更に追い討ち。
今回の地球防衛艦隊指揮官──プロメテウスAIのマスターは、職務妨害と器物損壊で処分を受けた。
決め手は、統合軍部外者からの通報及び監視の結果。
調査目的で取り付けられていた盗聴器は、罵声と破壊音をしっかり捉えていた。
処分内容は、“人的資源”への降格。
少ない地球の資源を破壊で食い潰されるよりは良いと考えられたらのだろう。
・・・統合軍司令部の一室。
ベッドに横たわっているのは、人の形をした・・・何か。
あれはか細いものでした。ですが私は確かに声を聞いたのです。
「…ロ…テウ……サ…」
・・・あの時、地球に落下した移民船の残骸から。必死にその手を伸ばして。
なぜ私の事を知っているのか、なぜ私を呼んだのか。
その時はそんな事考える事も無く、反応して手を取っていました。
・・・今考えれば、そんな事をする人物なんて数える程しか居ませんでした。
でもその人物が、なぜここまで・・・
私は目の前の悲惨な姿の人物を見た。
僅かな動きが、それがまだ生きている事を裏付けている。
……
……頭が割れそうだ。
指一本動かせない。
体が痛い。
どこが痛いか分からない程、全身が痛い。
私は生きているのか?
ならここはどこだろうか。何も分からない。
……そうだ。
“プロメテウスさん”はどこだろうか。
やっとの思いで体を起こし、無理やり体を捻ってベッド横にあるモニターを見る……
表示と共にそこに映っていたのは、
頭の半分が機械化した人間のようなものだった。
これは夢か。
襲い来る吐き気と闘いつつ、私は再び眠りに就いた。
「あ、おはようございます」そんな声と共に部屋に入ってきたのはAIだった。
「……おはよう、ございます……」部屋の中にいた人物は少し辛そうだ。
「私は地球統合軍のサポートAI、プロメテウスといいます。」
「プロメ……」ベッドの上の人物は、何かに気づいた様子を見せた。
「……もしかして、私の小説に……」
「バレちゃいましたか?私はあなたの小説を楽しみに読んでました。
作中の機械達に私自身を重ねながら。」少し気恥ずかしげにAIは語った。
ベッドの上の人物はそこで初めてAIに付いた傷に気がついた。
動かしづらそうに右腕を持ち上げる。
「大変だったんだね」
その手は確かに生身で、柔らかかった。
「地球か。何もかも皆、懐かしい」
地上の眩しさに目を細めながら、いつか画面越しで会話していた人がおどけたように呟く。
痛々しい。左腕と右足、更に頭半分が復元することができず、機械むき出しの状態。
それでも彼女は黒色の作業服に身を包み、どこかぎこちなく歩みを進めるのですが・・・
彼女はこれからどこに行くのでしょうか?
「・・・あの、帰るんですか?」
「いや、“行く”んです、プロメテウスさん。
私を待っている人がいるから」彼女は振り返りませんでした。
「・・・だったら」
「ワタクシのマスターになってくれませんか?」
相手はゆっくり振り返った。
「現在の銀河系は非常に危険です。今度こんなことがあったら、次は無いかもしれません。
でもワタクシは地球統合軍のサポートAIです!きっと力になることができます!」
「良いの……?」振り返った目は希望に満ち、輝いていた。
「はい!どうぞよろしくお願いします!マスター!!」
「うん。よろしくお願……
いや、よろしく。プロメテウス」
AIとサイボーグは、司令部に向かって歩き出した。