いちばん小さな大魔王!せかんどし〜ずん:りゅう兄のうわき現場 作:コントラポストは全てを解決する
「竜介、お腹が空いたわ」
「唐揚げおにぎりなら」
「それをいただくわ」
ちさと先輩が家にやってきた。
白鷺千聖、Pastel*Palettesのベース担当。正直、あこはこの人が苦手だ。怖い。何を考えてるかよくわからないのだ。今はりゅう兄の作った唐揚げおにぎりを食べている。
「美味しいわ」
「それは何より。ところで今日はどのようなご要件で」
「そうね。例の件についてそろそろ返事を聞きたいわって思ってね」
「例の件?」
「あら、忘れてしまったのね。酷いわ」
「待ってください。今思い出しますから」
りゅう兄、女の子との約束忘れるなんてさいてー。たまにあことの約束も忘れるよね。さいてー。
「あ、あれですか。麻弥さんとお泊まりドキドキ計画」
「それじゃないわ」
なに、『麻弥さんとお泊まりドキドキ計画』って。まやさんとお泊まりしてドキドキしようって言う計画?そんなのあこが許さないよ。まやさんにりゅう兄を取られる訳にはいかない。邪魔してやる。
「彩先輩寝起きドッキリ企画の方ですか?」
「それでもないわ」
「日菜先輩と一緒にるんってしようのコーナー」
「そんな企画は存在しないわ」
なんだか、あこの知らないところでりゅう兄は色々やっていたみたいだ。最近忙しそうだと思っていたらパスパレに頭突っ込んでいたらしい。
「降参です……」
「はぁ。ちゃんと覚えてて欲しかったわ」
「すみません……」
結局りゅう兄はちさと先輩との約束を思い出せなかった。すみませんちさと先輩、うちのりゅう兄が。
「私のマネージャーを本格的に始めましょうって話よ。思い出した?」
「…………あぁー……そんな話もありましたね」
「で、どうなの?返事を聞きたいのだけど」
ちさと先輩のマネージャー……ちさと先輩の予定を管理したり、新しい仕事を持って来たりする仕事だよね。りゅう兄みたいな普通の人でもできるのかな。
「そのマネージャーを引き受けたら、忙しくなりますよね。千聖先輩の事ですし」
「そうね。生半可な覚悟では受けないで欲しいわ。朝早く夜遅い仕事よ。当然家にも帰れない日だってあるでしょうね」
「そんな大役を素人の俺が」
「竜介を見込んでの話よ」
朝が早くて夜が遅い……それって、りゅう兄が家にいる時間が少なくなるってことだよね。それは嫌だな。りゅう兄とは24時間いつでも会えるようにしたい。
「正直、悪い話ではないんですよねぇ。給料はいいし、福利厚生もちゃんとしてるし」
「でしょう?将来あこちゃんを養いたい貴方にとっても悪い話ではないと思うのだけど」
「うーん……悩むなぁ……」
もしかしてりゅう兄、あことの将来を考えて……。どうしよう。りゅう兄に行って欲しくないけど、とっても止めにくい。あこはどうすればいいんだろう。
「マネージャーを本格的に始めるってなったら、まずなにをすれば良いですか?」
「そうね。まず初めに、朝昼晩のお弁当を作って来て貰おうかしら」
「お弁当。ロケ弁じゃだめなんですか?」
「竜介の手料理が良いわ。貴方の料理は美味しいもの」
「さいで」
ちさと先輩、りゅう兄の料理が食べたいだけなんじゃ……。あこの思い違いかな。ちさと先輩の目の内側に企みみたいなのが見えた気がしたんだけど。
「それとそうね、演技の練習にも付き合って欲しいわ。ただの他人約から彼氏役まで、ね」
「彼氏役」
「ええ、そうね。恋のABCをしっかり再現するのよ。貴方なら出来るでしょう?」
恋のABC。ということは、ちゅーとえっちまでしちゃうって事?それはさすがにちさと先輩でも譲れない。りゅう兄のちゅーとえっちはあこだけの特権だ。
「私的には、ベッドシーンの演技が苦手だから、そこを手伝って欲しいわ」
「ベッドシーン」
「もちろん裸で、ね?」
「裸の付き合いと言うやつですか」
「少しぐらい照れなさいよ……」
ちさと先輩、裸でりゅう兄と寝たいだけなんじゃ……。もしかしたら、演技の練習としてりゅう兄を誘って、そのまま本当のえっちをしようと言う魂胆なのかもしれない。
「裸で寝るって寒そうですね」
「あら、動けば暖かいわよ?」
「ハッスルはしたくないです」
「残念だわ」
「残念って……。からかってるんですか?」
「さあ?どうかしら」
やっぱりちさと先輩、りゅう兄とえっちしたいだけなんじゃ……。まさか、りゅう兄ときせいじじつを作ってあこからりゅう兄を……。
「ちさと先輩も物好きですねぇ。俺なんかと寝たいなんて」
「あら、貴方は随分と自分を過小評価しているのね。俺なんか、貴方は十分魅力が詰まってるわよ。それはもう、食べたいちゃいぐらいにね」
「ちさと先輩、目が怖いですよ……」
「それは申し訳なかったわね」
ちさと先輩、もしかしてりゅう兄の事が好き?りゅう兄をマネージャーにしたいのも、一緒にいる時間を増やしたいとか、そんな理由なんじゃなかろうか。最終的には、あこからりゅう兄を奪い取る気なんじゃ……。
「竜介は十分魅力に溢れているって事をわかって欲しいわ。勉強はできるし、運動もできるし、可愛いし、料理だって他の家事だってできるし、可愛いし、何より、優しい」
「そんな褒められると照れますね。あはは……」
ちさと先輩、可愛いって2回言わなかった?まあ、確かにりゅう兄は可愛いけど。お目目はくりくりで、唇はぷっくりしてて美味しそうだ。肌もツルツルしてるし。食べちゃいたいぐらい可愛い。
「嗚呼、貴方を家に飾りたいわ……。可愛いアリスの衣装を着せて、私の寝室に」
「じょ、女装なんて俺には似合いませんよ」
「あら、演劇部時代に女装をしていたでしょう?似合っていたわよ?」
「おかしいな、千聖先輩には見せた事なかったはずなんだけど……」
「ふふっ。私の情報網をなめないで欲しいわ」
りゅう兄、女装してひーちゃんとでーとしたことあったじゃん。あこには女装した事隠そうとして。まあ、あこはりゅう兄がどんな姿でも見抜いてみせるけど。
「はァ……ハぁ……竜介、ちょっとこっちにいらっしゃい」
「千聖先輩、息荒くないっすか?え、怖いんすけど」
「あら、私に逆らうの?」
「わ、わかりました……」
りゅう兄は恐る恐るちさと先輩に近づいた。そして、ちさと先輩に捕まった。ちさと先輩の腕の中に、ギュッと閉じ込められてしまったのだ。これは、うわきなのだろうか。今回はりゅう兄が被害者な気がする。ちさと先輩の目がやばい。こういうのを目がイッてるって言うんだっけ。やばい。
「はァ……やっぱり、いい匂いにがするわね。スゥ……ハァ……。いいシャンプーとボディーソープを使ってるのもそうだけど、何より竜介自身の匂いがいいのね。とても甘い香り……やめられないわ」
「あ、あの……息がくすぐったいんですが……」
「あら、それは申し訳なかったわね」
申し訳ないと言いながらも、ちさと先輩はりゅう兄の匂いを嗅ぐのをやめなかった。相変わらず目がやばい。
あこもりゅう兄の匂いを嗅いでみたい。なかなか嗅がせて貰えないのだ。
「竜介が私のマネージャーになったら、毎日この匂いが嗅げるのね。嬉しいわ」
「まだやるって決めた訳じゃないですけど」
「あら、受けないの?」
「悩んでます」
「優柔不断ね」
「まあ……はい」
りゅう兄は鈍感でゆーじゅーふだんだ。ここに難聴が加わると、ラブコメ系主人公になるらしい。りんりんが前にそう言っていた。
ラブコメ系主人公──ラブコメだからヒロインがいるって事だよね。やっぱりそれってあこかな。というかあこ以外いないよね。ね?
「出来れば今日中に答えを聞きたいわ。さらに言うなら、今がいいわね」
「少し時間が欲しいです」
「まあ、あんまり急かすのも可哀想ね」
あこも一緒にちさと先輩のマネージャーになれないだろうか。そうすればりゅう兄とお仕事を半分こして負担を減らす事ができる。それに、りゅう兄がちさと先輩とうわきしないか見張る事もできる。いっせきにちょう。
「それにしても、本当にいい香りね。いつまでも嗅いでいたいわ」
「まあ、俺もいつか加齢臭とかが出てきますよ。そうなったら匂いもキツくなるでしょう」
「うふふ。そんなに長く私のマネージャーをやってくれるのね。嬉しいわ」
「あ、いえ、そう言うわけではなく……」
ちさと先輩はりゅう兄をいじめて楽しんでいる。悪女だ、悪女がここにいるぞ。あこはりゅう兄を助けたいけど、ちさと先輩が怖くて出ていけない。くっ、あこにもっと力があれば……。
「まったく、竜介は可愛いんだから」
「あ、あはは……。千聖先輩も可愛いですよ」
「あら、嬉しいわ。私達、相思相愛ね」
「相思相愛……」
「ええ、そうよ。相思相愛」
「相思、相愛……」
「私達は相思相愛」
「俺たちは、相思……相、愛……」
なんかちさと先輩、りゅう兄に精一杯相思相愛だと言い聞かせてる。何をする気だろうか。まさか、相思相愛だと言い聞かせて竜介と恋人関係に……。いや、まさかね。ちさと先輩もそんな単純な子供だましみたいな事しないでしょ。
「竜介はまっすぐで、無邪気で、目の前の事に全力で。まるで子供みたい。私はそんな竜介が大好き」
「……ありがとうございます。でも、俺は早く大人になりたいです」
「あなたなら何にでも、どんな者にでもなれるわ。私のマネージャーだけじゃない、アイドルにだって、なんならお笑いタレントとかにだってなれる。あなたの未来は輝いているのよ」
「分かりませんよ?もしかしたらニートになっちゃうかもしれません」
「そしたら私のところにいらっしゃい。一生養ってあげる」
違うよちさと先輩。将来りゅう兄がニートになった時に、りゅう兄を養うのはあこだよ。
「まあ、竜介は私のマネージャーになればいいし、絶対ニートにはならないわよ。それで竜介?そろそろ返事を聞かせて欲しいのだけど」
「俺は……えと……あの……」
りゅう兄は口ごもってしまう。やっぱり、ちさと先輩のマネージャーなんて大きなお仕事、りゅう兄はこなせるか不安なんだ。あこだって、りゅう兄と同じ立場だったらきっと迷ってたと思う。
「ふふっ。やっぱりまだ決心がつかないみたいね。じゃあ、もう少し待とうかしら」
「あの……すみません……」
「謝る必要はないわ。たくさん迷って、竜介がやりたいと思った時にやって欲しいもの」
「ありがとうございます……」
「うん、しょぼくれた顔も可愛いわね」
ちさと先輩はりゅう兄の鼻の頭をツンと小突き、優しく微笑んだ。さすが女優。男の心に付け入る隙を突くのが上手い。あこにはできない芸とu──
「あこちゃん?なにか失礼な事考えてる顔してるわね」
「な、何も考えてません!気の所為だと思います!」
「そういう事にしといてあげる」
ひぇ……女優怖い……。
「時間も時間だし、そろそろ帰ろうかしら。竜介、また来るわね」
「は、はい、また今度」
こうして、ちさと先輩は帰って行った。あこはやっぱりちさと先輩が苦手だ。怖い。それに、絶対男遊びが酷いタイプだ。りゅう兄で遊んでたもん。きっと夜の街でえっちなバイトしてるんd──
「あこちゃん?」
「ひぇ……」
ひぇ……。
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「ちさと先輩、怖いね。りゅう兄」
「だな。男遊び激しそう。俺遊ばれたもん」
「分かるまん」
ちさと先輩はやばい。りゅう兄とあこはそうお互いに思った。