いちばん小さな大魔王!せかんどし〜ずん:りゅう兄のうわき現場 作:コントラポストは全てを解決する
「竜介お兄様!お迎えに上がりました!」
あことりゅう兄がデートをしていると、目の前に見知らぬ女の子が現れた。竜介お兄様──りゅう兄の隠し妹だろうか。長年りゅう兄と一緒にいたが、まさかりゅう兄に妹がいたとは。
「え、君誰?」
りゅう兄は知らないようだ。
「私です!こないだ中央通りのカフェで奢って貰った倉田ましろです!」
「…………あぁー……。もしかして、財布無くして泣いてた子?」
「はい!お財布無くして泣いてました!」
どうやら思い出したようだ。
「お財布は見つかった?」
「はい!交番にありました!」
「それは良かった」
めでたしめでたし。
「じゃ、俺達はこれで。次からは気をつけるんだよ」
「待ってください!」
「?」
なんだろう。あこのりゅう兄にまだ用があるのだろうか。
「あの、良かったらご一緒にお茶でもと思いまして……」
「ごめんね。今彼女とデートしてるんだ。だからまた今度に──」
「彼女さんも一緒で大丈夫です!」
「いやでも──」
「大丈夫です!」
ましろという子は、キラキラした目でりゅう兄を見ていた。これは断りずらそうだ。
「あこ、ごめんな」
「ううん、気にしないで。その代わり、帰ったら、ね?」
「わかった」
やった。帰ったらりゅう兄といっぱいできる。
「えっと、ましろちゃんだっけ?」
「はい!」
「お誘いの件だけど、俺たちで良かったら喜んで」
「ありがとうございます!」
ましろは嬉しそうにしていた。りゅう兄とのデートはダメになっちゃったけど、この子が嬉しそうだからなんだかいい気分だ。
_____
ましろに連れられ、あこ達は月ノ森女子学園という学校が近くにあるオシャレで高級そうなレストランにやってきた。
「あの、ましろちゃん?」
「なんでしょうか」
「俺たちてっきり、喫茶店とかに行くのかなーなんて思ってたんだけど……その、大丈夫なの?ここ高そうだし」
「このお店、私の両親が経営してるんです。だからお金のことは気にしないでください」
こんな高そうなレストラン、きっとあこ達が入る機会なんて本来ないのだろう。けど、りゅう兄とましろのおかげでいられる。感謝感謝だ。
「こちらメニュー表です。好きなのを頼んでください。竜介お兄様」
「そういえばずっと気になってたんだけど、その竜介お兄様ってのは?」
「あ、いえ。私の学校、年上の人をお義姉様と呼ぶので、そのくせでつい……。嫌でしたらすぐにやめますので……」
「ううん、ちょっと気になった程度だから気にしなくて良いよ。それにしてもましろちゃん、年下だったんだね。何歳?」
りゅう兄、女の子に年齢聞くのは失礼なんだよ。
「16歳です。今年高校生になりました」
「一個下か。あこと同じだな。……あ、今更だけど、俺の隣にいるのが──」
「宇田川あこさん、ですよね」
「知ってるんだ。あこも前に会ったことがあったのか?」
「え、ないよ?」
あこ、ましろなんて知らない。こんなに可愛い子、1度会ったら覚えてるはずだ。
「いえ、私が独自に調べあげたんです。神楽竜介──羽丘学園に通う17歳男性。東京都雀小区羽丘町3-7-2の一軒家にご住まいで、ご両親は離婚のため両方ともご不在。2年前までご祖父と生活していましたが一昨年お亡くなりに。特技、好きなことは家事全般。好きな食べ物はあこさんの作ったもの。嫌いなものは特になし。強いて言うなら辛味系食品。お気に入りの場所は羽沢珈琲店。華道の名門、美竹家と交流があり、ピアノ界の彗星こと白金燐子さんとは一緒にゲームをする仲。世界の大財閥弦巻家の一人娘と一夜を共にしたと噂されています。男性のご友人は現在確認できている中で三名。女性のご友人は現在調査中ですが、確認出来ている数だけでも20数名います。女性からの告白回数は100を超えております。現在はRoseliaのドラマー担当であり、Afterglowドラマー担当の宇田川巴さんの妹である宇田川あこさんとお付き合いをなされている。接吻の回数は既に200を超え、夜を共にした回数は78回。おおよそ2日に1回のペースですね。さらに──」
この子、ヤバい(語彙力無双)
「ねえ、ましろ」
「なんでしょうか、あこさん」
「それ、ましろが調べたの?」
「はい──いえ、正確には家の人に手伝っては貰いましたが──」
ましろの手には、分厚いメモ帳があった。それにりゅう兄のことがこと細かく書いてあるのだろう。
「あんまりりゅう兄のことを調べるのはやめて欲しいな。りゅう兄にもぷらいばしーがあるんだからね」
「……はい。すみません」
「あこ、少し強く言い過ぎじゃないか?」
「りゅう兄、ましろに家の事とか全部知られてるんだよ?個人情報だよ?ちゃんと守らなきゃダメでしょ」
「……はい。ごめんなさい」
全く、りゅう兄は。女の子に甘いんだから。
「それで、ましろはりゅう兄の情報をどうする気?ネットにバラすの?」
「そ、そんなことしません!御恩がある竜介お兄様の情報をそんなぞんざいに──」
「ご恩って、お財布無くしたところにたまたまりゅう兄が居合わせただけでしょ?ちょっと大袈裟すぎじゃない?」
「そ、そんな!竜介お兄様には一緒にお財布を探して貰った上に、喫茶店のお茶代と帰りの交通費代まで見て貰って……とにかく!大袈裟じゃないんです!ほんとに助かったんです!」
なんかこの子、りゅう兄に餌付けされてない?
「まあ、ましろがそう思ってるなら良いけど。でも、ひとつだけ」
「な、なんですか」
「りゅう兄はあこのだからね」
「──ッ!」
あこは隣に座るりゅう兄の腕を抱き寄せた。りゅう兄はあこのものだとアピールするために。何となくだが、この子もりゅう兄に惚れているような気がする。
「りゅ、竜介お兄様の存在は、竜介お兄様だけのものだと思います」
「え?」
「か、勝手に自分のものだと言うのは、竜介お兄様に対する侮辱です!あ、謝ってください!」
…………あっ?(天下無双)
「りゅう兄はあこのだもん!りゅう兄だって認めてるんだからね!」
「たとえ竜介お兄様が認めていても!人の存在を勝手に自分のものにするのは悪人のすることです!やめるべきです!」
あー言えばこーいう。
「こらこら2人とも、喧嘩はいかんよ」
「「だってましろ(あこさん)が!」」
「はいはい。フライドポテト頼んだからそれ食べて落ち着こーね」
りゅう兄はわかってくれない。
「りゅう兄はあこのだよね」
「?……何当たり前なこと言ってんだ」
「ほら、見たか!」
これでましろも大人しく──
「竜介お兄様!自分の存在は自分で保持していないと行けません!もしいつかあこさんが、《竜介は自分のもの》という口実で命令権を行使しだしたらどうするおつもりですか!」
「んー……そう言われるとそんな気もしてくるけど──」
「ですよね!」
「でもね、ましろちゃん──」
りゅう兄はお冷を飲みながら、ましろをまっすぐ見つめて言った。
「俺は望んであこのものになったんだ。あこが主で俺は幸せだよ」
「ですが……」
「ましろちゃんが心配してくれるのは嬉しいよ。でも、ちょっと杞憂かなって。あこは絶対そんなことしない」
「な、なんで言いきれるんですか……」
「俺があこを信じてるからかな」
「し、信じるだけじゃ、いつか裏切られちゃうかもしれませんよ?」
「まあ、あこになら裏切られても、なんなら殺されても良いって思ってるからな」
あこはりゅう兄を裏切ったり殺したりなんかしないのに……。
「いつか後悔することになるかもしれませんよ……それでもいいんですか?」
「俺はあこと一緒にいたことを絶対後悔なんかしない。それだけは自信を持って言える」
「あこさんが毒女だったとしてでもですか」
「毒女だったとしてもだ」
さっきからあこが裏切るだとか、りゅう兄を殺すだとか、毒女だとか、あこをなんだと思ってるのだろうか。ましろとりゅう兄は。
「わかりました。今回は諦めます……。ですが!いつか必ず、竜介お兄様をあこさんの魔の手から救い出してみせます!負けません!」
「あはは……。俺とあこを引き剥がして何をするのかは分からないけど、俺はあこと別れる気はないよ」
「いつか、絶対に!」
「が、頑張ってね……」
「はい!」
あこもりゅう兄と別れる気はない。それと、何となくだがましろの狙いがわかったかもしれない。あこに色々言ってきたましろだが、結局はりゅう兄が欲しいんだけなんだと思う。そういう目をしてる。りゅう兄が優しいから好きになったのか、それとも別の理由があるのかは分からない。まあ、りゅう兄のうわき相手が増えてしまったことに変わりはないけど。
はぁ(クソデカため息)
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ましろの家でご飯を食べた後、あことりゅう兄は帰路についた。結局あのまま、ましろはあこを敵を見るような目で見てきたし、りゅう兄のことはキラキラした目で見ていた。わかりやすい子だったとは思う。
ましろもいつか家に来るのだろうか。そうなったら賑やかになりそうだ。あこは歓迎しない。
「いやー変わった子だったな、ましろちゃん。あこから見てどうだった?」
「まあ、りゅう兄が良かったなら良いんじゃない」
「なんか機嫌悪そうだな」
「別に……」
あこは別に機嫌が悪いわけじゃない。わけじゃない。
「まあ、遠回しに俺と別れろって言われたら嫌になるよな。ごめん」
「りゅう兄は悪くないもん……」
「俺も気が回らなかったからさ。だからごめん」
りゅう兄はそう言いながら、あこの頭を撫でた。優しく、あこの髪型を崩さないように、ふんわりと。りゅう兄のなでなで、やっぱり好き。
「さてと、帰ったら何しようか」
「……りゅう兄、約束忘れてないよね」
「約束………………ああ、そうだったな。あんまり激しくしないでくれると助かる」
「嫌。今日はいっぱい激しくする」
「わぉ」
今日のあこは一味違う。りゅう兄にあこと言う存在を刻み込むのだ。ましろなんかに負けないように。