やはり俺の青春ラブコメの相手が魔王だなんて間違っている。   作:黒霧Rose

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第20話 魔王とは、世界に確かな波紋を広げる者である

 

「今年の卒業式後の謝恩会で、プロムを行います!」

 

はて、目の前に居るこのあざと生徒会長こと一色いろはは何を言っているのだろうか。

 

『プロム』と、彼女はそう口にした。あれだろ。あのなんか踊ってクイーンだかなんだかを決めるやつ。全然分かっていないがとにかく俺達非リアには縁のない代物だ。達って付けたのは一応だからな、一応。俺がぼっちとかこの際関係ないからね?

 

「あの・・・会長。本気、ですか?」

 

「はい!本気です!」

 

「・・・そ、そうですか」

 

副委員長撃墜。副委員長が折れて、会長がやると決めたらもうそれは決定事項・・・なるほど、生徒会は中々にブラックな環境だ。特に、俺のような庶務には発言権がそもそも無かったりするのだ。

 

「・・・スケジュール的には間に合うのか?」

 

ともあれ、開催の有無についてあーだこーだ言うのは時間の無駄だ。なら、実行する前提で話を進めた方がいい。可能な限り労力は使いたくない。

 

「だから今言ってるんですよー!」

 

なんですかその、『んな事も分かんねぇのかよ』みたいなニュアンスを含んだ言い方。一応これでも先輩なんだよ?立場は一番下だけど。なんなら他の場所でも常にカーストは最下位だったりするがな。

 

「予算は生徒会のを使うので問題は無しですね。使えるものは使って、それで来年も同じ額かそれ以上のを要求するダシにしましょう〜」

 

おっかな。いろはすマジでおっかないよ。抜け目無いどころか強か過ぎるよ。

 

「という訳で、企画書の作成をして学校と保護者会に話を通しましょー!」

 

そんなこんなで、高校2年生最後の学期はそんな面倒な仕事で納めることになった。

 

 

 

一色の発言から一週間が過ぎ、プロムは現実のものとなった。いやすげぇよ。何がすごいって俺たちの働き具合。マジで地獄のような仕事だった。もう書類と睨めっこするのは勘弁でござる〜という感じだ。

 

体育館に集まった俺たちは、飾り付けを始める。中学時代とか、文化祭をやる度に飾り付け係をやっていたことを思い出す。一番目立たないしなんなら殆ど押し付けられていたけど、まぁ俺としては楽だったので大満足。怪我の功名というやつか違いますか。

 

生徒会の人員だけではもちろん足りないので、サッカー部の1年生が助っ人として来ている。流石はマネージャーいろはす。使えるものは使うとは正にこのこと。いいっすね、手札がいっぱいあるって。

 

飾り付けを進めていると、照明を落とすとのアナウンス。

 

ステージにライトが集中し、そこにドレスを着た一色と男装をした女子生徒が現れる。

 

プロムの具体的な内容を動画に撮り、それをSNSで発信する。全校生徒に一気に知らせるにはこれが早いし確実だ。現代に適した方法をとる辺り、流石は女子高生。

 

 

飾り付けなどが終わり、生徒会メンバーのみが体育館に残る。

 

 

「さて、現状をブラッシュアップしていきましょう。何か気になった点がある人は居ますか?」

 

それは海浜の方々が混じってませんか大丈夫ですか?

 

「とりあえず、人員、予算、スケジュール、ステージの方は問題無いと思うよ」

 

「ですね!」

 

副委員長、いつも一色の陰に隠れてしまうが素晴らしい程に優秀。

 

「となると、当日の進行や照明、BGMなどの裏方の方にかかってくると思う」

 

「そうですね。そこの割り振りはある程度まとまっているとして、後は楽曲の選出と機材の調整、当日の卒業生や在校生の差をどう付けていくかも課題になります。服装のみだとどうしても弱い気がしてきますからね」

 

いやもうこれ2人でいいんじゃないの?会長と副委員長が優秀過ぎて俺たちいらないような気がしてならないんだけど。

 

「先輩からは何かありますか?」

 

と、ここで俺の方にパスが来る。

 

「・・・ま、当日の事は予測とこちらの進行でどうにかするとして・・・問題は前提となる全校生徒の参加意欲がどうか、だな」

 

「・・・そうなりますね。卒業生含め、意欲が掻き立てられなければ開催した所で・・・という事になりますからね」

 

言ったところでどうしようも無いことだが、結局のところはそこにかかっている。勿論のことだが、俺も生徒会側でなければプロムなどやる気にならん。こういった手合いは何人も居る。ましてや、それは分母が多くなるに連れて分子の数も多くなる。

 

「そのためのSNS、か」

 

「はい。それが上手く効いてくれれば、という感じになりますね」

 

「・・・後はPRを進めつつ当日を迎えるしかないか」

 

「ですね」

 

 

さて、プロムはどうなる事やら。

 

 

 

 

 

翌日、企画書を引っ張り出し新たな計画案として書類作成に入る。書類はもう嫌だと思ったのに結局この始末。仕事とは、紙と文字との睨めっこである。これ名言じゃね?

 

とりあえず、昨日出た幾つかの課題をまとめてそこに対するカウンターを書き留めていく。当日の進行が主に重い。

 

それでもやるのが社畜根性旺盛な俺こと比企谷八幡。今日も嫌々ながら、頑張ります。

 

 

 

 

「大変です!」

 

 

 

 

大声と共に生徒会室に入ってきた一色。

 

「・・・どうした?」

 

声をかけてみると、一色は呼吸を整えてこちらを焦った表情で見る。恐らく、ここまで走って来たのだろう。

 

つまり、事は急を要すかもしれない。

 

 

 

 

「プロムが・・・中止になるかもしれません」

 

 

 

 

 

 

とても、嫌な話だった。

 

参加意欲など無いと言った俺でさえ、素直に嫌な話だと思う程だった。

 

端的に言えば、保護者会の寝返り。

 

一度は許可を出したというのにも関わらず、ここに来てプロム実行を中止する呼び掛けをしてきた。

 

「どうしましょう・・・か」

 

一色はポツリと呟く。無理もない、ここまで順調に進めてきたというのに、ここに来て最悪の展開。それも彼女は実行を代表する生徒会長にして、プロムの提案者。

 

「・・・平塚先生が言うには、学校側は開催の方向で動くことを決めている。現状、プロム開催に反対をしているのは保護者会のみだ」

 

「・・・はい」

 

「つまり学校側からしてみれば、俺達が開催の計画を練り続ける事自体は問題ではないということになる」

 

だが、ここで厄介な問題が挟まってくる。

 

 

そう・・・今日乗り込んできたのが、雪ノ下の母親と雪ノ下陽乃という点だ。

 

 

最強最悪の敵、とでも言えばいいのだろうか。ハッキリ言って、あの2人を論法で負かすことは不可能だ。

 

つまり彼女達を打倒するのではなく、彼女達の先にある保護者会の賛成多数が必要だ。

 

 

では、その為にはどうするか。

 

 

 

「・・・なら、やる事は決まっている」

 

「どうするんです、か」

 

「やる事は変わらん。問題を出して、それに対するカウンターを出して、さらに赤ペンをつけ、より強固な案にする。それ以外に、プロムを開催する術はない」

 

納得をさせるしかない。それなら大丈夫だねと、そう保護者会に言わせる他ない。

 

「・・・・・・いつになくやる気ですね、先輩」

 

「・・・まぁな」

 

 

一色には謝っておくが、これは決してプロムのためではない。俺のためだ。

 

 

雪ノ下陽乃さんが作ってくれたこのチャンスを、逃す訳にはいかない。

 

 

 

 

 

放課後、生徒会室に籠り、俺は書類を作成し続ける。時刻はもう既に下校時刻も回った。学校に居るのは俺と教員数名。何とか許可を取り、最後の先生が帰宅するまでは居られるようにしてもらった。

 

保護者会が問題視しているのはどこか、それを解決、或いは解消するにはどうするか、それをただ延々と繰り返し考えてはホワイトボードと書類に書き写す。

 

「・・・クソ」

 

どうすればいい。どうやって納得させる。プロムそのものが問題視されている以上、これが悪あがきだということは分かっている、分かりきっている。

 

 

それでも、やるしかない。

 

 

俺は、そうするしかない。

 

 

 

俺には、もうそれしか残っていないのだから。

 

 

 

 

 

「・・・・・・まだやってたんですね、先輩」

 

 

 

 

 

「・・・一色」

 

ドアが開いたと思ったら、そこには一色が居た。

 

「帰ろうとはしたんですけど、途中で引き返して来ました。なんだか、先輩が残っているような気がして」

 

「・・・」

 

見抜かれていらっしゃる。

 

「まったく、そういうのはちゃんと私に許可を取って下さい。仮にもここの責任者は私なんですから」

 

「あ、ああ。悪い」

 

「それとも、私はそんなに頼りないですか?」

 

いつもの明るい声音とは違う、低いトーン。あざとさの欠片もない、一色いろは。それは、彼女の心の底からの問いであったことを意味している。

 

「いや、そんなことは」

 

「私よりも、奉仕部の2人の方が頼りになりますか?」

 

「・・・な」

 

「ずっと考えていたんです。私は雪ノ下先輩のようにちゃんと出来ているか、私は結衣先輩のようにちゃんと周りを見れているか」

 

なんで、ここであの2人の事が出てくるのだろうか。今はもう関係ないはずなのに。何故、何故、一色は雪ノ下と由比ヶ浜の話をする。何故、その2人を引き合いに出す。

 

「結局、私は出来ませんでした。私は私で、誰かのようにはなれなかったんです」

 

彼女のその告白は、彼女の今までを言ってるようだった。あざとさを纏い、まるで誰かさん達のように『こうあるべき』という自分を押し付けて来た、今までを。

 

「だから私は・・・今日、2人を頼ったんです。助けて下さい、って」

 

「・・・いや、これは、俺達生徒会のやるべき事であって、アイツらを巻き込むような事じゃ」

 

そうだ。これは俺達生徒会が請け負ったことであり、始めた事だ。問題が起きたからといってそれで直ぐに頼るというのはあまりにも虫が良すぎる。俺達の問題は俺達でやるべきであって、それは人を巻き込むこではないはずだ。

 

 

「いつまで、その意地を張ってるつもりなんですか」

 

 

その言葉は、俺の胸に強い衝撃を与えた。

 

 

「先輩があの日、奉仕部の2人を知りたいと、その理由が欲しいと言ったのは、そんなつまらない意地を張るための誤魔化しなんですか?」

 

 

「・・・どうして、お前がそれを」

 

それはあのクリスマスイベントの際、アイツらに言った言葉だった。今まで押し付けていた2人ではなく、本当の意味で2人を知りたい。そして、その理由が欲しい、機会が欲しいと。

 

「生徒会選挙の時、先輩があのやり方を貫こうとした理由が今なら分かる気がします」

 

応援演説での失敗を俺が行うことで、『ヒキタニ』を俺に押し付けようとしていたあの依頼。彼女は、その事を言っている。

 

 

「先輩はきっと、見つけてもらいたかったんじゃないですか?」

 

 

「・・・」

 

 

図星だった。

 

それは、俺が触れられてほしくない、弱さだった。

 

押し付けの上で成り立つ『比企谷八幡』ではなく、比企谷八幡を見つけてほしかった。誰かに、見てほしかった。認めて、ほしかった。

 

 

雪ノ下さんとの会話では、決して触れられることの無い、お互いの本音。

 

 

お互いの、弱音。

 

 

 

それは、こんなにも簡単に、それも、年下の女の子に・・・看破されてしまった。

 

 

 

 

「自分を知って欲しい、見つけて欲しい・・・だから、2人を知りたいと思った。そういう関係を望んだから」

 

 

「・・・」

 

 

 

 

この意地は、なんの為に張っているのか。

 

俺が今、奉仕部の2人と完全に離れ、それをチャンスと受け取ったのはなんの為か。

 

 

 

それはきっと、『比企谷八幡』を守り、比企谷八幡を護るためだ。

 

 

 

ならば、もう終わりにしなければならない。

 

彼女と共に在る事を拒んだ俺は、そうしなければならない義務がある、責務がある。

 

その責任がある。

 

 

 

彼女は、『比企谷八幡』を終わらせようとしてくれていた。

 

 

 

そんなことに、今ようやく気付けた。

 

それが、とても情けなくて、とても悔しくて・・・・・・少しだけ、嬉しい。

 

 

 

だから、俺はその責任をとらなければならない。

 

 

そうさせた責任と、そうしてくれたお礼を。

 

 

「だから」

 

 

「一色・・・もういい」

 

「・・・せん、ぱい」

 

 

そこから先は、まだだ。それはきちんと、俺の口から言う。

 

 

「・・・一色は、強い奴なんだな」

 

ふっ、と心からの笑みが出た。

 

 

「・・・もちろんです!この学校で最強だから、生徒会長という最強の権利を与えられたんですよ」

 

 

いつか彼女が言っていた言葉と、重なるようなセリフを口にした彼女のその笑みは・・・やはり彼女と、あの魔王とよく似ていた。

 

 

 

 

ああ本当に、俺はこういった手合いに弱い。

 

 

 

 

 

 

 

『魔王とは、世界に確かな波紋を広げる者である』

 

 

 

 

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