本名は白寅大地。身長は182cm体重70kg。9月25日生まれ。白虎流の拳法の道場主の息子で拳法の英才教育を受けており、そこで才能を開花させ、七歳の時には拳法の奥義を習得しており、将来は白虎流の拳法の未来を一身に背負うはずだった。しかし、本人の素行の悪さや酒癖の悪さ、そしてある事件が影響し、白寅流がなくなることになった。その後は傭兵となり、各地の戦場を転々とする。そして、受けとった金を酒代で散財させた上、戦場での振る舞いから戦士達との人間関係は最悪になる。とは言え、本人自身の戦闘能力は高く、実際に同僚である傭兵三人と共に国一つを消滅させている実績もあるほど。ついでに言うと、怠我自身はこれといった特別な能力がなく、偽十二戦士で数少ない能力無しである。
北にある街は基本的に洋風の建築物が多い。白い外壁に塗られた家が建ち並び、ヨーロッパの各地にある町と同じように中央には大きな噴水が広々と陣取っていた。そんな中を怒りながら歩く戦士がいた。
『寅』の戦士妬良だ。
(畜生!なんであいつと共闘しなきゃならねぇんだよ!)
彼女の言うあいつとは『丑』の戦士の事だ。妬良は失井と闘うつもりで、この場へと来たのに、その肝心の十二大戦がこのような事になってしまい、それが出来なくなってしまった。唯一の目的をご破算された彼女は目をぎらぎらさせて怒りの色を出す。
「畜生、何が共闘だ!」
叫んで石を蹴るも怒りは収まらない。それどころか、まだまだあふれ出てくる。妬良はこの怒りを何で静めようか。そんな事を思案してみると、一つの考えに及んだ。
「酒でも飲むか」
妬良はそうと決めると、街中にある家を一軒一軒見て回った。なんでもいいから酒を飲むための探索。しかし、探しても探しても酒は一本たりとも出てこない。
「こんな十二大戦って酒が置いてないのか」
先程から不機嫌だった彼女はより酷くなる。何でもいいから、一杯飲みたい。そんな思いが彼女の頭に延々と回る。最早、彼女の頭には偽十二戦士と闘うということは全く考えていなかった。
「くそ、いらいらが止まらねぇ!」
咆哮に近い叫びを上げる妬良。怒りはもう収まりきれない。何でもいいからこの鬱憤をぶつけたい衝動に駆られる。妬良は本当の虎に今にでもなってしまいそうな状態であった。
その時だった。彼女の鼻から飲みたくて堪らない酒の匂いがした。だが、それは妬良の堪忍袋の緒が益々切れることとなってしまう。
「おい、誰だ!こんな所で平気な顔して飲んでんだ!」
大声を上げて辺りを見渡すも、誰もいない。だが、第五感が彼女に知らせる。敵はすぐそこだと。
「おい、さっさと出てきやがれ!」
「なんだよ、うるせぇな〜」
かぁん、と瓶を地面にぶつける音が聞こえてくる。妬良はすぐさまそこへと目をむけ、音のした方向へと向かっていく。
声のした所を辿ってみると、それは近くのゴミ捨て場のような所。一人の酔っ払いはそこでゴミの上で酒瓶を開けて飲んでいた。そこら辺に散らばっている酒瓶の数は恐らく一ダース分はとうに飲んでいるだろう。酔っ払いは妬良の存在に気づいていないのか、近くの麦酒缶に手を付けようとする。
妬良はこの男に怒りと共に持っている麦酒が欲しくなった。そして彼女は我慢が出来なかった。
「よこせ!」
そう言って、男の麦酒缶をひったくり、がぶ飲みする。
「あ〜……俺の酒がぁー」
情けない声を出す男。
妬良はそんな声をする男をちらりと窺う。
男は無精髭を蓄えた中年で覇気が何処から漏れていて相当な手練れであることは一目で分かるほどだ。そしてなによりもその図体のでかさ。男は190cmは超える程の身長で、そのくせ筋肉質。拳法でもやっているのか手には包帯のようなものが巻かれていた。
(こいつ……さては)
ちらりと相手の顔を見て確信へと変わったのだろう。さっきまでとは打って変わって彼女の目には敵を洞察するような目へとなっている。しかし、それはほんの一瞬。妬良はいつもの酔っ払いへと化した。いや、それを演じた。
妬良には他の十二戦士達とは違ってあることが得意であった。それは敵を騙すこと。自分の見た目や行動をわざとずさんにすることで、相手が「こいつは自分より弱い。こいつに勝てる!」という確信を得させ油断させるためだ。
この術は意外と強く、現に妬良を見ていた男は彼女に対して油断している様子であった。
妬良はこれを待っていた。
(よし、今だ!)
そう思った彼女の行動は素早かった。まるで何かに突き飛ばされるように動き、瞬く間に男の頬に一撃を与えた。巨漢は数歩よろめき自分の傷ついた頬をさする。さらに一撃ーーそう思った彼女だが間もなく彼女の体は吹っ飛ばされた。
(え…………?)
地面に転がりながらも体勢を整えると妬良は相手を見る。すると相手の右手はやはり拳となっていた。
(まさか……こいつ素手で闘う奴か!)
「ありゃあ〜……もう終わりかいお嬢ちゃん」
酔っ払いはゲップを出しながら尋ねる。千鳥足で今にも倒れそうなこの男にさっきのような芸当が出来るとはとても思えない。
だが妬良は気づいた。いや気づいてしまった。この男の事を。
「てめぇ、さては白寅流の奴か!」
「そうだな〜、我こそが、白寅流の、怠我様だぜ」
怠我の呂律が明らかにおかしい事になり、言葉の要所要所でしゃっくりをする。
白寅流、拳法の中ではこの国に置いてもかなり古参である拳法。しかし、一般人や拳法の事をかじった事もない者はこの拳法を知らない人が多い。
それもそのはず、白寅流は拳法界からなかった事扱いにされているからだ。理由はある騒動がきっかけであった。
四年前ーーある男がいくつかの道場破りを決行し、そこで十何人もの死者を出す事件が起きた。
殺された者はいずれも武道界の中なら名が知れた者ばかり。妬良でも知っている者も何人かいる。
決行したのは白寅流の師範代であった男。
彼は逮捕後は行方知れずになった。が、巷では彼が戦士として戦場で兵士達を殺し回っている、という噂がまことしやかに言われていた。
(まさか……)
妬良の頬に冷や汗が一筋走る。
彼女はこの泥酔男に対して恐怖を否応にも感じられずにはいられなかった。
「それにしてもよぉ……酒が少なくねぇかぁヒック……せっかくかの十二戦士を殺すんだから、もっと酒があってもいいはずなんだよなぁ……それに」
目の前の大男はふらつきながらも二本の足で立ち上がった。
そして大男は充血した目で妬良をぎろりと見る。
「お嬢ちゃんの分がないってのによぉ〜!!」
怠我は中国拳法さながらの構えを取る。その面はいかにも強者らしく、虎が持つような牙が見える。
妬良も彼女なりの構えを取る。彼女も一応は拳法の使い手であるが、本人の都合により猫科がするような構えを取っている。
「『偽寅』の戦士、『殴って殺す』怠我!」
「『寅』の戦士、『酔った勢いで殺す』妬良!」
そう言って両者は睨みあった。
陳腐な時代劇でよくある侍同士の決闘のようなものを感じる。
先に動いた方の負け。後に動いても負け。
動くのなら、相手に隙ができるとき、あるいは相手の攻撃を防いでからのカウンター狙いだろう。だが、どれもできるない場合はどうするか。
それは……。
「「!」」
両者は一斉に地面を蹴った。目指すは目の前の敵。
彼、彼女よりも先に一撃を食らわしダウンさせる戦法。
ほぼ直感と戦場においての勘しかない作戦。
二虎はこのギャンブルのような作戦に打って出たのだ。
こうして二人は静かにかつ、通常の人からはよく見えないぐらいの速さでの戦闘を始めた。
彼等は互いに相手から繰り出される一撃を避け、かつ相手に一撃を繰り出している。
狙うは両者ともに胴体。
バトルゲームやアクションゲームの上級者でも彼等のような動きをキャラクターにさせるのはほぼ不可能だろう。
なぜなら、一つの拳が繰り出されるのに四秒もかからずにうち、そしてそれを避けているのだから。
だが、そのような決闘もまた、終わるのは速い。
五十発目ぐらいだろうか。
二匹の虎は突如として動かなくなった。
見ると、両者共に口から大量の血を出し、胴体には拳一つ程度の大きさの穴が空いていたからだ。
「ぐ……がぁ!」
怠我はばたりと地面へと倒れ伏した。と、同時に妬良も倒れた。
こうして二匹の虎の魂は地上からは消滅したのだった。
(十二戦士・残り十人/偽十二戦士・残り十人)