やはり俺の青春ラブコメの相手が魔王だなんて間違っている。   作:黒霧Rose

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第17話 魔王とは、導きに背く者である

 

 

「この前の件で、陽さん先輩にはお世話になったので呼んでみました」

 

集合場所にいた一色は、困惑する俺たちに向かってそんな説明をした。思い出すのは数日前のこと。一色は、彼女の言葉を聞いて生徒会長になることを決意した。

 

「って言っても、私は私で年パス持っているからそのチケットは貰ってないんだけどね・・・でも、母校の後輩に誘われちゃったんだから来るしかないよね」

 

俺に向かってウインクをしてくる彼女。なんですかその胡散臭さ全開のウインクは・・・ちょっと心を掴まれそうになってしまったじゃないか。勿論、恐怖という意味合いでなのだが。

 

「・・・で、なんでそっちの奴らも居るんだよ」

 

雪ノ下さんから少し離れところに、葉山たち御一行が居た。葉山は雪ノ下さんを見て、少し複雑な表情をしている。分かるよその気持ち。この人が居ると絶対にロクなことにならないもんね。

 

まぁ恐らく、雪ノ下さんに使うはずだったチケットが余ってしまったので葉山を呼んだのだろう。問題があるとすれば・・・彼らのグループが現在その形を崩しつつある、と言ったところだろう。クソ混んでいる時期のデスティニーで億劫だというのに、その上このグループの雰囲気に当てられるのは非常に居た堪れないんですけど。

 

「あたしも板挟みなんだよー。うがー」

 

そんな雑な説明されても何が何だかサッパリ分からないんですよ由比ヶ浜さん。まぁ、ともかく、お疲れとだけ心の中で思っておこう。

 

 

 

デスティニーランドの入場ゲートをくぐると、写真撮影だとか言って中央のクリスマスツリーを模したオブジェの方へと全員走って行った。

 

「じゃ、私が写真撮るね」

 

雪ノ下さんはカメラを取り出すと、全員にそのレンズを向けた。流石は雪ノ下さん。こういった時でも『気を遣えます』という外面を決して崩さない。表情の上では楽しそうに見えるのだから本当に恐ろしい。

 

「比企谷くんも入りなよ」

 

「いや、いいっすよ」

 

「まぁまぁそんな事言わないで」

 

彼女の笑顔に圧され、皆とは少し離れた位置に立つ。

 

「比企谷くん、見切れてる」

 

カメラのデータを見ると、俺は半分程しか写っていなかった。これじゃ完全に巻き込まれた他人同然じゃないですか。別になんも言わないけどさ。

 

その後も写真撮影は続き、かくいう俺は近くにあった建物に背を預け、彼らを見ていた。

 

奉仕部も、葉山グループも、一色も、そして雪ノ下さんでさえも、違和感がある。この状況を楽しんでいるというのがとても伝わってくる。だが、それがどこかポーズのような気がしてならないのだ。取り繕って、上辺だけで、欺瞞に満ちているかのような、そんな光景としか受け止められない。

 

「比企谷」

 

「あん?」

 

カシャ

 

葉山に名前を呼ばれ、声の方を向くとシャッターを切る音が聞こえた。そして、いつの間にか近付いていた雪ノ下さんが隣に居た。

 

「ありがと、隼人」

 

「構わないよ。はい、カメラ」

 

「ん。比企谷くん、ちゃんと楽しむんだぞ!お姉さんをガッカリさせないでね」

 

勝手な事を言うな。

 

「なんであの人とのツーショットなんか撮ってんだよ」

 

「陽乃さんに頼まれたからさ。断れると思うかい?」

 

苦笑しながら問いかけてくる葉山は、少し可哀想だった。

 

「・・・悪いことを言った」

 

「分かってくれて助かるよ」

 

なにこのちょっといい感じですよな雰囲気。俺とお前って別に親しい間柄じゃないですよね?ちょっと旧知の仲かと勘違いしちゃうところだったよ。やだ葉山、恐ろしい男。

 

「キマシタワー!!」

 

言わんこっちゃない。

 

 

 

 

「ヒキタニくん・・・これ、どう思う」

 

アトラクションに並んでいると、海老名さんが話しかけて来る。彼女の言う『これ』というものが具体的に何を指すのか、そんなのは考えるまでもない。

 

「・・・さぁな。先送りにして来た問題が現在進行形になっているだけだろ」

 

「・・・ヒキタニくんのそういうドライな所、私は好きだよ」

 

「・・・」

 

やりにくい。海老名さんと話すのはどこか苦手だ。眼鏡のレンズの奥にある瞳は、時折あの人を彷彿とさせるような黒さを見せる。どこか俯瞰して、諦観している所でさえ、重なってしまう程に。

 

「私に原因がある・・・なんて言ったら、君はなんて言ってくれる?」

 

その問いかけに、意味はあるのだろうか。過ぎ去った出来事への罪の呵責を俺に懺悔したところで、そこに答えはあるのだろうか。彼女は、何を求めてそのような事を言ったのだろうか。

 

それでも、もし何か言う事があるとするのならばそれは・・・。

 

 

「何も言わせないよ」

 

 

その言葉は、全くの予想外の方向からだった。

 

「比企谷くんからあなたに言わせる事なんて、何も無いよ」

 

俺の隣に居た彼女はその沈黙を破った。冷徹な声音は、拒絶に近しいものを感じる。

 

ならばこれは・・・同族嫌悪のようなものなのか。

 

「だって、比企谷くんには関係の無いことでしょ。違う?」

 

「・・・それ、私の求めていた言葉そのものですよ」

 

「あら、それは気の毒に」

 

海老名さんは俺達に取り繕ったかのような笑みを向けると、前に居る葉山や戸部の方へと向かった。

 

その行動は、まるで葉山グループを彼女そのものが繋ぎ止めようとしていることを表していた。

 

何が彼女にその切っ掛けを与えたのかは分からない。何が彼女を動かしたのかは分からない。何をもってして、彼女がその結論を出したのかは分からない。

 

ただ、彼女はきっと、無関心を向けられていたいのだろうということ・・・それだけは分かった。

 

 

 

一色はアトラクションでダウン。雪ノ下は人混みにあてられたとか言ってダウン。

 

俺は色々積み重なってダウン。

 

ふぇぇ、状況が最悪だよぅ。

 

「お姉さんが一番はしゃいでるっていうのはちょっと恥ずかしいな〜。ほらほらー雪乃ちゃんももっと盛り上がろうよ」

 

「姉さん、待って。今は、少し、休ませ」

 

「次はパンさんのバンブーファイトに行こうかと思ってるんだよね〜」

 

「行きましょう。事は急を要するわ」

 

「その意気だ!」

 

雪ノ下の扱い上手いですねホント。ていうか、俺達は何を見せられているんでしょうかね。お前ら絶対仲良いだろ。熟年コントを見せられているような気分になって来たんだが。

 

一旦葉山達とは別行動となり、俺達4人だけでパンさんのバンブーファイトに来ていた。

 

「それでは、レッツゴー」

 

係員の声で、乗り物が出発する。

 

上を見ると、無数のパンさんが戦いを繰り広げている。

 

「わぁ」

 

「おお、壮観だね」

 

「こりゃすげぇな」

 

「静かに」

 

いや最後の違くない?なんで私語厳禁の命令が今下ったんですかね。雪ノ下さんなんて肩震わせて笑いこらえてますよ。

 

アトラクションが終わるとそのまま売店に入り、パンさんグッズを見る。流石は雪ノ下、もうぬいぐるみを見続けている。どんな集中力してんだよ。そんなに惹かれますかねこの子に。

 

よく分からんが、小町へのクリスマスプレゼントとして俺はそのぬいぐるみをレジへと運んだ。

 

 

 

「こりゃ乗っちまった方が早いな」

 

「・・・そうなる、わね・・・」

 

パレードのため通路が区切られた事で、俺と雪ノ下は2人になってしまった。体力のないコイツと、人の後ろを歩く事で有名な俺達は別行動を余儀なくされていたのだ。

 

それで、出口が区切られた向こう側にあるこのアトラクションを選んだ。名前は忘れたが、ボートで川を降るジェットコースターのようなものだ。

 

「お前、こういうの苦手?」

 

「苦手というわけでは」

 

「いや、別に意地張るような事でも」

 

「大丈夫だから。由比ヶ浜さんと一緒の時は大丈夫だったのだから・・・多分、大丈夫よ」

 

何か、少し引っ掛かりを覚えた。彼女のその言葉はそういった違和感を抱かせた。

 

あの日、俺とあの人が始めた事。この言葉は、それを如実に表しているような気がする。

 

列が進み、俺達はボートに乗り込んだ。

 

「・・・昔、姉さんがちょっかいを出して来て、少し苦手になったの」

 

「またあの人かよ」

 

そしてすぐに想像出来る辺りが彼女らしい。嬉々として雪ノ下に色々やったんだろうなぁ。

 

「だから、今日もそうだと思っていたのだけれど・・・姉さんはもう、私に興味を無くしてしまったのかしら」

 

「・・・どうだろうな」

 

どういった真実であれ、それを俺が言うのは違う。彼女のその疑問の答えを、俺は少なからず知っている。

 

だがそれは俺が伝えることでもなければ、今言うべきことでも無い。

 

「・・・あなたは、また何かを抱えているのね」

 

「・・・まさか。んな事ねぇよ」

 

「いつもそう。自分一人で何もかも背負おうとして・・・」

 

目を先に向ければ、外の景色が見えていた。

 

この洞窟も終わり、後は落ちるだけだ。

 

流れに沿って、落ちて、ボートから降りて、それで終わりなのだ。

 

それがどこか悲しくて、どこか虚しく思えてしまった。自分で行き先を決める事が出来ず、ただその時を待つだけ。

 

 

「ねぇ比企谷くん」

 

 

隣の彼女に掴まれた袖は、確かに重みを感じた。少ない力で、少しの面積しか触られていないのにも関わらず、その手は何かを伝えていた。

 

 

 

 

 

 

「いつか・・・あなたを助けさせてね」

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間、全ての音は消え・・・落ちて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 


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