やはり俺の青春ラブコメの相手が魔王だなんて間違っている。   作:黒霧Rose

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第27話 魔王とは、"アイ"を生きたものである

 

俺と陽乃さんが悪巧みをしていたドーナツショップで俺と彼女は、二人だけの会議を開いていた。

 

「問題は予算にあるね・・・あとは人員も、それから会場と機材と企画と、何より責任者」

 

彼女が指を指した欄には『責任者 比企谷八幡』という文字が。

 

ちょっと?最後の違いますよね?いや違くはないしなんなら確かに一番の問題なまである。あれ正しいじゃん。

 

「予算は海浜総合次第・・・人員は、まぁ、ウチの生徒ですかね」

 

「あとは私もOBやOGに声かけしてみるよ。私がこっち側である以上、ある程度の参加なら許している訳だし」

 

実際、これはかなり嬉しい。かつての卒業生が足を運んでくれるというのは、今後プロムやそれに似た謝恩会を行える可能性がグンと高まるというわけだ。よかったねいろはす。

 

「奉仕部に依頼してみる?」

 

「馬鹿言わないでください」

 

「およ?巻き込んでおいて仲間外れはちょっとヒドイんじゃ」

 

「はじめから頭数に入れてます」

 

「うわぁ・・・流石だね、比企谷くん」

 

ドン引きである。しょうがないじゃないですか・・・だってこれ、元は奉仕部のプロムと銘打ってやってたわけなんですから。

 

「さて、じゃあ会場についてだ」

 

「会場・・・ですか」

 

確かに複数の高校が合同で開催し、尚且つ卒業生までもが参加できるとするのなら、学校の体育館ではあまりにも足りない。要するに、ハコが必要だ。ならば、公共の施設などを利用することになるのだろう。

 

「例えば・・・ほら、こことか」

 

『稲毛海浜公園』と書かれたサイトがスマホの画面に現れる。

 

「おお、これこれ」

 

「君たちが考えたんでしょ」

 

ホントにごめんなさい。あくまでやりかねないという脅しのものだったので、そこまで考えてなかったんです。それにほら、俺ってば生徒会役員なんでそっちのプロムもやってましたし。

 

「・・・うわ、こいつビーチイベントとか書いてる」

 

「比企谷くんが書いたんだよ・・・」

 

「それはお宅の妹さんが書きました」

 

「企画者は雪乃ちゃんなの・・・」

 

彼女は額に手を当てると、首を横に振りながら呟く。なんか可愛い。困らせたくなってしまう。

 

「なんか、比企谷くんってこんなポンコツだったっけ?」

 

「は、はぁ?」

 

いきなりのポンコツ発言に少しイラッとくる俺。

 

「よく見ると詰めが甘いし、考え無しだし、ひねくれてるし」

 

と言いつつも、ニヤニヤしている彼女。そんな表情に照れてしまい、俺は目を逸らす。

 

「・・・まぁけど、多分それがカッコつけてない比企谷くんなんだろうね」

 

「・・・どうでしょうかね」

 

そっぽ向いて答える。気恥しいというか、見透かされて悔しいというか、俺の無駄に高いプライドが少し傷付いたというか、そんな気分なのだ。

 

「そういうとこ、可愛いなって思う」

 

「・・・」

 

なんこれクッソ照れるやん。

 

今まで見たことも無いような笑みで俺を見てくる陽乃さん。まるで母親が我が子に向けるような、そんな柔和な笑み。

 

「というわけで、ここの下見に行こう!」

 

 

 

 

 

翌日、俺は彼女と共に件の公園に来ていた。休日ということもあってか家族連れが多く、そこら中を子供がワーキャー言いながら駆けずり回っている。仕方ない、俺も混ざってくるか。

 

「うーん・・・いい場所だね!景色もいいし、雰囲気もいい」

 

ぐるりと周囲を見渡しながら、彼女は手にある企画書とにらめっこする。

 

「さ、もっと歩いて見聞を深めよーぜ!」

 

「キャラ崩壊してんじゃねぇか」

 

なんか京都で会った時もこんな感じだったような。

 

「まーまーいいじゃない。こうやって新しい自分と出会っていくことこそが人生なのだよ」

 

えっへんと胸を張る。いやそのですね、その素晴らしいあなたのそこでそこを張られますと、非常に素敵なそれに視線が吸い込まれてしまうわけで、俺はもう目が離せないんですよ、つまり見入ってしまうんですね。そこを見る権利も俺にはあるのか、その疑問は俺の頭の中で何度も繰り返されているのです。

 

「・・・今日は髪、巻いてるんですね」

 

「ん?・・・ふふん、似合う?」

 

彼女の髪の毛先は、少しウェーブしていていつもとは違ってふわふわしていた。女の人と関わらな過ぎて語彙力皆無。

 

腹立つドヤ顔だが、似合っているのは事実だ。と、何故か敗北感に襲われる俺。

 

「・・・ええ」

 

「ふふっ・・・・・・と、特別なんだぞぉ」

 

と、やけに小さい声で俺の頬をつんつんしてくる。

 

は?

 

は?

 

は?

 

何この人超可愛い。待ってなにこれ可愛い。キャラ崩壊しまくりで自分見失ってるようだけど、めっちゃ可愛い。いつもの調子を保とうとしているけれど恥ずかしさとか諸々の感情でいつも通りできていないし、それを隠そうとしているところがいじらしくて可愛い。めんどくさくて超可愛い。

 

「・・・うん、いい」

 

「・・・バカ」

 

ずっとバカと言われてます、どうも比企谷八幡です。

 

すると、おれの右手が掴まれる。暖かくて、癒されるような、スベスベ肌・・・ん?肌?

 

おっ、と?手を繋がれてるぞ。

 

ヤッタ!ハチマンハマオウヲテニイレタ!

 

魔王って武器なのかよ・・・。

 

「あの」

 

「こうしてれば一石二鳥でしょ?」

 

得意げに笑っているところ悪いんですが、顔真っ赤ですよ。しかも何が一石二鳥なのか全く分からんし、ああそうだねとか俺も言っちゃいそうになるし。マオウトハチマンハ、バカニナッタ。

 

「それに、ほら・・・い、一緒に居たいんでしょ」

 

自分の顔が熱くなっていくのを感じる。これ絶対この人より顔真っ赤になってる。ふえぇー恥ずかしいよー。

 

こんなに可愛いならバカになってもいい。つまりバカは可愛い。バカ可愛くて、可愛いはバカである。

 

可愛いよ、バカは可愛く、バカ可愛い。

 

八幡、心の俳句。

 

 

 

園内にあるカフェに入り、昼食をとることにする。

 

どうしてこうオシャレなカフェってのは量が少ないのに値段は素敵な額になっているんですかね。某珈琲店を見習いなさいよ。あそこなんてメニュー表詐欺って言われてるんだぜ。何故かって?

 

メニューに書いてある物より、実物の方が多かったらそりゃ詐欺って言われるだろ。

 

「・・・美味いな」

 

とは言え、美味しいのは事実。

 

「だね・・・うーん、これくらいなら作れるかな」

 

あんまりお店でそういうこと言うもんじゃない気がするんですけど。でもちょっと気になります!

 

「・・・ふむふむ、比企谷くんは私の料理が食べたいと」

 

「・・・」

 

心を読むな。

 

「・・・今度、お弁当作ってあげるよ」

 

「・・・あ、ありがとうございます」

 

なにこのやりとり。嬉しいんだけどなんか違くない?なんでこんな付き合いたてのカップルみたいな雰囲気になっちゃってるの?

 

カシャ

 

「・・・あの、何してるんですか」

 

スマホのカメラをこちらに向けている彼女に言う。画面を見ているその顔はニヤニヤとしており、なんだか気恥しい。

 

「何って、写真撮ってるの」

 

見て分かんないの?みたいなニュアンス。え、俺が悪いのかこれ。

 

「思い出だよ思い出。こういうの、なんかいいなーって・・・それに、比企谷くんの照れ顔なんて珍しいからさ」

 

「・・・はぁ」

 

「なんで溜め息吐くの!?」

 

尊いとか、限界とか、無理とか、オタク共は何故かそういうことを言いたがる。その気持ちがようやく分かった。なるほど・・・これがそうなのか。

 

カシャ

 

「・・・何してるの」

 

「何って、写真撮ってるんですよ」

 

同じように、見て分かんないの?みたいなニュアンスで言う。

 

「・・・今度はちゃんとしたツーショットね」

 

 

はぁぁぁぁぁぁぁ。

 

 

無理、尊い。

 

 

 

 

散策をしていると、日が落ちて夕方になっていた。思いの外ここは広いらしい。

 

その間も俺の右手には最強の装備品たる魔王様が居たわけで・・・大丈夫かな、八幡手汗出てないかな?いやもう出ててもいいかな、魔王様にも八幡の手汗っていう装備品あげちゃおうかな。

 

ゴーン、と鐘の鳴る音がする。

 

その方向を見ると、どうやら結婚式が行われているらしく新郎新婦が腕を組んで歩いていた。ここは結婚式の会場としても使われているのか。

 

・・・花嫁、綺麗だな。ウエディングドレスとか興味も関心もなかったが、こうして間近で見るとそうも思えなくなってくる。俺の隣にいる人があの衣装を着たら、すごい綺麗なんだろうな。

 

それこそ、恐ろしいほどにな。

 

右手がクイクイと引っ張られると、件の魔王様は何故か不機嫌な目線を俺に向けてくる。

 

「こら・・・比企谷くんは、私だけ見てればいいの」

 

「・・・」

 

かっわっっっっ。

 

面倒くさ可愛い。

 

「・・・似合いそうだなって」

 

「なっ・・・ほんっとに、もう!」

 

こうして見ると、本当に表情が豊かな人なんだなと思う。うーん、全部可愛いとはこれ如何に。

 

「ふぅ・・・・・・ここ、ピッタリ」

 

「・・・あの、それは・・・はい」

 

ここで・・・挙げるんですね。

 

「・・・ばか。海、設備、ホール・・・プロムの会場ってこと!」

 

「あ、ああ・・・そうです、ね」

 

「それは、ほら・・・もっとちゃんと、考えよ、ね?探せば色々出てくるだろうし・・・」

 

顔を赤くしてゴニョニョ言っている彼女を横目に、俺はこう思うのだった。

 

 

 

はぁぁぁぁぁぁぁ。

 

 

無理、尊い。

 

 

 

 

 

会場を持っている人と話をし、ホールを抑えることに成功。流石は陽乃さん、こういった交渉には手馴れている様子。やっぱり凄い。最近はどうもそれを忘れてしまうような感じだったが。

 

例えば、メールなんて今までは脅しか強制イベントの予告状みたいなやつだったのに。

 

『声聞きたい』

 

なんて一言が最近は送られてくる。いやもうね、流石の俺もこれには光の速度で通話ボタンを押しちゃうわけですよ。するとワンコールしないうちに繋がる。そうか、陽乃さんも光の速度で応答してるんですね。光速使ってくる魔王とかマジで最強じゃないですか。

 

そんなこんなで会場準備のため、再び訪れていた。

 

「海浜総合の人達はそっちの飾り付けと会場案内のマップ作り、総武高の生徒会は当日の軽食や器具などのリストを確認、終わり次第海浜総合と合流して作業。ボランティアの人達は選曲とSNS、サイトの確認。OBのみんなはスケジュールと運びの確認、パートごとでリハを行うからプログラムに目を通しておいて」

 

陽乃さんの指示通りに仕事が始まる。

 

伝説の文化祭。

 

陽乃さんが実行委員長を務めた文化祭は、総武高でそう呼ばれている。集客、出し物、当日に至るまでの運び、人員の動き、それら全てが完璧とされていることからその名が付いているらしい。なるほど、確かにこれはそう呼ばざるを得ない。

 

一切の無駄がなく、そして暇を作らない。

 

こりゃ、この人の下では絶対に働きたくないな。

 

「奉仕部は私達と一緒に来て・・・責任及び企画の代表として今後の打ち合わせをするから」

 

雪ノ下と由比ヶ浜は、それに頷くと歩き出す。

 

「比企谷くんは責任者のところに名前があるから、人一倍覚悟決めてね」

 

 

あはは・・・はぁ。

 

 

 

 

本番を迎え、予想以上に人が集まっているのを確認する。

 

「陽乃さん・・・少し人数が厳しくなってきました」

 

インカムをオンにし、俺は告げる。こういうの、最高に仕事してるって思いますね。

 

『こっちも確認したわ。2階フロアに人を流すように誘導をかけ、1階を少し空ける・・・その後、一旦OBを会場の外に出すわ』

 

「出すって、どうするんですか」

 

『この後のビーチイベントの準備に力を貸してもらう。大丈夫、交渉は私がする。比企谷くんはこのまま人員誘導の指示を出して』

 

「了解です」

 

『・・・やけに素直だね。流石は社畜根性旺盛な比企谷くんだ』

 

おっと?仕事モードの陽乃さんがどこかに行ってしまったぞ?

 

「人を労働の虜みたいに言わないでください。俺は働きたくない側の人です」

 

『嘘ばっかり。いっつも働いて余計なことばっかりしてるくせに・・・裏でコソコソなんかやって表には見えないようにしてるんだもん』

 

「縁の下の力持ちってやつですか」

 

『日陰者って意味?』

 

「自分の名前に陽が入ってて、俺はそれに隠れてるってことですかそうですか」

 

『・・・それは、ほら・・・私、輝いてるしさ・・・あれ?比企谷くんどこ?』

 

「日陰者って存在感がないって方かよ・・・今目合ったでしょ」

 

『なんか縁の下に居るよ・・・』

 

「夏に湧く虫みたいに言うの辞めてもらえませんかねぇ・・・」

 

 

『姉さん、比企谷くん・・・随分と楽しそうね』

 

 

「『げっ』」

 

『・・・働きなさい』

 

「『・・・はい』」

 

つまり、雪ノ下雪乃は強くて正しいのである。

 

 

 

 

「なんだかんだでよくやったな。まぁ、あのタイミングで陽乃に喧嘩を売ったのには驚いたが」

 

プロムも無事終わり、会場となったホールの一室で俺は平塚先生と居た。

 

「まぁ・・・はい」

 

「まったく・・・君も陽乃も不器用過ぎる。どうしてこう嘘ばかりなんだか」

 

「別に嘘はついてないですよ・・・カッコつけはしましたが」

 

「・・・ふふっ」

 

何がおかしいのか、彼女は俺の言葉を聞くと笑い始めた。肩を揺らし、声を抑えて笑う彼女はやはり大人なんだと再確認させられる。

 

「まさか君からそんな言葉が出てくるとは・・・悪い男だ」

 

俺も少し笑う。確かに、あんなカッコつけ方はない。本人からも最低とも言われてるからな。

 

「ま、君らしい青春だな」

 

「らしい?」

 

「知らないのか?『青春とは嘘であり、悪である』という名言を」

 

うっ、と呻き声を出す俺。それは、俺が出したあの作文に書いてあったことだ。

 

全ての始まりである、それ。

 

今聞くと超恥ずかしい。筆が乗ってしまったからとはいえ、何故あんなものをそのまま提出してしまったのか。

 

「比企谷」

 

そう言って、彼女は俺に手を向けてくる。

 

『Shall we dance』

 

「・・・喜んで」

 

少しの間、俺と彼女は踊る。慣れてもいない、合っているのかも分からない、音楽すらないというのに、踊る。

 

「・・・うわっ」

 

「・・・おっと」

 

ヒールで足を踏まれ転ぶ。く、クソいてぇ。

 

お互いに顔を見合わせると、少し笑いその場に座った。彼女は俺の向かいに座ると、そのまま笑みを浮かべる。

 

「・・・君が陽乃に手を伸ばし続けた理由、分かったか?」

 

「・・・多分、色々あります。言葉では語り尽くせないものとか、言いたくないこととか、色々」

 

本当に色々だ。

 

大事だから言葉にしたくなくて、形を持たせたくなくて、語り尽くせなくて・・・そんな感情が入り混じっている。

 

「・・・・・・探し物、だったんです」

 

「探し物?」

 

「はい。失くしてしまって、知らず知らずの内に落としてしまって、その事にすらも忘れていた・・・そういう物です」

 

それでも、少しでもそれを明確にしてもいいのならばやはりこういう言葉になるのだろう。

 

「ずっと望んでて、ずっと欲しくて、ずっと希って・・・そういう探し物が、彼女だったんです」

 

「・・・そうか」

 

満足したように、何か報われたかのように、彼女は笑った。目を閉じ、安心したと言わんばかりの笑みだった。

 

 

「・・・比企谷は・・・・・・自分で居られる人が欲しかったんだな」

 

 

 

「・・・・・・はい」

 

 

 

俺たちは、自意識の化け物だ。

 

理解を拒み、納得を拒絶し、共感を否定し、肯定を拒否する。そして悪意は受け入れ、敵意は受け取り、憎悪に頷いて、拒否に肯定をする

 

自分が自分で居られない、自分で在ってはいけないという自意識・・・それが俺と彼女を蝕んでいた全てだった。

 

だからそれを求めた。

 

だからそれを望んだ。

 

だこらそれを欲した。

 

 

だからそれを、希い続けた。

 

 

 

『自分で在っていいという、確かな肯定』

 

 

 

ずっと、探していた。

 

 

そんな、探し物。

 

 

「よく探し当てたな、比企谷」

 

「・・・そんなんじゃありません。きっと、彼女が俺を見つけてくれたんです」

 

「・・・いいや・・・君が見つけ、陽乃が見出したんだ」

 

その言葉は、不思議なくらい胸に落ちた。

 

「大丈夫・・・それは決して不要なものなんかじゃない」

 

彼女は立ち上がり、歩き始めた。

 

「比企谷・・・絶対に、手放すなよ!」

 

 

当たり前ですよ。

 

 

 

「さようなら・・・俺の最高の先生」

 

 

 

「じゃあな・・・私の最高の生徒」

 

 

 

 

日も完全に沈み、俺はテラスに来た。海から吹いてくる潮風が心地良い。

 

「お疲れ様」

 

「お疲れ様です」

 

陽乃さんは俺に気付くと、書類持って歩いて来た。

 

「さ、ここらが大変だね。撤収、忘れ物の確認、書類、施錠とやって、またまた書類と報告の連続だ」

 

「・・・ですね」

 

「それから、保護者会のこととか家のこととかも」

 

思わず溜め息が出る。あの人にまた会わなきゃいけないのか。分かってはいたが胃がキリキリしてしまう。

 

「終わり次第駐車場で集合ね」

 

「かしこまりです」

 

さぁて仕事だぁ〜と出来ていない現実逃避しながら歩き出そうとすると、俺の上着の裾が引っ張られる。

 

 

 

「・・・大切だから傷付けて、その傷を受け入れたら・・・きっと、『絆』なんて言葉じゃ足りないと思うの」

 

 

 

その辿々しい言葉に、俺は思わず振り向く。

 

「・・・だから」

 

その笑みは、俺が今まで見たどの笑顔よりも輝いていた。

 

比喩なんかではない。

 

彼女の名前にある、太陽の笑みだった。

 

見惚れて、釘付けになってしまう・・・綺麗で、可愛くて、強くて、でも幼くて、それなのに美しい・・・女の子の笑顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あなたを愛してるわ・・・比企谷くん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

顔を真っ赤にした彼女は、テラスから走り去ってしまった。

 

そのまま椅子に座り、俺は項垂れる。

 

おいマジかよ・・・本当に面倒くさくて自分見失ってるなあの人。そういうことそういう顔で言う人じゃなかったでしょ。いや俺が知らなかっただけなのか?面倒くさいなホント。

 

 

・・・けど、そういう面倒くさいところが超可愛い。

 

 

そういう面倒くさいところを見せてくれるのが、すごく嬉しい。

 

 

彼女が心を見せてくれるのが、示してくれるのが、教えてくれるのが、堪らなく嬉しい。

 

 

 

 

心とは、傷なのだろう。人という生物が持ってしまった、胸に空いた大きな傷。人はその穴を埋めようとして、沢山のものを求める。その穴を、その傷を、心を、自分一人では埋められないということに誰もが気付いているのだ。

 

心を満たすのは、何時だって自分では無い何者かで。

 

心を空にするのは、何時だって自分以外の何者でも無い。

 

 

誰かの心だけが、その傷を埋めることが出来る。

 

 

誰かの傷だけが、その心を満たすことが出来る。

 

 

 

だから人は、それを『愛』と呼ぶのだ。

 

 

 

心(きず)を受け入れる、『愛』とはそう書くのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

『魔王とは、"アイ"を生きたものである』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あとがき

タイトルの"アイ"は『愛』と、英語で言う"I"つまり『自分』という意味が掛け合わされています。

このシリーズのテーマであるこの二つをどうしても入れたいと考えていたので丁度良かったです笑。

相変わらずこの黒霧Roseはダジャレに頼ってばかりでどうしようもないですね。

さて、キャプションにも書いた通り次回で完結となります。

あともう少しのお付き合いをどうかお願いします。


P.S.
このシリーズには元ネタとなった歌があります。もしも知りたいという人がいましたらコメントなりメッセージなり送ってください。もしかしたらみんな気付いているかもしれませんね。
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