十二大戦真偽   作:夜仙

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偽巳の戦士 黄韆『ペットが欲しい』

 本名は右近辰巳。6月3生まれ身長170cm体重63kg。O型。能力は『地中徘徊』という地中に潜れる能力。
 長さ五メートルにも及ぶ槍を持っている戦士。この槍を用いて敵陣へと行き、成果を上げている。殺すときは必ず串刺しにして殺すという残酷な性格の持ち主で敵を串刺しにした数を毎回数えており、最高は一回で三千人。この記録を本人は躍起になって塗りかえるのがちょっとした戦場での楽しみとのこと。

 動物は好きらしく、本人曰く『人間はなんかムカつくけど、動物はムカつかないから好き』との事。

 最近の楽しみはとある爬虫類マニアのブログを見る事だそう。




 蛇は一寸にして人を呑む

 丑三つ時。

 

 ただ、静かな漣が聞こえてくる。

 

 ここは三方を海に囲まれている海辺の都市。

 

 南側には古くからあるのだろう港、そしてそれがいかにこの町にとって重要なのかを示す卸売店。海に面していない北側は港町でよくある多くの煉瓦の家が密集している一方、東側には外国から伝えられたのがまるわかりな教会が広々と敷地を取っている。西側は中々大きい商店街に、これと同じような大きさの神社がある。こちらはこの地に長年、根を張っているらしく、境内にはみずみずしさというものがなく、色はあせ、賽銭箱に付いている金具はとうに錆びている。そして最後に中央。ここには先の四つの方角とは違い、二つの大きな建物が不自然に場所を占領している。一つは高さが千メートルを超えるビルのような造りをしている時計塔。そして、もう一つは円形の天井を有する巨大なドーム。

 

 イスラムの世界であるようなこのドームに彼らはいる。

 

 彼らーー十二戦士は十二大戦というものに参加する者達だ。十二大戦というものは戦士たちにとっては『名誉な戦い』とも言えるものであり、また常人からしてみれば『ただの殺し合い』とも言えるものである。

 

 しかし、十二大戦はその辺にある喧嘩や殺し合いとは違い、最後に生き残った一人にだけ御褒美が貰える。その御褒美とは『たった一つだけどんな願いも叶えてくれる』特権。

 

 それは彼等、戦士たちとして嫌々参加させられた者でもそれを聞くだにやる気を起こすに

充分に値する代物であるのには間違いない。

 

 そして、今回で十二大戦は十二回目を迎える。記念すべきこの大戦で選ばれた彼らは今、ドームの中で各々沈黙を守りつづけていた。

 

 別にこれは彼等が緊張しているないし、死ぬのが怖いという彼等にとってはくだらない事を考えているのではない。彼等の頭の中にあるのは司会者と名乗った男の台詞の事だった。

 

『今回の皆様の勝利条件は偽の十二戦士達【偽りの子】、【偽りの牛】、【偽りの寅】、【偽りの卯】、【偽りの辰】、【偽りの巳】、【偽りの午】、【偽りの未】、【偽りの申】、【偽りの酉】、【偽りの戌】、【偽りの亥】を殺すことです。そのために皆様は、ご協力して彼等と戦い勝利してください。それでは皆様エウ゛リバディ・クラップ・ユア・ハンズ!』

 

 

 

 

 『協力して戦う』ーー彼等にとって、これほど驚かされる言葉はない。殺し合う事が確定されていた面子と戦う、これを聞いて困惑しない者の方がおかしい事は明確なこと。その上この場にいる戦士たちのほとんどが個人プレーばかりで協力プレーをあまりしない者ばかり。彼等が困惑するのも仕方がない。

 

 ある一人を除いては。

 

(まさか、こういう分岐が他にもあるとは想定外だったな)

 

 そう心の中で呟いたのは『子』の戦士である寝住(ねずみ)。第十二回十二大戦の優勝者だ。

 

 彼は眠たげに辺りを見渡していた。そこには第十二回十二大戦に参加していた面々が輪になって顔を揃えている。寝住にとっては正直飽き飽きするぐらいの面々だが、取りあえず一人一人の顔を見ていくことにした。

 

 まず、目に映ったのは自分の真正面にいるのは『豊かに殺す』ーー『亥』の戦士、異能肉(いのうしし)。彼女は第十一回十二大戦の優勝者を父に持つという戦士としては(寝住にとってはどうでもいいが)中々良い所の出身で、そのことを本人は誇りに思っている。持ち前の二丁の機関銃『愛終』、『命恋』、そして彼女の能力である『湯水のごとく(ノンリロード)』を使って戦う戦士で寝住自身も中々彼女には苦戦した覚えがある。

 

(そんで、その両脇は……っと)

 

 寝住は異能肉の左右を見る。異能肉の横にいたのは左に『噛んで含めるように殺す』ーー『戌』の戦士、怒突(どつく)、右に『遊ぶ金欲しさに殺す』ーー『巳』の戦士、断罪兄弟(たつみきょうだい)・弟がいる。そして、その右横を見てみると、やはりいたか、と寝住は思った。『巳』の戦士とうり二つの顔をしている『遊ぶ金欲しさに殺す』ーー『辰』の戦士、断罪兄弟・兄がいる。

 

 彼等は戦士と言っても闇夜に紛れた活動をする、言わば裏社会での活動をもっぱらとした戦士たちだ。

 

 怒突は噛み付き技『狂犬鋲』を持ち、体内で毒を調合できる能力『毒殺師』という能力を持つ戦士。義理の娘を持っているという戦士としては意外な立場にいる事は印象的だ。

 

 断罪兄弟は兄弟のコンビネーションを売りにした戦士で、兄は『天の抑留』で空の上に留まることができ、武器である『逝女(ゆきおんな)』で相手を凍らせる。一方、弟の方は『地の善導』で周囲の状況を地面からの振動で把握できる能力を持ち、彼の武器『人影(ひとかげ)』によって相手を燃やす。

 

(怒突の隣は……庭取(にわとり)、さらに横が砂粒(しゃりゅう)か)

 

 『啄んで殺す』ーー『酉』の戦士、庭取。『鵜の目鷹の目』という鳥と会話するという中々ファンタジーな能力を持っている戦士。彼女に関しては寝住にとって良い思い出はあまりない。彼女は外見や振る舞いに反して、やることが中々えげつない。策士、と言えば、そうなるが、それとはまた別な何かとも言えなくもない。

 

 それとは逆の『平和的に殺す』ーー『申』の戦士、砂粒は寝住にとっては数少ない本当の意味での味方となってくれる存在で、肩書き通り平和を愛する人物である。彼女は幾つもの紛争をやめさせるという離れ業をやってのけ、さらにはその実力から、この第十二回十二大戦の優勝候補者の一人でもあった。

 

(後は……)

 

 視線を一旦、『辰』の戦士の方に向ける。すると、そこには『異常に殺す』ーー『卯』の戦士、憂城(うさぎ)、そしてその反対側には『騙して殺す』ーー『未』の戦士、必爺(ひつじい)と『無言で殺す』ーー『午』の戦士、迂々真(ううま)がいた。

 

 憂城は死体作り(ネクロマンチスト)という死体を操る能力の使い手。彼は他の戦士と違って本番までそこまで評価されていない戦士にも関わらず、この十二大戦においては寝住の知っている限り、誰よりも多くこのメンバーを殺し、優勝した者でもある。寝住は彼の能力を知っているために、その能力がいかに恐ろしいのかを他のどの戦士たちよりも痛感している。

 

 迂々真は(あぶみ)という防御術の使い手で、この十二大戦においては屈指の防御戦の達人でもある戦士だ。彼のこの防御術を破れた者はここにいる十二戦士達でもほとんど居ないだろう。ただ、本人はその体に反して性格はかなり臆病な方だと彼の言動を知っている寝住は思った記憶がある。  

 

 必爺は第十二回十二大戦において、最も高齢の戦士。しかし、彼はその老骨の体を長年の経験と醜怪送り(しゅかいおくり)を駆使して戦う。彼の戦術や外交力が中々鋭かったのは寝住も何回も経験している。

 

(さて、最後は寅の姉ちゃんに牛の戦士か)

 

 欠伸をしてから、最後のコンビに寝住は目を向ける。

 

 『酔った勢いで殺す』ーー『寅』の戦士、妬良(ねら)はかなり酒浸りな戦士だ。この十二大戦にも平気で大酒を飲むという前代未聞の事をしでかしているが、実力はそれでも他の戦士達と渡り合える程の力を持っている。隣にいる『牛』の戦士とは何か因縁を抱えている模様。実際、今も彼女は隣にいる『牛』の戦士を睨んでいる。

 

 そんな睨まれている『丑』の戦士、『ただ殺す』失井はただ強い戦士だ。ただ敵とみなした戦士と戦っては殺していく。一切の躊躇をしない彼を人は『皆殺しの天才』と称し、恐怖した。そして、彼の実力は砂粒と並ぶ程で、第十二回十二大戦の優勝候補者の一人でもあった。

 

(それにしても、この光景を見るのも一応二回目になるが……。今回は大丈夫何だろうか?)

 

 寝住はこんもりとした天井を見つめながら、人知れず寒気を感じた。

 

 彼、『うじゃうじゃ殺す』ーー寝住は第十二回十二大戦において最弱な戦士だ。このことは本人も自覚している。しかし、何も戦士をやるぐらいには強い。彼の能力『ねずみさん(ハンドレッドクリック)』は百通りの状況をシミュレーションし、自分にとって都合の良い未来を一つ選べる能力だ。とは言っても、この能力、一見して強いように見えて、実はそうでもない。彼の能力の『ねずみさん』で受けたダメージは蓄積され、本人に負担をかける上、百通りのシミュレーションを使ってさえも都合の良い未来が見えない事もある。

 

(一応だけど、俺が死んでいるってないよな?)

 

 思わずを痛くもない腹をさする。さっきのルートでは事前に殺されて、さらに、なりすまされて失井と憂城を殺していた。自分が殺していないとは言え、少々この二人には罪悪感が出てくる。

 

「さて、司会者はああ言っていたが、君達はどう思うのか聞きたいのだがね」

 

 場の沈黙を破る声が隣から聞こえてきた。寝住の隣にいるのは右に失井と左に迂々真(中々重量感がある組み合わせだと思う)がいる。聞こえてきたのは右側から。つまりあの常に冷静沈着で沈黙を続ける事が多い『皆殺しの天才』が珍しく率先して発言している。

 

 中々こんなことはない。

 

(だけど、失井から始めてくれるのはありがたいな。これで断罪兄弟とか妬良みたいな奴から話を始められたらこの場の雰囲気は完全に終わっていたからな)

 

 ケッ、そんな声が何処からか聞こえてくる。舌打ちに近い音を立てたのは怒突だった。

 

「発言通りだと思うぜ、失井の旦那。俺達はどうやら協力しなくちゃいけないらしい」

 

「ケッ、何が協力するだ!あたいは、お前らと共闘なんてしたくないね!」

 

 怒鳴り声を上げて、ずかずかと妬良は大股で歩いて去っていった。寝は咄嗟に午の方を見る。午は微動たりしていない。寝はほっとした。彼は防御戦の達人。この十二大戦の攻撃だらけの戦士の中で貴重な存在だ。

 

 

(まぁ、寅の姉ちゃんが協力しないのは想定内。このまま無事に共闘路線に行けば……!)

 

 内心嬉々とする寝を差し置いて、失井は話を続ける。

 

「そうか、ならこの場にいない彼女を除いた私達でやるしかない用だね」

 

「そうですね!私達で協力して戦いましょう!」

 

「それが大戦の運営側のご希望ならやるしかないでしょうね」

 

「僕は皆と友達になれるようなら、皆のために協力して戦うよ」

 

 庭取に異能肉、そして憂城がこの話に参加する。

 

 彼等はこの十二人の戦士達の中でも実力が高い三人がこうして共闘するために戦うなんて、と寝住はしみじみとなる。

 

(それにしても……)

 

 寝住は砂粒を見る。彼女は何かを考えている様子だ。寝住としては意外でもあり、かつ失井よりも彼女に仕切って欲しかった。まぁ、本人はそのことを言わないが。

 

 原則、戦士というものは自分の能力や技は隠すもの。彼もそうで能力『ねずみさん』の事はこの中の誰にも言ったルートはない。そのため、今この場にいる戦士達は知らない、寝住によって見てきた今までの自分達の死に様を、そして、これが『ねずみさん』のバグにより発生したルートだとは。 

 

(まぁ、砂粒が仕切っていないのはこの前の分岐通りだが)

 

 寝住は砂粒と失井達を除いた他の戦士に目を向ける。失井に舌打ちをしながらも主催者の言葉を伝えた怒突は会議を傍観。それは必爺にしても迂々真にしても同じだ。しかし、断罪兄弟の場合は自分達だけで勝手に何か話し合っている。

 

(彼等は兄弟の絆がとても強い戦士だけにしょうがないといえば、そうなるが共闘の事を考えたら、そういう事は慎んでもらいたいところだ)

 

 

 寝住がそう思いながら断罪兄弟を見ていると、会議はいつの間にか自己紹介へとなっていた。

 

「皆さん、ここは私から自己紹介させて戴きます!『酉』の戦士『啄んで殺す』ーー庭取!」

 

 自己紹介一番槍は庭取が努める。続いて失井が一歩右足を踏み出すと、

 

「なら、次は私が行こう。『丑』の戦士『ただ殺す』ーー失井」

 

 平然とした彼の自己紹介の終わりと共に残りの会議に参加していた二人も、

 

「『亥』の戦士『異常に殺す』ーー異能肉!」

 

「『卯』の戦士『異常に殺す』ーー憂城」

 

 彼等の宣言は場のムードに一致団結のムードを作ったのか、ここで必爺と迂々真が口を開く。

 

「『未』の戦士『騙して殺す』ーー必爺!」

 

「『午』の戦士『無言で殺す』ーー迂々真」

 

「へぇ〜、馬ってこんな筋肉しかない動物だとは知らなかったなぁ!」

 

 迂々真の方を見て笑う断罪兄弟・弟。どうやら、話し合いは終わったらしい。巳の戦士はゲラゲラと笑い、兄である辰の戦士に「この馬、ひょっとしたら駄馬じゃねないのかねぇ」と喋りかけている。辰の戦士はそれを制すると、正面を向いて、

 

「『辰』の戦士『遊ぶ金欲しさに殺す』ーー断罪兄弟・兄!」

 

 兄の名乗りを受け、弟も応じ、

 

「『巳』の戦士『遊ぶ金欲しさに殺す』ーー断罪兄弟・弟!」

 

 双子の名乗りに『戌』の戦士はため息をつきながら、

 

「『戌』の戦士『噛んで含むように殺す』ーー怒突」

 

「『申』の戦士『平和的に殺す』ーー砂粒」

 

 怒突と共に名乗りあげる砂粒に寝住は驚く。どうやら考え事は一旦、隅に置いたらしい。

 

(おっと、それじゃあ次は俺か)

 

 寝住は欠伸を出してから眠たげに

 

「『子』の戦士『うじゃうじゃ殺す』ーー寝住」

 

「『偽巳』の戦士『突き刺して殺す』黄韆(こぶら)!」

 

(え……)

 

 自分の後に続いた謎の戦士に戸惑う寝住。しかし、彼に冷静になる時間は与えられなかった。

 

「がは……」

 

 低く呻く声が聞こえてくる。呻いているのは自分ではない。声の主は傍観組の一人必爺だ。彼は地中から出てきた一本の槍によって地中から胴体を貫かれていた。彼がもう死んでいるのは明白になる。

 

 五秒経ってから戦士達は驚きながらも戦士達はすぐさま辺りを見渡す。しかし、声の主も槍も既に無くなっていた。

 

 突然の襲撃。一瞬で行われた殺人。寝住は驚きながらも内心、自分じゃなくて良かった、とほっとする。

 

 だが……

 

「皆、伏せて!!!」

 

 砂粒の甲高い大きな声が聞こえてきたと同時に天井から屋根を壊してミサイルが突入してきた。

 

 そして、それは戦士達が作っていた円の真ん中へと落ちていった。

 

 こうして、第十二回十二大戦の始まりを戦士達達に告げたのであった。

 

 

 

 




(十二戦士・残り十一人/偽十二戦士・残り十二人)
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