やはり俺の青春ラブコメの相手が魔王だなんて間違っている。   作:黒霧Rose

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第1話 彼と彼女が交わるには道が広すぎる

 

 

「また明日」

 

目の前の少女がこちらに手を振ってくる。手を振る少女の名は雪ノ下雪乃。俺に手を振りながらその言葉を彼女の口から聞く日が来るとは思ってもみなかった。

 

今日、俺は文化祭スローガンを決める会議でサボりが横行していた文化祭実行委員に発破をかけてきた。あそこに居た奴らの目を見る限り、恐らく上手くいっているだろう。

 

「・・・ああ、じゃあな」

 

小さく呟いて、会議室を去る。

 

 

 

小さな微笑みと、戸惑いを胸にしながら。

 

 

 

 

 

 

 

「ひゃっはろー」

 

この挨拶のフレーズと声は知っている。だが知らないふりをする。校門の所に居る美人なんか知らん、俺には関係ないし関係するつもりもない。

 

「無視はいけないよー。君も無視される辛さは知っているでしょ?」

 

隣を通り過ぎようとしたら、腕を掴まれた。というか、捕まえられた。もちろん、無視をしようとしたので皮肉付きで、だ。

 

「お姉さんとちょーっとお話しようよ」

 

本当なら今すぐ断って家に帰って明日の覚悟を決めたい。だというのに何故この『魔王』とエンカウントしなければならないのだろうか。

 

「比企谷くん、お姉さんじゃ・・・ダメかな?」

 

上目遣いをしながら不安そうな声を出す魔王。俺はそれに騙されはしないが・・・それは『俺は』という話である。ここは校門で人の行き来がある、つまるところ俺以外がここには何人も居るのだ。この状況で圧倒的に不利なのはどちらか?

 

 

考えるまでもなく俺だ。

 

 

「・・・歩きながらでいいですか?」

 

こちらも精一杯の譲歩をした答えを出す。そもそも突然話しかけてきているのだから、相手である俺の都合を優先するべきだろう。

 

「いいよ。元々そのつもりだったしね」

 

譲歩したつもりが、想定内だったらしい。まぁ、この人相手にそんなことをしても無駄か。

 

 

 

 

雪ノ下陽乃。雪ノ下雪乃の姉にして、彼女を凌ぐ程の才能を持つ女性。またの名を魔王。

 

いや、訂正をしよう。別段、雪ノ下雪乃のよりも優れているというわけではない。才能で言うのなら二人は恐らく互角だろう。

 

しかし、彼女を魔王たらしめているのはその『在り方』にある。周囲を全て騙しきる程の『仮面』を持ち、TPOによって自らというものを変革させていく。それを誰にも悟られることなくこなし、違和感すらも抱かせない。その在り方が雪ノ下雪乃とのハッキリとした違いだ。

 

雪ノ下雪乃が嘘を嫌い、真っ直ぐに正しさを追い求め、世界を変えようとする『革命家』なら・・・雪ノ下陽乃は嘘を纏い、平行線のように交差することのない多数の真っ直ぐさで間違いを否定し、世界を騙そうとする『支配者』だろう。

 

生まれ持ったものが少し違うだけで、こうも二人は正反対の道を歩んでいるのだ。

 

 

「スローガンの時は笑わせてもらったよ。よく思いついたね」

 

さっきのスローガン決めのことを言ってくる。まぁ、今この状況において俺と彼女の間にある話題なんてそれしかないだろうからな。

 

「思いついた?俺は仕事押し付けられてストレスが溜まっていたんでその憂さ晴らしですよ」

 

俺が答えると、雪ノ下さんは目を細めて薄い笑みを浮かべた。背筋が凍るほどの恐怖を感じる。

 

「それも違くはないんだろうけど、本当の目的ではないよね」

 

よくそんな表情をしながら高くて明るい声が出るな。

 

「さぁどうでしょうね」

 

俺は適当に返事をして目を逸らす。いや、顔ごと逸らす。

 

「ダメだよ、比企谷くん。まだ逸らしちゃダメ」

 

すると、頬を持たれて顔が元の位置に戻る。目の前には雪ノ下さんの貼り付けた笑顔が現れる。

 

「お姉さんが答え合わせをしてあげる」

 

「模範解答が無い以上、それを答え合わせとは言いません」

 

「あるよ。君が隠しているだけ。それに、例え無かったとしても私は勝手に私の仮説を話すから」

 

このまま逃げてもいいのだが、生憎俺にはこの人から逃げ切れる手札が無い。現状、この人に踊らされてると言ってもいい。

 

「じゃあ始めよっか。君はまず、委員長の意見を否定した。それは彼女の案である『助け合う』というものに反感があったから。ではなく、彼女の意識に反感があったから。助け合うというものを履き違えている彼女そのものに君は反感のようなものを抱いた。そして、それを利用することにした。彼女の案を否定し、自らも案を出す。その案は自らを正当化させ、今までサボっていた人にも反感を抱かせた。そして案の定、君に反感を抱く生徒が増えた。この一連の流れが本当に偶然なのかな?」

 

 

つらつらと語る彼女。全くもって恐ろし過ぎる人だ。こちらの考えというものを隅々まで見通してくる。或いは、見透している。

 

「そうかもしれませんね」

 

「あくまでその態度なのね・・・ふーん。それが比企谷くんのやり方なんだ」

 

今まで浮かべていた笑みは消し飛び、鋭い目つきと冷たい声音が俺を襲った。本当にさっきまでの人と同一人物なのだろうか?それほどまでに彼女は一変していた。

 

「お姉さん、そのヒールっぷり好きだなー」

 

声音は高く、明るいものだったが・・・表情は何一つとして変わりはしてなかった。真剣そのもののようにも思えたが、それでもその言葉には引っかかるところがある。

 

『ヒールっぷり』その言葉が引っかかる。俺は別にヒールになったわけではない。少し考えて、自分の手札を切っただけに過ぎない。ヒールとして活躍したなどとは思っていない。

 

「雪乃ちゃんにはもったいない・・・ううん、違う」

 

すると、雪ノ下さんは俺の顎に手を添えた。

 

 

 

 

 

「私じゃなきゃ、君を引き出してあげられない。君を理解してあげられない」

 

 

 

 

その言葉を放った彼女は何も被っていないように思えた。彼女の本質だと、そう思えてしまった。

 

「・・・意味が分かりません」

 

「私は言ったよね?『逸らしちゃダメ』って。君は気付いているはず、今の私は私自身だということに」

 

どこまでも計算された発言に、計算された事運び。

 

雪ノ下雪乃とは違う、絶対的な格差。

 

 

 

「私と共に在るっていうのはどうかな?」

 

 

 

その瞳の奥にある暗く、ドロドロとした闇のような耀き。あらゆる人間を魅了し、惹きこみ、自らの絶対性を証明させるかのようなその強い瞳。

 

 

甘美にして、猛毒。

 

優美にして、劇物。

 

 

風光明媚であるが故に、魑魅魍魎。

 

 

 

時折見える瞬きでさえ、人を飲み込むのに十分なものがある。

 

「お断りします」

 

だからこそ、俺はその誘いには乗らない。乗ることができない、乗ることを許されない。

 

「理由は?」

 

理由と言われても、特に浮かびはしない。正確には、この人を納得させるだけの理由が浮かばない。

 

「あなたを信用することが、俺にはできないからです」

 

だから、俺は拒絶を示す。納得させることができないのならば、俺との間に明確な壁を、分厚い壁を作ればいい。

 

そもそも、話にならなければいい。

 

「・・・それもそうだね」

 

何も思っていないようにスっと彼女は呟いた。

 

「それだけなら、俺は帰ります」

 

これ以上、この人と居るのは危険だと判断した俺は即刻この場を去る。本当にマズイ、この人は本当に危険だ。

 

「最後に、一つだけ教えて」

 

後ろから声が聞こえてくる。その声は、どこか彼女の妹を感じさせるような・・・凛とした声だった。

 

 

 

 

「今回の君の行動・・・それは誰のため?」

 

 

 

誰のため・・・か。考えてみれば一体誰のためにあんなことをしたのだろうか。

 

俺のため?無いわけではないが、どこか納得できない。

 

相模のため?残念ながらそれはほとんどない。

 

なら、俺は一体誰の、いや何のためにやったのだろうか?

 

 

彼女の、ため?・・・それが、一番近いのかもしれない。

 

 

 

だが、俺にはその資格がない。彼女のために行動したという証明もなければ、理由もない。

 

 

 

「妹のためですよ。貴重な機会である文化祭を潰すわけにはいかないでしょ?俺は実行委員ですから」

 

 

 

彼女の方を振り返らず答えて、俺は歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

「『誰の』妹なのかは、言わないんだね」

 

 

 

 

 

 

実行委員会は再始動した。今の状況はそう言ってもいいだろう。前までは全体の三割ほどしか来ていなかったが、今ではほぼ全員がこの会議室に居る。

 

まぁ、俺に送られてくる視線はちょっとアレだけど。

 

 

「やぁやぁ比企谷くん、ちゃんと仕事しているかい?」

 

会議室にやって来た雪ノ下さんが俺に話しかけて来る。

 

実のところ、この人とのエンカウントは避けたかった。昨日のことがどうも頭から離れない。

 

「ちゃんとやっては・・・いないみたいだね」

 

俺の目の前にあるPCを覗き込んでそう言った。

 

なんでだよ、めっちゃやってんじゃん。

 

「だってここには、比企谷くんの功績が書かれてないじゃん」

 

俺の役職は記録雑務。この実行委員におけるあらゆる事柄や出来事をまとめなければならない。

 

俺の功績?そんなものは最初からない。だから俺はちゃんとやっている。

 

「ここで問題。集団を一致団結させるものといえば?」

 

いつもの笑顔でいきなり問題を出してくる。

 

「冷酷な指導者」

 

「またまたーホントは知ってるくせに。答えは敵の存在だよ」

 

集団をまとめあげるのに必要なのは『敵』だと彼女は言った。まぁ、実際に考えてみれば指導者は集団を一致団結させるのではなく、一致団結した集団を導く者だ。そもそもの前提を履き違えている答えはあまりにも適当が過ぎたか。

 

「・・・敵なんて必要なんすかね」

 

彼女には目もくれずに小さく呟く。本当に、敵なんて必要なのだろうか?彼女は集団を一致団結させるものを敵だと、そう言った。けれど、そこにあるのは敵に対しての感情であり烏合の衆であることに変わりはない。

 

だとするのならば、本当に必要なのは敵などではなく・・・

 

「『助けたいと思うほどの大切な存在』かな」

 

「・・・」

 

「比企谷くんが考えていたのはこんな感じでしょ?」

 

思考を読まれて、答えを出されてしまったようだ。

 

「敵に対して向く感情は一直線であれど一定のものではない。故に、それは同じ方向を向いただけの烏合の衆である。けれど、大切な存在のために向く感情は一直線であり一定、つまり一途であると言える。その想いなら烏合の衆ではなく、集団として機能する。そういうことでしょ?」

 

結論も、過程ですらも同じだった。

 

「いいねぇ、その考え。私の出した答えに対する絶対的アンチテーゼ・・・そういうのを待っていたんだよ」

 

恐ろしいほどの笑み、まるで猛禽類が標的を定めたような・・・そんな笑み。

 

「元々は雪乃ちゃんのつもりだったのに・・・でも、これは思わぬ収穫かな」

 

この人、まさかそのつもりで委員長である相模を煽っていたのか?最初から、そのつもりで?

 

「あなた、まさか雪ノ下に」

 

言葉を続けようとすると、雪ノ下さんの白く綺麗な人差し指が俺の口に当てられる。

 

「ふふっ。君も、私も、お互いを理解し始めているね・・・でも、それ以上はだめ」

 

口元は微笑みを浮かべ、妖艶な瞳で言葉を発する目の前の女性。

 

 

ドサッ

 

 

「雑務、仕事をしなさい。人の姉と戯れる時間があるのならここに溜まっている仕事を片付けたらどうなの?まだ有志数件、エンディングセレモニーの人員配置などの考慮をしなければならないのだけれど、あなたのその余裕ぶりを見ると、どうやら任せてもいいのかしら?」

 

 

俺の席に書類の束を置くのは我らが部長であり、実行委員会副委員長の雪ノ下雪乃である。

 

「あの、これはですね」

 

「どこかの誰かさんのせいでお開きとなってしまったスローガン決めの会議の議事録もまだあがってきていないのだけれど、それでも余裕なのよね」

 

ニッコリとした顔でこちらに畳み掛けてくる。うん、帰っていいかな?

 

「雪乃ちゃーん、私もやっていいかな?かな?」

 

雪ノ下さんも妹が来て嬉しいのか、手伝いを申し出た。俺の近くから居なくなるのならそれでいいです。

 

「姉さんは帰って」

 

「酷い、雪乃ちゃん酷い。まぁ、勝手に比企谷くんの仕事取ってやっちゃうんだけどね」

 

俺の仕事が減るのならそれでいいです、もう、それで・・・はい。

 

「はあ、勝手にしなさい」

 

呆れた雪ノ下は自分の席に戻って行った。

 

「じゃあ比企谷くんはこのお礼にお姉さんと文化祭中共に行動ね。決定」

 

それでよくなかったです。

 

「手遅れだから」

 

そう言って、いい笑顔を向けてくる魔王。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これ文化祭休んでいいですかね?

 

 

 

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