いちばん小さな大魔王!せかんどし〜ずん:りゅう兄のうわき現場 作:コントラポストは全てを解決する
私、広町七深は今日も探す。私の第六感覚器官──広町センサーにヒットする人を。ココ最近、Morfonica以外に面白い事がない。誰か、誰か面白い人はいないか──
「もしもしあこ?え、焼肉のタレとマヨネーズがない?分かった。買って帰る」
──見つけた。
────────
「すみませーん。そこの人ー」
「……」
「そこの男の子だか女の子だか分からない性別不詳の人ー」
「……もしかして、俺に言ってる?」
「そうですそうです。ちょっとお時間よろしいですかー?」
「えっと、ご要件は」
私は早速、お兄さんに声を掛けた。私の第六感覚器官に反応した人だ。何かあるに決まってる。飛びっきりの何かが。
私に声をかけられたお兄さんは、当然だが不審がっていた。そこまで怪しまなくても。私純真。決して怪しい者じゃないよー。
「えっと、少しお話したくて。お茶でもどうですか?」
「そういうの間に合ってますんで。じゃ」
「あー待って、待ってください。広町を捨てないでー。ちょっと、ちょっとでいいですから。ていやー」
私はお兄さんの腕に抱きついた。逃がさないように。せっかく見つけた面白そうな人だ。逃がすのは惜しい。
「あの、離してください。叫びますよ」
「まーまー。ちょ〜っとお話するだけですから、ね?お兄さんにも悪い思いはさせませんから」
「どうせ変な壺とか買わさせるんでしょ。やめてください」
「あいあむノー荷物ー。お財布以外持ってませーん」
壺商法なんて今どきやっているのかな。それはそれで気になる。
「お兄さんはどうしたら私とお茶してくれますか?私、なんでもしますよ」
「……どうしてそこまで俺に固執するんですか。男ならそこら辺にいますよ。まあ、この街は男の割合が極端に低いですが」
「お兄さんが私を焚き付けたんですよー。あからさまに何かありそうだから。広町、お兄さんの事が気になっちゃって」
私は必殺技、上目遣いでお兄さんを見た。しかしお兄さんは面倒くさそうに、嫌そうに私から目を逸らす。童貞なら今ので私に惚れていた。やっぱり、この人は違う。少なくとも童卒だ。
「俺には何もありませんよ。ごく一般的な、フツーの男子高校生です」
「ほう、フツーですか。それは気になりますなー」
普通──私の目指すべき到達点。もしかしたらお兄さんは、家柄も成績も運動神経も、全てがフツーの人なのかもしれない。だから私を引き付けた。
「ますますお兄さんが気になったよ。私のお気に入りの喫茶店に招待いたしましょー」
「え、いや──」
私はお兄さんの腕を引っ張って、お気に入りの喫茶店に向かう。きっとお兄さんも気に入ってくれるはずだ。ご飯は美味しいし、可愛い店員さんもいる。さあ、レッツゴー。
私はお兄さんの腕を引き、羽沢珈琲店にやってきた。最近見つけたお気に入りの場所だ。
「あ、竜介君いらっしゃい!そっちの子は?」
「わからん。さっき出会って、いきなりここまで連れて来られた」
「知らない女の子まで引き寄せちゃうなんて、竜介君のフェロモンはすごいなぁ」
「ちゃうねん」
店に入ると、いきなり店員さんと仲良さげに会話しだした。知り合いらしい。竜介君──どうやらお兄さんの名前は竜介というようだ。
「お兄さん、あんな可愛い店員さんと知り合いなんですねー」
「ただの幼なじみです」
「幼なじみですかー」
窓際の2人用席に座って、私はメニューを見る。お兄さんも知り合いの店に来たせいか、警戒を少し緩めてくれた。
「あ、今更ですが、私は広町七深って言います。高校1年生です。よろしくねー」
「丁寧にどうも。俺は神楽竜介。高二だ。ま、どうせ今日限りだから覚えなくていいです」
「年上でしたか。じゃあ敬語はいいですよ。あ、ミートソースパスタくださーい」
私は注文を済ませ、今一度お兄さんを見る。どこからどう見ても一般人という格好だ。特に怪しい所はない。怪しさで言えば私の方が上か。
「で、広町さんだっけ。俺に何の用ですか」
「もー、そんな堅苦しい呼び方はよしてくださいよー。私のことは気軽に七ちゃんと呼んでください。あと敬語も外してくださいなー」
「……七ちゃんは俺になんの用ですか」
「敬語」
「…………何用なの?」
やっとお兄さんがフランクになった。これで心置き無く話せる。
「ちょっとお兄さんが気になりましてー。なんて言いますかこうー、広町センサーにビビっと来たと言いますか」
「はぁ、なるほど。で、声をかけたと」
「はい、そうですー」
「実際どうだった?なんの面白みもないでしょ?」
「いえいえー。まだ分かりません」
私は騙されない。お兄さんは絶対何かを持っている。すごい才能だとか、何か絶大な過去だとか、さっきの店員さんが言ってた知らない女の子を引き寄せるフェロモンだとかを。
「お兄さん、絶対何かあるんですよ。私の目は誤魔化せません」
「七ちゃんの思い違いだと思うけどねー。俺って普通オブ普通だし」
「いえいえ、お兄さんは持ってます。ほら、他の人と違うこととか」
「違う事ねー。あ、恋人がいるよ。最っ高に可愛い、俺のパートナー」
「ほうほう」
ここら辺は男性が少ない。だから、恋人持ちも珍しいと言えば珍しい。けど、私が求めてるのはそんなちんけなものじゃない。もっとこう……深い深い真底の何か。それが見たい。または聞きたい。
「あ、お兄さん、手相見せてください」
「わかるの?」
「ちょっとかじってまして」
「そっか。じゃあはい、どうぞ」
「どれどれ…………──お兄さん、女難の相がすごい濃いですね。あと、何か暗い暗い過去があった、悲しい事があった相が刻まれてます。これもすごい濃いです。もう戦争で最愛の人が死んだくらいに深いのが刻まれてます」
「俺は戦争なんて知らん。その手相合ってる?」
「間違いないです」
お兄さんは何を隠しているのだろう。最愛の人……まさか恋人が死んで……いや、さっきの感じを見ると恋人は生きてる。という事は他の家族だ。もしかしたらお兄さんは私以上の過去を持ってるかもしれない。
「お兄さん、家族は?」
「父親がサラリーマン、母親がスーパーのパート」
「おじいちゃんとかは」
「今は年金暮らししてる」
「普通ですねー」
「言っただろ。俺は至って普通だって」
うーん……家族構成は普通。ということは、学業で何かすごい事をしているのかな。
「お兄さん、学校の成績は?通信簿いくつでした?」
「オール3」
「普通ですね」
「だろー」
ここまで普通だ。私が憧れる、普通の中の普通。これはこれで面白い。けど、なーんか違うんだよねー。お兄さんにはとっても黒いものが渦巻いて見える。絶対何か隠してる筈なんだ。
「お兄さん、運動とかはどうなんですか?」
「うーん……50メートル8秒とかだよ。あとでんぐり返しが出来る」
「……音楽とか家庭科は?」
「音痴だし、家事なんて面倒臭いよね」
「……ジー」
「どしたん」
「お兄さん、私に嘘ついてません?」
「ついてないよ」
お兄さんはにっこり笑った。その笑顔もまた普通。恋人さんもこの人のどこに惚れたのか分からないくらいだ。まるで、私の元彼と同じだ。
「うーん……私の勘違い……ではないよねー……。お兄さん、友達は?」
「それは内緒。俺の事は良いけど、友達の事をべらべら話すのはね。知らない人だし」
「冷たいですねー」
「コミュ障なんでね。必要以上に警戒しちゃうんだ」
コミュ障って言う割にはそつなく話してたんだけど。やっぱり勘違いだったのかなー。今日は広町センサー不調の日……だったのかもね。今まで間違った事なんてなかったんだけど。
「で、俺の情報を抜き出してどうするの?ネットで売る?」
「あーいえいえ、この情報は広町の中で大切に保管しますよー。うーん、そうですねー。お兄さんにばっかり聞くのも不公平ですので、お兄さんも私に何か聞いて良いですよ」
「別にいい。興味ないし」
「えーいいんですかー。広町と仲良く──ワンチャンそういう関係になれるかもしれませんよ?」
「これ以上女の子の知り合いを増やすと、恋人に怒られるんでね。遠慮しとく」
「残念ですー」
お兄さんは女の子の知り合いが多いっと。またひとつお兄さんの事がわかった。さっきの可愛い店員さんだって幼なじみって言ってたし、お兄さんにはそれはそれは多くの知人女性がいるのだろう。
「出来れば私の事も知って欲しかったんですが。まあ、いいでしょう。お兄さんの事は諦めます」
「なら良かった。七ちゃんも、もう簡単に男に声掛けちゃダメだよ?俺がその手の輩だったら、七ちゃんは今頃初めてを失ってた」
「広町もう非処女でーす」
「これは失敬。でも、そっち方面に落ちないでね。……ふぅ。さてと、俺はちょっとトイレにでも行ってくるよ」
「そのまま帰らないでくださいねー」
「分かってる。女の子1人残して帰らないよ」
「なら良かったです」
お兄さんはトイレに行ってしまった。暇だ。近くのおじいちゃんに声でもかけようかな。それとも、後ろで勉強してる赤いメッシュが入った女の子と喋るとか。赤メッシュの女の子は面白そうだ。女の子の割に手が硬そう。多分ギターとかをやってる。透子ちゃんと同じだ。
なんてことを考えていると、頼んでたミートソースパスタが来た。例のお兄さんの幼なじみだ。……この子なら何か知ってるかな。
お兄さんを諦めると言ったな。あれは嘘だ。
「あのー、すみません」
「はい、追加注文ですか?」
「いえ。実はお兄さん──竜介さんについて知りたくて」
「……知ってどうするつもりですか」
店員さんの目付きが鋭くなった。これはまずい。思った以上に警戒してる。きっとこの人は、お兄さんの事が大好きなのだろう。だから、守ろうとしてる。素晴らしい愛情だ。涙が出るね。
さてと、どうしようかなって思ったけど……まあ、あの手を使うしかないか。この店員さんは恋愛的な意味でお兄さんが好きと見た。だから、その想いに同調させてもらう事にする──
「実は私……お兄さんの事が好きなんです……。一目惚れでした……」
「──!」
「だから、お兄さんの事をいっぱい知ろうとしたんです。けど、お兄さんは何も教えてくれなくて……。私、辛くて……」
「……そっか。それは辛かったね……。あの、名前は?」
「広町七深です……」
「七深ちゃんだね。私で良かったら話聞くよ?」
「ありがとうございます……」
やばい。簡単に釣れた。やばい。
本当に親切で純情なんだなぁ……。悪い人に騙されないか心配だ。まあ、今はそのおかげで助かったけど。さてさて、お兄さんは何を隠してるのかなー。
「竜介君の事が知りたいんだったよね。何が知りたいのかな」
「……学校の事とか」
「学校かー。竜介君はね、学校でよくバク転とかバク宙とか側転しながら廊下で暴れてるよ」
何してるのお兄さん。とても50メートル8秒の人がすることとは思えない。
「それって……せ、成績とかに響くんじゃ……」
「うーんそれがねー、竜介君、理事長に気に入られてるからいつもお咎め無しなんだ。先生達も楽しそうに見てる。だから、私が叱るんだ」
理事長とコネありとか強い。
「じゃ、じゃあ成績はいいほうなんですか?」
「基礎科目はオール4だよ。体育と音楽と家庭科が5だって言ってた」
音痴なんじゃなかったの?家事は面倒臭いんじゃなかったの?
「友達……女の子友達とかも知りたいなって……」
「竜介君ね、女の子の友達は20人以上いて、そのうち10数人が幼なじみ。で、その中のほとんどが竜介君をそういう目で見てる」
「恋人とかいないんですか?」
「いるよ。でも、皆竜介君を奪おうとしてる。私だってそう」
ギラついてるなぁ……。お兄さんの女難の相が当たってしまった。つぐみさんもお兄さんを狙ってるって……大人しそうな性格して大胆だ。お兄さんはそのことを知ってるのかな。私より修羅の道を生きてるね、お兄さん。
「お兄さんの恋人って、どんな人なんですか?」
「ちっちゃくて、かっこいい事が好きな男の子みたいな子だよ。竜介君に家事を教わって、花嫁修行してる」
「お兄さんは家事が出来るんですか」
「うん。前は家の事全部1人でやってた」
家事は面倒臭いというのも嘘だったと。お兄さんから聞いた情報全部嘘だった。50メートル8秒もきっと嘘だ。音痴も嘘だったし、ここまで来たら両親のサラリーマン&パートとおじいちゃんの年金生活もきっと嘘だ。お兄さんは家族構成にも何かある。さあ、店員さん、洗いざらい吐いて貰いますよ。
「家事は1人でやってたって……家族は何してたんですか?」
「竜介君の家族はね、お母さんが女優で、お父さんがバンドマンなの。もう離婚してて、家には帰って来てないんだって」
「という事は、おじいちゃんとかおばあちゃんがお兄さんのお世話を?」
「お爺さんがやってたけど、そのお爺さんも一昨年亡くなった」
ということは、おじいちゃんが亡くなってから恋人が出来るまで、お兄さんは1人だった?なるほどねぇ……。お兄さん、自分の事をフツーオブフツーとか言っておきながら、かなり特殊な状況で生活してる。普通ではない。
「お兄さん、今の生活はどうしてるんですか?」
「両親からの仕送りだって言ってた。それが無くなったら、竜介君は学校に通えなくなるし、働きに出なきゃ行けなくなる」
「ギリギリなんですね……」
「うん、そうだよ。だから、私達が支えてあげなきゃね」
店員さんはそう言って自信満々に鼻息を鳴らす。お兄さんも結構ギリギリな生活をしてることが分かった。やっぱり、面白い。広町センサーは狂ってなんていなかった。私は正しかったんだ。けど、なんだか胸の奥が苦しい。
「お兄さんの事、よく分かりました。その……心が痛いです……」
「だよね。私も、竜介君は幸せになって欲しいって思うんだ。そして、私が幸せにしたいとも思う」
店員さんは独占欲丸出しだった。お兄さんを狙ってる人はいっぱいいるって言ってたし、こういう目をした女の子がお兄さんの周りには沢山いるってことだよね。怖い。ギラつきすぎだ。もっと女の子らしくお淑やかに行った方がいいと思う。
「竜介君の進む道は、きっと多難だよ。それでも、七深ちゃんは竜介君の隣にいたいと思う?」
「……いたい、です」
こんな面白い人、手放したくないって言うのが本音。あー……こんなに面白い気分なのいつぶりだろう。心が滾ってる。早くお兄さん戻って来ないかな。
「ありがとうございます。お兄さんの事、よく知れました」
「うん、良かった。竜介君の事を知ってくれる人が増えて私は嬉しいよ」
「はい。あ、あの……名前」
「羽沢つぐみだよ。よろしくね。七深ちゃん」
「は、はい……!」
つぐみさんか。この人はこれからも役に立ちそうだ。覚えておこう。
さてさて、ミートソースパスタが冷めちゃう前に食べなきゃ。
「じゃあ私、仕事に戻るね」
「はい。ありがとうございました」
「うん、ばいばい。また今度」
ええ、また今度。次回も‘’利用‘’させてもらうと思いますが、よろしくお願いいたします。
私に別れを告げたつぐみさんは、仕事に戻って行った。ミートソースパスタが美味しい。やっぱりここは当たりだ。ご飯は美味しいし、店員さんは使えるし、厄介客もいない。
「ただいま」
「おかえりなさい、お兄さん。待っててください、すぐ食べ終わるんで。そしたらいっぱいお話しましょう」
「話す事は話したんだけど」
「ふふ。私は新しい情報網を手に入れました。やっぱりお兄さんは当たりでしたよ」
「そりゃ良かった。いや良くないか」
「後でお外で話しましょ」
私は急いでパスタを食べた。ちょっとはしたなかっただろうか。これからのお兄さんとの会話が楽しみだったから仕方ないよね。
嗚呼、いけない。これからの事が楽しみすぎて顔がニヤけそうだ。まだだ、まだお兄さんに悟られるな。逃げられないように。やっと見つけた面白い人。そして、私以上に可哀想な人。逃す訳にはいかないのだ。
これが食べ終わったら、お兄さんに何から話そう。学校の事、友人関係の事、家族の事、生活の事、カードはいっぱいある。お兄さんはどんな顔をしてくれるかな。楽しみで楽しみで、でも少し怖い。深淵を覗いてるようだ。
「ごちそうさま!お兄さん、行こ」
「あ、ちょ──」
私はお会計を済ませ店を出た。これからお兄さんといっぱいお話するのだ。
お兄さん、素敵なパーティー始めましょ?
そして、私と仲良くなりましょう。
────────
私達は羽沢珈琲店を出たあと、近場の神社までやってきた。もちろんお兄さんもいる。というか、逃げないように腕をがっちり抱いて来た。商店街でいっぱい注目を浴びたが気にしない。お兄さんは私とパーティーするのだ。
神社の社前の小さな階段に腰掛け、私はお兄さんの腕を抱いたままどこから話そうか考える。
「あの、七ちゃん。腕、離して欲しいんだけど」
「お兄さんが逃げないように捕まえとかなきゃ行けないので」
「別に逃げはしないよ」
「いいえ、逃げますよ。絶対」
私は、今どんな顔をしているだろうか。笑っているかな、それとも真顔かな。出来れば笑顔であって欲しい。だって、これから面白くて、でも悲しい過去話が始まるんだから。和やかに行きたい。
「どこから話そうかなー。あーどうしましょうかー」
「言いたい事があるなら早く言いなされ。俺早く帰りたい。恋人が待ってるんだ」
「まーまーそう言わずにー。そうですね〜、とりあえずお兄さん──
──嘘、つきましたよね?」
私はお兄さんの目を見る。驚いた顔だ。その後一瞬考え、すぐさま顔色を怒色に変える。お兄さん、察しがいい感じだ。
「つぐみに何した」
「いえいえー。ちょ〜っと嘘ついたら自分から全部吐きましたよ。あ、脅したりとかはしてないのでご安心を。それにしても、あの人すごい純心ですよねー。とっても話しやすかったです」
「目的はなんだい?」
「私はただ、面白い事を探してるだけですので。決して誰かを陥れたり、騙したり、脅したりしたい訳じゃないんです。私はただ、お兄さんの事が知りたかっただけ。けど、お兄さんは嘘をついた」
お兄さんが私に偽の情報を話した時も、嘘をつかれてる感覚はあった。けど、その時はお兄さんの情報を信じるしか無かった。だけど、つぐみさんっていう優しい人に全て聞いたのだ。もう逃げられないよ、お兄さん。
「普通オブ普通のお兄さんに質問です。アルバイトとかしてるんですか?あ、嘘はやめてくださいね」
「……してるよ。circleっていうライブハウスとやまぶきべーかりーっていうパン屋で」
「あーcircleですかー。私達もたまに使いますよ。良いですよねあそこ。それと、やまぶきべーかりー。商店街の中にありましたね」
お兄さんが素直に答えてくれた事が嬉しい。やっと心を開いてくれた。あとは私の事を知っていてくれれば対等なんだけど。まあ、私の話なんか聞いてもつまらないよね。お兄さんなら受け入れてくれそうだけど。それに、過去を話すのは怖い。
「お兄さんは学校内でアクロバットで暴れ回ってるって聞きました。でも、理事長とのコネでお咎めなしらしいですね」
「たまにしかしないから」
「普通は絶対にしないんですよ」
「はいはい。悪うござんした」
お兄さんは適当に私をあしらう。
「あとはそうですねー。成績、音楽と体育と家庭科以外全部4らしいじゃないですか。それで、その3つは5。成績はオール3で、音痴で家事は面倒臭いんじゃなかったんですか?私に嘘つくなんて酷いですよー」
「七ちゃんは普通が面白いって言ってたから普通を目指して答えました。以上です」
「普通も好きですが、やっぱりお兄さんの方が面白いです」
くすくすと私は笑う。お兄さんは無表情を貫いていた。
「それとですねー、お兄さんは女友達と女の子幼なじみがいっぱいいるらしいじゃないですか。ハーレムで羨ましいです。私もいつか、お兄さんハーレムに入りたいなー。チラ」
「七ちゃん、これ面白い?」
「最っ高に面白いです」
こんなに楽しい事は久しぶり。だから私はこんなに昂ってる。
「ちっこくて可愛い恋人さんにも会ってみたいです〜」
「七ちゃんには合わせられないなー。ちょっと」
「ひどーい」
お兄さんはここで初めてニコっと笑って見せた。だが、雰囲気は警戒色だった。つぐみさんに何をしたのか分からない事を警戒しているのか『恋人に近づくな』とオーラで語っていた。ちょっとちびりそうだった。お兄さん怖い。けど、楽しい。
でも、次だけは心が痛い。さすがの私でも面白いと思わなかった。でも、今は取り繕わないと。お兄さんに本性を気づかれたら終わりだ。
「お兄さんの家族構成も全部聞いちゃいました。サラリーマンとパートでしたっけ。あと年金生活。いやー普通すぎて逆に疑うべきでしたよー。お母さんが女優、お父さんがバンドマン。おじいちゃんはぽっくり」
「面白い?」
「さすがにおじいちゃんは面白くありませんが、そんな過去を抱えてるお兄さんは最っっっ高に面白いです。もう広町センサーがビビビって反応してます。……でも、どこか心が痛いです」
「そっか。じいちゃんの事を笑ったら危うく殴る所だったよ」
「ひぇー」
さすがに私も人の死を笑うほど落ちぶれてはいない。でも、お兄さんは最高に面白い。一緒にいるのが楽しい。まるでMorfonicaのような……いや、Morfonica以上の時間がここにある。
嗚呼、楽しい。お兄さんといるのが楽しくて悲しいよ。私の第六感はとんでもない人を見つけてくれた。こんなの初めてだ。
「きっと、私のセンサーに反応したのはこの部分だと思うんです。家族が一人もいなくて、一人ぼっち。そして、お兄さんは寂しがり屋なんでしょう。孤独の中にいて、寂しい心を必死に壊さないよう生きてる。そんな魂の叫びが、私を呼び寄せた」
「七ちゃんはそれを面白いって言ったね」
「はい。面白いです。なんで、そこまで必死に生きているのか。ほら、いっその事死んだ方が楽なことってあるじゃないですか?お兄さんはその立場にいると思うんです」
「俺に死ねと。面白い事言うね」
「そういうわけじゃないですけど。でも、死んだ方が楽じゃないですか?」
家族が誰1人としていなくて、心を痛めても誰も気づいてくれない。正真正銘の一人ぼっち。孤独。私も似たような状況になったことあるけど、とっても辛かった。けど、それを面白いと思った。でもやっぱり悲しかった。
「まあ確かに、死んだ方が楽かもしれないね。正直俺も、じいちゃんが死んだ時は後を追おうと思った。でも──でもさ、俺が死んじゃったら悲しむ人がいるんだ。幼なじみが、大切な人が。だから、血反吐吐いてでも生きななきゃって思った」
私はそう言って優しそうに微笑むお兄さんを見た。
面白い……面白い?
私は気づいた。お兄さんは、さっきから他人のためにしか感情を出さない。
そこにだけ、私はイラつきに近いものを覚えた。
「お兄さん、さっきから誰かのためにしか感情を顕にしませんね。そんなに他の誰かが大切ですか?
自分の気持ちは?心は?
誰かなんて、友達なんて、恋人なんて、最終的には記号でしかないんですよ。他人はどこまで言っても他人なんです。そんな、そんな誰かのために──」
「──自分の命を使うのはおかしい?」
「……はい」
……少し、熱く語ってしまった。いけないけない。平常心平常心。
やっぱり、お兄さんは面白いね。私をここまで焚きつける。心がファイヤーーダンスしてるよ。こんなに胸が熱くなったのは久々だ。お兄さんの命の光は、私とは正反対。
「七ちゃん、面白い?」
「面白いです。けど、少しイラついてもいます。こんなに心が熱く燃えたぎったのは久しぶりです」
「そっか」
私はお兄さんの腕を強く抱きしめる。
──少し、昔の事を思い出してしまった。
「あの、お兄さん」
「何かな」
「“普通”ってどう思いますか?」
きっと面白いお兄さんなら、面白い答えを出してくれる。そう期待して、私はお兄さんに問いかけた。
「七ちゃんは、普通の人は“普通”をどう考えてると思う?」
「きっと嫌がると思います。自分は特別でありたい、特別な何かが欲しいって考えてるはず。面白くないです。普通がどれだけ恵まれているか」
「俺も普通が欲しかった。普通の顔、普通の成績、普通の身体能力。でも、普通の人は普通を嫌がる。ほら、今日会ったつぐみもさ、自分を普通だと言って、普通から抜け出そうと奮闘してるんだ」
「醜い話ですね。普通じゃないって言われて来た人の気も知らずに」
「そうだね。俺も普通が欲しいよ」
「私もです……」
良かった。お兄さんに普通が嫌いなんて言われたら、私は飛び出してた。やっぱりお兄さんは裏切らない。
「──普通の家族、欲しかったなぁ。小さい頃は絵本読んで貰って、お風呂で背中流しあって。大きくなったら学校から帰って来て、当たり前に夕飯が用意されてる。勉強教えて貰ったり、たまに親子喧嘩したり──。七ちゃんはどんな普通が欲しい?」
「私は、全部欲しいです。お兄さんとは違って親もおじいちゃんも、普通程度の友達がいますけど、彼氏もいましたけど、でも、もっと──もっと普通になりたい。
じゃなきゃ、皆離れて行っちゃうから」
中学時代は皆それで離れて行った。友達も、彼氏も。普通でいなきゃ皆とはいられない。私は皆が避けて行くのを耐えられるほど強くない。普通以下に弱いのだ。
「七ちゃん、面白い?」
「面白い……です」
「ははっ、だんだん七ちゃんも感情出して来たね。最初はつぐみを騙すド腐れクソアマかと思ってたけど、七ちゃんにも事情があるみたいだ」
こんなに自分を出したのは久しぶりすぎて、お兄さんに本性を勘づかれそうになった。
大丈夫、まだ大丈夫。
まだ、『最低なことでも、普通じゃなければどんな事でも面白がれる広町七深』だ。
焦るな。楽しめ。お兄さんのペースに乗せられるな。今は最高に楽しいシーンじゃないか。ここでシリアスなんて入れたら雰囲気が壊れてしまう。私はお兄さんと面白い話がしたいんだ。
「七ちゃんは、心から信頼出来る仲間っている?」
「…………い、いません」
「信頼仕掛けてる人はいるって所かな」
「なっ……そんな事言ってないじゃないですか」
一瞬、Morfonicaの皆が頭をよぎった。違う。あの人たちは違う。あの人たちはただ面白いだけ。信頼してる訳じゃ……訳じゃ…………。だ、だいたい、お兄さんだってそうだ。面白そうだから近づいただけ。お兄さんを信じてるわけじゃない。きっと皆私を捨てるんだ。そうに決まってる。
「普通じゃなきゃ皆が離れる。きっと、今の皆もいつか離れていく。だから信じない。ただ、面白さ、楽しさを求めるだけ。そして自分は普通を演じる。普通を演じて、皆になりきる。心を保つには、そうするしかなかった。七ちゃんがさっき言ってた『もっと普通になりたい。じゃなきゃ皆が離れてく』はこんな感じかな?」
「──ッ!」
不正解……と言ってあげたかった。けど、合ってた。お兄さんに本性を悟られちゃった。
どんな事でも面白がる、人の不幸話でも面白がっちゃう最低な女の正体は、とんでもなく心がナイーブでしたと。せっかくさっきまで順調に楽しめていたのに。
あー……たーのし……。
最高だ……最っ悪だ。
「ほら、お兄さん。散々お兄さんの過去と本性を笑った私の過去と本性ですよ。笑ってください。いっぱい楽しんでください」
「俺の過去と本性はコラテラルダメージとしてぶん投げとく。七ちゃんの事は笑わないよ」
「でもそれじゃ……」
「んじゃ、代わりに何か質問してよ。それでチャラ」
「……じゃあ、お兄さんの嫌いな人。お兄さん、世界の全てを愛してるって感じだから、嫌いな人いなさそうですよね」
私は散々お兄さんで楽しい思いをしたのに、お兄さんは私で楽しまなかった。いっその事、私の身体を使って楽しんでくれたら私の心も楽だったのに。どうせ処女じゃないし。痛くない。
あー……楽しむのもここまで来ると疲れてくる。お兄さんの話を聞いて休もう。
「俺の嫌いな人ね。いるよ、飛びっきり大っ嫌いな人達」
「恋人さんを傷つけた不貞な輩とかですか」
「ううん。俺の両親」
「……え?」
あまりにあっけらかんと答えるので聞き返してしまった。両親……自分を産んでくれた?あの両親?
「お、お兄さん、いくらなんでもそれは……。せっかくこの世に産んでくれたのに」
「そう、産んでくれたのに。でも、俺からすると産んでくれただけ。その後は全部じいちゃんに押し付けて、2人は離婚してどっか行った。俺が成長しても顔を見せることはなく、挙句の果てにはじいちゃんが死んでもなんの音沙汰もなし。墓参りにすら来やしねぇ。ほんとに最低な人達なんだ」
「お兄さん……」
お兄さんは今までにないほど怒っていた。全身から怒りが溢れてる。けど……だけど……お兄さんは自分を放ったらかしにされた事を怒ってるんじゃない。おじいちゃんに全てを押し付けた事を怒ってるんだ……。この人はほんとに、自分の事で感情を出さない。お兄さんは自分の事がどうでもいいのだろうか。
お兄さんの顔には、明らかに憎しみの感情が宿っていた。けど、その感情を向けちゃいけない人──お兄さん自身に向けてるように見えた。だから私は──
「あの人たちは、貴重なじいちゃんの最後の時間を俺の育児に使わせやがった。じいちゃんだってもっと有意義な事に時間を使いたかったはずなのに。俺がいたせいで、あいつらが俺を産んだせいで──」
「お兄さん!!!」
「──ッ!す、すまない。熱くなりすぎた。ごめんね、七ちゃん」
お兄さんはまた普通に笑った。違う。その笑い方は違う。そもそも笑うところじゃない。泣くところだ。泣いて全部さらけ出すところなのに……。
今のは冗談でも面白いなんて言えない。言っちゃいけない。
「お兄さん、ダメだよ。そんな事言っちゃ……。おじいちゃんはきっと、スクスク育つお兄さんを見て幸せだったはずだよ。だから……自分が生まれた事が無駄みたいに言わないで……」
私はお兄さんの腕を今までで1番強く抱きしめた。自分の生を否定して欲しくなかった。少なくとも、私はお兄さんが生まれて、こうして出会えた事には意味があることだと思える。だから、否定しないで。
「やっぱり面白いか?俺」
「ううん、今分かりました。お兄さんは面白い人なんかじゃない。──お兄さんは、自分の人生を面白い、楽しいって思えるぐらいに幸せを謳歌しなきゃいけない人でした。私が感じたのはそういうことだったんです……」
「広町センサー故障してなかった?」
「すこぶる快調だったみたいです」
まさか、今まで面白いこと探しに使ってた第六感が、こんな形で役に立つとは思わなかった。生まれて初めて、この力を有意義に使えたと思う。
「あはは、俺の事をただ面白がってた子が、随分感情豊かになったもんだ。そんなに俺ってやばい?」
「お兄さんは、私と同じくらい……ううん、私以上に傷ついてる人だった。だから私もこんなになったんですよ」
「でも七ちゃんだって、友達に捨てられ、恋人に捨てられ傷を負った。親に捨てられた俺と同じだよ」
「親に捨てられるのが1番辛いと思います……」
「そうかなー。好きな人に捨てられるのが1番辛いと思うけど」
お兄さんはやっぱり笑っていた。出来れば泣いて欲しかったのに。私に辛いこと全部吐き出して欲しかった。そしたら今度は私が吐き出すから。
「七ちゃんの恋人ってどんな人だったの?」
「普通の人でした。成績も運動神経も平凡で、でも、とにかく優しかった。ずっと一緒にいようって言ってくれた……言ってくれたのに……」
「ふられちゃったか。彼氏さん、新しく好きな人でも出来たの?」
「それだったら良かったんですけどね……」
私は思い出す。あの時のことを。
まるで怪物を見るような目で、拒絶された時のことを。思い出しただけで心が壊れそうだ。
「あの……お兄さん。手、握ってて貰えますか……?怖くなっちゃって……」
「良いよ。あはは、可愛いとこあるじゃん。最初はクソアマだったのに」
「茶化さないでください」
「すまんすまん」
いや、最初に茶化したのは私だから、これは理不尽かな。でもお兄さんは怒らない。優しいのか、どうでも良いのか。どうでも良いよね、今日出会った私の事なんか。でも、お兄さんだから信じちゃった。もしかしたら裏切られ──ううん、お兄さんはそんな事しない。
「私、自分なりにあの人のことを愛してたんです。不器用に、手探りで、あの人と触れ合っていた。夜だって何度も共にした。けど、最後は拒絶されました」
「ずっと一緒って言ってたのにね。口先だけってやつだったのかな」
「その口先で『お前といると自分が惨めに感じる。一緒にいたくない』って言われました」
「惨め、ねー」
お兄さんは空を見上げた。酷い曇り空だ。
「『さよなら』って言われて、『待って』って手を掴んだら、振り払われて、そのままビンタを貰いました。それで『近寄らないで』って怒鳴られた」
「……そっか。慰め……はいらないか。その程度でどうにかなる傷じゃないしね」
「きっと、私が普通じゃないからあの人も私が嫌になったんです。だから、ずっと普通に憧れてて。私が普通だったら、こんな事も起きなかったのかなって」
「彼氏さん、随分おいたが過ぎるなー。久々にイラッと来たよ」
お兄さんはニコニコ笑顔で揺れていた。でも、だいぶ怒ってる。両親の話をした時と同じくらい怒ってる。お兄さんがそこまで怒る必要はないのに。さっきは私の事がどうでも良いのかなって思ってたけど、本当は優しいだけだった。
「お兄さんは優しいですね。今日出会った私の事で怒ってくれて」
「口先だけ彼氏にイラッと来ただけだよ。七ちゃんには元彼さんを1発ぶん殴って貰いたい」
「お兄さんは何もしないんですか?」
「俺はどこまでも行っても部外者だ。説教は出来るかもしれんが、手を出すことは出来ない。それに自分でやった方が気持ちいいだろ?」
「ふふ。そうですね」
お兄さんと話していると、昔のトラウマがちょっと和らいだ。傷者同士だから痛みが緩和されてるのかな。お兄さんは不思議だ。一緒にいると、心が安らぐ。
「お兄さんが私の彼氏だったら、私も傷つく事はなかったのかな」
「さあ、どうだろうな。案外、似た者同士上手くやっていけたりして」
「同じ傷者ですもんね」
「だな」
お兄さんと一緒に微笑み合う。お兄さん、こんな笑い方もできるんだ。ちょっと可愛いな。
「私、お兄さんの事が好きになりました。だから、お兄さんを守ります」
「じゃあ、俺は七ちゃんを守るよ」
「はい。お互い傷つけられたら、相手をボコボコにしましょう」
「野蛮だなー」
やっと見つけた私と同じ人。守って守られる傷者仲間だ。
「お兄さんの恋人さんが羨ましいです。1度会ってみたい」
「うん。今の七ちゃんなら紹介出来る。俺の恋人の名前は宇田川あこって言うんだ。この世界で1番可愛い女の子」
「お兄さんにそこまで言わせるなんて、相当可愛い彼女さんなんですね」
「ああ、最っ高に可愛いよ。ちょっと性欲が強いけど」
エッチな女の子だったか。まあ、お兄さんが信じた人だ。大丈夫だろう。でも、お兄さんの過去と心を受け止めきれるだろうか。ちょっと心配だ。まあ、いざとなったら私がお兄さんの恋人になろう。
「お兄さん、私達、似た者同士ですよね」
「うん、そうだね」
「じゃあ、相性もバッチリですね」
「だな」
ここまで相性がいいなら、恋人になっても大丈夫だろう。私がお兄さんを捨てない限り、お兄さんは私とずっと一緒にいてくれる。
「お兄さん家に行きたいです」
「いいけど、うち何もないよ?」
「それで良いです」
お兄さんがいればそれで良い。
「さ、行きましょ」
「あ、ちょっ、引っ張るなって──」
さあ、レッツゴー。
────────
「はっ──!」
りゅう兄がうわきしてる。あこの第六感がそう告げた。さっきから電話してもLINEしても出ないから、一体どこにいるのか分からないけど、うわきしてるのは分かる。これは今どこサービスを使ってりゅう兄を迎えに行った方が良いか──
「ただいまー」
「りゅう兄!」
「お邪魔しまーす」
「……誰」
知らない女だ。あこは警戒を強めた。
「初めましてー。私、お兄さんと傷者仲間の広町七深って言いまーす。よろしくね、あーちゃん」
「傷物……仲間……?あーちゃんってあこの事?」
七深にも彼氏がいるのかな。りゅう兄が傷物って、どちらかと言うと傷物はあこの方じゃない?まあ、うわき相手じゃなさそうだしいっか。
「なるほどー。これがお兄さんの彼女ですかー」
「可愛いだろ?」
「うーん、広町の方が良さげだと判断しますー。頭弱そう」
は?
「まあ、確かにあこは勉強は苦手だが、本人は頑張ってるし、ね?」
「そういうことにしときましょう。あっ、あーちゃん。ちょっといい?」
「なに」
七深に名前を呼ばれたかと思ったら、耳元まで顔を寄せて来た。近い。何する気だ。
「お兄さんを傷つけたら、許さないから」
「ッ!」
すごく低い声で脅してきた。嗚呼、なるほど。この子もりゅう兄に好意を寄せてるんだな。うわき相手だったか。まーたうわき相手が増えた。まったく、りゅう兄は。
りゅう兄を取られないようにしなきゃね。
はぁ(クソデカため息)