元太刀の勇者は立ち直れない   作:ボトルキャプテン

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番外編ー2暴食を司る魔王 ベルゼブブ

獄中生活2日目、昨夜は夜中に収監された為に俺は監獄の1日の始まりが分からなかった。2日目の早朝の監獄中に突然賑やかな音楽が流れ始めた。俺は驚き飛び起きた。

 

チャンチャチャチャン♪チャチャチャッチャンチャン♪パフ♪

 

「なっ!?なんだ!?なんだ!?笑点かっ!?」

《なっなんですか!?この音楽は!?》

 

目を擦りながら北枕のベッドから起き上がると、アザゼルが騒ぎ出した。

 

「おーい、アンドロマリウス!朝の体操の時間やで!はよ起き!」

「アザゼル待ってよ!どこ行くの!?」

「朝の体操が毎日の日課なんや、いくで!」

いつの間にか鍵は開いており、檻から出ると、様々な悪魔達が外に向かって走り出していた、俺と魔竜も慌てて外に出る。外に出た途端、他の悪魔達は整列しており、待っていた。

 

「アンドロマリウス!こっちや!」

「あっうん……」

 

俺もアザゼルの隣に立ち、準備を終えると笑点のBGMは止まり、今度は……聞いた事のある音楽が鳴り響いた。

 

※おジャ魔女どれ〇のオープニング※

 

えっ待って?待って、待って何これ!?

 

ドッキリドッキリドンドン♪不思議な力湧いたらどーしよ?どーする?

 

音楽に合わせてイカつい悪魔達がキレッキレのダンスを始めた。俺は理解が追いつかず、とりあえず見様見真似でダンスを真似する事にした。あのおしゃべりなアザゼルもこの時はものすごく真剣だった。

 

「えっ……これ何なの?さっきから何なの!?」

「おやおや?新入りさんですかね?」

 

ぎごちないダンスをしていると、俺は隣の悪魔に声を掛けられた。その悪魔は、凛々しい顔立ちをしており、蝿の様な頭に虫の羽根を生やした悪魔が華麗な動きでダンスをしていた。俺はその蝿の悪魔に声を掛ける。

 

「アンタは?」

「私は七つの大罪が1人、暴食を司る魔王・ベルゼブブと申します」

「ベルゼブブ!?」

 

ゲームや漫画で高確率で出て来る最上級悪魔のベルゼブブ。コイツが……

 

暴食のベルゼブブとは… 七つの大罪の1つ暴食の大悪魔で魔神の君主、あるいは魔界の君主とされるようになった。 地獄においてサタンに次いで罪深く、強大なもの、権力と邪悪さでサタンに次ぐと言われ、実力ではサタンを凌ぐとも言われる魔王である。ベルゼブブは神託をもたらす悪魔と言われ、また、作物を荒らすハエの害から人間を救う力も持っている。この悪魔を怒らせると炎を吐き、狼のように吼えるとされている。

 

こんな見た目の奴が七つの大罪の1人だと!?……だが、奴の目はどこか冷めた目つきをしている、敵に回さない方が無難だ……。

 

「あんたは何をして捕まったんだ?」

「そうですねぇ、とある女性にとりついて国家転覆を目論んだと言えばいいでしょうかね?」

「そうなのか、七つの大罪の暴食ってそういう罪を犯してたのか……」

《そのようですね、お気をつけ下さい。この悪魔……ものすごい力を持っております!》

 

俺とベルゼブブが話していると、アザゼルが声を掛けて来た。

 

「べーやん、こいつ珍しい魔族なんやで?」

 

べーやん!?あー、ベルゼブブのあだ名か?

 

「アザゼルくん、どういう意味なのですか?」

「べーやん、コイツ、正義を司る魔王らしいで?」

 

ベルゼブブは眉毛をピクっとさせて反応する。

 

「ほう、確かに珍しい悪魔ですねぇ?」

「そうなのか?イマイチピンと来ねぇよ」

《龍二様、もしかして…カースシリーズが関係してるのではないですか?》

 

なるほど…”正義”のカースシリーズを解放したから正義を司る魔王になれたのか。

 

魔竜に言われたのを聞いて考え込んでいると、朝の体操の時間が終わった。そのまま悪魔達は食堂に向かって行く。

 

「まぁ、とにかくあなたは異質の魔王という事ですよ」

「せやせや、朝の体操も終わったし、飯の時間やっ!」

「なぁ?アザゼル、ベルゼブブ、ここの監獄の飯はどんな感じなんだ?」

 

食堂に向かいながら俺は2人に尋ねる。

アザゼルとベルゼブブは鼻息荒らげながら答えた。

 

「まぁ、悪くは無いな?」

「ええ、悪くは無いですよ?特にこの天界監獄の人気メニューはカレーです!」

「へぇー、この天界にもカレーなんてあるんだ」

「えぇ、私、カレーには目が無いものですからねぇ」

「ほんまにべーやんはカレー好きやのう?」

 

そう言いながら3人は食堂に辿り着き、朝飯を今週の朝食当番の囚人に用意しもらってテーブルに座り、号令を待った。朝食当番も席に着き、号令をしようとした、その時。

 

たのもー!たのもー!

 

どこからともなく声が聞こえて来た。それを聞いた囚人達は騒ぎ出す。

 

おい!誰だよ大事な朝食時間邪魔しやがってよぉ!

ざっけんなよ!どこのどいつだクソ野郎がぁ!

 

ベルゼブブとアザゼルは騒ぎ出す囚人達をジト目で送りながらため息を吐き始める。

 

「はぁ、ったくなんやねん!カチコミかいなっ!」

「まったく……朝食に殴り込みとはいい度胸をしてますねぇ」

「えっなんなの?これ?殴り込みって?」

 

俺はおしぼりで手を拭きながら号令を待っていたら他の悪魔達は怒りだした。すると、外にいた看守が食堂に入って来て悪魔達に言い放った。

 

「囚人共、誰でもいいから相手をしてやってくれ」

 

その言葉を聞いた悪魔達が更に暴れる。

 

ふざけんなよ!

横暴すぎんだろうが!

上等じゃい!ぶち殺してやるわ!

 

悪魔達は殺気立たせながら外に出て行く、中にはめんどくさくて席から離れない奴もいたが、アザゼルとベルゼブブは野次馬感覚で立ち上がる。

 

「おもろそうやからワイらも行くか?」

「そうですねぇ、アンドロマリウスも行きますか?」

「まぁ監獄に殴り込みに来るバカがどんなもんなのか見たいから俺も行くよ」

 

そう言って俺達は席を立って食堂から出て、看守と共に外へ出て行く。監獄の入り口に行くとそこには、犬、猿、雉を連れており、「日本一」の旗を掲げた男が立っていた。悪魔達はゾロゾロ揃う。俺やアザゼル、ベルゼブブは後ろに立ってひょこひょこジャンプしながら見ていた。

 

よく見えねぇけど、旗を見る限り、桃太郎……かな?

 

すると、アザゼルが大声を出して悪魔達に道を開けさせ、俺とベルゼブブはアザゼルと共に野次馬の前に出た。

 

「おらおらどかんかいっ!」

「ちょっと失礼しますね」

「あっ!ちょっと2人とも!?」

 

野次馬の最前列に来た俺達は騒いでいる張本人を目の当たりにした。着物を着ており、ハチマキを巻いて、刀を2本腰に下げている。顔は……ポチャッとしており、お世辞にもイケメンとは言えなかった。

 

まんま桃太郎じゃん……。

 

桃太郎らしき人物は俺達に向かって指を指した

 

「あっ!そのものすごい魔力……貴様、魔物だな?」

「なんやあのブサイク」

「アンドロマリウスくん、あなたの事では?」

「えっ……俺!?」

「最上級の魔物と見た、ならば、尋常に俺と勝負しろっ!」

 

桃太郎は刀を抜いて構えだした。取り巻きの犬、猿、雉はわーわー騒ぎ立てる。俺はベルゼブブにヒソヒソ話し出す。

 

「ねぇ、アレほんとに桃太郎?もうちょいイケメンかと思ったんだけど」

「そうですねぇ、お世辞にもイケメンとは言えませんね」

「おいっ!そこでヒソヒソするなぁ!」

「こんな朝っぱらから道場破りみてぇな事してよぉ、生前お前も英雄の1人なんだろ?こんな事して、恥ずかしくねぇのか?」

 

俺は面倒事を抑える為に桃太郎を説得したが、聞く耳を持たず刀を肩にトントンし始める。

 

「いーや?恥ずかしくないね、鬼を退治してこそ桃太郎なんだから」

「いや俺ら鬼じゃねぇし、悪魔だし」

「お前らかもなんか言ってやれよ相棒達!」

 

桃太郎はお供の動物達に話を振ると、犬達は答えた。

 

「俺はきびだんご目当てだし?もう辞めたい」

「最近きびだんごより美味しい物を発見したからもう辞めたい」

「雇用形態に不満を感じるから転職を考えてる、もう辞めたい」

「英雄の部下なのになんだその言い草は!!」

 

俺達を他所に桃太郎達は勝手に揉め始める。俺は桃太郎のイメージをこれ以上壊さないようにする為、帰るように促す。

 

「要するにこの子らはついていけねぇって事だよ。これ以上俺のイメージが崩壊しちゃうから、帰ってくんね?」

「お前も売られたケンカくらい買えよ!鬼っ!」

 

鬼じゃねぇってば、悪魔なんだってば。

なんなのこのブサイク、めんどくせぇ……

 

「なんやコイツ、はよ帰れや、鬱陶しい」

「早く帰ってくれますか?朝食が冷めてしまうじゃないですか」

「かーえーれ、かーえーれ!」

 

俺達は帰れコールをすると、悔しくなったのか、桃太郎はプルプル震え、顔を真っ赤にして最早泣きそうになっていた。

 

「なっなんなんだよぉ!なんなんだおぉ!」

 

桃太郎は急に怒りだし、地面をドンドンさせて怒りを露わにする。

 

怒り方が子供っぽいっ!

 

桃太郎は半べそをかきながら俺に指を指す。

 

「お゛ま゛え゛俺ど勝負じろ゛!」

「えー俺?」

 

とんだとばっちりを受けた俺は後退りをする。すると、アザゼルとベルゼブブは俺に囁く。

 

「アンドロマリウス、ここはチャンスやで?」

「チャンス!?なにチャンスって!?」

「あなたは新入り、今後他の囚人から絡まれる可能性があります。ここは力を見せ付けて舐められないようにするのが無難かと思いますよ?」

 

なるほど、ここは魔王クラスの奴らがわんさかいる。

舐められないようにするのが得策か……。

 

意を決して、俺は桃太郎の前に立った。

 

「よし、んじゃやるか?ブサイク」

「よっしやぁ!桃太郎の剣術、見せてやるぜ!」

「剣持ってないけど、仕方ない素手で戦うか……」

 

俺は武器を持ってなかったので格闘スタイルで構えた。桃太郎は無鉄砲に突っ込んで来た。

 

太刀筋めちゃくちゃだな……

 

ガキン!

 

「えっ……?何その腕……?」

 

桃太郎の刀を魔力で形成された翼脚で掴まれていた。

 

《あまり調子に乗るんじゃないわよ?坊や?》

「なんだ魔竜、お前がやるのか?」

《ええ、龍二様が手を下す事もありませんよ。はぁっ!》

 

バキン!と音を立てながら桃太郎の刀をへし折り、もう片方の翼脚でゲンコツを炸裂させ、地面にめり込ませた。

 

「よわっ……その実力でお前、良く鬼倒せたな?」

 

哀れな桃太郎を見つめながら呟くと、犬達が真実を教えてくれた。

 

「実はあの時の鬼達はベロベロに酔っててさ」

「そうそう、宴が終わった後を狙ったりしてね」

「コイツは兵法とか言ってるけど、かなり汚い戦い方だったぞ」

 

正義ってなんだっけ?

 

「まぁとにかく勝負はついた。さっさと連れて帰れ!」

「朝早くにごめんなさい」

「起きたらうんと叱って置くので」

「勘弁して欲しい」

 

そう言い残し、犬、猿、雉は桃太郎を引きずながら帰って行った。

悪魔達も終わった終わった、と言いながら食堂に帰って行った。

 

今日学んだ事は……桃太郎はブサイクって事だった。


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