やはり俺の青春ラブコメの相手が魔王だなんて間違っている。 作:黒霧Rose
『それで、どうしたの?』
学校から帰って来て、俺はソファに体を投げ込みそこで悶えていた。羞恥と哀愁と、多分憐憫のような何かに心を苛まれながらゴロゴロとしていた所、電話がかかってきた。
「まぁ・・・はい。端的に言うと、死にたいです」
それはもうシンプルな回答を言った。
そう、俺は今・・・絶賛死にたいのである。
どうして俺はあんなにも恥ずかしいことを言ったのだ。馬鹿か!?馬鹿じゃねぇの!?ばーかばーか・・・もう、死んじまえ。
『全く伝わらないから、ちゃんと説明しなさい』
「・・・はい」
スマホの向こう側から聞こえる魔王の声に、なんとか意識を保ち今日あったことを伝える。
無論、俺の恥ずかしい発言は切り取った上で顛末のみを伝える。この人にまで知られたら、完全なる黒歴史確定だ。ただでさえ限界だというのに。
『なるほどね・・・大体は分かった』
「そういうわけ、です」
『そうだねぇ・・・私の言葉の意図を読んで、奉仕部に頼ったのは偉い』
まぁ、そういう話でしたし。
『ただね、比企谷くん』
幾らか低いトーンがスピーカーから鳴り響く。冷えているその声音は、いつかの雪ノ下のそれよりも酷く俺の背中に、何か心地の悪いものを走らせる。
『頼れ、とは確かに言ったけど・・・繋ぎ止めろなんて、私は一言も言ってないよ』
「・・・」
『頼る時は相手を間違わないこと、そして魅力あるメリットを提示すること。それは前に聞いたよね?』
思い出すのは、文化祭での舞台袖であった雪ノ下と彼女の会話。あの日、彼女は雪ノ下の交渉に乗らなかった。
『相手は間違えてないし、もちろんそのメリットがこれから発揮されると思う・・・けどね、それをも凌駕するデメリットがあるのなら、それはもう失敗なんだよ』
何時だかの言葉を思い出す。その言葉は、確かこうだった。
『私があの文化祭の日に雪乃ちゃんの提案を断ったのはね、他に興味があったからだけじゃないよ。その興味も、メリットも、それら全てを殺す程のデメリットがあったから』
彼女のその言葉は、俺も理解していた所だった。否、その後になってそれが明確になっていた。
「・・・分かってます。そこの所は、ちゃんとするつもりです」
『当然だよ。その為に君は生徒会に入ったんでしょ?・・・全く、ギリギリのグレーゾーンを攻めてどうするの』
「・・・予想外の事態になってしまいまして」
本当だよ?本当に、あんな事を言うつもりは無かった。
思い出すのは、数時間前の光景。
ぐ、ぐおおぉぉぉぉ・・・死にたい。恥ずかしくて死にそうだ。頭を抱えて再びソファで蹲る。うう・・・また泣きそう。
『・・・まぁ、それは後々どうなるかって所かな』
「そう言って貰えると助かります」
『はぁ』
呆れたような溜息が聞こえてくる。止めて、そんな溜息を聞かせないで。色々限界だから。
『・・・そうまでして、予想外の事態になってでしか繋ぎ止められない・・・比企谷くんが欲したものは、そういうものなの?』
時間が、止まった。
もちろん比喩だ。時間は流れ続けており、部屋の時計はその秒針の音を鳴らし、時間の進みを教えてくれている。
だが、時間が止まったという比喩を用いなければならない程に、俺の思考は止まっていた。
彼女から発せられたその言葉は、そういう類いのものだった。
「・・・そうなります、ね」
辛うじて出た言葉、こんな陳腐なものだけだった。一切の弁明も無ければ、補正すらない。補完も、補填も、何も無い。ただの一言、肯定でしかなかった。
『・・・じゃあそれはきっと、すれ違いの中で初めて気付くものなんだろうね』
思い当たる節があった。奉仕部の二人とすれ違っていたあの距離。あの距離があったからこそ、俺はあんな事を言ったのだ。すれ違いがなければ、俺はその事にすら気付いていなかったのだろう。
『ま、これ以上その関係性が歪まないようにするんだぞ』
ならば、俺が欲した『その理由』とは一体、どれほど道を違えれば見つかるのだろうか。
*
「覚悟しとけよ」
雪ノ下と由比ヶ浜を連れ、俺達はコミュニティセンターに来ていた。
今日からは彼女達にも会議に参加してもらう。その事については一色にメールで確認を取ってもらっているので問題は無いのだが・・・問題が無いのは寧ろその点だけなのである。問題はあるのにそれ以外が無いとかマジで最悪だなこの状況。
扉を開けると、玉縄が挨拶をしてくる。
残念ながら、二人はそれを無視して用意した椅子に座る。
なんなら、今回の会議も特筆すべきものは無かった。
会議(?)が終わり、エントランスにあるベンチに座ると雪ノ下は溜息を吐いた。
「想像以上ね・・・聞いているだけで苛立ちとストレスを感じるわ」
同感です。俺達生徒会、本当によく耐えているもんだと思う。
「どうしよっか」
「・・・分からん」
由比ヶ浜の困ったような問いに、同じような意味を込めて返す。話にならない以上、どうすればいいのか分からん。
「とりあえず、出来ることをしよう」
頷きを返すと、俺は再び会議室に戻り書類作成に取り掛かった。
*
「・・・諦め切れなかった、か」
翌日、一色を含めた俺達四人は平塚先生の所に来ていた。何も進展がない以上、大人に相談してみるという結論に至ったからだ。
そんな言葉で迎えられた俺達・・・俺は、苦虫を噛み潰したような顔で目を逸らすしか無かった。確かに、この様子を見ればそういう事になる。
「・・・元来、諦めは悪い質でして」
「・・・なら、仕方ないな。それで、相談とは何かね」
とりあえず、現状の問題点の中で一番大きなもの・・・即ち、予算についてを相談していた。
「なるほど・・・君達はクリスマスの何たるかを分かっていないな」
いやなんでそういう話になるんですかね。少しくらい知ってますよ?例えば、イエス・キリストの生誕を祝う日とか。因みに、誕生日ではなく、生誕を祝う日なのだ。これは同じように見えて実は大きく違っていたりする。
「じゃじゃーん!これだー!」
突飛なテンションで彼女から出されたのは、チケットのようなものが四枚。よく見ると、デスティニーランドと書かれている。デスティニーランドとは、千葉県にある最大のテーマパークだ。パンダのパンさんが居たりする。
「どうしたんですか?これ」
「結婚式の二次会で当ててな・・・二回。『一人で二回行けるね!』と言われたよ・・・それも二回」
ちょっと、なんてこと言うんですか。この人なら一人で四回行った挙句、楽しくなっちゃって五回目を自腹で行くに決まってるでしょ。下手すると、六回目辺りに陽乃さんがそれを聞きつけて俺も強制連行されちゃうまである。想像するだけでカオスな状態だ・・・。
「これをやるから少し勉強してきたまえ。息抜きにもなるだ」
「いいんですか!?ありがとうございまーす」
平塚先生が言葉を言い終える前に、一色は彼女の手からチケットを取った。一色さん、あなたそれ失礼ですよ、大丈夫ですか?
「なんでこんなクソ混んでる時期に」
クリスマスにデスティニーとか定番過ぎて激混みだろ。人混みとか苦手なんで勘弁して貰えませんかね。
「いいじゃーん。行こうよー」
ああ、これはもう雪ノ下さんったら由比ヶ浜に押し切られるパターンに入りましたね。
「比企谷」
小声で平塚先生に呼ばれる。
「なんですか」
彼女達に聞こえないように、少し離れる。
「君が彼女達を繋ぎ止めた理由、分かるか?」
「・・・・・・それは・・・今、見つけているところです」
「・・・そうか。じゃあ、もっと考えないといけないな。そうして色んなものを消していって、色んなものを手放して、色々なものが必要無かった事に気付く・・・そういう日が、きっと来る」
横暴だ、とは口にしなかった。そんな未来が、いつかは来るのかもしれない。そんな、ある種の希望的観測が本当に当たる日が来るのかもしれない。
この無数にあるであろうガラクタを、全て捨てる日が。
「だからそれまでは・・・諦めの悪いままの、子供で居てくれ」
彼女の願いのような吐露が、俺の胸に強く残った。
*
デスティニーランドに行く日、彼女はそこに居た。予想していなかった。予想など出来なかった。彼女が、この人がこの日、この集合場所に来るなんて考えもしなかった。来るはずがないと、完全に切り捨てていた。
この人なら、こういう時に必ずと言っていい程に現れていたのにも関わらず。
「ひゃっはろー。今日は、みんな楽しもうね」
魔王・・・雪ノ下陽乃が、そこに居た。