やはり俺の青春ラブコメの相手が魔王だなんて間違っている。 作:黒霧Rose
「やぁ総武高校の生徒会のメンバー達。今日はこのディスカッションに来てくれて本当に感謝するよ。これから、より良いパートナーシップを生み出し、シナジー効果を生み出すことでお互いギブアンドテイクなリレーションを築き上げよう」
乗っけからいいパンチ撃ってくるなぁ〜。思いっきり右ストレート被弾したぞおい。
昨日、一色が言った通り、俺たち生徒会はコミュニティセンターにて海浜総合高校と打ち合わせをしていた。玉縄という向こう側の生徒会長、最早何を言っているのか分からんレベルの横文字率。
これあれだ、意識高い系というやつだ。
とりあえず、俺は庶務ということなので端っこの方に座りテーブルの上にある書類に目を通す。
・・・えぇ、こっちまで横文字ばっかなのかよ。
「さて、じゃあ始めようか」
玉縄の一言で始まった会議は・・・なんというか、まぁ・・・強烈なものだった。横文字のオンパレード、案は出るのでまぁそこはありがたいが・・・これ本当に大丈夫なの?具体的なこと何も決まってなくない?
と、いう感じのものだった。
「つ、疲れた・・・」
会議が終わると、座っていた椅子の背もたれに思いっきり寄りかかって天井を見上げる。何がやばいってマジでやばい。俺たちなんてほとんど何も言ってないしそもそも言えるような雰囲気じゃなかったんですけど。時折こっちに来るのは確認のための質問だけで、それに一色が笑顔で頷くだけとか・・・うっ、思い出しただけで頭が。
件の一色は玉縄と向こうで会話中。対するこっちは・・・。
「やばい・・・」
「終わる気がしない」
「なんで俺たちが」
書類と睨めっこ状態。なんなら、俺の目の前にも大量の書類がある。いやだよ〜働きたく無いよ〜とも言ってられない立場なのでとりあえずやるだけやっておく。文化祭実行委員で経験しておいてよかった・・・社畜根性ですよねこの発言は。
にしても、一回目でこれは少しマズイ。このまま行くと、議事録含めた諸々の書類担当がこちら側のみになる。そうなってきた場合、総武高は海浜総合の下っ端という明確な序列分けにも繋がる。
・・・しかし、俺がそれを指摘するとなると『一色いろは』が生徒会長であることを崩す結果にもなる。彼女のことや、今後の生徒会のことを考えるならば・・・俺は黙っておくべき、か。
隣を見ると、副会長の本牧が何かを言いたそうな顔で一色を見ている。新生徒会が発足してからあまり時間が経っていないこともそうだが、問題は一色が一年生で本牧が二年生であるという点だろう。それも相まって、生徒会間でのコミュニケーションがまだうまく取れていない。
この中で一番コミュニケーションに問題がある俺が考えるのも違うとは思いますけどねはい。
「では、僕たちは解散することにするよ」
「はい、お疲れ様です。外までお見送りしますね」
海浜総合の生徒会は帰った。なるほど、どうやら明確な役割分担と序列分けが済んでしまったようですね。
「・・・なぁ、比企谷」
「お、おう」
一色が見送るために会議室から出て行った後、隣の本牧から話しかけられていきなりキョどる俺。
「さっきの会議と会長・・・どう思った?こういう言い方はあまりしたく無いんだけど、その・・・」
「ま、まぁ、言おうとしてることは分かる。ただ、俺たちも俺たちだから、な・・・」
実際問題として、責任を一色に押し付けるのも違う話だ。あの会議の場で、明確な発言ができなかった、或いはしなかったのだって俺たちも同じだ。
「・・・そうだな」
そう言うと、彼は目の前にある書類とまた向き合った。
戻ってきた一色が小さくため息をついていた。
*
「ていうか〜ありえなくないですか〜?ほとんど何言ってるのか分かりませんでしたし、仕事押し付けられましたし〜、ちょっとキモ・・・想定外の相手ですよね〜」
いや最後の隠しきれてないし、むしろそれがほとんど全文なまであるから。
ていうか〜・・・なんで俺はお前とファミレスになんざ来なきゃならんのだ。俺は一刻も早く家に帰って今日のことを忘れるためにフレッシュな睡眠を・・・ああ、少しずつアレが混じってきた。
「ま、ああいう手合いは往々にしてめんどいもんだし仕方ないだろ」
「そうとは思いますけど〜」
お前飯食う時もそのあざとさはブレねぇのな。一周回って尊敬するまである。
「で、なんで俺ここに連行されたの?半ば強制的だったし」
「・・・先輩ならなんかそれっぽいこと言ってくれるのじゃないかな〜って。あの雪ノ下先輩のお姉さんみたいに」
「あの人みたいな発言とか無理だろ」
どう考えても不可能な話である。マジで無理。
「なんか言ってくださいよ〜」
なんか言わないと帰してくれそうもないこの空気、あれに似ている。飲み会とかで一発ギャグや面白いことを言えと強要された時のようなやつと同じだ。
「ま、あれだ」
何かを言おうとして、脳裏に二人の顔が浮かび上がる。何かを言って、彼女に毒を飲ませてしまうのではないか。また、俺は毒になることしかできないのではないかというこの懐疑心が・・・どうにも消えない。それが。俺の口を閉ざす。
俺はまたしても誰かにレッテルを貼って、その上でしか自身の言葉を紡ぐことが出来ないのか。
欺瞞がなければ成り立たないものなんて、必要無いのではないだろうか。
「もう少し、生徒会の奴らや、自分を信じてみても・・・いいんじゃねぇの・・・知らんけど」
だから少しだけでも、『俺』は俺を信じてみたい。
*
翌日、俺達はまたしてもあの横文字の羅列を聞いていた。
「・・・どうやら、小さくまとまり過ぎていたようだね」
え、嘘、まとまってた?全然まとまっていなかった気がするんですが違うんですか?
「そうだね。じゃあ他の高校を誘うとか?」
「いいね。それなら、更なるシナジー効果を生み出してwin-winな関係を築けるかもしれない」
「それある!」
いやどこがあるんだよ。ちょっとー?ていうかあなたそれしか言ってませんよね昨日から。これは本格的にマズイ。これ以上規模が大きくなったら、完全に時間と予算が足らない。
「待て。そうなると、時間と予算的にも問題が出てくるから」
「ノーノー。ブレインストーミングはね、相手の意見を否定してはならないんだ。時間と予算が足らないなら、それをどう解決出来るかを話し合っていこうよ。だから、君の提案はダメだよ」
その割には俺の提案即否定ですかそうですか。
「他の高校となると、どこがある?」
なるほど、単純な否定は即潰される。つまり、案を否定するには、新たなる提案をしなければならない。
郷に入っては郷に従え。向こうのルールに従うなら、『When in Rome,do as the Romans do.』
「これは俺達のパートナーシップを鑑みた結論なんだが、このまま二校でやった方がお互いのシナジー効果と若いインスピレーションへの刺激となり、より高いプロモーションが完成されると思うんだが・・・どうだろうか」
どうだろうか。
「・・・グッド。つまり、若いインスピレーションである、小学生の子達をリコメンドすると・・・そういうことだね」
ダメかぁ〜。
「確かに、小学生の子達と触れ合うことで俺達のアイデアやビジョンは予想外の方向にいくことがあるもんね」
「僕もいい案だと思うよ」
あ・・・もう誰かを巻き込むのは確定事項なんですね。なんでこうも意識高い系っていうのは誰かとやることに拘りを持っているのだろうか。
「じゃあ、アポイントとネゴシエーションをこちらでやるとして、その後の対応を任せてもいいかな」
「・・・そうですね」
相変わらず笑顔で答える一色。
会議が終わり、昨日と同じように書類作成に取り掛かる。
すると、俺の携帯が鳴り出した。
「・・・悪い」
外に出て、電話に出る。
『はぁい、比企谷くん』
「・・・どうも。こっちは今仕事中なんですけど」
相手は魔王。ちなみに、俺の連絡帳の登録名も魔王。
『あ、それはごめーん。次からは気を付けるねー』
それ絶対に気を付けないやつじゃないですかー。
「で、用はなんですか?」
『んー?何してるのかなーって』
「仕事です」
『似合わないなー・・・それで、何の仕事してるの?』
「他校とクリスマスイベントを生徒会主体でやるんですよ」
『へぇ』
なんでそっちから訊いておいて興味無さそうな反応するんですかね。
「あの、もう戻りたいんで切ってもいいですか?」
『・・・じゃあ、最後に一つだけ』
「・・・」
彼女の言葉を聞き漏らさないように、携帯のスピーカー部分を少しだけ強く耳に押し当てた。こういう時の彼女の言葉は、大概核心を突くものだからだ。
『ちゃんと、頼るんだぞ』
それは、俺と彼女が決めた・・・或いは始めたことだった。