いちばん小さな大魔王!せかんどし〜ずん:りゅう兄のうわき現場 作:コントラポストは全てを解決する
《ハルキ,アクセスグランテッド》
「宇宙拳法!秘伝の神業!──ゼロ師匠、セブン師匠、レオ師匠」
《ゼロ、セブン、レオ》
「押ォ忍ッ!!!」
『ご唱和ください、我の名を!ウルトラマンZ!!!』
「ウルトラマン、ゼーット!!!」
《ゼヤァ,ジュワ,イヤァ!ウルトラマンZ,アルファエッジ》
ナツカワ ハルキ役の神楽さんが、スポットライトとプロジェクションマッピングの光に照らされながら役を演じる。
羽丘学園の体育館に集まった小学校低学年の男女児達がワイワイざわめき、皆が神楽さんに視線を注目させていた。ジブン──大和麻弥は裏方にてそれを見届ける。
今日は羽丘学園が定期的に行っている、近隣の小学校に通う小学生達を招いた羽丘学園演劇部主催──演劇部公演会の日だ。演目は最近なにかと男の子達に人気のあるウルトラマンZというヒーローものと、女の子が大好きな女性ヒーロー──ヒーリングっどプリキュアの2品目を講演する予定だ。
ちなみに、両演目、主人公は神楽さんが務める事になっている。どうしてこうなった。
ああ、わかっていますとも。羽丘学園の華、演劇部のエース──薫さんが敵役に回り、主人公を誰にするかの多数決で、皆神楽さんを選んだのだ。もう演劇部所属ではない神楽さんを。皆神楽さんが好きすぎる。
神楽竜介──元演劇部員で、よく薫さんのサポートをしていた人。薫さんが主役になれば、神楽さんは敵役に。薫さんが敵役になれば、神楽さんは主役に。そんな関係だ。人当たりもよく、差し入れも良い頻度で持って来てくれるために、部では薫さんに次いで人気だった。しかし、神楽さんはどういう訳か、演劇部をやめてしまった。なにか事情があったようだが。
そんな神楽さんが推薦され、神楽さんがそれを受け入れ今に至る。役2週間で演目の全てを叩き入れた彼には尊敬の念を送った。
以前、神楽さんが演劇部にプロジェクションマッピングを取り入れたいと言っていたが、まさか彼自身がプロジェクションマッピングの機材諸々を揃えて来るとは思わなかった。しかもそれを演劇部に寄贈するとは。恐れ入った。でも、そのおかげで子供達も大興奮である。派手な演出がウケているのだ。
『「ゼスティウム光線!」』
そう神楽さんともう1人の声あて役の人が叫ぶ。それを合図にジブンはパソコンのプログラムの中にある『光線』と書かれた欄を押した。すると、会場のプロジェクターを通して、何やら多数の光の線が照射される。これが彼らの言う『ゼスティウム光線』なのだろうか。元を知らないので分からない。まあ、子供達が喜んでいるから良いのだが。
怪獣役の人が退場。無事に悪を成敗しエンディングに入った。この後は、女の子向けのヒーリンなんちゃらプリキュアだ。次の準備に取り掛かろう。
『ウルトラマンZ〜from beginning〜の公演は終了しました。ご清聴いただきありがとうございます。続いては──』
男の子向けの公演が終了し、そのまま続いて女の子向けの劇が始まる。正直、今回はこれを1番の楽しみにしていた。神楽さんの女装が見れるのだ。先程も言ったが、今回の劇はウルトラマンもプリキュアも、主役は神楽さんが務める事になっている。つまり、神楽さんはなるのだ、プリキュアに。どんな風に仕上がるのだろうか。
「みんな〜!こーんにーちはー!」
ボイスチェンジャーとウィッグを使い、声色と髪色が変わった神楽さんが……神楽さんですよね?あ、神楽さんすか。神楽さんが出てくる。女児達が黄色い歓声をあげて見ていた。よく見るとあこさんがいる。というか、小学生達の後ろで羽丘学園の全校生徒が見てる。よく全員入ったっすね。うちの体育館広い。
オープニングが流れ、神楽さん及びその他諸々の人達が演技を始める。濃い紅色のウィッグをつけた神楽さん(花寺のどか役)が友達と話す日常パート。そこから敵役の薫さんが大地を汚すため悪性ウイルスを撒き散らし怪人を登場させる。その怪人が客席の小学生の中からランダムに数人誘拐。子供達を舞台に上がらせる。それを神楽さんが助けるのだ。
さあ、ここからがメインです。膨大なプロジェクションマッピングを使用した変身シーン。
「プリキュア、オペレーション!」
『エレメントレベル、上昇らび!』
「『キュアタッチ!』」
変身シークエンスを終え花寺のどか(神楽さん)は変身した。
「重なる2つの花、キュアグレース!」
マゼンタの長い髪、白と髪色同様の色を基調にしたドレス、ステッキのような変身アイテム。おおよそ男とは思えない格好をした神楽さんがそこにいた。客席のあこさんを見ていると、神楽さんの事をキラキラした目で見ている彼女の姿が。あこさんは彼氏の女装姿を見て何を思うのか。ジブンはとても気分が高揚してます。
嗚呼……神楽さんカワイイなぁ……フヘヘ。
「寄生怪人ウルギーガ!子供たちを返しなさい!」
「ふふっ、そういう訳にはいかないね。子供達は返さないよ!」
主人公と悪役のお約束のやりとり。子供達は早く助けて欲しそうに神楽さんを見ていた。客席の高校生組は、そんな小学生達を微笑ましく眺めている。ただ、あこさんだけは純粋な目で、ただまっすぐに、自分もあそこに行きたいと、そういう目をしていた。いや年齢……。相変わらず子供っぽい性格をしているようで。
主人公のステッキと敵役の剣が鍔競り合い、白熱のバトルを繰り広げ、子供達が歓声をあげる。裏方のジブン達がプロジェクションマッピングと音楽とスポットライトで一斉に盛り上げてるので、迫力に拍車がかかっている事だろう。
「はぁッ!せいっ!」
「ふッ、そんな攻撃効かないよ!」
「ッ!?きゃあ!」
ここで主人公にピンチ。敵役の薫さんに追い詰められてしまう。後方に吹き飛ばされる神楽さんの演技は、大胆で、なおかつ女の子っぽい仕草と声だった。
主人公のピンチに、客席の小学生達から『がんばれー!!!』と声援が送られる。本来ならここでナレーション役が「キュアグルースを応援しよう!」と一声入れるはずだったが、それは要らなかったようだ。
「私は負けない!エレメントチャージ!」
《ヒーリングゲージ、上昇!》
「プリキュア!ヒーリングーフラワーッ!!!」
お約束のピンチのあとは、お約束の必殺技。神楽さんの必殺の掛け声に合わせて、パソコンのプログラムを作動させる。すると、綺麗なピンク色のブームエフェクトが出てきた。これを浴びた薫さんが、悲痛の声を出しながら退場する。無事子供達は救出されたのだ。めでたしめでたし。
この後は子供達への応援の一言とエンディングで閉め、劇は終わった。子供達は男女両方とも満たされた顔をしている。その顔が見たかった。演劇に感激するその顔が。
最後にひとつ。神楽さんカッコカワイイ。
───────────
『お疲れ様でしたー!』
演劇部部室にて軽い打ち上げが行われている。いつもひとつ劇が終わると、こうして皆で打ち上げをあげるのだ。お菓子とジュースを買って、皆でワイワイ盛り上がる。これがいつも通り。
ただ、いつも通りじゃないことがひとつ──
「ほらほら薫先輩。もっとぐいっとぐいっと」
「ふふっ。ロミオは随分と気分が高揚してるようだね」
「じゃあなんすか、俺のオレンジジュースは飲めないって言うんすか」
「はいはい。いただかせて貰うよ」
神楽さんがいる。皆でワイワイガヤガヤしてる中に、神楽さんがいる。
どうやら、あの
これは、千載一遇のチャンスなのではないだろうか。ここで神楽さんともっとお近づきになれば、将来あの女狐(あこさん)から神楽さんを奪う事も夢じゃないはず。
「神楽さん」
「あ、麻弥さん。お疲れ様でっす」
「お疲れ様っす。これどうぞ」
「あざまっす!」
神楽さんにコーラとポテチを渡す。悪魔のコンボだ。このコンボからは逃げられない。さあ、神楽さん、コーラとポテチのコンボで堕ちてください。
「うまうまです。麻弥さんも一緒に食べましょ?」
そういって神楽さんは、ポテチを1枚ジブンに向けて来る。これはまさか……伝説のあーんというものだろうか。神楽さんがあの女狐といつも見せつけるようにやってるあーんですか。でも、本来こういうことは親密になった関係の男女がするもの。つまり、神楽さんとジブンはもう親密な関係?結婚待ったナシってやつっすか(勘違い)
「フヘ、フヘヘ〜」
「?……麻弥さん、どうしたんですか?」
「あ、いえ。なんでもないです。いただきまっす!」
神楽さんにあーんをして貰った。ポテチがいつもの倍美味しく感じた。これが神楽さんマジック。ああ、いつも神楽さんにあーんで食べさせて貰えるあの女狐が羨ましい。早く神楽さんをジブンのものにしなければ。
「神楽さん、今日はお疲れ様でした!いつも通り名演技だったっす!」
「麻弥さんも裏方お疲れ様です。麻弥さんのおかげで、俺はいつも羽を伸ばす事ができてます」
「フヘヘ、ありがとうございます」
神楽さんがニコニコしながらそういった。とても嬉しそうにジブンを褒めてくれる。神楽さんのそういうところが、ジブンの心を焚きつけるんすよ。
「いやー、ほんとは仮面ライダーもやりたかったんですが、スーツ作ってる時間がなくて……。いつか挑戦したいですね」
「そうっすね」
あんなに出来の良いスーツを作っておいて、まだやりたいことがあるんですね。そんな神楽さんがジブンは好きです。
「それで、どうですか神楽さん。これを気に、また演劇部に戻って来るって言うのは──」
「あはは、それもいいですね」
「じゃ、じゃあ──!」
ジブンが裏方から支えて、神楽さんが舞台で咲く。そんな、舞台夫婦みたいな関係になれたら──
「でも、ごめんなさい。今の俺には、帰りを待ってくれる人がいるんです。だから、その……あんまり待たせたくないって言うか」
「あ、あはは……そうっすよね。演劇部は帰りも夜遅い事が多いですし……。あこさん心配しちゃいます、よね……」
嗚呼──結局、あの女狐が邪魔するんすね。ジブンと神楽さんの仲を。忌々しい。一刻も早く、あこさんから神楽さんを救い出さねば。あの女狐に神楽さんはもったいない。
「麻弥さん?どうしたんですか、そんな怖い顔して」
「そ、そんな顔してましたか?」
「はい。ほら、笑って笑って。麻弥さんは笑った顔が1番素敵ですから」
神楽さんはそういいながら、ジブンの頬をクイッと手で持ち上げ、無理やり笑みを作らせた。まったく、神楽さんはそうやってすぐ乙女を口説くんすから。それで何人の女の子が勘違いしたと思ってるんすか。
「か、神楽さん、乙女の肌はデリケートなんスから、そんな気安く触れないで欲しいっす」
「あはは。すいません」
もしここで、もっとジブンに触れて欲しいと神楽さんに頼んだら、神楽さんはジブンを意識してくれるんでしょうか。
「あの、神楽さん……」
「はい。なんでしょうか」
「神楽さんは、ジブンの事、す、好き……ですか?」
思い切って聞いてみた。きっと、神楽さんはジブンの望む答えは返してくれないと知りながら。
「はい、好きですよ。なんてったって、この世でたった1人の推しですから」
「……そうっすか。じゃあ、そんな推しから1つお願いがあります」
「どうぞ、なんなりと」
ジブンは、神楽さんの目をまっすぐ見て言った。
「ジブンの事、もっと見て欲しいっす。ジブン、神楽さんが思ってる以上に面倒臭い女なので」
ジブンがどんな顔をして言ったのかは分からない。けど、言われた神楽さんはずっとニコニコしていた。嗚呼、これは、絶対伝わってない時の顔だ。
「俺は麻弥さんの事、面倒臭い女の子だなんて思った事はありませんよ?」
「そういう事ではなくてですね……もう、どうなっても知りませんよ?」
「はは、麻弥さんと俺の友情は無敵です。何があっても大丈夫ですよ」
「……そういうこと、言っちゃうんすね……」
そうやって、デリケートな乙女に友情とか言っちゃう神楽さんなんて大嫌いです。…………けど、大好きです。だって、ジブンの初めてのファンで、ファン0号で、友達なんですから。
「ジブン、信じてたんすよ。バカみたいに、神楽さんと一緒にいられる未来を」
「?……今こうして、一緒にいるじゃないですか」
「神楽さんは鈍感っすね」
「よく言われます。申し訳ないです」
今は友達でも、いつかあこさんに勝って、神楽さんの恋人になれる未来が来ると、バカみたいに信じてた。けど、現実はそう甘くないです。
だから、ジブンも本気を出す事にします。
「神楽さん、ジブン思ったんですけど、そろそろ次のステップに行ってもいいと思うんです」
「次のステップ?」
「はい!ジブン達、結構仲良くなったと思うんです。だから、そろそろ下の名前で呼び合いたいなー、なんて……」
「おお、良いですね。でも、俺はもう麻弥さんの事麻弥さんって呼んでますし……」
「ジブンの事は、気軽に麻弥って呼んでください。ジブンは神楽さんの事は竜介さんって呼びますので」
「年下の俺が呼び捨てで、年上の麻弥さんがさん付けするんですか?」
むっ、神楽さんは細かい事を気にしますね。
「なにか文句でもあるんすか」
「いえ、文句と言うか、礼儀がなってない気がして」
「ジブンが良いって言ってるんだから良いんです!」
「わ、わかりました」
コホン──と、神楽さんは1回咳払いをする。そして、決意の固まった目で、神楽さんはジブンを見た。その手でジブンの両肩を掴んで。
「ま、麻弥さ──麻弥」
「は、はひ!神楽さn──竜介さん!」
お互いに名前を呼び合い、そのままジッと見つめあった。なんだかドキドキした雰囲気で、このまま竜介さんとキス出来そうな雰囲気だった。こ、これは……行ってもいいんでしょうか……。つ、ついに、あこさんから竜介さんを奪還する事が──
「おやおや、麻弥にロミオは何をしているのかな?」
「「!?」」
「ふふっ、どうやら2人だけの世界に入っていたようだね。2人とも、皆を見てごらん?」
薫さんにそう言われ、周囲を見渡してみる。何故か周りは緊迫した表情の人達ばかりで、皆こちらを見ていた。どうしたのでしょうか……。
「皆、2人の雰囲気に呑まれてしまったのさ。愛の口付けを交わしそうだったからね」
「そ、そんな、愛の口付けだなんて……。俺たちはただ、名前で呼びあってただけで」
「そ、そうっすよ薫さん!ジブン達はキスなんて……キス、なんて……」
「おやおや、麻弥は満更でもなさそうだね」
「ま、麻弥さ──麻弥……」
うぅ……恥ずかしい……あわよくば竜介さんとキスしようだなんて……。まだその段階じゃないのに……。こういうのはもっと段階を踏んで行かなきゃいけないのに。嗚呼、ジブンはなんてことを。まさか雰囲気に飲まれるなんて。これでは、あの
「麻弥、大丈夫ですか?」
竜介さんがジブンの顔を覗き込んでくる。心配してくれている顔だ。こんな時でも、竜介さんは優しいですね。
「……すみません。取り乱しました。はいはーい!散ってくださーい!ジブン達は皆さんが思ってる事はしませんよー!」
ジブンがそういうと、周囲は「なんだー、つまんないの」や「ちぇー、せっかく竜介君の浮気現場が見れると思ったのに」という野次馬発言がいっぱい聞こえて来た。悪いがそういう訳にはいかない。竜介さんとは浮気ではなく、正真正銘まっすぐ付き合うのだ。そのためだったら、どんな手段でも使ってみせる。
「待っててください竜介さん。必ず、あの女狐から救い出してあげますから」
「麻弥、なんか言いました?」
「いえ、なんでもないっす!」
いつか、絶対に、竜介さんの隣を掴み取って見せる。