時系列的には、第2章「平和が何よりのご褒美」でウィズの店に行く前の出来事です。
「ばっくれっつ、ばっくれっつランランラン! ばっくれっつ、ばっくれっつランランラン!」
魔法使いとしての更なる高みに上り詰めるべく、今日も今日とて私は爆裂スポットへと出向いて行く。
ただ、今回は普段とは違うことが一点。
「君は常日頃からその様な奇行を取っているのか?」
そんな分かっていないことを言うのは、つい最近私達のパーティーに加わった絶世の美女、クイーン。
カズマと同じ国から来たと思われるのだが、記憶喪失によりここに三日の記憶しか覚えていないらしく、本当のところは分からない。
常に大人な女性のオーラを漂わせつつも芯の通った強さが垣間見え、そして忌々しいことに胸も大きい、とても大きい。
総合すると、以前聞いたカズマの理想の彼女像にかなり近い。
おまけにステータスはとんでもなく高く、一周回って嫉妬や妬みを持つことが馬鹿馬鹿しく思えてくるほどだ。
しかしそんなことはどうでもいい、最も重要なことはこのクイーン、何と爆裂魔法を放てるのだ。
しかもこの私よりも優れたモノを!
初めて目の当たりにした時、思わず私はショック死しそうになったのは記憶に新しい。
今の私の目標はクイーンよりも凄い爆裂魔法を放つこと、そしてクイーンを見返してやることだ。
その為に今日もこうして修行に来たのだが……。
「何を言っているのですか! これをすることによって血行良好になりより強力な一撃を打つことが可能になるのです! 全く、クイーンは何も分かっていませんね」
「うん、さっぱり分からないし知る必要もないと思う。」
どれだけ凄い爆裂魔法が打てようと所詮は昨日一発撃っただけの若輩者、この辺りのことを理解出来ないとはまだまだだ。
同じ爆裂道を歩む先輩として、私がしっかり教授してあげねば。
そんなことを考えていた私を横目で見たクイーンは、何を思ったのかニヤッと笑い。
「それに大前提として、私は既に世界一を呼称する君よりも強力な物を撃てるのだ。これ以上差を付けてしまっては君の立場が危ぶまれるのではないか?」
あっ!? この人は何を言っているのだろうか。
この私相手にこうも面と向かって喧嘩を吹っ掛けてこようとは流石に想定外だった。
これではまるでカズマではないか。
しかし昨日あれだけの力量差を見せ付けられたのもまた事実。
それだけに即座に言い返せないのが悔しい。
「くっ、昨日は少し調子が悪かっただけです、ええそうですともっ! だから今日は負けません! この際です、私とあなた、どちらがより優れた爆裂魔法の使い手か白黒つけようではないですか!!」
「ほほう、昨日のは調子が悪かったのか。そうかそうか、それじゃあ今日の一撃に期待するとしよう。」
「ふっ、笑っていられるのも今の内です!」
かつてここまで私の闘争心に火をつけた人物が存在しただろうか。
ウィズ? 私の恩人であるあの人? いや、二人ともかなりの使い手だが事実上私は二人に勝利することが出来ている。
今日こそは必ず、汚名返上してやりますとも!
湖の沿岸に辿り着き、クイーンが私に背を向けて一歩前に出た。
「今日は私が先に打とう、昨日はめぐみんのほうが先だったしな。先後交代だ。」
「いいでしょう。あなたが打った後に圧倒的な差で腰を抜かしてやりますよ!」
「その心意気や良し。それでは、お先に。」
そう言ってクイーンはすらすらと詠唱を唱え始めた。
昨日も感じたが、やはりクイーンの爆裂魔法は凄まじい精度だ。
一日一爆裂を日課としているこの私ですら、ここまで秀逸なものはそう何発も打てないだろう。
これはやはりあの手を使うしかないようだ……。
そうこうしているうちに、どうやら呪文が完成したらしい。
「『Explosion』!」
特段気合を入れたわけではなさそうなのに、それでも昨日同様の素晴らしい爆裂魔法が放たれた。
ぐぬぬ、なんと素晴らしい爆裂。
カズマなら少なく見積もっても98点はつけていそうだ。
おまけに魔力切れを起こさないとは、カードに表示されていた通り馬鹿げた魔力量だ。
「さて、次はめぐみんだ。私が言うのもなんだが、結構上出来だったと思うぞ。今のを超えられるのかな?」
口角を上げて試すかのように挑発してくるクイーン。
そんなクイーンに私は不敵に笑い返す。
「ふっふっふ、流石はクイーンといったところでしょうか。昨日に引き続き素晴らしい爆裂魔法です。しかーし、その程度では最強を名乗るにはまだまだです! これから私が見せてあげましょう、本物の爆裂魔法をっ!!」
今日の私は昨日とは一味違う、何といっても今回は秘策があるのだ。
今ならどんな相手だろうと消し飛ばせる自信がある。
「おや?」
どうやらクイーンも気が付いたようだ、私は今いつも以上に洗練された魔力を練ることが出来ている。
想像以上の効果だ。
「他はともかく、爆裂魔法に関してだけは、私は誰にも負けたくないのです! それが例え悪魔であろうと神であろうと! 見ていてください、これが私の渾身の一撃です!」
そう言い放つと同時に、杖の先端の宝玉が今までにないほどに眩い白色光を発散させ……。
「『エクスプロージョン』――ッッッ!!」
魔法の余波により浮かび上がった魚を魔法で釣り上げたクイーンは、それを風の魔法で捌き。
屋敷から持って来ていたらしい醤油と山葵を付けたお刺身を堪能しながら、私達は互いの評価をしていた。
「いやー参った参った、降参。流石はめぐみん! よっ、世界一の爆裂職人!」
「分かればいいのですよ。これで私が再び世界一ですね!」
なんと清々しい気分だろうか、これだから爆裂魔法はやめられない。
無事に世界一の座に返り咲いた私は胸を張りながら、魚の良い部位を頬張った。
しかしここまで称賛してくれるとは、少しばかり罪悪感が沸いてこないことも……。
それにいくら爆裂魔法の為とはいえ、あれはちょっと恥ずかしい……。
「……なんですか、クイーン? そんなに顔をニヤニヤさせて?」
「別に、ただ君が、私に何か言いたいことがあるのではと思ってね。」
相変わらず何という勘の鋭さだろう。
でもここで負けを認めるのもちょっと悔しい。
「な、何のことですか?」
「ふーん、それならそれで構わないが。……カズマも苦労しているようだな。」
頬杖をついて何故か遠くの方を見るクイーン。
何というか、ただそれだけなのに何故かクイーンのことがひどく神々しく見えてきて……。
しかも今の発言だって、私には分からないのにカズマの苦労を共有しているように聞こえて……。
「……あの、クイーンはカズマのこと、どう思っているのですか?」
ついついそんなことを聞いてしまった。
私の言葉に目をぱちくりさせたクイーンは、まるで面白いおもちゃでも見つけたかのような目で私を見据えてきて。
「そうだな、カズマは良い奴だ。見ず知らずの私にここまでの待遇を提供してくれたし、何かと気を使ってくれている。世間ではクズマとかカスマとか呼ばれてるらしいが、私は正直嫌いじゃない。」
「それはつまりカズマのことを気に入っているということですか!? だからカズマの前でもあんな無防備な格好で動き回ったりやたらと距離感が近かったりそれとなく褒めてポイントを挙げようとしたりしていたのですか!? そういう意図があるのでしたら、まずは私に話を通して貰おうか!」
「そんな意思は微塵もないよ、ただ彼が相手だと素のままでいられるってだけで……。おいめぐみん、そんなに眼を紅く輝かせて接近しないでもらいたいのだが、話し辛いではないか。」
おっと、自分でも知らない間に感情的になってしまっていたらしい。
これでは私の冷静沈着な印象が崩れてしまう。
「本当ですか? 信じますからね。ですが、それなら猶更カズマを誘惑するような態度は控えてくれませんか? 以前に比べれはマシにはなりましたが、それでもあの人はびっくりするぐらいに意志が弱いのですから。大義名分さえあれば、初めて会った人にも貢いでしまうようなチョロい人なんですからね!」
念入りに釘を刺す私に、何故かクイーンは不思議な生物でも見るかの様な視線を送って来て、
「えらく必死に食い付くモノだな。一体どれだけ彼のことが好きなんだ?」
今までに何人もの人に尋ねられて事を聞いて来た。
「どれぐらいかと聞かれると難しいですが……。カズマを失うのと爆裂魔法を失うのとどちらかを選べと言われたら、1週間必死に悩んだ結果カズマを選ぶくらいには好きです」
「そこは即答してあげてなよ。因みにどの辺りを気に入っているのだ?」
カズマの気に入ったところですか、そうですね……。
「基本的には典型的なダメ人間ですが、それでもいざって時には誰よりも頼りになりますし。面倒見がいいっていうのでしょうか。自分で言うのもなんですが、私達みたいな癖のあるパーティーを、何だかんだ言いながらもまとめ上げていますし、絶対に見捨てないでくれます。普段は口汚いくせに、根っこのところでは私達のことをしっかり考えていてくれて、本当に苦しい時なんかは不器用ながらも慰めてくれる、そんな人間臭いところが大好きです。他にも……」
「ああ、もうその辺でいいぞ、大方把握したから。何事にも全力で取り組める人間というのは稀少なのでね、少し探りを入れてみただけだ。」
これは褒めてくれているのか分からないが、悪い気はしない。
しかし、本当はまだまだカズマの良いところは挙げられるのだが……。
「さて、あの悪魔の店に行く予定もあるし、その続きはまた時間のある時にしよう。ほら、背負ってあげるよ。」
「それもそうですね、今日の所はこの辺りで勘弁してあげましょう」
そう言いながら私は、しゃがんでくれたクイーンの背中に負ぶさりゆっくりと首に腕を回した。
しかしこれだけは伝えておかなければ。
「そういう訳なので繰り返しになりますが、カズマには手を出さないで下さい。クイーンはカズマの理想のタイプに限りなく近いんですから、チョロっと誘われようものなら、あの人は後先考えずにあっさり乗っかってしまいます。本当にお願いしますよ!」
「……そこまで念を押されると逆に実行に移したくなるのだが……りょ、了解した、善処するから首を絞めないでくれ」
本当に、油断も隙もあったものじゃない。
この人はこれで子供ぽいところもあるから、気を抜いたら本当に悪戯のつもりでカズマにちょっかいを掛けるかもしれない。
もっと注意を払うべきだろうか……。
しかし、クイーンの背中もなかなかにいいものだ。
何というか、抱擁感があるというか安心出来るというか。
「……これだけ愛が深いのであれば、そりゃポーションの効き目は抜群だわな。」
「ななな何のことですか!?」
ちょっと聞き流せない言葉が出たような。
「めぐみんが昨日バニルから購入していた威力向上ポーションを、私が詠唱している最中に服用したのは当然察知している。だからこそ、休息後にも関わらず私の背に乗っかったのだろう? だがあのポーションは体力を根こそぎ奪取する以外にも効能として……」
「ああああああっ、やめ、やめろー! それ以上言うのはやめて下さい!」
耳まで赤くなるのを感じながら、私は必死になって気怠くて動かくのも億劫な手を必死に動かすも。
「何を今更恥ずかしがっているのだ、あれだけ深くカズマ愛を語ってくれたというのに。そう、あのポーションの効果を最大限引き出すには、意中の人物のことで脳内を充満させて発動させる必要が……」
「いいいいやああああ、本当にやめて下さいっ! 自分で言う分にはいいのですが、他の人に改めて言われるとすっごく恥ずかしいですから!」
ううっ、まさかここにきてこんな辱めに会うだなんて。
こんなこと、カズマに伝えられた際にはどれだけからかわれるか。
「うんうん、今度はいい羞恥具合だ。店に到着したら早速カズマにも報告してやろう。」
「やめて下さい、それだけは本当にやめて下さい! もしかしてこっそりポーションを使ったのを怒っているのですか、怒っているのですよね!?」
今更ながらにクイーンの知能の高さを思い知りつつ、私は戦慄を帯びながら必死に頼み倒してみるが。
「まさかまさか、大人な私があの程度の姑息なドーピングが原因で敗北したからと言って、子供相手にいちいち怒る訳ないではないか。そうだ、折角だからめぐみんの親御さんにも、カズマの名前を借りて報告してあげよう。きっと歓喜に震えること間違いないだろう。」
「やっぱり怒ってるではないですかっ!! というか、嫌がらせを考える時の思考回路がカズマそっくりですね! 謝りますから、こっそりポーションを使ったのは謝りますから、それだけはやめて下さい! ……あ、あの、返事を、返事をしてください!」