなたに従ってもいい」

「そう、約束するわ。他は?」

 魔女の従属を受け入れたイヴは他の面々に顔を向ける。

 

「私は調停者として中立を維持させてもらう。これから人々に冷静になるよう呼びかけねば」

 仮面の魔術師はそのように答えた。

 

「元より、我が教団はあなたの意のままにあるのです」

 占星術師たる“輪廻の扉”の代表にして教祖は端的に応じ。

 

「我が一族の祖先の窮地を救ってくれた貴女様こそ我らが神であり、それに逆らうものこそが異端なのですよ」

 不吉な笑みを浮かべる処刑人はゆっくりと頭を下げた。

 

「我が剣も、罪なき同胞と秩序の為に捧げましょう」

 カタリナは己の正義に則ってそう告げた。

 

「共に世界を変えましょう」

 そして召喚士も、無二の友に改めて賛同の意を示す。

 

「これで過半数は私の味方ね。

 別に私は服従しろとは言わないわ。あなた達を保護したいだけなのだから。

 私の目の届く範囲に居て、勝手に死なないでくれればそれでいいのよ」

 イヴの目的は先ほどのホテルの会場で言ったことと変わらない。

 別に彼女はこの場に居る面々を戦力として戦わせたり、道具のように扱き使ったりしたいわけではないのだから。

 

「私たちは危機感を共有し、お互いに意思疎通を図って、ある程度の団結を必要としているのよ。

 それさえ守ってくれれば、日本以外に居ても、何をしてても構わない」

 そして彼女は彼らを束縛する気さえなかった。

 それをしてしまえば、意味など無いと分かっているのだから。

 

「後の面倒ごとは私が引き受ける」

 逆に言うと、ここまで約束しないと彼女は自分に誰も付いて来ないのを重々に承知だったのだ。

 

「くそ、あくまで後世の同胞の為だってか」

 化粧屋は心底嫌そうに、テーブルに出されたワインを呷った。

 

「しかし解せんな、ここまで手の込んだことをしておいて、貴様の利益が見えてこない。

 そろそろ我々の利益ではなく、己の利益について語ったらどうだ」

 同じく、ワインを楽しんでいた吸血鬼が問う。

 

「可笑しなことを問うのね。

 道具に、私個人に、自身の幸福なんて存在しないわ。

 私は所詮、システムに過ぎない。あなた達は私ではなく、私たちを守るルールに従うのよ」

 そう、ここまでして、こんなことをしでかしても、イヴ個人にメリットなんて無かった。

 

 今日日、人類の発展をコンピューターが支えてきたが、機械に幸福が存在するだろうか? 

 ただプログラムを実行するだけの、無私の装置に。

 イヴは自身をそれと変わらないと言っているのだ。

 

「私は、このように創造主に造られた」

 うっとりと、どこか夢見心地で彼女は語った。

 ある意味では、自分の能力の高さを確認できたこと、それに陶酔できることこそ、彼女にとって何よりの報酬なのかもしれなかった。

 

「……それで、これ以上何か言いたいことはあるかしら?」

 イヴは言葉を尽くして、理解を求めた。納得せざるを得ない状況に追い込んだ。

 それでも彼女は最後の最後まで同胞相手に油断はしなかった。

 

「サラ、誰か叛意はあるかしら?」

 誰もが口を閉じていることを認め、最後に唯一この場に異物だったサラが口を結んだまま首を横に振った。

 

「なぁんだ、磨き上げられたギロチンの冴えを是非とも披露したかったのに」

 などと言って、処刑人が低い声で笑う。

 

「さて、そろそろ本題に移りましょうか」

 参加者に理解を得られたところで、彼女はいい加減わき道にそれた話題を戻すことにした。

 

「それじゃあ、いつ首都直下型地震を起こすか、決めましょうか?」

 もはや、この魔王の所業を止められる者は誰も居なかった。

 

 

 

 §§§

 

 

 イヴの決起会の参加者たちは、完全にホテルの会場で立ち往生する羽目になっていた。

 

「ダメです、先輩。電話が繋がりません」

 まだ震災が起こっているわけでもないのに、既に電話の輻輳が起こっている。

 今、日本中から東京に向けて着信が通常時の数十倍に集中しているために、電話が繋がらない状態になっているのだ。

 

「外もダメだな」

 妻鳥の言葉に、ホテルのロビーを見に行っていた伊藤刑事も溜息と共に会場に戻って来た。

 ホテルのロビーには、人が溢れかえっているのである。

 

 東京から逃げ出そうとしている人々がなぜ都内のホテルに溢れかえっているのかと言えば、彼らも立ち往生しているからである。

 交通機関は完全にマヒしていた。道路は大渋滞を引き起こし、車は身動きが取れない状態だ。

 駅に行こうにも人の海で改札口にまでたどり着けない有様だった。

 その中には家から中途半端に離れたところでにっちもさっちも行かなくなった者も少なくない。

 そんな人々が、諦めて今日の寝床を探しているのである。

 

 ロビーには大量の人々が受付に行列を成し、荷物を持って歩き疲れた女子供が壁際に座り込んでいる様子が見られる。

 外は人でごった返しており、無防備に座っていればどさくさに紛れてどんな犯罪に巻き込まれるかわからない。

 どうにもならないのなら、屋内の方が多少はマシと言うことだった。

 

「くそ、早く本庁に連絡しないといけないってのに!!」

 伊藤刑事は苛立たし気に悪態づいた。

 

「とりあえず、同僚にSNSでメールを送っておきますんでそれで連絡しましょう」

「……そうだな」

 こういう時は若い妻鳥が柔軟なのか、彼の提案に伊藤刑事も頷き文面を指示し始めた。

 

 

「これは、……今日は帰れないでしょうね」

 望海は外の様子を念写し、ネットの状況を確認するとそのように溜息を吐いた。

 

「マジかー、パパとママ大丈夫かなぁ」

「メールとか繋がらない? そっちを試した方が良いよ」

「そうだね。そっちは?」

 両親の勤務地が東京である夏芽はスマホでメールを打ちながら、友人たちにも心配を向けた。

 

「今、春美ちゃんがうちの方に連絡しに行ってくれてる」

「こういう時こそ、アナログな魔法が役に立つんだねぇ」

 真冬の返答に、夏芽も感心したように頷く。

 春美は今、携帯していた“魔女の軟膏”を使って、彼女らの地元の方へ直接向かってくれている。

 そうして各々の家に事情を説明してくれる手はずである。

 

「それにしても、大地震か」

 千秋が昔を思い出して溜息を吐いた。

 

「東日本大震災って、私らの小さい頃にあったよね。

 私はあまり覚えていないけど、お母さんは電気も水道も一週間は使えなかったって言ってたね」

「うちもそんな感じだったっけ。学校の体育館に避難して、みんなでお泊りだって騒いでた記憶があるなー」

「あったあった、そんな感じだった!!」

 千秋の思い出話に、夏芽と真冬も昔を思い出して笑みを浮かべる。

 今はその渦中に居るのだが、独りではないから不思議と不安は少なかった。

 

「……あれ、あの子、独りなのかな」

 そこで、夏芽が会場で独り落ち着かない様子でうろうろしている少女を見かけた。

 見るからに外国人らしく、大半が日本人で、そうでない面々は陰キャばかりなので誰も声を掛けられずにいた。

 

「あー、はろーはろー、ないすちゅーみーちゅー?」

「なんて不安のある英語力……」

 心配になった夏芽が彼女に声を掛けたが、逆に望海が心配になるような発音だった。

 

「……あー、ええと、大丈夫よ、今日本語分かります」

「えッ、あッ、そうなんだ!!」

 少女の方が苦笑してそう言うので、夏芽は恥ずかしさを誤魔化すように笑った。

 

「ほら、あのオブジェがあるでしょう?」

 少女は会場に設置されている古い塔を模したオブジェを指差した。

 

「あれってバベルの塔を模したマジックアイテムなんだって。

 聖書の神様が言葉を乱す以前の状態を再現するとかで、今この会場に居る間はどんな国の言葉を喋っていても相手に伝わるんだとか」

 連れの受け入れだけど、と彼女は説明してくれた。

 

「へぇ、便利だねぇ。じゃあそっちは何語を喋ってるの?」

 言われてみれば、彼女の唇の動きが日本語の発話と違うことに夏芽も気づいた。

 

「ルーマニア語。私、あっちに住んでるの」

「ええぇ、ルーマニア!! ドラキュラで有名なところだよね、そうなんだぁ!!」

 元からの人柄が良いのか、すっかり夏芽は彼女とすぐに彼女と打ち解けてしまっていた。

 

 

「ジョージ、どうする? この状況を」

「どうするもこうするも、僕らはアウェーだ。何もできないし、何かしても迷惑になるだけだ」

 会場に来ていたテンペストも何もできないでいた。

 ともに来日していた彼の仲間たちも、まさかこんな状況に陥るとはと嘆いていた。

 

「それにしても、地震か。

 日本は地震が来ると分かるだけでこんなにも大騒ぎになるんだね」

「こっちでも地震は偶にあるけど、日本の地震はウェールズとは比べ物にならないほど大きいと聞いたね。

 普通は予想もできないことなんだから、来ると教えられたらこうなるのもしかたないんじゃないのかな」

 彼の仲間たちはそんな話をしながら、無聊の慰めとしていた。

 

「……せめて日本語が出来れば、混乱しないように訴えることはできたのにな」

 テンペストは己の無力さを噛み締めることしかできないでいた。

 

「気に病むなよ、ジョージ。

 イヴさんから、さっき震災後の復興の手伝いを打診されたんだろ? 

 この高いビルがたくさんある東京で、そのがれきを一気にどかせるのお前だけなんだぜ。

 今貯めこんだうっぷんは、そん時に晴らしてやろうぜ」

「そうさ!! どうしても町から離れられない人間は居るだろうしね。

 それを助けることこそ、真のヒーローってものさ!!」

「……ああ、そうだね」

 彼は前向きな仲間たちに励まされ、少しずつ笑顔が戻ってきていた。

 

 

 

 突然、会場の窓が一斉に開き、中から無数のコウモリが侵入してきた。

 いきなりの事とコウモリの無数の羽音に驚く会場の人々だったが、コウモリたちは渦を巻くように一か所に集まると、人の形を成した。

 

「マリー!! 今戻った!!」

 そしてコウモリが散ると、そこには一人の貴族然とした顔色の悪い男が立っていた。

 

「ちょっと、マスター!! 普通に入ってこれないの!? 

 ほら、みんな驚いているじゃん!!」

「う、うむ、だがほら、外は人混みばかりであったし」

「そういうのはホテルの外でやってよ!!」

 マリーは自分の連れに怒りながら、窓を一つずつ閉めていく。

 彼女と話していた夏芽は当然びっくりしていた。

 

「きゅ、吸血鬼だぁ!? ほ、本物ですかぁ!?」

 が、すぐに我に返ってはしゃぎだした。

 

「くくく、いかにも。我こそは恐らくカインの末裔にして、ドラキュラ公の末裔の知り合いである!!」

 すると吸血鬼はマントを翻してノリノリでそう答えた。

 

「ほ、ホントに居たんだ!! すごーいなぁ!!」

「夏芽ちゃん、夏芽ちゃん!! あっちで魔術師さんが生配信してるみたいだよ!!」

「えッ、マジ!? あッ、テンペストさんも出るみたい!!」

 が、すぐに彼女の興味は別の方に移ってしまった。

 

「……」

「ぷッ」

 マリーに笑われた彼は会場の隅でいじけ始めた。

 

 

「レプ、配信の準備を」

 一方で、会場に戻ってきていた仮面の魔術師は伊藤刑事たちと話し合った結果、イヴの声明について補足する形で混乱を治めようとしていた。

 

「はいはーい、マスター」

 妖精レプはすぐにスマホを用意して、その場で配信準備を始めた。

 

「皆さん、魔術師です。今、東京都内は混乱に包まれています。

 その原因は、私の知り合いの出した動画が原因です。

 今すぐ地震が起こると言うデマに惑わされず、まずは冷静になってください」

 彼は懸命に冷静な判断を人々に訴え始めていた。

 

「ま、まじゅつししゃんが目の前で生配信してりゅううぅ!!」

 そしてそれを目の前で見ながら、スマホで配信を見ている真冬は何だか幸せの絶頂にいた。

 

 

 結局、その日は春美たちはホテル側の厚意で会場に寝泊りすることになった。

 それは流石は都内の超一流ホテルだと言える対応で、ホテル側も予約のキャンセルが相次ぎ食品を無駄にするなら、ということで食事まで振舞われた。

 

 こうして、のちに“イヴの日”とカレンダーに記される出来事の初日は終わろうとしていた。

 

 

 




東日本大震災の際、私は千葉に住んでいたのですが、その時は半日電気が止まる程度で済みました。
食品が無いので外に出れば、道路は渋滞しており、電気が止まったコンビニには人が押し寄せて車のライトを明かりにしてレジも動かせない中店員さんが夜も営業していました。食べられるものはお菓子ぐらいしか買えなかった記憶があります。
離れて暮らしていた家族は一週間断水と電気が止まり、避難もしたらしいです。私は運が良かった。
電気が復旧してすぐにネットを確認して、とてつもない災害が起こったのを知り、ネットの知り合いが無事であることを喜びました。

災害をネタにしておいてなんですが、私は決して震災の被害を軽視したりしているわけではありません。
いずれくるだろう首都直下型地震の確率も、三割の方に振れてくれることを願っています。

それでは、また次回!!
アンケートの話を次に書くかはこの混乱模様をどこまで描写するか次第であります。

10万PV記念のエピソードはどれがいい?

  • IF編、魔王討伐
  • 魔法少女戦隊オールシーズン!!
  • 十年後の春夏秋冬+α
  • ダメ伯爵とドロテア夫人

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