やはり俺の青春ラブコメの相手が魔王だなんて間違っている。   作:黒霧Rose

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第23話 魔王とは、祭り上げられた偶像に自らを歪めるものである

 

『私と共に在りなさい』

 

その言葉を何度も聞いた。

 

『在る』とは即ち、存在を表す。

 

俺は最初、その言葉を誤解していた。俺はてっきり、その言葉を『一緒に居なさい』という意味だと思っていた。誰だって最初はそう思うはずだろう。言い方が悪いので彼女が悪いと言わざるを得ない。

 

まぁ責任転嫁はこの辺にしておいて、本題に入ろう。

 

要は、この言葉の真意は『一緒に居る』ことを強制するものではなかったということだ。

 

強いて言うなら、『在り方』の矯正。

 

『一緒に居なさい』ではなく、『一緒で在りなさい』と言ったところだろうか。

 

 

 

さて、ここで問題です。

 

一人の少女が、『私と同じであって』と言いました。少女は完璧で、不得意を見せず、万人から愛され、とても賢く、それでいて周囲の目線を独り占めするほど美しいです。

 

それなのに、彼女はどうしてそんなことを言ったのでしょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

答え・・・自分を否定したかったから。

 

 

 

 

「私を呼び出すなんて、どういうつもり?」

 

雪ノ下さんを呼び出し、俺と雪ノ下はカフェに来ていた。由比ヶ浜は俺たちのダミープロムを現実性のあるものにするため、写真撮影や海浜総合との打ち合わせに行ってもらっている。役割分担は大事だ。特に、俺なんかが向こうに行くと生徒会としての立場や前回のこととかなんかで面倒なことになるのだ。ははは、その節は本当に迷惑かけましたね。

 

「私の隣に居るこの男がどうしても姉さんと話したいらしいわ」

 

「へぇ・・・」

 

目を細くさせ、俺と雪ノ下を交互に見る。

 

違和感。

 

恐らく彼女が抱いている感情はこれだろう。あの水族館で、雪ノ下陽乃は間違いなく俺たちの関係にヒビを入れた。否、目を逸らしていたヒビを突き付けた。にも関わらず、俺と雪ノ下がこうして行動を共にしていること・・・このことに何かを思わない彼女では無い。

 

「どういう風の吹き回しかな」

 

「なんてことはないわ。ただ、信念と理屈と感情は全て別物だったという話でしかないわ」

 

「言うようになったね」

 

具体的なことはお互いに何も言わない。されど、通じあっているようなこの感覚。やはり姉妹かと思う。

 

「で、比企谷くんの方は何の話かな」

 

「とぼけないでくださいよ。プロムに決まっているじゃないですか」

 

「君のその言い方もとぼけているようにしか見えないけどね」

 

こわ。

 

「何を言っても変わらないよ。私じゃなくて、私の母に言わない限りは何も変わらない」

 

「分かってますよ。ただ、発言というのは内容よりも誰が発したかによって受け取られ方も解釈も変わるもんです」

 

付加価値、とでも言えばいいのだろうか。無関心な人間から言われた言葉と、最愛の人から言われた言葉では、仮に内容が同じでもその重みが違う。

 

「つまり私にメッセンジャーになれ、と」

 

「その通りです」

 

「保護者会が私の母にそうしたように」

 

いやそれ今言うのかよ。雪ノ下の発言に若干の焦りを覚える。

 

「あら、流石に分かってるか。まぁでも、私にそれを頼むのも違うと思うよ。それこそ、雪乃ちゃんがやってもいいわけだ」

 

十中八九そう言われると思っていた。血縁上の話で言えば雪ノ下さんと雪ノ下は同格・・・即ち、雪ノ下さんに可能なことは雪ノ下も可能。

 

「君達が・・・いえ、君がいつまでそれを続けるのかは知らないけれどそれじゃあ何も終われない」

 

真面目な顔をして呟く彼女。分かっている・・・だからこそ、あなたはそれを終わらせようとしてくれた。俺にそのきっかけとやり方を見せ付けてくれた。

 

無論感謝もしている。そして同時に、責任もある。

 

「けれど、誰よりも終わりを求めていないのは・・・姉さん、あなたでしょう」

 

「・・・」

 

不意に、雪ノ下はその言葉を紡いだ。

 

俺たち2人において、最も不得意とされ不快とされるものがある。それが、本音と弱音を暴露すること。これらを自ら発することも、誰かによって再認識させられることも俺たちは嫌っている。

 

「私はもう・・・きちんと終えているの・・・『あの』歪みきった関係を」

 

雪ノ下陽乃は知らなかった。

 

そう、彼女は知らなかっのだ。

 

雪ノ下雪乃が、精神的成長を遂げていることを。

 

それは、俺も雪ノ下陽乃も超えてしまっていることを。

 

 

 

そして、雪ノ下雪乃が既に救われているということを。

 

 

 

「・・・・・・『雪ノ下陽乃』さん。答え合わせを、しましょう」

 

 

 

 

これが、あの日の再演であることを。

 

 

 

 

「ずっと考えていたんです。雪ノ下さんの言うあの言葉、『私と共に在りなさい』。この言葉の真意を」

 

何度も何度も言われ続けたこの言葉。

 

「それが、やっと分かったんです」

 

「あれはその言葉の通りの」

 

「違います。本当は、違うんですよ」

 

「・・・」

 

彼女の眉間にシワが寄る。そう、これは弱音と本音の話。彼女が最も触れられたくないこと。

 

「あれは、俺への依頼だった」

 

「・・・依頼」

 

雪ノ下が驚いたような顔をして彼女を見る。

 

「依頼内容は至って単純・・・『私を助けて』」

 

「・・・どういうことかしら」

 

順を追ってきちんと説明しよう。俺が立てたこの仮説の、彼女が求めたSOSの。

 

「雪ノ下さん・・・あなたは、自分を否定したかった」

 

「っ・・・」

 

彼女の体が小さく動く。図星、か。

 

「雪ノ下さん曰く、俺と彼女は同類らしい」

 

「どこが同類なのかしら。ヒキガエルと私の姉では流石に比較の対象にすらならないと思うのだけれど」

 

ちょっと?ヒキガエルって言う必要あった?完全にそれ悪意だよね。ていうかなんか最近あなた吹っ切れてない?吹っ切れ過ぎて俺への罵倒にキレがある。ありすぎるまである。

 

「んっんん・・・要するに、雪ノ下でも抱くその実感っていうか・・・そう、客観的事実が必要だったんだよ」

 

「姉さんが上で比企谷くんが下という?」

 

「そう。もっと言えば、『雪ノ下陽乃は優れていて、比企谷八幡は劣っている』という客観的事実だ」

 

意味が分からないと言わんばかりに雪ノ下は訝しげな視線を送り続ける。

 

「前に言ったと思うが、俺は自分が分からない。強いて言うなら自意識の化け物。そして、彼女もそうだ」

 

「・・・」

 

「彼女の言う前提が正しいのならば、俺と彼女はイコールになる。そして、彼女は周囲から肯定され、俺は否定される」

 

「・・・そこに、矛盾が起きてる」

 

「そうだ」

 

雪ノ下も分かってきたらしい。そう、これはその矛盾を無理矢理にでもねじ曲げる解釈。

 

「つまり、『比企谷八幡が否定されるなら、同類である自分も否定されるべき』。それが、あなたの望んだ解」

 

俺たちは、他人からの否定にしか頷けない。肯定など、信頼出来ないのだから。

 

「それをして、一体何になるの」

 

分からないだろう。これはきっと、俺と彼女にしか分からない。お互いのことを知り、お互いが何を望み、お互いがどう生きて来たのかを知り合っている俺たちにしか分からない。

 

それが、どれだけ意味のあることなのか。

 

「雪ノ下さんは、自分に押し付けた『雪ノ下陽乃』を否定したかったんだよ」

 

「あっ・・・」

 

その言葉で雪ノ下は納得した。理解は出来なくても、納得は出来たのだろう。

 

「主観を持ち得ないあなたがとれる手段は、客観的事実しかない。自分が客観的に高い評価を受けていることを知っている以上、動くことが出来ない」

 

俺と同じだ。感情で動けず、納得できる理由がなければ動けない。

 

「けれどイコールで繋がっている俺が否定されている以上、それは自分が否定されているも同じこと」

 

だから、彼女は自分と同じで在りなさいと言ったのだ。

 

「そうなればあなたは自分を否定し、自分を変える、或いは変わる客観的根拠を得ることになる」

 

この論を証明させるために。

 

「それが、あなたが俺に託した依頼・・・そうですよね」

 

下を見ていた。彼女は何をするでもなく、ただ、ただ下を見ていた。

 

「・・・バレちゃってた、か」

 

「・・・」

 

「そう。私ね、変わりたかったんだ」

 

何気なく発せられたのかもしれない。そんなはずないのに、そんな訳ないのに、そう思ってしまうほど軽く発せられた。

 

「楽しいことを楽しいって言えて、綺麗なものを綺麗って言えて・・・嫌なものは嫌って言えて・・・・・・好きなものを好きって言える・・・そんな自分になりたかった」

 

瞳が潤んでいた。

 

そう、か。だからあの時彼女は間違ったと言ったのだ。だから、だからあの時彼女は俺に謝罪をしたのだ。

 

 

自分の目的のために、俺を傷付けたと思ったから。

 

 

 

「そんな、普通の女の子になりたかった。変わり・・・たかったんだ」

 

 

 

情けない。俺に出来るのはここまでだ。これ以上、何も出来ない。何を言えばいいのか、何をすればいいのか、検討もつかない。何かをしてしまえば彼女を傷付けてしまいそうで、彼女を困らせてしまいそうで・・・彼女を、否定してしまいそうで。

 

 

「姉さんは・・・私の憧れだった」

 

「・・・え」

 

穏やかな声音が聞こえる。

 

「なんでも出来て、皆から愛され、頼られ、そういう姉さんに憧れてた」

 

「・・・」

 

「けれど、それが私の好きな姉さんとは限らないの」

 

優しい笑みで彼女は言う。それはあの日見た、たった1人の友人を抱きしめる時と同じ笑みだった。

 

「私の好きな姉さんは・・・私を助けようとしてくれる・・・私を大切にしてくれる・・・あなただもの」

 

「・・・」

 

潤んだ瞳から一筋、零れた。それは、感情。彼女にしか分からない想い。

 

優しい雫。

 

その一言が、どれだけ彼女にとって救いだったのだろう。

 

俺を、『比企谷八幡』という存在を持ち出しても決して消えない、消せない、否定することなどできない・・・どうしようもないほどの愛情。雪ノ下陽乃が失くすことなく持ち続けたその想いだけは、決して彼女を裏切らなかった。最後まで、雪ノ下陽乃を肯定し続けた。

 

雪ノ下陽乃は自分を失ってなどいない・・・自分を見失ってしまっていただけ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雪ノ下陽乃の正体は他でもない・・・ただの、シスコンだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

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