やはり俺の青春ラブコメの相手が魔王だなんて間違っている。   作:黒霧Rose

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第5話 魔王とは、ルールの通用しない相手である

 

京都。その歴史は深く、かつての都であった場所。貴族が贅沢を貪り、同時に様々な文化が発達した土地。今となっては現代化が進み、景観には多少の変化があるものの厳かな雰囲気は群を抜いている。

 

「さて、久しぶりの京都だ。楽しんでいこうぜ、少年」

 

ここで問題、今発言をしたのは誰でしょうか?

 

 

答え

 

 

魔王こと、雪ノ下陽乃。

 

 

 

 

修学旅行の1日目は班行動だ。何故か葉山グループと同じ班に入れられ、少し憂鬱になっていた。新幹線を降り、早速行動を開始しようとしたところ俺は何者かに腕を引っ張られると、犯人はまさかの雪ノ下陽乃さん。最後尾を歩いていたので、誰にも気付かれなかったらしい。俺の影、薄すぎ?

 

「やぁ比企谷くん。こんな所で会うなんて、運命だね」

 

「あなたは運命なんて信じてないでしょう。それに・・・何故ここに?」

 

「一人旅だよ。私の趣味、言ってなかったっけ?」

 

「知らないですよそんなこと」

 

と言うが、バッタリ出会いました・・・なんてオチではあるまい。恐らく、この人の狙い通りというやつなのだろう。

 

「じゃあ、ガハマちゃんにメールしといて。トイレに行くとか言っておけば誤魔化せるでしょう?それとも、女子にそんなことを言うのは恥ずかしいかな?」

 

「・・・はぁ。女子にどう思われても今更なんで」

 

逃げ出したいが、この人をアイツらと会わせるのは正直望むところではない。であれば、俺1人で対応するべきだ。自惚れでないとするのなら、この人の目的は・・・俺だろうな。

 

メールに『ちょっと消えるが安心してくれ。少ししたら戻る』と打ち込み、由比ヶ浜に送信する。あの人の言う通りの言葉を打つのはなんだか気に入らないので使わなかった。違うよ?由比ヶ浜にトイレ報告するのが嫌だったとかそういうことじゃないよ?

 

「さて・・・京都散策を始めようか」

 

「絶対すぐには戻れないやつじゃないですか」

 

「すぐに返すなんて言ったかな?」

 

うわ面倒くさ。確かに、誤魔化せと言っただけであってそんなことは言ってなかった。俺の修学旅行、もしかしてハード過ぎ?

 

「まぁ、ゆっくり話しながら歩こうよ。今日は大した話なんてないしさ」

 

それならいい。俺としてはまだあの時の光景と言葉が忘れられていないのだ。理解し始めてはいるが、どうも整理がつかない。

 

そう、まだ納得ができていない。

 

 

 

お寺の周りを歩く。お互いに無言だったが、その方が楽なので是非ともこのままであってほしい。

 

「修学旅行ってさ、妙に色気立つよね」

 

「・・・えっと」

 

「つまり、はっちゃける人が多くなるよね。賢い人も、そうでない人も・・・みんな」

 

「まぁ、確かにそうですね」

 

いきなり話を振られたが、頭が追いついてきた。学校の行事において熱くなるのは2つ・・・文化祭と修学旅行。

 

戸部の件を鑑みれば、なるほど確かにそうだ。

 

「となると、その関連の相談が当日までは増えていく」

 

・・・そういうことか。この人がここに居る理由がなんとなくだが掴めてきた。

 

「それは奉仕部も例外じゃない。違う?」

 

「ノーコメントで」

 

「それは答えと同義だよ。やっぱりそうだったか・・・来た甲斐があったよ」

 

やはりそれが狙いだったか。彼女の頭脳をもってすれば、奉仕部が恋愛絡みの相談を受けていることも想像できたのだろう。

 

「ネタばらしといこう。私がここに来た目的は雪乃ちゃんがどう動くのか、ガハマちゃんがどう思うのか、そして君はどうするのか。この3つ」

 

「別に俺はどうも」

 

そうだ。俺にできることなんて1つもない。特に、今回は恋愛絡みだ。であれば、俺にとっては完全なる範囲外。振られ方とその後どうするかくらいしか分からない。

 

「ううん。君は動くよ・・・絶対」

 

だから、彼女のこの言葉はどこか確信めいていた。

 

 

 

 

「ヒッキー遅いよ!どこ行ってたの?」

 

それから数十分して、俺は元の班に合流した。彼女たちは色々とやりたいことを終えたらしく、休憩をしていた。いいな、俺も休憩したい。でも無理・・・だって、この地にあの人が居るんだもん!

 

「いやまぁ、ちょっとな」

 

ちょっとどころじゃないけど。

 

「もう!戸部っちの依頼もあるんだからなるべく一緒に居てよ」

 

「あ、ああ」

 

危ない危ない。由比ヶ浜さんよ、男子に『一緒に居てよ』なんて使っちゃダメですよ?相手が俺じゃなければ死んでいただろう。

 

「それで、どうなんだ?戸部の方は」

 

「・・・あんな感じ」

 

そう言って、彼女は目を少し遠くにやる。そこには、海老名さんと楽しそうに話している戸部の姿が。

 

「頑張ってるみたいだな」

 

「うん。戸部っち、結構アタックしてる」

 

なら、やることはなさそうだ。仕事しなくていい環境、最高だ。

 

 

だから、せめて今はこの感覚に溺れていたい。

 

 

 

『比企谷くんへ、ここに書いてある電話番号に電話してね。しなかったら・・・ねぇ?』

 

ああ、最悪だ。溺れていたのわずか数時間しかなかったよ。

 

1日目のスケジュールが終わり、宿泊先であるホテルに着いた。部屋は葉山グループと戸塚と一緒、戸塚と風呂入りたい。とか思っていたら魔王からのメール・・・ちょっと待て、なんで俺のアドレス知ってるの?

 

ホテルのロビーに出て、電話をかける。

 

『ひゃっはろー。ちゃんとかけて来てくれたね、褒めて遣わす』

 

「あの、切っていいですか?」

 

携帯から聞こえてくるハイテンションな声に辟易しつつ、通話終了を申し出る。電話はしたわけだし、怒られるいわれはない。

 

『は?』

 

こっわ。雪ノ下さんこっわ。俺のスマホが黒いオーラを纏って見えるよ。

 

「や、やだなぁ。ヒッキージョークですよ」

 

『だよね。もし本気だったらどうしてあげようかと思ったよ』

 

胃がキリキリする。夕食が出てきてしまいそうだ。こんなことなら少しにしておくべきだった・・・それは違うな、この人が悪い。俺は悪くない。

 

『よし、じゃあ夜の散歩だ。今から言うところに来てね・・・絶対だよ?』

 

もうやだこの修学旅行。略して修行になっている気がするよ。省略されたのは俺の心の安寧ってか・・・はぁ、帰りたい。

 

 

 

 

「さっきぶりだね!どう?修学旅行は楽しいかな?」

 

「誰かさんのおかげで全く」

 

「誰だろう・・・雪乃ちゃんかな?」

 

妹に責任転換するとか姉の風上にも置けないな。あなたですよあなた、あなたが原因で1日目からハードなんですよ。

 

「それはいいとして、来てくれて嬉しいよ」

 

それはいいとしてって・・・はぁ。

 

「あんまこの時間に外出るの嫌なんですよね・・・見つかったら怒られそうですし」

 

「ふふっ、怒られるのは悪いことじゃないよ。誰かが君を見てくれている証拠だ」

 

意外だった。この人がそんな前向きな事を言うとは・・・てっきり、そういうことは言わないでもっと核心を突いたことを言うものだとばかり思っていた。

 

「けど、心に響かなければ意味がない。でなきゃただのお節介になる」

 

低いトーン。彼女が時折発する、本質。何回か聞いているというのにも関わらず、背筋が凍りつき鳥肌が立つ。精神的に来る寒さというやつだろう。

 

「それで、依頼の方はどうなの?」

 

「クライアントの関係で部外者には話せません」

 

「あははは、それは道理だね。じゃあ聞き方を変えるよ・・・君から見て今回の件、雪乃ちゃんはどうにかできそう?」

 

思わず、黙ってしまった。雪ノ下雪乃は正しく在ろうとする側の人間だ、つまり、今回の依頼においては相性が悪い。人の感情がベースとなるもの、恋愛に関しては正しいも間違いもない・・・だとすれば、雪ノ下は恐らく。

 

「その通り、雪乃ちゃんには無理。そもそも恋愛経験がほとんどゼロだからね、知識としてあってもそれじゃあ意味がない」

 

彼女は、笑っていた。いつか見たような、あの試すような笑みを浮かべながら淡々と評価を下す。まるで、そこにはなんの希望もないかのようにただ事実のみを述べる。

 

「ホント、どうなるのかが楽しみで仕方ないよ」

 

 

 

 

思えば、この時から・・・いや、文化祭のスローガン決めの日から俺はこの人に少しずつ魅入られていたのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 


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