やはり俺の青春ラブコメの相手が魔王だなんて間違っている。 作:黒霧Rose
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修学旅行が終わった。
それでも何も変わらず、学校はいつものようにある。しかし、クラスに入ると、いつもの喧騒は無かった。
その原因は、葉山や三浦の居るグループが集まっていないからだ。いつもは教室の後ろに集まって会話をしているのに、今日はそれが無い。
『戸部が海老名に振られた』
それだけで、こうなるには十分な理由だった。由比ヶ浜の方を見ると、気まずそうに海老名さんと戸部を見ている。無理もない、奉仕部で請け負った依頼は失敗に終わったのだ。
そして、何故か俺の方を見ている葉山。
なるべく目を合わさないように、由比ヶ浜を見るついでの視界に入れる程度にしておく。何故アイツが俺を見る?
俺は文字通り何もしていない。否、何も出来なかった。
『だから君がどうするのかはこの際どうでもいい』
そう言って、彼女は・・・雪ノ下陽乃は、俺の行動を封じた。
*
由比ヶ浜との電話が終わった後、俺はその場に立ち尽くす。何か、大切なものが胸から消えたような感じがする。
「これで、漸く始められるね」
「何を、始めようって言うんですか」
目の前にいる彼女は、無表情のまま言葉を始める。
「・・・君と私の関係かな」
「・・・・・・は、はぁ?」
意味が分からない。何故、奉仕部での依頼失敗がそこに繋がる?俺はこの人が信用出来ないし、この人と共に在るつもりなんて無い。
「君は今、現実を知った。『雪ノ下雪乃は間違えない』・・・そんな理想は消えたんだよ。雪ノ下雪乃も間違えるし、正しくなんて無いし、強くもない。こんな当たり前の事に、君は気付けた」
止めろ。
止めてくれ。
それを、言わないでくれ。
あの日から、あの二学期が始まった日からそんなことは分かっていた。なのに、俺はそれを受け入れたくなかった。受け入れる事が、出来なかった。
だから、俺は雪ノ下が俺に『また明日』と言ってくる事が耐えられなかった。
だから、俺は雪ノ下が俺の味方をした事が気持ち悪く思えた。
比企谷八幡に肩入れする雪ノ下雪乃なんて、俺の中にある『雪ノ下雪乃』とは大きく違うものだったから。
この日、この時まで目を逸らし続けたのに・・・それを今、言わないでくれ。
「どこまで行っても、突き詰めれば私達は共に自意識の化け物なんだよ。理解を拒み、納得を拒絶し、共感を否定し、肯定を拒否する」
ずっと考えていた。
文化祭が終わった後、この人から言われた『自意識の化け物』という言葉の意味を。何故あんなにも、簡単に胸に落ちたのか。何故こんなにも、その呼称が馴染んでしまうのかを。
「その癖、悪意は受け入れ、敵意は受け取り、憎悪に頷いて、拒否に肯定をする」
簡単に胸に落ちたのか・・・そんなの、簡単な理由だったからに過ぎない。この人の言葉を聞いて、その答えがやっと分かってきた。元々、難しく考える必要も無いことだった。戸部が依頼に来たあの日に、もう答えは出ていた。この人の言葉の意味を考え始めた時点で、それが正解だったのだ。
「何故か・・・そんなの、負の感情こそが最も素直な評価だからだよ」
その答えの1つが、これだ。
彼女が今言った言葉、それが1つの証明だった。
「善は偽善で、優しさはまやかしで、真実は残酷で・・・負の感情はいつも正直」
真実が残酷だと言うのならば、優しさは嘘・・・それは他でもない、俺の言葉だった。あの日、俺が由比ヶ浜との関係をリセットしようとした理由。彼女の優しさという気遣いに、俺が耐えられなかった。俺は、そんなもの要らなかった。
「私達は押し付けられる事を嫌う、枠にはめられる事を嫌う。でも、自分は押し付け、枠にはめる・・・そうしなきゃ、他人を知る事が出来ないから」
雪ノ下に俺の理想と憧れを押し付けていたように、由比ヶ浜に俺の思いを押し付けていたように・・・俺は、1番嫌っていたレッテルを誰かに貼っている。
何故なら、俺はそうでもしなきゃ他人を理解する事が出来ないから。
「けど、仕方ないよ」
彼女は、諦めたように笑う。
ああ、そうか。だから、この人は俺を誘っているのか。
だから、雪ノ下陽乃は比企谷八幡と共に在る事を望んだのか。
「だって、私達は自分が分からないもの」
それが、全ての答えだ。
俺と同じ、簡単な正解だ。
「君は過去の経験から、私は家のしがらみから、過程は違えど本質は同じ・・・それは、自分自身の否定に他ならなかった。自分を否定され続け、気付けば自分が何者であるかを見失ってしまっていた」
俺のトラウマ、つまるところの過去のいじめ。自分の行動を否定され、自分の想いを拒絶され、嘲笑され、悪意に晒され、敵意を向けられ、そうやって自分が正しいのか、そもそも自分とは・・・比企谷八幡とは何かが分からなくなっていた。
だから、俺はそれら負の感情を信じた。それは正直で、素直で、嘘偽りの無い、自分に対する本物の感情だと知ったから。それらをベースにし、比企谷八幡という人間を俺は自分自身に押し付けた。
優しさだとか、そういう暖かい感情など、とうに信じる事なんて出来なくなっていたのだから。
「故に私達は自意識の化け物になった、否、ならざるを得なかった。自意識を高くしていなければ、直ぐに自分が霧散してしまうから」
ほらな、簡単な話だっただろ?
『自分が何者であるかを知らない』
本当に、ただこれだけの理由なんだ。
「そして、君の押し付けはここで終わってしまった。これで、漸く私と同じステージに来れたんだよ・・・だから」
もう、その顔に諦めは無い。
その笑みは、俺が今まで見てきたどの笑みよりも魅力的に思えた。ちぐはぐで、本当の笑みかどうかも分からない、彼女自身でさえ既に分からなくなっているような、そんな満面の笑みに俺の心は動いてしまった。
「比企谷くん・・・私と共に在りなさい」
俺は、自分が思う最高の笑みでその首を横に振ったのだった。
*
放課後、いつも通り奉仕部の部室に行く。扉の前に立つと、その部室からは何か重い空気のようなものを感じた。
とりあえず、ここで立ち止まっても仕方ないので意を決してその扉を開ける。
「・・・うっす」
「・・・こんにちは」
「あ・・・やっはろー、ヒッキー」
どこか暗い表情で、いつも通りの挨拶をする。そのまま、いつも通りの席に座りいつも通り本を開く。
俺の心は、笑えるくらいに落ち着いていた。
冷めて、冷え切って、凍えて、醒めてしまっていた。有り体に言えば、無。
「・・・修学旅行のあの日、あなたはどこに行っていたの」
「・・・散歩」
『あの日』・・・それは間違いなく戸部が海老名に振られた3日目の事だろう。嘘は言っていない、ただ真実でもない。雪ノ下さんと居たという所だけを切り取った、それだけの事実だ。
「・・・どうして、あなたは来なかったの?」
「いや、なんも伝えられてないし」
これは真実である。実際、あの日あの時に戸部があの場所で告るなんて知らなかった。だから俺は無罪だ。それでも誰が悪いのかを決めろと言われたら、俺は迷わず雪ノ下さんを選ぶ。あの人が京都に来ていたのが悪い。
「・・・そう」
「ああ」
それっきり、会話は無くなった。俺も雪ノ下も手に持っている本に目を向けて、口を開こうとはしなかった。
由比ヶ浜は、教室のように俺と雪ノ下を見てはその口を開こうとして閉ざす。それを、ただひたすら繰り返していた。そう言えば、由比ヶ浜は元来こういう奴だったな。空気を読み、気を遣い、感情の機微を掴もうとする。
本当に、優しい女の子だと押し付けてしまう。
コンコン
扉が叩かれると、平塚先生が入って来る。
「邪魔するぞ。少し頼みたい事がある」
彼女の後ろには、城廻先輩ともう1人亜麻色の髪をした少女が居た。その顔立ちは整っており、十分美少女と呼べるものだった。俺と目が合うと、困ったような顔をして笑う。
なるほど、俗に言うあざといというやつだ。
中学の頃によく居たよ、こういうの。そりゃもう学年中の男子を手玉に取っていた。お手玉感覚とか、何?君達は大道芸人でも目指してるんですか?いや、まぁ、うん・・・見た目が見た目なだけに男心が揺れない事は無いんですよ、そりゃあ。
しかし、脳裏にちらつくあの怖い魔王を思い浮かべれば可愛いものだ。
また面倒な事が起きそうな予感がある中、俺は再び読書に戻った。