やはり俺の青春ラブコメの相手が魔王だなんて間違っている。   作:黒霧Rose

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第24話 魔王とは、オリジナル無き唯一のレプリカである

 

「とまぁ、そんな感じでプロムの開催が決定した」

 

「・・・はぁ・・・ほんっとに先輩は先輩なんですね」

 

生徒会室にて一通りのことを説明し終える。会長さんはというと、何故か不貞腐れたような態度でふんぞり返っていた。

 

思い出すは先日の雪ノ下母襲来その2。サブタイトルみたいだなこれ。

 

『今回、勝利の貢献度合いで言うなら比企谷くん2割の雪乃ちゃん2割、ガハマちゃんが6割ってところだね』

 

雪ノ下さん・・・陽乃さんはそう言った。

 

『雪乃ちゃんに友人が出来て、尚且つあの事故の当事者が全員揃った・・・そういうことよ』

 

要するに、雪ノ下母は俺たちを試し続けることを選んだのだろう。無論、娘である彼女を含めて。

 

あーあ、もう二度とあの手合いを相手にしたくない。

 

ま、何はともあれこれでようやく始められるようだ。

 

 

 

生徒会として仕事をしていると、どうしても働くこととは一体何なのかを考えてしまう。労働が義務であるとするならば、対価として俺は何らかの権利を得ることが出来るはずだ。権利と義務とは本来そういう関係にあって然るべき。ただ、現実はそうはいかない。なんなら大した権利なんてないまである。

 

写真を何枚か撮る実行委員会と生徒会を見ながら俺も自分の役目を果たす。そう言えば、以前の文化祭であの人とツーショットを撮った・・・と言うよりは撮らされたことを思い出した。まだあの写真あるのかな・・・手札にするとか言ってたけど怖いなぁ。あの人の手札なんてもう二度とごめんだなぁ。

 

「あら・・・そこに居る両生類もどきの人類もどきさん」

 

「せめてどっちかくらいはハッキリさせてもらえませんかね。出来れば人類側で」

 

某人間もどきの吸血鬼もどきの彼を少し頭をよぎる。

 

「ふふっ・・・どうかしら」

 

「・・・」

 

自分の目が見開いていくのを感じる。まさか彼女がそんなことを言うなんて思いもしなかった。手を差し伸べてくるその姿を見ればどういう意味なのかなんて想像にかたくない。

 

「・・・お、おう」

 

ぎこちない手つきでその手を取ると、俺は・・・俺たちはそこに混ざった。

 

「ステップも下手、表情も変、性格も人間性も多少の問題あり」

 

「後半もうダンス関係ねぇじゃん」

 

流石に上手い。俺とはまるで動きが違う。ホントにご令嬢様はよく出来たご様子で。

 

「奉仕部での勝負の件、覚えているかしら?」

 

「平塚先生が勝手に言っていたあれか」

 

「ええ」

 

勝った方が負けた方になんでも言う事を聞かせられるというあの勝負。

 

「・・・悔しいが、俺の負けだ」

 

「何故?」

 

「プロムが開催されて、俺とお前がこうして踊っている」

 

「・・・ずるいのね。まるで誰かの姉みたい」

 

心中で苦笑すると、俺たちはそのまま踊り続けた。

 

音楽はまだ続くらしい。

 

 

 

達成感と疲労感を残し、プロムを終えた俺たち生徒会と協力してくれたメンバーは打ち上げをしていた。

 

打ち上げ、と言っても全員でお菓子を食べてジュースを飲むだけの簡素なものだ。俺がこういうのに参加するのは意外ですかそうですか。いやしょうがないんだよ?だってこれでも生徒会役員なのですから。これがなんの自慢にもなっていないことくらい分かっているとも。

 

「・・・ま、何はともあれ上手くいったようなので私からはもう何もないでーす」

 

不貞腐れ気味の生徒会長は継続中ですか。

 

「やったねヒッキー!」

 

「・・・た、助かった」

 

なんでこんな簡単な一言を言うのに俺はドギマギしなきゃならんのだ。挙動不審なのはいつものことです。

 

「んーとね、あたし嬉しかったよ。ヒッキーがちゃんと頼ってくれて」

 

「・・・」

 

照れ臭くて頬をかく。

 

「それにこうして皆で打ち上げが出来てるからオールオッケーだよ!」

 

オールオッケーか。

 

「比企谷くん」

 

雪ノ下が何かを言いかけたとこで、会議室の扉が開いた。

 

「お疲れ、雪乃。由比ヶ浜さんに・・・比企谷くんも」

 

うわ出た。

 

「ありがとう、母さん」

 

これも含めてオールオッケーってことでいいですかねホント。もうこの人見るだけで怖いんですけど。

 

「いやぁ面白い会だったよ、雪乃ちゃん」

 

ニコニコとした笑いをしながら彼女はそう言った。そっちも相変わらずかよ。

 

「それでは、私の方はそろそろ」

 

「ん。じゃあ私は少し残っていくね」

 

あなたも帰ってもらって構わないんですよー。

 

「ま、雪乃ちゃんにガハマちゃん、生徒会長ちゃんとかは本当によくやったね・・・ただ、一人ちょっと怪しいのが居るけど」

 

「・・・なんで俺を見るんですか」

 

先日のこと根に持ってるのか?

 

「だってそうじゃない?雪乃ちゃんもガハマちゃんも・・・生徒会長ちゃんも各々が自分のために行った。けど、君はそう言い切れないんじゃないの?」

 

心臓を鷲掴みされたような気になる。まるで全てを見透かされ、それら全てを悉く突き詰められているかのような・・・そんな気分に。

 

彼女は微笑みを俺に向けると、そのまま部屋を出て行った。

 

「待って、姉さ」

 

「いや、俺が行く」

 

追いかけようとした雪ノ下を制し、彼女の後を追う。

 

きっとこのまま廊下を過ぎて昇降口の所に行けば、俺は全てと向き合わなければいけない時が来る。

 

これは予感ではない、事実だ。

 

『希う』なんて嘯いて、俺はまだ逃げ続けていた。辞めにした、決着をつけた、終わりにした・・・そういう言葉で自分を無理矢理納得させて変わった気でいるだけに過ぎない。

 

答えは既に出ている。答えは既に、出していた。

 

「言葉の上だけの納得で、君はこのプロムを進めていた」

 

彼女は、そこに居た。

 

「きっと君はこう考えている・・・これは、『雪ノ下陽乃のためだ』って」

 

その答えを言うために。

 

「違う・・・違うよ、比企谷くん。そんなのは欲しくないんだ。もう・・・欲しくないの」

 

優しく、慈悲に満ちたその微笑みに俺は何も言えなくなってしまう。

 

「私と共に在るあなたなんていらない。こんなありふれた偽物、もういらないの」

 

雪ノ下陽乃に対する感謝と責任のため・・・そんなのは比企谷八幡が『比企谷八幡』に押し付けた消去法に過ぎない。奉仕部という名の寄る辺が無くなったから縋っただけの言い訳。

 

「お願い・・・私と君の関係に、もう二度と消えない傷を与えて」

 

ならば、この言葉を彼女が言うのは必然だったのかもしれない。

 

 

 

「絆なんかじゃ・・・足りないの」

 

 

 

 

 

「・・・ふ、ふくくくはははははは!」

 

俺の隣の席で笑うのは我が奉仕部の顧問、平塚静先生。あの人との話しが終わったあと、俺はこの人にバッティングセンターに連行されていた。

 

「そうか・・・陽乃がそんなことを」

 

「笑い事じゃないですよ」

 

「そうでも無いとも。陽乃もただの女の子だったという訳だ」

 

「・・・」

 

「まぁそんな解で納得する君じゃないか」

 

全くだ。仮にそれが正当だったとしても俺はそれで納得もしないし信じることもないだろう。

 

「・・・こっちの事は殆ど全て見透かされた上であれですからね」

 

「・・・」

 

何故か平塚先生はキョトンとした顔をして俺を見続ける。

 

「なんですか」

 

「いや・・・この前私に『元来諦めは悪い質』だと言っていた癖に、やけに簡単に諦めるようだったからな」

 

言ったな。確かそれは、クリスマスイベントでの奉仕部との一件。

 

「そんな簡単に見透かされるようなものが、君が抱く雪ノ下陽乃への想いか?」

 

ハッとする。その疑問は、俺を目覚めさせるのにはあまりにも十分すぎるものだった。

 

「まさか」

 

まさか、そんなはずない。そんな簡単に見透かされるようなものなわけがない。沢山悩んだ、沢山苦しんだ、沢山絶望した。その度に足掻いて、その度に理屈をごねて・・・そうやって、漸くこの答え合わせにまで辿り着けた。それら全てが、見透かされてたまるか。

 

俺の主観を、語らせねぇよ。

 

「何かを求めて、手を伸ばして・・・時には縋って。そうして君は色々なものを手にして、手放して、諦めてしまう事もあるだろう」

 

何度も聞いたこの言葉。けれど、続きを聞くのは初めてかもしれない。希望的観測を、確実にするための論証。

 

「でも・・・でもな、比企谷。それでいいんだ。掴むのもいい・・・掴めなくったっていいんだ」

 

今までの彼女とのやり取りを全て思い出す。

 

「考える時は、考えるべきポイントを間違えない事だ。君が考えるべき事は、何故掴めたのかでも、何故掴めなかったのかでもない・・・どうして求めたのか。その過程が、その理由が、一番大切なんだ」

 

責任や感謝なんかじゃない。そんな他力本願なものが俺の理由であっていいはずがない。

 

「今だ・・・今なんだよ、比企谷。君が彼女に・・・陽乃に、手を伸ばし、伸ばし続けている理由は・・・ここにあるだろう」

 

誰かのためだなんて、『俺達』には似合わない。

 

自意識の化け物であるのならば、最後までそれを貫くまで。

 

それが、比企谷八幡に最も足りなかった全て。

 

 

 

「君を比企谷八幡たらしめる本物が、ここに」

 

 

 

彼女の拳が、俺の胸に当てられた。

 

 

 

傷を付けたくない程に大切で、大切だからこそ傷を付けなければならない。そうして付けた傷を、付けられた傷を『絆』と呼ぶのなら・・・俺はもっと深い傷を彼女に与えなければならないのだ。

 

雪ノ下雪乃に、由比ヶ浜結衣に、奉仕部に与えた傷とは比にならない位の傷を・・・俺達の関係に刻まなければならない。

 

絆などという言葉ですら物足りない、絆などという言葉では片付け切れない程の『それ』を、俺と彼女は未だに求めている。

 

そんなものが本当に存在しているのかは分からない。

 

そんなものが絶対に実在しているのだという証明すらない。

 

 

しかし残念なことに、俺と彼女はそれでは納得出来ない・・・納得出来なかった。

 

 

だから今もこうして、俺は理由を見つけている。

 

だから今もこうして、彼女は感情を追求し続けている。

 

 

 

 

 

俺達のこの偽物が、たった一つであることを願って。

 

 

 

 

 

 

『魔王とは、オリジナル無き唯一のレプリカである』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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