SAOから生き残れたけどどうやら俺はラフコフからは逃れられないらしい。   作:班・損

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前編

 —2024年 11月7日―

 

 空に浮く鉄の城が崩壊していく。

 

 不愉快な浮遊感を受けながらその光景を俯瞰していた。とある狂気の天才が生んだ世界は今日をもって終わりを迎える。それはとても喜ばしいことなのだろう。

 

 苦い記憶、楽しかった記憶。二年と一か月。それだけの年月を過ごせば思い返せる過去もそれ相応である。

 

 だから弁えねばならない。俺は、()()()()()()()()のだと。

 

 

 

 —2025年 4月15日―

 

 

 

 「えーこうした場合最小二乗法を用いることで―――」

 

 こつこつとチョークで黒板を打つ音が講義室内で響く。随分と昔に学んだ知識ではあるが、二年というブランクは大きいもので。大学どころか高校生で習うような内容でさえほとんど忘れている。だからこそこうして最前列に座りシャーペンを走らせている訳なのだが、いまいち内容が頭に入ってこない。非常に面倒だが、復習が必要であると分かる。

 

 「はい、今日はここまでにしておきましょう。来週に今日までの内容を小テストで確認しますので、しっかり勉強してくるように」

 

 教員の男が言い終えると、たちどころに教室が騒がしくなる。なんというか、この感覚が懐かしく思えた。

 

 (……帰るか)

 

 今日の講義はこれでおしまい。大学の図書館で勉強することも考えたが、何となく今日は家に帰りたかった。

 

 筆記用具等を片付けて退出しようとすると、入り口に男数人が屯っていた。新入生特有の初々しさを感じないので、もしかすると二、三年次なのかもしれない。軽く頭を下げて通り過ぎようとすると、

 

 「やっぱ郡山じゃん!!」

 

 そういって、金髪の男が俺の腕を掴んできた。少しびっくりした。因みに郡山とは俺の苗字である。

 

 「えっと」

 

 「俺だよ、清水だよ! 覚えてない?」

 

 清水。その名前を聞いて思い出す。確か二年前、俺が大学で初めてつるんだメンバーの一人だ。その時の髪は金色に染めてなかった気がする。

 

 「亮介、だっけ?」

 

 朧げな記憶を頼りに下の名前を呼んでみると、目の前の男はにこりと笑った。よく見ると彼の後ろにいる人たちも二年前、どこかで会った事がある気がする。たぶん同じ学部学科の人たちだろう。

 

 「良かった。忘れられたかと思った」

 

 「いや、でも苗字を言ってくれなかったら思い出せなかったよ」

 

 「もう二年経ってるからな。しょうがないさ」

 

 大して気にした様子を見せずに、亮介は肩を叩いてくれる。それがどうしてか安心した。中高の頃の友人ならともかく、まさか大学で俺の安否を気にしてくれる人がいたなんて。

 

 「助かるよ。それで、どうしたの?」

 

 疑問に思った事を口にしてみる。というのも、三年次と新入生のキャンパスは少し離れている。だから順調に進級しているであろう彼らがわざわざこちら側のキャンパスを訪れる必要はないのである。

 

 「そりゃあお前、復学したって聞いたからさ。ちょっと挨拶しとこうと思って」

 

 「ああ、それはどうも有難う」

 

 いい人過ぎない? めっちゃ嬉しいんだが。

 

 「おう。で、これから少し時間ある? 遊ぼうぜ」

 

 望外である。こちらとしては非常に嬉しい申し出だ。

 

 とある事件により特例で二年間休学していた俺は、復学したとはいえ未だに一年次である。そして人付き合いが得意でないのも合わさって同学年の友人は少ない。というか二歳年下の同級生にどんな風に話しかければいいか分からなかったりする。

 

 そんな中で、歳が同じ彼ら三年次とつながりが出来るのは喜ばしいことだ。いや、本当に。

 

 「もちろん。願ったりだ」

 

 

 

 ★

 

 

 

 カラオケと飲酒を挟むことで亮介とその友人らとの距離を一気に縮めることが出来た。そして仲良くなって分かった、皆すっごくいい人である。俺の復学を聞いて駆けつけてくれる辺り、性格の良さに関して言えば当然と言えば当然なのかもしれない。世間話やカラオケのレパートリーから二年という時間の差を感じた場面もあったが、それはそれ。その辺を含めて大変楽しめた。

 

 ただお酒はあまり強くなかったようで、亮介以外の皆はぐっすり眠っている。先ほどまであれだけ騒いだのに、この静まり様はなんだか面白い。卓飲みで本当に良かった。

 

 「今日は楽しかったよ」

 

 「そりゃ良かった」

 

 亮介が机に突っ伏しながら返事する。お酒を飲んでグロッキーになった友人を介護するのはやはり疲れたようだ。すごく眠そうである。一応俺も手伝おうとしたのだが、亮介の手際の良さに圧倒されて何もできなかった。たぶん普段から苦労しているのだろう。

 

 「そろそろ寝たら?」

 

 「ん、寝る。でもその前に一つだけ聞かせてくれ」

 

 亮介は上体はそのままに、顔だけこちらを向けて言う。「どうぞ」と返すと、彼は一つ息をついた。

 

 

 「大樹は、どうなった?」

 

 

 息を飲む。頭の中が真っ白になった。

 

 

 「……ごめん」

 

 絞りだせた言葉はその三文字のみだった。

 

 「なんでお前が謝るんだよ」

 

 亮介は酷い顔をしていた。たぶん、俺も同じ顔をしてる。

 

 「二年前、お前と一緒に大樹は音信不通になった。だから、そういうことなんだろ?」

 

 「……うん」

 

 二年前、ソードアート・オンラインというゲームがリリースされた。当時、世界初のVRMMOPPGという事で世間から大きく注目され、ネトゲーに疎かった俺でも大いに興奮していた事を覚えている。

 

 大学生で時間的にも金銭的にも余裕があった俺は、亮介と共通の友人だった大樹と共にSAOが梱包されたナーヴギアを購入した。入手するのにそれはもう苦労したし、お金も消し飛んだ。正直最初は損した気分になった。

 

 そして、その感想はゲームをクリアしても変わることは無かった。

 

 何故ならSAOは正真正銘のデスゲームだったからである。開発者である茅場明彦が直々に表明し、事実としてヒットポイントがゼロになった者が蘇ることは無かった。

 

 「……ダイキは、死んだよ」

 

 リアルに戻って、真っ先に確認した。そして最悪な結果だったことも、すぐに分かった。

 

 「せっかく言葉を濁してやったのに、お前」

 

 「……悪い」

 

 「だから何でお前が謝るんだよ」

 

 「でも」

 

 「いや、俺の方こそ悪かった。何となくわかってたんだ、郡山は帰ってきたのにアイツは帰ってこなかったから。だからその、つらい話させて、すまん」

 

 亮介が手をついて頭を下げた。違う、そうじゃないんだ。本当は、俺が———

 

 「俺から始めておいてなんだけど、この話はここまでにしよう。それより二度目の大学生活はどう? テストとか分かんないところあったら過去問やるからさ」

 

 そういって彼は話題をあっと言う間に変えてくれた。バイトの話とか、どの教授の講義が面白のかとか、およそ先ほどの話とは関係ない話題を持ち出してくる。

 

 でも、その優しさが今は痛い。

 

 

 

 —2025年 4月23日―

 

 

 

 「ガンゲイル・オンラインっすか?」

 

 今日の講義を終えて、とある喫茶店で亮介の友人らと時間を潰していた時の事である。因みに亮介はバイトで不在である。

 

 「ああ。最近リリースされたゲームなんだけど、これがすっげぇ楽しいのよ」

 

 そう話すのは武さん。一度浪人した経験があるそうで、俺の事をよく気にかけてくれている。だから俺もそれにあやかり、特に勉学面の相談は彼にしている。また、彼から送られてくる過去問を現同級生に回すことで話すきっかけを作れたので、キャンパスライフをボッチで過ごすことがかなり減った。全くもって、武さんには下げた頭が上がらない。

 

 「タイトルにガンってついてるくらいだから、銃がメインなんですか?」

 

 「だな、現実にあるモノからエネルギー銃みたいなSFチックなモノもあるぞ」

 

 「へぇ。どんなゲームなんすか?」

 

 たぶんVRMMOなんだろうなぁと思いながら、そのように聞いてみる。

 

 「MOB狩りしてもよし、PVPをしてもよし。荒野と夕日が似合う泥臭いゲームって感じ」

 

 「想像できるなぁ」

 

 「だろ? ただ俺も亮介もあんまりゲームが得意じゃなくてな、訳も分からないうちに死ぬことが多くってさぁ」

 

 成程、それで楽しいって思えるんだから、相当良く出来たゲームなのだろう。だが―――

 

 「VRっすよね」

 

 「VRだな」

 

 そっかぁ、VRかぁ。

 

 「郡山もやらん? 楽しいぞ」

 

 「ですよねー」

 

 話の流れ的にこうなるのは分かってた。

 

 個人的にVR系のゲーム、というかVR自体お腹いっぱいである。二年間ずっと、それこそ死と隣り合わせでやってきて、なんなら今も密接にかかわってる訳だし。それに今はもう踏ん切りがついてるが、トラウマがない訳でもない。

 

 とはいえ、お世話になっている武さんによる直々のお誘いだ。話によると亮介も裕翔(亮介の友人の一人)もやっているという。共通の話題を作るためにも遊んでおいて損はないのだろうが……。

 

 「……じゃあやってみようかな」

 

 悲しいかな、俺はお誘いにNoと言えない我の弱い人間なのである。ましてや親しい人の頼みともなるとなおさら。

 

 「やったぜ。あ、因みにお金に余裕は? 最悪俺が———」

 

 「バイトしてるしアミュスフィアくらいなら訳ないかな」

 

 「マジか、12万余裕とかすごいな」

 

 スマホから目を放して、驚きながら会話に参加したのは上記にもあった裕翔である。

 

 確かに一般的な大学生からしたら12万円は手痛い出費なのだろう。実際値段は高いと思う。だが自慢じゃないが、俺にはバイト以外にもちょっとした収益があるのだ。生活費は両親から送られてくるため、自分で稼いだお金は全部自分のために使えるって寸法である。

 

 「まぁね」

 

 「いいなー今度ラーメンおごってよ」

 

 「俺一年、お前三年。おわかり?」

 

 「ケチ」

 

 「ケチ言うな」

 

 「なんだ、奢られたいんだったら奢るぞ。もちろん飲み屋で」

 

 「いや結構」

 

 武さんの酒癖の悪さを知っている裕翔は即答した。一連のやり取りを聞いて俺も思わずニヤついた。

 

 そんな何気ない日常である。

 

 

 

 —2025年 4月17日―

 

 

 

 「あーだっる」

 

 冬は過ぎたというのに未だに肌寒い4月の朝。何故か俺は早起きしてしまった。

 

 朝食を済ませ、身支度も整えてもまだ時間が余っている。特にすることもないのでスマートフォンを弄ってようかとも考えたが、結局早めに登校することにした。動画を見るのに夢中になって遅刻した経験があったからだろうか。

 

 自宅のカギを締めるとき、ちょうど同じタイミングでお隣さんも同じように戸締りをしていた。

 

 「あ、おはよう」

 

 「……おはようございます」

 

 お隣さんは眼鏡をかけたちょっと地味目な女子高生だ。特徴はいつも目が死んでるところ。しかし今日はソレが三割増しな気がする。

 

 彼女は軽く会釈するとそのまま階段を下りていった。その足取りはどうもふらふらしてて危ういように見える。すると案の定、バランスを崩して階段で転びそうになっていた。手すりがなかったら結構危なかったかもしれない。

 

 「大丈夫?」

 

 一部始終を見てしまったからには声をかけない訳にはいかない。手を貸しながらそのように尋ねる。

 

 「……大丈夫、です」

 

 明らかに大丈夫でない様相で応答する。俺の助けは必要ないといわんばかりに、彼女は自力で立ち上がろうとするがどうも踏ん張りがきかないらしい。手すりにかけた手に力を込めてはいるものの、それだけで終わっている。

 

 「あんま大丈夫そうには見えないけど」

 

 「……大丈夫ですっ」

 

 「そっか。ちょっと失礼」

 

 それでも強がる女子高生にある意味感心しながら、俺は彼女の額に手を当てた。セクハラと言われそうで気後れするが、許される範囲だと思いたい。

 

 「まぁ熱だね」

 

 しかも高熱。こりゃあ学校は休むべきだろう。明らかに体調悪そうだし。

 

 「今日は学校休みなよ。ほら、肩かしてあげるから」

 

 俺がそういうと、彼女は渋々といった様子で身をゆだねてきた。多少密着したことで分かる。彼女の息はかなり荒く、うめき声は心底苦しそうだ。

 

 いたたまれない気持ちになりながら、階段を上り切って彼女の部屋の前に立った。

 

 「あー鍵もってる?」

 

 やはり気後れしながら尋ねると、女子高生は無言で鍵を差しだしてきた。全体重を預けられながら鍵を開けることは中々難しく、そこから彼女をベッドに寝かせるのにも苦労した。というか5,6歳ほど離れた女子の部屋に入るという行為が色んな意味で苦痛だった。

 

 「とりあえず今日は家で大人しくするといいよ。何か欲しいものはある?」

 

 俺の問いに軽く頭を横に振って答える女子高生。まぁそうなるよな

 

 「まぁ、今日は午後休だからあとでコンビニ弁当買ってくるよ。一時過ぎになるけど、いい?」

 

 お節介かもしれないが、それだけ彼女は辛そうにしている。この様子だと満足に自炊することもできないだろう。少なくとも俺にはそう見える。

 

 返事はなかった。というよりも、返事をする事さえ億劫なほどに辛いのかもしれない。鍵は後ででいいからしっかり閉めるように、それだけ伝えてさっさと退出しようとすると。

 

 「……ありがとう、ございます」

 

 だなんて、小さな声が背中越しに聞こえてきた。何にも言わないのも悪いから、ただ「はい」とだけ返した。

 

 因みに大学に到着した頃にはもう講義が始まりそうだった。早起きしてて本当に良かった。

 

 

 

 ★

 

 

 

 亮介たちにカラオケに行かないかと誘われたが、朝の出来事もあって断った。思いの外食い下がってきたので事情を説明したらすんなり諦めてくれた。それどころか買った方がいいモノまで教えてくれる始末。君らはいい人過ぎる、マジで。

 

 帰り道の途中、コンビニでアドバイスの通りうどんとスポーツ飲料、そしてゼリーを買った。俺の住むアパートに到着する頃には1時ちょっと前になっていた。

 

 インターフォンを鳴らすと、奥から「はい」と聞こえてきた。暫くするとドアが開き、部屋着に着替えていた女子高生が「どうも」と言う。多少は元気になったのか、今朝よりはマシになったように見えなくもない。それでもやはり顔は赤いが。

 

 「どうも。はい、これ」

 

 ビニール袋を渡すと、彼女は戸惑いつつも受け取ってくれた。そして財布を取り出してきたので慌てて止めた。

 

 「お金はいいよ。レシート捨てちゃったし」

 

 嘘である。だが、やはり女子高生からお金を受け取るのは、なんか気持ち的に受け付けることが出来なかった。したがってこの嘘はやむなし。

 

 「でも、それは悪いです」

 

 「気にしなくていいって。あれだ、少しでも申し訳ないと思うのならさっさと寝て治してくれ」

 

 俺がそう告げると、女子高生は閉口する。

 

 「一応、今日は一日中部屋にいるつもりだから。また何かあったら連絡してくれ」

 

 お大事に、最後にそのように言って彼女の前から離れる。そうして俺の部屋を開けようとすると——

 

 「あの、せめてお名前だけでも、伺ってよろしいですか??」

 

 上気した顔のまま、やはりしんどそうにしつつも女子高生は尋ねてきた。随分としおらしくなったというか、今朝ムキになっていた彼女がちょっと面白く思えた。

 

 「郡山一輝だよ、よろしく」

 

 「その、朝田詩乃です。今日は、本当にありがとうございました」

 

 「うん。気にしにないで」

 

 ばいばいと軽く手を振って、彼女の部屋を後にする。

 

 

 ―――つまるところ、これは始まりだった。

 

 

 いくら現実の世界に戻ろうと、俺は結局逃れることは出来なかったのである。SAOというゲームからも、そして大樹(ライト)の命を奪ったラフィン・コフィンからも。

 

 だから彼女との、朝田詩乃との出会いはある意味必然だったのかもしれない。

 

 

 

 —2025年 9月24日―

 

 

 

 ガンゲイル・オンライン。通称GGOと呼ばれるVRMMOはリリース半年にして様々な層から支持を得た、今もっともアツいゲームの一つである。

 

 元FPSプレイヤーを始めとしたコアなゲーマー、MOB狩りやPVPを緩く軽くパーティープレイで楽しむライト勢、死にゲー大好き変態等、遊び方が多種多様なためプレイヤーもそれ相応に存在する。なんならこのゲームで生計を立てるプレイヤーもいるとかいないとか。まぁ、プロゲーマーという概念はずっと昔から存在してるから、おかしな話という訳ではない。因みに俺も月の接続料の半額を払える程度には稼いでいる。

 

 「なんかさぁ、最近氷の狙撃手って奴が調子いいらしいよ」

 

 GGOの首都、「SBCグロッケン」のとある酒場にて。俺は亮介(リョウ)(ジャイアント)さん、裕翔(ジャック)と共に武器防具の点検を行っていた。

 

 「ああ、動画でもあったね。詳しくは知らないけども」

 

 話題を提供してくれたジャックに、そのように返す。すると一番このゲームにハマっているであろう武さん、もといジャイさんが手持ちのアサルトライフルを構える。

 

 「知ってる知ってる。あれだろ、人様に対物ライフル向けてる美少女」

 

 なにそれこわい。ただでさえスナイパーはヘッドショットで確キルできるのに。しかも女性か。

 

 「確か前回のBOBの決勝戦にも出場してたとか」

 

 「マジか」

 

 BOB(バレット・オブ・バレッツ)とはこのゲームで最も大きいバトルロワイアル形式の大会で、現時点で二回開催されている。予選と本戦があり、大体の有名プレイヤーはこの大会に参加している。一応、俺も本戦に二回出場している。

 

 「ナナヨなら詳しいこと知ってるんじゃないの?」

 

 リョウは愛銃であるM14の分解掃除を終えたようでゴトリと銃を机の上に置き、こちらに目を向ける。因みにナナヨとは俺の事だ。そんでもってリョウは俺達の部隊(スコードロン)のリーダーである。

 

 「名前が分からない事には何とも」

 

 「確かシノンって名前だった気がするな。掲示板では前回サブマシを使ってたらしいよ」

 

 シノン。聞いたことあるような、ないような。動画では青い髪のプレイヤーだった気がするが、やはりあまりピンとこない。少なくとも第二回のBOBで会敵してないと思う。

 

 「うーん、知らないな。前回も前々回もずっと逃げ回ってたからな、俺」

 

 第一回では化け物じみたプレイヤーが一人いたため、そいつが無双してたから上位に食い込めた。でも第二回では袋叩きにされて乙ったし。成績はそこまでいいもんじゃない。

 

 「ご謙遜を~」

 

 「出場してるだけでも羨ましいよ、全く」

 

 ジャイさんとジャックが口々に言う。しかしジャックに関して言えば、予選の準決勝まで進んでたから少しいたたまれない。ジャイさんは初戦敗退である。

 

 「で、今日は何する?」

 

 リーダーであるリョウがパンと手を叩いた。するとジャックは手を大きく上げた。

 

 「最近MOB狩りばっかしてるから、そろそろPKしたいでーす」

 

 「あ、賛成。俺もやりたい」

 

 ジャイさんもジャックに続く。するとリョウは控えめにこちらを視線を送ってくる。

 

 亮介は家族以外で唯一俺が生存者(サバイバー)であることを知っている。だからか、毎回PKの話になってくるとこうして俺に気を遣ってくれる。気にしなくていいのに。軽く頷くとリョウは安心したように笑って、「じゃあ今日は出町しますか」と話を切り上げた。

 

 

 

 ★

 

 

 

 基本的にGGOの首都郊外は荒野で構成されたフィールドが主である。だから遮蔽物になり得る岩場はPKerにとってみれば絶好の待ち伏せポイントであり、また警戒されやすいポイントでもある。

 

 

 そして逆に言えば、PKer同士がかち合いやすい立地とも言える。

 

 

 「やっば、ジャイさん死んだぞ!! スナイパーだ!!」

 

 ジャイさんの頭がきれいに吹っ飛んだ。見事なヘッドショットだ。

 

 そして、それを目の当たりにしたリョウが大声で叫ぶ。

 

 すぐさま遮蔽物に身を隠すため動き出すと、赤い線(バレットライン)が俺の目の前に表示される。ほぼ反射的にそれを飛び越えた瞬間、凄まじい大きさの弾丸がコートを掠めていった。

 

 「こっわ」

 

 何とか遮蔽物に隠れてから、ふうと息をつく。

 

 かなり精密な射撃だった。しかも弾丸の大きさが尋常でない。ともすると()()()()()なのかもしれない。

 

 「生きてる?」

 

 状況把握のため、無線で連絡を取る。

 

 『生きてるぞ』

 

 『俺達は今ナナヨから見て南側の岩に隠れてる』

 

 「なるほど」

 

 そんでもって、スナイパーは北側にいると。

 

 「二射目から判断するに、1000mは優に超えてるな。撤退したいところだけども」

 

 迂闊だった。相手には少なくともスナイパーが一人、もちろんアタッカーも複数いるだろう。加えて狙撃したという事は、既に詰める用意が出来ているはずだ。マトモにやろうとすれば、一枚消えた上に敵の位置を把握しきれてない俺たちの方が確実に不利である。

 

 だからこそ迅速な対応が不可欠である。

 

 『そうしよう。しかし、これじゃあジャイさんかわいそうだ』

 

 リョウが同情するようにつぶやいた。

 

 それはそうだろう。先日、ようやっと手に入ったレア銃を使おうと張り切ってたのに、何もできないまま退場したのだから。しかもそのレア銃をドロップしてる訳だし。つくづく運に見放された巨人である。

 

 「俺が殿するよ。幸い今日の装備は店で仕入れたものだけだし。ひと泡吹かせたる」

 

 『そう? じゃあ任せた。ジャイさんの装備を回収次第、俺とジャックは撤退———」

 

 『あ、待ってリョウ。俺も残るわ。pvpの練習したい。あと配信』

 

 ジャックはリョウの言葉を遮るように言った。配信と言うのは恐らく某動画サイトでのライブのことだろう。一応、ジャックはそこそこ有名な配信者らしく、こうしてゲリラでライブ配信することは珍しくない。

 

 「おっけ。スナイパーとアタッカーのタゲ取りながら立ち回るんで、ジャックはその処理任せた」

 

 『さっすが準優勝様、言う事が違う』

 

 「だろ? さ、行くよ」

 

 無線を切り、ポーチから注射器を取り出してから、遮蔽物から身を乗り出した。すると待ちわびていたかのように、一気に複数のバレットラインが俺を捕らえた。そして次の瞬間には弾丸の雨が飛んくる。GGOではよく見る光景だ。だから臆することはない。

 

 俺のビルドはAGI(素早さ)特化型、走る事しか能がない。

 

 迫りくる弾丸はほぼ反射的に身体を僅かに捩ることで回避し、現実(リアル)ではありえないような加速をしながらただ前へと突き進む。無論、全弾回避することは至難の業である。が、足を止めればそれこそ蜂の巣だ。要はスナイパーの弾丸と急所さえ当たらなければいい。それさえ注力すれば意外と()()()

 

 「——————!!!」

 

 銃撃の最中、何と言ったのか分からないが、とにかく怒号が聞こえてきた。

 

 距離にして70m程度。ここまでくると反射神経のみに任せるのは賢い選択とは言えない(そもそも真っすぐ凸る事が果たして賢い選択なのかどうかはこの際置いておく)。体を反覆横跳びの要領で左右に振りながら、しかし速度は極力落とさないよう前に詰める。まさにAGI型にしかできない接近の仕方、もといゴリ押しである。

 

 バレットラインの発生源は五つ、そのうち一つがスナイパーのモノである。となると相手方のアタッカーは4人。2v5、勝ち目はやはり薄いと分かる。それに俺のHP(ヒットポイント)バーは既にかなり削れており、もはや半分もない。

 

 だが逆に言えばまだ走れる、まだ戦えるという事だ。

 

 前方の2つの建物の残骸、つまるところ遮蔽物にそれぞれ二人のアタッカー、スナイパーは奥の巨大な岩場に配置している。したがって今俺が成すべき事は片側の遮蔽物にいる敵の鎮圧。これを完遂すればもう一方は、後続しているはずのジャックが片づけてくれるだろう、たぶん。

 

 「マジで来やがった!!!」

 

 ようやく敵の声が聞こえる地点にまで到達する。イングラムM6、サブマシンガンの有効射程距離だ。ここで手に持っていた注射器(興奮剤)を首に刺す。興奮剤の効果はHPを減らす代わりに、数秒の間だけ爆発的な脚力を得るというもの。多少値は張るが、大抵のショップで手に入る。無論、好んで用いる者は少ない。

 

 しかし、こういう時にこそ奇策は効果を発揮するものだ。

 

 急激な速度の変化にAIMがぶれて追い付かなかったのだろう。追従していたバレットラインを全て振り切り、奴らの死角に入り込むことが出来た。

 

 慌てて遮蔽物から身を乗り出し、こちらに銃身を向けようとしたゴーグルの男にイングラムM6の全弾丸をぶち込む。キルログを確認するより先に、懐に仕舞っていたグロッグ18を素早く抜いた。そして振り向きざまに薬室が空になるまでハンドガンを撃ち尽くす。俺の背後でアサルトライフルの照準を定め直していたテンガロンハットを被る男に9×18㎜パラベラム弾が数発ヒットする。しかし―――

 

 ―――()り切れないかっ!

 

 ハンドガンの殺傷能力の低さと、何よりも仕留めきれない己の至らなさに歯噛みする。しかし怯みはした。再度構え直そうとする、その隙こそが俺の勝機である。

 

 「うおらぁぁ!!」

 

 リロードする時間はない。銃を投げ捨てながら一瞬で距離を詰め顔をぶん殴る。その際男の放ったアサルトライフルの弾丸が頬を掠めた。だが死にはしない。HPが危険域に突入しただけだ。

 

 「ちょ、おま、来るなぁぁ!!」

 

 仰け反り、絶叫しながら銃を乱射する男に更に接近し、そのまま顔面を掴む。そんでもって力いっぱい地面に叩きつけた。しかしSTRが最低レベルの格闘では死に至らしめるほどのダメージは入らない。また、この男も中々やり手なようで生意気にも素早く態勢を整えようとしていた。

 

 「動くな」

 

 だから容赦なく顔面を何度も踏み潰す。その拍子に男は銃を手放してしまった。これは好都合だと、馬乗りになる。そうして確実にキルするため、ナイフで脇を数回、念入りに突き刺した。

 

 ちょっとやりすぎたかなと思ってテンガロンハットの男を見やれば、恐怖に顔が引き攣ったままポリゴンと化して散っていった。泥臭くてすまんな。

 

 「こっちは片づけた。そっちは」

 

 ポーチから医療キットを取り出し、応急手当を施しながら無線をつなげる。しかしジャックからの返事がない。スコードロンの情報を見ると、彼の回線が落ちている事が分かった。

 

 「マジか」

 

 ここにきて回線の不具合。ジャック、もとい裕翔にしては珍しいことである。

 

 GGOで遊びながら配信をするぞーと豪語した彼は、その実現のために人一倍回線には気を遣っていた。そのことを知っているだけに、今回のアクシデントが意外に思えた。

 

 とはいえ、落ちてしまったのなら仕方ない。今はこの場を切り抜けることに専念しよう。

 

 「スナイパーは既に移動してるだろうし、向こうはどうなってるか分からん。キッツいなコレ」

 

 スナイパーライフルという武器の特徴として、ある条件下においてなら初弾のバレットラインは見えないというものがある。これが中々の曲者で、AGI特化型において最大の強みである()()()()事が不可能になる。それにどこから撃たれるのか分からなければ、反射神経に任せた強引な回避も難しくなる。

 

 そしてその条件というのが、射手の居場所が敵に知られていない時である。他にも様々な条件があるらしいが、それが最低限である。無論既に敵のスナイパーは移動を開始している事だろう。

 

 つまり不用意にこの遮蔽物から飛び出したものならば、俺は余裕で撃ち殺される自信がある。

 

 加えてジャックが向かっていたであろうもう一つの遮蔽物。そこには相手方のアタッカーが二人いたはずである。彼がどのタイミングで回線落ちしたのかは分からないが、残りの敵も生存していると思って行動するべきだ。

 

 「……万事休す、か」

 

 今俺が隠れている遮蔽物から向こうの遮蔽物まで、距離にして70mあるかないか。そしてスナイパーの初期位置はここからおよそ500mほど。微妙な距離感である。少なくとも俺の技量では何処にいるのかも分からない敵スナイパーの目を掻い潜りながら、70m先にいる敵アタッカー二名を射撃戦、つまりサブマシンガンのみで仕留めることは難しい。というか不可能だ。

 

 だとすると大人しくするのが吉、というよりも詰みであるように思える。だが―――

 

 「それは()()()()()

 

 そう思う。どうせここで待っていても、しびれを切らした奴さんがグレネードを投げてくれば俺はもう突撃するしかない。ならばこちらから先に動いて死にに行った方が、その方がよっぽどかっこいい。

 

 「おっしゃ、そうと決まれば行くぞ」

 

 ナイフを持った手でイングラムM6の安全装置(セーフティ)を撫でる。ちょっと呼吸を整え、遮蔽物から()()()離れた。そして遠く離れた岩場を真正面から見据える。

 

 本来、全速力で走れば70mなどこのアバターからすれば決して遠い距離ではない。そうだな、6秒もあれば十分だ。しかし同じくあのスナイパーにとっても、俺を仕留めるのに6秒も必要ないだろう。そう思わせるだけの技量をあのスナイパーは持っている。

 

 故にこれは賭けだ。

 

 遠くから一発の銃音がする。マズルフラッシュも見えた。あのスナイパーはやはりこちらを見ていた。狙いは頭部。今まで出会ってきた狙撃手の中でも、特に素晴らしい射撃だった。

 

 しかし、だからこそ、分かりやすい。

 

 右手に持つナイフを横に薙いだ。

 

 弾丸が刃先のほんの少し上を走る。だから僅かにナイフを持つ手に力を込めてあげた。弾丸に触れたナイフから凄まじい衝撃が走る。それこそちょっと触れただけなのに、腕ごと吹き飛ばされるほどの。

 

 ただそれを代償にして、自分が知識として知るものより数段大きい弾丸は、その軌道を変えて俺の頭上を通り過ぎて行った。

 

 「はは、やっ―――」

 

 ただ、唯一の誤算と言えば腕欠損によるダメージが思ったよりも大きかったという事。つまるところあっさり、HPバーは消し飛んだ。

 

 

 

 ★

 

 

 

 初弾(ファーストアタック)は命中した。アサルトライフルを担いだ大柄の男の頭部が丸ごとなくなる。

 

 どうやら装備を見る限り同業者(対人スコードロン)のようだが、索敵不足と言う他ない。こんなお誂え向きの立地で誰もいない訳がないというのに。

 

 「次」

 

 コッキングして薬莢を排出しながら次の標的を決める。目に移ったのはフードを被った男。メインウェポンが腰に下げたサブマシンガンと軽装なことから、AGI型特化であることは明白である。すぐに退避の行動に移ったことから、対人慣れしている事もすぐに分かった。

 

 すぐさま男の軌道の延長上に銃身を合わせ、速射する。

 

 照らし合わせたかのように、フードの男は跳躍する。触れるだけで人体が砕け散る弾丸は、男の身体には当たらず彼のコートを大きく抉って地面に着弾した。男は跳んだ勢いをそのままに岩場に身を隠す。

 

 想定の範囲内である。むしろそうでなくてはという期待が高まった。

 

 「来る」

 

 根拠のない言葉。しかし自信はある。あの男はこちらに向かってくる。

 

 「ほら来た」

 

 案の定、フードの男は遮蔽物である岩から飛び出した。恐らくは旗色が悪いことに気づいて、殿をこなすという腹積もりなのだろう。判断も速い。

 

 事前に進軍していたダインらが射撃を開始する。フードの男は必要最小限の動きだけで迫りくる弾丸の嵐をやり過ごしている。その動きはGGO日本サーバーにて最強と謳われる『闇風』を彷彿させた。しかし、彼のプレイヤーと違う点は―――

 

 「動きに緩急がない」

 

 常に最高速。一直線に、最短でこちらに向かってくる。反射神経にモノを言わせた強引な回避だ。無論、そのような動きでは全ての弾丸を凌ぐことは出来ない。そのことは男も重々承知している事だろう。だからこそ、致命傷となり得る弾丸のみ丁寧に躱している。強引で無理やりではあるが、確かな技術と()()を感じた。

 

 外れると分かってはいるが、牽制のため引き金を引く。するとやはり、男は速度はそのままに上体を落とす()()で回避した。

 

 「……強い」

 

 ここがVR空間だとしても、銃弾が飛び交う戦場を迷いなく突き進む事が出来る者はそうはいない。何故なら人間の本能が前に進もうとする足を鈍らせるからだ。

 

 「———強いっ!!」

 

 それがどうだろう。あの男は足が鈍るどころか更に加速していく。まるで躊躇いを感じさせない。眼前の敵を倒すために、500m以上あった距離をあっと言う間に詰めて見せた。

 

 本戦闘における4射目の狙撃も外れた。まるでいつ引き金を引くのか分かっているかのように、照らし合わせたかのように躱される。如何な偏差撃ちもあの男には関係ないらしい。口元が吊り上がるのを感じる。

 

 男はダインらが潜伏していた建築物の残骸に突撃した。そして10秒も経過しないうちに、ダインと銀狼のペアがキルされた事を確認する。銀狼はともかく、ダインはBOBに二度出場しているプレイヤーだ。それを瞬く間に始末したアイツも恐らくBOB出場者、そうでなくともソレに準ずる実力者に違いない。

 

 「応急処置を終えるまで待ってあげる」

 

 とはいえ、フードの男の体力は限界の筈だ。勝ち取った安全地帯で応急処置を施す事だろう。しかし、そこで時間を使えばこちらの()()が整う。

 

 位置情報更新のため、素早く移動する。そして彼が潜伏しているであろう遮蔽物、正確にはその端に標準を合わせた。いつ飛び出してもその頭を撃ち抜けるように。

 

 フードの男がこちらの狙撃の悉くを回避した理由に、予測線(バレットライン)があると考えられる。トッププレイヤーともなれば、何処からどのような軌道で撃たれるのかが分かれば迫りくる弾丸を躱すことは造作もない。無論、それ相応の反射神経とアバターをコントロールする技量は必要である。しかし逆を言えばそれさえ備われば、音速を越えた弾丸が当たらないのである。ある意味、はったり的な面白さがこのゲームにはある。

 

 しかし、その遊びを取り払った武器がスナイパーライフル。敵が狙撃手の居場所を把握できていないという前置きがあれば、一度だけ予測線が表示されなくなる。

 

 ―――さぁ、どうする?

 

 ともすれば、予測線を頼りに銃撃をいなしていたあの男は窮地に立たされていると言える。自慢の足の速さも既に見切った。もとよりAGI型特化の多いこのゲームでスナイパーをするには、走っている敵の頭に銃弾をぶち込む事ぐらいできなければ話にもならない。

 

 だから、まさか歩いて出てくるとは思わなかった。そしてこちらを挑発するように、ナイフを持ちながら体をこちらの方へと向けた。

 

 馬鹿にしているのか。そんな怒りが言葉として出てくるよりも先に。何故と、その行為の意味を問うよりも先に。()は一切の躊躇いなしに引き金を引いた。

 

 花火のように、12.7mmの口径が瞬く。12.7x99mm NATO弾が男の頭部を殺がんと、音速を以て撃ち出される。

 

 スナイパーとして活動してから数か月。何度も経験した『直撃した』という確信。弾丸は呑気に突っ立ってる男の頭部へ、吸い込まれるように跳んでいく。

 

 終わりは呆気ない。勝負を放棄した男に僅かながら失望する。無論、良く戦った方だとは思う。しかしそれだけだ、そう思った矢先に―――

 

 「……嘘でしょ」

 

 自惚れがあったのかもしれない。あの男が何を狙おうとしていたのか、少し考えて見れば分かったかもしれない。

 

 スコープ越しに見えたのは、男がナイフで弾丸の軌道を変えたという事。そしてナイフ通して生じたインパクトダメージで男の腕は弾け飛び、そしてHPが全損したという事だ。

 

 視界の端に映るキルログでは私があの男を殺害(キル)した事になっていた。

 

 「……そう」

 

 納得し難いが、打倒したことに変わりない。ただ、試合に勝って勝負に負けたというだけの事。現に敵部隊(スコードロン)は既に撤退している。ドロップした武器も銃器屋(ガンショップ)で手に入れられるような代物ばかりだ。

 

 キルログで彼の名前(プレイヤーネーム)を確認すると、『ナナヨ』であると分かった。その名前は以前に聞いたことがある。第一回BOBの準優勝者、第二回では6人のプレイヤーをキルした上で漁夫の利によって敗北するも11位という結果を残した高名なプレイヤーだ。

 

 「いつか、絶対に」

 

 ならば第三回も出場するだろう。その時にもっと私が納得する形で―――

 

 「殺そう」

 

 

 

 ★

 

 

 

 「あー負けた負けた」

 

 首都SBCグロッケンにリスポーンした。アイテム欄を確認すると、イングラムが消えていた。あとで買い直さないと。

 

 とりあえず帰路に就こうと歩き始めると、リョウから通信が入った。

 

 「無事帰れそう?」

 

 『うん。ジャイさんの装備も回収できたし、あと少しでグロッケンに到着するよ。ただ、何時まで経っても裕翔(ジャック)が復帰しないんだ』

 

 マジか。戦闘が終了してから既に一時間近く経過してる。いくら回線に不具合があろうが、流石に復帰出来るはずだ。となると、リアルで何かあったと考えるべきだろう。

 

 「それは心配だな。ちょっとログアウトして確認してみる」

 

 『ごめん、頼んだ』

 

 通信を切る。自キャラを適当な場所に待機させて、すぐにメニュー画面を操作しログアウトする。暫くすると視界が暗転して、気が付くと俺はベッドの横になっていた。

 

 「スマホ、スマホっと」

 

 机の上に置かれたスマホを手に取り、某通話アプリを起動する。『ゆーと』と表示されたトーク画面を開いて、通話を開始する。

 

 しかし何時まで経っても電話は繋がらない。これは奇妙だと、一応『大丈夫か』と文字を打つがやはり既読はつかない。何か急用が出来たのかもしれない。だとすると急かすのも悪い気がする。

 

 連絡がつくまで暫くの間某動画サイトを見ながら待っていると、武さんから『連絡取れた?』という通知が来た。気が付くと裕翔が音信不通になって2時間ほど経過していた。返答として『取れない』と送ると、今度は『ゆっこ』というトーク画面から、通知が入る。

 

 『裕翔先輩と最後にゲームしてたの郡山さんですよね。詳し———』

 

 通知の文字の制限でそれ以上の内容は表示されなかった。『ゆっこ』は、言ってしまえば裕翔のサークルの後輩であると同時に彼女である。確かに彼女ならば裕翔と連絡が取れるのかもしれない。なんなら合鍵を持ってるとか。

 

 画面をスライドして、『ゆっこ』のトーク画面を開くと―――

 

 『詳しい話を聞かせてください。裕翔先輩の心臓が止まって、とにかく病院に来てください―――』

 

 文章を最後まで読むよりも先に、俺は部屋を出ていた。

 




15000文字とか初めて書いた。まぁ気楽に読んでくだされば幸いです。
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