やはり俺の青春ラブコメの相手が魔王だなんて間違っている。   作:黒霧Rose

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第15話 魔王とは、世の責任を背負う存在である

 

「いろはなら、さっき抜けたよ」

 

放課後、コミュニティセンターに来たところ一色の姿がなかったのでサッカー部を覗きに来た。なんでアイツはそういう連絡をしてくれないんですかね。これじゃ二度手間じゃねぇか。

 

一色はもう向かっていたらしく、こちらに来た葉山と会話する。入れ違いになっちまった。

 

「生徒会、色々やっているんだろ」

 

「まぁな」

 

「比企谷が生徒会か・・・なにか、理由があるんだろう?」

 

「あったとしてもお前に言う理由がない」

 

「・・・それもそうか」

 

苦笑しながら葉山は答える。

 

「・・・お前達は・・・その」

 

「・・・ああ。まぁ、男子達なら特に問題は無いよ。そうそう荒立てる事でも無いしね・・・」

 

修学旅行の日以来、葉山達のグループは男子と女子で別れているような気配がある。表にはあまり出さないが、それでも以前とは違ったぎこちなさがあった。

 

「・・・まぁ・・・あの件は、何も出来んくて・・・悪かったな」

 

「・・・いや、構わない。遅かれ早かれ、綻びはどこかで生じるものだったからね」

 

「・・・ドライだな」

 

「君が思っているほど、俺は情に厚い奴でもないからな」

 

時折、葉山はこうやって諦めたような笑みを見せる。それが酷く歪で、どこか・・・あの人を思い出させる。

 

「・・・君は、いろはにも頼られているんだな」

 

「同じ生徒会ってだけだろ」

 

もしくは都合のいいように使われているだけだ。『先輩ひとりなら、扱い易いですしぃ〜』とか思ってそうだなマジで。

 

「それに、アイツが頼るとしたら俺じゃなくてお前だろ。知ってんなら手伝ってやれよ」

 

「別に、俺は頼られた訳じゃない。ただ何かやっていると匂わせてくるだけだよ」

 

アイツは相変わらずだな。

 

「君がいろはを助ける理由は・・・生徒会ってだけかい?」

 

・・・いちいち調子を狂わせてくる奴だ。

 

「・・・そうだろうな」

 

「・・・そうか。じゃあ、そういうことにしておくよ」

 

練習に戻って行く葉山の背中を見て・・・俺はどこか安心感にも似た感情を覚えた。

 

 

 

そして、この日の会議も相変わらずだった。

 

 

 

「どう計算しても予算が足りないんだけど・・・」

 

「内容を削るか規模を縮小する他ないだろ。どの道、次の会議で決を取るしかないわな」

 

PCの画面を本牧と確認しながら、計算を進めていく。駄目だ、このままやれば赤字が続くだけ・・・そうなると、イベント丸ごと吹っ飛ぶ事になる。

 

相互確証破壊って手も無いことは無いが・・・結局の所、アレだって最後の切り札みたいなもんだ。加えて、その話をしたところで海浜総合からは話し合いを勧められてそれで話が終わる。そうなると、決定打にならない。

 

・・・詰みだ。

 

「せんぱーい。小学生の子達、どうしますか?もう飾り作るの終わっちゃったみたいで」

 

忘れていた。昨日から、小学生が合流していたんだった。

 

その中には・・・鶴見留美も居た。

 

「ツリーは?」

 

「パーツと飾り一式は届いてるんですが、今作ると邪魔になりません?」

 

「センターと交渉してエントランスに置かせてもらおう。一週間前なら丁度いいだろ。当日、または前日にホールに運び込めばいいし」

 

「・・・ですね」

 

このやり方は最早アウトだ。庶務の俺が仕事の指示を出してしまっては、一色が生徒会長であるという自覚を失うことに繋がる。いくら前に進まないからと言って、手を出し過ぎだ。

 

一旦席を離れ、休憩をする。休憩と言っても、頭はやる事でいっぱいだ。この現状、一色の問題・・・そして、脳裏にチラつく奉仕部。

 

ふと、その子が目に入った。

 

「・・・上手いな」

 

一人で椅子に座りながら、彼女は・・・鶴見留美は、星の飾りを作っていた。

 

「・・・・・・こんなの、誰でも出来るでしょ」

 

どんだけ時差があんだよ。宇宙との交信かなんかか。ま、ちょっと生意気なのは変わってない、か。

 

彼女の隣に座って、俺も飾りを作る。あのままPCや書類とにらめっこしていても意味が無い。それどころか、何も進まない事に苛立ちを覚えそうになる。そうなるのだったら、目に見えて進行が分かるこういう作業の方が気休めになるだろう。

 

「他にすることないの?」

 

「無いんだなーこれが。なんなら、何も決まって無いまである」

 

「なにそれ、バッカみたい」

 

「ああ、本当に・・・」

 

 

馬鹿みたいだよな。

 

この現状も、みんなも、馬鹿みたいだよな。

 

 

何より・・・お前をそんな状況にした俺は・・・『俺』は・・・大馬鹿者野郎だ。

 

 

 

夜、ソファに寝転がりながら考える。

 

現時点で最大の問題点は、合同クリスマスイベントにある。あの場を俺一人で打倒することはほぼ不可能に近い。加えて、こちら側の全生徒会を動かしても効果はない。決定打に欠ける。

 

次点で、一色いろはが生徒会長としての自覚を持たなければならない。

 

そして、鶴見留美の現状がここに絡んでくる。『比企谷八幡』が出した解消法のせいで問題が起きているのなら、そこに更に干渉しなければならない。それは当然の義務としてそこにある。

 

 

そもそもの原因は生徒会選挙だ。

 

あの時、俺が意地になってでも『比企谷八幡』を俺に押し付けようとしていた理由はなんだ。

 

あの時、雪ノ下が生徒会長に出馬するという解決策に頷かなかった理由はなんだ。

 

あの時、それを雪ノ下に直接尋ねた理由はなんだ。

 

あの時、由比ヶ浜の制止を聞かなかった理由はなんだ。

 

 

あの時、どうして俺は俺のやり方を貫くことを選んだのか。

 

 

 

 

あの時、修学旅行での失敗を持ち出してまで雪ノ下を否定したのは何故だ。

 

 

 

葉山に同情した?

 

否。

 

戸部に同情した?

 

否。

 

あのグループに同情した?

 

否。

 

 

 

 

『助けたいと思うほどの大切な存在』

 

 

それが、雪ノ下雪乃だったからだ。

 

だから、彼女を否定した。

 

だから、彼女に頷かなかった。

 

だから、俺は『俺』を必死に取り繕うことを選んだ。

 

 

なら何故、俺は彼女を大切だと思った?

 

なら何故、俺は由比ヶ浜でさえも大切だと思っていた?

 

なら何故、俺は奉仕部の毒になってまで『比企谷八幡』で在り続けようとした?

 

なら何故、俺は由比ヶ浜のあの日の涙に心を動かされた?

 

 

なら何故、俺は奉仕部を離れるという決断をした?

 

なら何故、その結果を望んだ?

 

 

 

何故、その理由を求め続ける?

 

 

『欲しい物があるから、人は諦める。欲しい物があるから、人は追いかける』

 

 

『欲しい物があるから、理由を見つけようとする・・・そしてその理由が、人を大人にするんだよ』

 

 

そんな言葉が、浮かび上がって来た。

 

 

 

 

ならきっと、今もこうして俺が考え続けているのは・・・『その理由』が、分からなかったから。

 

 

 

 

 

翌日、俺はあの部屋の前に立っていた。今にも足がすくんでここで崩れ落ちてしまいそうだった。

 

しかし、それは出来ない。

 

ちゃんと考えて、ちゃんと決断をして、こうすると決めたのだから。

 

それが今だと、漸く分かったから。

 

扉をノックする。

 

「どうぞ」

 

中からはいつもと同じ、聞き慣れたあの声が聞こえて来る。

 

「・・・」

 

「・・・」

 

扉を開けると、中に居た二人は俺を見て行動を止めた。

 

「ヒッ、キー」

 

扉を閉め、俺は椅子のある所に歩き出す。

 

いつも座っている椅子ではなく、依頼人が座る椅子へ。

 

「・・・」

 

雪ノ下は俺を見た後、すぐに目を逸らした。

 

深呼吸をして、心を落ち着かせる。

 

「一つ、依頼がしたい」

 

俺の言葉に、雪ノ下と由比ヶ浜の目が見開く。

 

「今、生徒会でクリスマスイベントというのを海浜総合高校と合同でやっている。それが想像以上にやばくて・・・手伝ってもらいたい」

 

「・・・けれど」

 

「言いたいことは分かる。無論、由比ヶ浜が言いたいことも、なんとなく分かる」

 

由比ヶ浜はあの日、『奉仕部が好きだった』と言った。俺が自分で壊しておきながら、そこに依頼を持ち込むなんてあまりにも馬鹿げている。そんなの、分かりきっている。

 

「そこに、千葉村に居た鶴見留美も居て、相変わらずだ。俺の解消法でそうなったのなら、どうにかしたい。虫のいい話をしているのは分かっている。自分で『ここ』に亀裂を生み出した俺が依頼をするのもおかしいことだとも分かっている・・・だが、お願いしたい」

 

少しの沈黙が訪れる。鳴り響く時計の音は、刻々とこの沈黙の終わりを予兆させる。雪ノ下は顔を伏せ、由比ヶ浜は俺を見ている。

 

「あなたのせい、そう言いたいの?」

 

「奉仕部も含め、大体がそうだ。俺の責任だ」

 

「・・・そう。なら、そのクリスマスイベントも鶴見留美さんのことも、あなたがやるべき事よ・・・それに、奉仕部の事は・・・もういいわ」

 

あの日決別をした。

 

だから、こうなることは分かっていた。考えるまでもなく、こうなるだろうという事は知っていた。

 

 

「待って・・・そうじゃ、ない。そうじゃない、気がする」

 

 

再び訪れた沈黙を破ったのは、由比ヶ浜だった。彼女の声が、教室に響く。

 

「ヒッキーが奉仕部を離れて生徒会に入ったのだって何か理由があるんだって、本当は気付いていた・・・でも、あたしは・・・あたし達は、それに気付かない振りをして、ヒッキーを責めた」

 

その言葉に、再度雪ノ下の顔が俯く。

 

「あの修学旅行の日、あたし達は依頼を失敗した・・・心のどこかで、ヒッキーならどうにかしてくれるって・・・そう思ってた・・・そう押し付けてた・・・今までの依頼だってそう」

 

「いや、押し付けてたっていうのは違うだろ・・・」

 

そうだ。押し付けてたなんて、それは俺の方だ。俺が彼女達に、押し付け、そして自分自身にも押し付けていた。

 

 

『こういうやり方しか出来ないのが比企谷八幡』だという事を。

 

 

「違わないよ。だからきっと・・・ヒッキーが生徒会に入ったのだって、あたし達が理由なんでしょ?」

 

「それ、は・・・」

 

「・・・あたし、ずっと卑怯なんだ・・・それに・・・ゆきのんも、卑怯だよ」

 

「・・・今、それを言うのね」

 

伏せられていた雪ノ下の顔は由比ヶ浜に向けられている。

 

「待て、そういうことを」

 

「ゆきのん、全部ヒッキーのせいにして自分は被害者のままでいようとする所、ズルいと思う」

 

「・・・あなただってそうでしょう。私と比企谷くんに責任を押し付けて、自分だけは無関係でいようとする」

 

俺の声は由比ヶ浜と雪ノ下には届かず、二人は言葉を発する。

 

知らなかった。

 

俺が居ない所で、そんなことになっているなんて。

 

知らなかった。

 

俺が居たことで、こうなってしまっていたことを。

 

知らなかった。

 

 

二人に、こんな一面があるなんて。

 

 

「・・・いいんだ。奉仕部の事も、鶴見留美の事も・・・今までのことだって、責任は俺にある」

 

 

それを、今初めて見た。

 

 

二人の悪い所を、汚い所を、卑怯な所を、酷い所を、見た。

 

 

「違う・・・違うよ、ヒッキーだけの責任じゃ、ない、よ・・・」

 

 

なのに、なのに・・・なのにどうして・・・どうして俺は・・・失望していない。

 

 

 

どうして、お前達は・・・雪ノ下は、由比ヶ浜は・・・離れてくれなかったんだ。

 

 

俺の悪い所も、汚い所も、卑怯な所も、酷い所も、最低な所も、陰湿な所も・・・そういう負の部分を見せつけたのに・・・何故、離してくれない。

 

 

どうして、俺は・・・二人を諦めていないんだ。

 

 

「・・・雪ノ下」

 

「・・・」

 

雪ノ下の瞳は、少し濡れていて、様々な感情を伝えてくる。

 

「俺は、お前に・・・押し付けていた。雪ノ下なら間違わないって・・・雪ノ下は、正しいんだって・・・」

 

「・・・」

 

「・・・由比ヶ浜」

 

由比ヶ浜の目からは、涙が零れていて、あの日のように俺の心に落ちる。

 

「由比ヶ浜にも、押し付けてたんだ。由比ヶ浜は優しい奴だって・・・由比ヶ浜は、綺麗な子なんだって・・・」

 

すれ違っていたこの距離に、漸く気付いた気がする。

 

 

「・・・俺は、お前達をちゃんと見ようとも、してなかった・・・ただ勝手に押し付けて、それをお前達だって、思い込んでいたんだ」

 

 

気付けば、俺の目からも・・・涙が溢れていた。声だって変に上がり、嗚咽が漏れる。

 

 

 

「俺は・・・お前達をちゃんと知りたいと・・・思い上がっている。だから・・・雪ノ下を、由比ヶ浜を・・・知る理由が欲しい」

 

 

雪ノ下と由比ヶ浜が、分からない。

 

本当はどういう人なのか、分からない。

 

他にどんな一面があるのか、分からない。

 

人が、分からない。

 

今までなら、こんな事は思わなかった。どうして、この二人を知りたいと思ったのか・・・結局の所、その理由は今も分からない。

 

 

だからこそ、俺はその理由が欲しかった。そうやって、納得したい。そうやって、理解したい。そうやって、受け止めたい。そうやって、受け入れたい。

 

 

『比企谷八幡』に・・・教えたい。

 

 

 

『これ』がその理由だって・・・そう言って、

きちんと終わらせたい。

 

 

 

「俺は・・・お前達と、向き合いたい・・・その機会を・・・くれないか」

 

 

 

言うつもりのなかった言葉は、全部出ていた。

 

比企谷八幡が思っていたことを全て、口にしていた。

 

「・・・あの日」

 

嗚咽混じりの雪ノ下の声が、俺の耳に届く。

 

「あの日、私はあなたに『あなたのその在り方、嫌いだわ』と、そう言ったわよね」

 

「ああ、覚えている」

 

忘れもしない。決して、忘れる事など出来ない言葉だ。

 

「全部、自分一人でやって・・・その責任を、その結果をあなた一人で背負って・・・それで、全てが丸く収まったと思っている・・・そういうあなたの在り方に、私は酷い嫌悪感を覚えた」

 

予想外の告白だった。雪ノ下が、そう思っていたことなんて・・・俺は全く予想していなかった。

 

「でも、知らず知らずの内にそれに甘えて、あなたに責任を、それが『比企谷八幡』だって、押し付けていたの・・・だから、本当に糾弾されるべきなのは、私の方、なのね」

 

「・・・違うよ、ゆきのん。あたしにも責任があるの。ヒッキーとゆきのんに全部押し付けて、あたしは、ずっと・・・何もして来なかった。一番卑怯なのは、あたしなの」

 

そう言って、由比ヶ浜は雪ノ下のことを抱き締めた。

 

 

誰しもが、責任を求めた。

 

誰しもが、責任は自分にあると言った。

 

 

分かっている。

 

 

責任というものが、そんな簡単なものじゃないということくらい。

 

そんな言葉一つで変わるものでもなければ、そんな言葉一つで所在がハッキリするものでもない。

 

 

「けれど、比企谷くん・・・私は・・・私達は、少なくとも、今のあなたを知った・・・知っている・・・・・・あなたの依頼を・・・受けるわ」

 

「あたしも、手伝う」

 

 

 

『自分に責任がある』なんて言葉・・・俺達みたいな子供では重くて、重くて・・・一人じゃ背負いきれない。

 

 

「・・・助かる」

 

 

でも・・・もし、もしも、その責任でさえも背負いたいと思えるような関係性があるのなら・・・俺は、それを求める理由をいつまでも探し続けたい。

 

 

 


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