やはり俺の青春ラブコメの相手が魔王だなんて間違っている。   作:黒霧Rose

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第6話 魔王とは、常に先手を打つものである

 

修学旅行2日目。今日も今日とて班行動だ。連れられるがまま歩き、俺は思考の渦にハマる。

 

今回の依頼、戸部が海老名さんに告白をして成功させたい。チラリと彼の方を見ると、彼は楽しそうに話す。だが、問題は海老名さんの方だ。表情は笑みを浮かべているが、あれは取り繕ったものだ。つまり、その本心は・・・はぁ。

 

それだけじゃない・・・この地に居る、あの人。もしあの人がここに来ていることが雪ノ下と由比ヶ浜に知られれば、必ずと言っていいほど事態は面倒なことになる。少なくとも、ボロが出ないようにしなければ。

 

「で、なんでお化け屋敷なの?」

 

しかし、今は直面している問題・・・疑問を片付けてからにしよう。何故か京都だというのにお化け屋敷の列に並んでいた。

 

「まぁ、なんとなく?」

 

それに答えるのは由比ヶ浜。そうですか、なんとなくですか。

 

順番が来たので入ると、ひんやりとした空気に包まれる。うわぉ、本格的なお化け屋敷。

 

「ヒッキー、こういうの苦手?」

 

「ふっ。お化けなんかより人間の方が怖い・・・つまり、人間がお化けをやっているここが1番怖い」

 

「なんかもうダメダメだ!?」

 

ちなみに、その中でも怖いのが雪ノ下陽乃さんだったりする。いやほら、マジで怖いじゃんあの人。

 

 

ピロンッ

 

 

メールの着信音?俺の携帯にメールが来るとは、また珍しいこともあるもんだ。そういえば、昨日も久しぶりにメールが来たな。あ、待って、嫌な予感してきた。ああ、このメール開かなきゃ駄目かな。でも無視した方が怖いなぁ。

 

『突然なんだけどさ、怖い人って居るよね。君にとって、最も怖い人は誰なのかなぁ?』

 

もうやだ。なんで全部筒抜けなんですかね。もしかして見られてたりする?え?お化け屋敷でお化け役してる魔王とかそれなんて無理ゲー?雑魚だと思ったら魔王でしたーとか、笑えねぇだろそれ。

 

とりあえず、このメールは保留ということにしておこう。

 

「うわぁぁぁぁ!!」

 

「うぉっ!?」

 

隣からの叫び声に思わず驚いた声を出す。

 

「あはは、ちょっと驚いちゃった。ごめん」

 

「いや、まぁ、大丈夫だ」

 

特に問題もなくお化け屋敷が終わった。外に出ると、先に出ていた葉山たちと合流をする。

 

「ねぇねぇ、ヒッキー。向こうで戸部っちと姫菜が話してるよ」

 

「みたいだな」

 

戸部は木刀を持ち、海老名さんは新撰組の羽織りを広げている。なるほど海老名さんの趣味の話か、いい選択だ。

 

「さて、そろそろ行こうか」

 

「ん。じゃああーし、海老名たち呼んで来る」

 

葉山の声で、行動再開となる。

 

 

昨日からの違和感・・・なんだ、このどこか噛み合わない感じ。何か、別の思惑が動いているかのような、この感覚。

 

 

 

 

龍安寺。読み方はりゅうではなく、りょうが正しい。数ある寺の中でどうしてこうも龍安寺に人が集まるのかと問われれば、答えはそこの石庭にあると言えるだろう。龍安寺の石庭は様々な形に見えるという石がある。それを実際に見て確かめようと人は集まるのだ。

 

俺たちの班はその龍安寺に着き、とりあえず俺は縁側に座る。

 

なるほど、確かに色々な形に見えるな。

 

「あら、奇遇ね」

 

横からの声に、そちらを向くと雪ノ下が居た。なるほど、龍安寺の石庭にある石の形は虎に見えると言われている・・・虎はネコ科の動物、彼女の守備範囲内ということか。

 

「あ、ゆきのーん!」

 

「・・・場所を変えましょうか」

 

賛成だ。雪ノ下の隣に居る女子達から訝しげな視線を浴びており、非常に居心地が悪かった。それに、奉仕部が揃った以上、話す内容はあれしかない。となれば、あまり人に聞かせるものでもないしな。

 

 

 

「あまり協力できなくてごめんなさい」

 

「気にすんな。俺だってあんまり協力できてないし」

 

「あなたは気にしなさい」

 

フォローのつもりだったんだが、思いっ切り批判されました。流石は雪ノ下だ。

 

「これ、私の方でおすすめの観光スポットを考えてみたから、明日の参考に」

 

「流石ゆきのん!戸部っちに渡してみるよ」

 

「それで、彼らはどうかしら?何か進展でもあればいいのだけれど」

 

「まぁ、今のところは可もなく不可もなくってところだ・・・ただ」

 

ただ、何か違和感がある。由比ヶ浜から、海老名さんが戸部のことを恋愛対象としてプラスに思っていないことは分かっている。だが、それを踏まえてもどこか引っかかる。

 

そう、例えるなら、躓きそうな石を前もって誰かが取り除いているかのような・・・そんな不自然なまとまりがある。

 

「ただ?」

 

「・・・いや、ただそれで海老名さんに気付かれなければいいと思っただけだ」

 

実際、それもあるのだろうか?彼女が戸部の気持ちに気付いてる、もしその前提があるのなら・・・ここまでにしよう。恋愛においてそれを考えるのはあまりに無駄なことだ。ましてや他人のもの、そんなこと分かるはずもない。

 

 

 

 

ホテルに戻った後は夕食を食べ、部屋で自由に過ごす。

 

prpr

 

「もしもし」

 

『こんばんは比企谷くん』

 

夜の9時を過ぎた辺りで、雪ノ下さんから電話がかかって来た。出たくはないが、出ないとこのまま鳴り続けそうなので、大人しく出ることにした。

 

「え、ええ、こんばんは」

 

思い出したことがある。今日の昼間、この人からメールが来ており、それを返すのを忘れていた。

 

『ふふっ。大丈夫だよ、メールの返信が来なかったことなんて気にしてないから』

 

「いや、まぁ、はい・・・」

 

お、怒っていらっしゃる。この人、意外に構ってちゃん気質なところあるからな・・・え、なにそれ怖い。魔王に絡まれ続けるとかどうやっても勝ち目ないじゃん。なんなら逃げ場もないまである。ていうか、この人の場合は構ってちゃんと言うより、こちらに相手をさせていると言うのが正しいか。

 

『明日で修学旅行終わりだけど、何か感慨深いことでもあった?』

 

「今のとこはないですね。このまま終わってほしいばかりです」

 

『そっか・・・じゃあ、明日の夜はお姉さんとお散歩しようよ』

 

「拒否権って」

 

『え?あるわけないじゃん』

 

なにその絶対王政と人権無視。姉妹揃って俺のことを人間扱いしてくれないんですね、ははは・・・あれ?目から水が溢れてきたぞ。

 

『まぁまぁいいじゃないの。こーんな美人なお姉さんと京都で夜のお散歩ができるんだよ?これで君の修学旅行に花が咲いたわけだ』

 

否定できるところがないのが悔しい。それに、小町からのお願いリストの中に『素敵な思い出』なんてよく分からんものを書かれた。仕方ない、この人との散歩をそこに当てるとしよう。全く素敵な思い出じゃないけど。

 

「分かりました」

 

『よろしい。じゃあ、嵐山の竹林に集合ね』

 

 

きっと、無理にでも断っておくべきだったのだろう。

 

 

 

 

修学旅行3日目、自由行動。由比ヶ浜主導の下、奉仕部で過ごすことになっていた。

 

「はい、これ」

 

そう言い、由比ヶ浜から渡されたのは肉まん。

 

「あ、ありがと」

 

うむ、熱いが美味い。働かずに食べる飯、最高だ。なるほど、最高のスパイスとは空腹ではなく無償であるということだったのか。

 

3人横に並んで京都の街を散策する、悪くない気分だ。今までの俺では考えられないような感情が湧き出て来た。

 

 

 

嵐山の竹林、か。竹によって日陰ができ、時折通り抜ける風も相まってとても居心地がいい。笹の揺れる音も心を落ち着かせてくれる。

 

「夜になると、ここはライトアップされるそうよ」

 

下を見れば、足元にライトがある。これで下から竹林を照らすのか。

 

「告白されるなら、ここがいいね」

 

何故に受動態。

 

「そうね」

 

瞬間、風が俺たちを吹き抜ける。告白・・・戸部も告白にはここを選ぶのだろうか。

 

 

 

夜、俺は雪ノ下さんと合流するために嵐山の竹林にまたしても赴いていていた。ライトアップされている竹林と、その間を通る小道はどこか幻想的で惹き込まれそうになる。

 

「いい場所だよね、ここ」

 

「・・・居たんですね」

 

横から登場した彼女に、少し心が冷えるのを感じる。

 

「まぁね。さて、じゃあ1周しよう。今日はちょっと面白い話もしてあげる」

 

「そっすか」

 

この人にとっての面白い話とは、一体なんなのだろうか?大学のことか、最近あったことか、それとも、雪ノ下の話だろうか?

 

「この時期は湿気も殆どないから、涼しくて落ち着くよ。君もそう思うでしょ?」

 

「ええ、まぁ」

 

同感だ。場合によっては寒くもなるだろうが、今日はどうやら丁度いい気温らしい。涼しくて、とても穏やかだ。

 

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携帯が鳴った。相手を見てみると、そこには由比ヶ浜と書かれていた。

 

「はい、もしもし」

 

『ヒッキー、何してるの!?今、戸部っちが姫菜に告白するんだよ!』

 

「な、に?」

 

『場所は今日行った竹林ね。待ってるから』

 

マズイ、何かマズイことが起こる。このまま戸部が告白してもそれは失敗に終わる。それに、まだあの違和感が拭えていない。雪ノ下さんに気を取られ過ぎていた。まだここからなら遠くない、直ぐにでも行かなければ。

 

「やっぱり、今日のこの時間が告白のタイミングだったか」

 

彼女の方を見ると、その顔は妖しげで、されど美しい笑みを浮かべていた。

 

「修学旅行は3泊4日。告白するなら、もちろん3日目の夜がセオリーだ。そうすれば、例えダメだったとしても振替休日で期間が空くからね。心の整理ができるわけだ」

 

「じゃあ、俺をここに呼んだのは」

 

「そう、君を封じるため。もう自分でも気付いているんでしょ?奉仕部において、誰が1番直接手を下しているのか」

 

この人の言う面白い話、それはつまり、俺をここに呼んだ理由そのものであり、彼女がここに来た本当の目的。

 

「雪乃ちゃんが最も不得手とする恋愛絡みの依頼にどう動くのか、そしてそれをガハマちゃんはどう思うのか・・・言った通りでしょ?」

 

駄目だ。雪ノ下、由比ヶ浜、そのまま戸部に告白させちゃ駄目だ。何か、何かとても大きなものが壊れる。

 

「一昨日言ったあれは優先順位をそのまま表していてね、だから君がどうするのかはこの際どうでもいい。だって、私が何もさせないもの」

 

それでも、行かなければ。今すぐにでもあの場所に向かわなければいけない。まだ何かできるかもしれない。

 

 

 

「ねぇ比企谷くん。どうして君がそこに行こうとするの?君は、動かないんじゃなかったの?」

 

 

・・・?

 

 

そう、だ。なんで、こんなにも俺は必死になっているんだ?恋愛なんて俺には分からない。だから、できることなんて俺にはないはずだ。なのに、何故俺は『まだ何かできるかもしれない』と思っている?

 

 

「ほら、また雪乃ちゃんを助けようとする。嫌なんでしょ?依頼を失敗する雪ノ下雪乃を見るのが、知ってしまうのが・・・傷付けてしまうのが」

 

 

比企谷八幡において、雪ノ下雪乃とは憧れであり理想だ。だからそういう像を作り上げ、盲信的となる。

 

 

そういうことか。だから俺は焦っているんだ。戸部が振られれば、奉仕部としては失敗になる。そしてそれは、雪ノ下雪乃に傷を付けることになる・・・つまり、俺の中にある雪ノ下雪乃という像が壊れる。

 

 

prpr

 

 

またしても鳴り響いた携帯の着信音・・・まるで、審判が下ったかのような音に聞こえる。

 

「は、い」

 

『戸部っちが、戸部っちが・・・振られちゃっ、た』

 

「・・・そう、か」

 

そう言って、俺は電話を切る。

 

 

 

 

「比企谷くん、君はどうするのかな?」

 

 

 

 

 

彼女の目的は、またしても達成されてしまったらしい。

 

 

 

本当に、気分が悪い。

 

 

 

 

 

 

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