名探偵コナン&金田一少年の事件簿の犯人たちの事件簿 作:三柱 努
ご乗車いただきありがとうございます。
車掌を務めますは私、八木清。
駆け込み乗車を遠慮なくぶっこんできた江熊忠夫を殺してしまった男です。
殺ってしまった。カッとなって。ついカッとなって。ついつい傘の先で延髄をブスッと。あるよね、ブスッとしちゃうこと。
理由? 媒体によって少し事情は込み入るけれど、早い話が金銭トラブルで。
で、殺しておいて今更だけど焦りMAX。
なんせこの殺人、人前でやっちゃってんだもの。マヌケ面で爆睡してる少年の前で。
それにしてもこの少年、よく起きないもんだな。普通起きるでしょ、目の前で争いがあって人死んでるのに。よっぽど、人の死に慣れすぎていない限り。
ってことは普通じゃない少年ってことか。納得。
まぁそれはそれで私には好都合。『この少年にすべての罪を着せてしまえ』って心の悪魔のささやきに従わせてもらおう。
・・・・うん、どうやって?
状況的に少年に罪を着せようにも、よっぽどの高等トリックがない限り私自身も容疑者必至。
だが思いつくか! こんな急に打開策なんて。
まだホヤホヤ。犯人なりたてホヤホヤ。さっきまで善良な一般市民だった私。
そんな私が急にトリック思いつくほど甘くないわ犯人。
なめるな!
だが、かつて賢人は言った。『偶然はトリックの母』と。
考えるな。耳を澄ませ。聞こえるはず。悪魔の声以外に、トリックの産声も。
そして思いついた電車トリックがコチラ。
まずは江熊が“この暑い夏にも関わらず何故か着ていてくれた”暗赤色の派手なコートと帽子を奪って着て江熊になりすます。
次の駅に着いたら、一度この車両を降りて先頭車両にダッシュ。先頭車両に乗り込んだら、酔っぱらって寝てる乗客の足を踏んだりして、派手なコートの男の存在を印象づけて、元の車両に戻る。
あとは元の車両に戻ってすぐにコートを脱ぎ捨てて、車掌としての私の姿に戻って車両をすぐに出ればフィニッシュ。
こうすることで、元の車両に入ったばかりの江熊を、元の車両から出たばかりの私には殺す時間がない。ということで自然と殺人が可能になるのは元の車両にいた少年だけ。
となる。
無事に立ったじゃないか。トリックが。
だが、いざ実行してすぐに思わぬハプニングが発生!
車掌モードになってすぐ、さっき私が足を踏んでいった酔っ払いが運転席のドアをドンドン叩いていたのさ。車掌やっていれば毎晩のように見る光景。面倒で相手するのが嫌だけど、まだ殺害&トリック直後メンタルでも対応可能。
問題はその直後。
「きゃあああ、ひっ人殺し!」
電車に響く女性の悲鳴。もっと時間経ってから見つかると思っていた江熊の死体が、もう見つかっちゃってんだ。
あのさ、さっきも言ったように私は犯人ホヤホヤのホヤホヤ犯人。
殺して、ドキドキトリック立たせて、業務に戻って、面倒な仕事に遭遇した直後のコレは、さすがにメンタルギリギリ。休ませておくれよ。
そして急展開。まさか電車に現職の警官(しかも捜査一課)が乗り合わせていたんだから驚きパート2。
溢れるッ! 私の犯人メンタルの器はもうキャパオーバー! 出ちゃう、ボロが!
と、思った矢先に炸裂したるは、日本の警察に脈々と流れるポンのコツの血。
無実の少年を現行犯逮捕して、電車に乗っていた私たちは軽く事情聴取だけして解放となったのさ。
助かったぁ・・・いやぁ助かった。一時はどうなることかと思ったけど、こうして無事に家のベッドに入れたことで、全てが終わった感じがする。
無実の少年は、いまごろ留置所の牢屋の冷たい床で寝ているだろうけど。達成感に試みたされた今の私が気にする話じゃない。
こうして私は眠りについた。
『ワッ』『オオオオオオ』『アアアアアアア』
私は不思議な空間にいた。
大勢の人々が私を囲んで歓声をあげている。
老若男女。ほんと老若男女。白髪のおじさんや若い女性、幼い子供も。頭に天使の輪みたいなものを浮かべた人もチラホラと。
その中から私の名前を呼ぶ男の子の声が聞こえた。
見覚えのない少年だ。
幼い見た目以上に大人びた口調。眼鏡はかけていない。
急激な成長をしているかのように、服が寸足らずだ。
首にはダーツで刺されたような傷跡がある。
「おめでとう清さん。貴方は偉業を成し遂げました。僕たちが成しえなかった偉業をね」
この子は何を褒めているんだ? 何のことだかさっぱり分からない。
そんな困惑をする僕を無視して、今度は別の男女が現れた。
片方は初老の男性。こちらは眼鏡をかけていた。
天使の輪を頭に浮かべ、腎臓を娘に移植した後のTVディレクターのような雰囲気がある。
女性にもやはり見覚えがない。
整形した美人。いや、一度整形してブサイクになった後でもう一度元の美人の顔に整形し直したような顔の女性だ。
どこかキャリア警視な雰囲気すらある。
そんな男女が「いやぁ、貴方にはかないませんッッ」と、完全お手上げで頭を下げてきたのだ。
『おかしい・・・バカな』
変な状況だ。なぜこの2人は私に完敗したような雰囲気を出してきているんだ?
「それと、この人がなんか。アイサツしたいらしいんだ」
そう言って少年が次に紹介した男の姿に、私は『え~~~~ッッ』と驚いた。
それは私でもニュースで見たことのある顔。
世間を騒がす逃亡殺人鬼“高遠遙一”がそこにいたからだ。
高遠は私に軽く会釈して、言うのを恥ずかしがっているような雰囲気で「いや~」と口を開いた。
そんな殺人鬼の姿に、私は『なんで・・・??』と、頭にクエスチョンマークがいっぱいだ。
「最強犯人とかなんとか言われていますが・・・」
気弱な言葉が似合わない高遠の姿だけど、私としては『この男がナゼここに??』しか頭に浮かばない。
「それは私じゃない」
ん? この流れは私ですら『・・・ほほう』と推測できてしまう。
「清、貴方ですよ」
やっぱり。そう言い出すと思いましたよ『やっぱりな』。
「そんなんアタリまえじゃんッ」と笑う少年に、高遠も「やっぱり?」と頭を掻いて笑顔を見せた。
茶番的な雰囲気だが、全てが私に物語っている。
私は勝ったということだ。
すべての殺人鬼に。
探偵を容疑者に仕立て上げたことのある犯人にも。
全ての殺人鬼が成しえなかった偉業を達成し、私は祝福されているのだと。
でも
こういうことって
たいていはそう
たいていは
夢
そこで私は目を覚まし、その日のうちに事情聴取にもう一度呼ばれ、夢に出てきたキャリア女性を超えるキャリア波を放つ警視に睨まれ、翌日、駅に呼び出され。
「機転を利かせて金田一君にうまく罪をなすりつけた犯人も、残念ながら昨日の証言でボロを出してしまいましたね。たった一つ、矛盾した証言をした人物。それはあなたですよ! 八木清さん!」
そこから咲き乱れるキャリア警視の推理の数々。事件の日に同乗していた他のお客さんの前で晒され。
こうして、謎は全て解かれた。
いかがでしたでしょうか?
『証言パズル』またの名を『明智警視の華麗なる推理』
勝因ですか・・・
勝因? 敗因じゃなくて?
えっ? 死神を拘置所に追い詰めた唯一の犯人? 『歴代最強はキミだ』って?
まさか、私そんな大それたことを? 意識してやってませんよ。ごく普通に、思いついたままをやってみたら上手くいっただけで。
いえいえ、すっとぼけてなんかありませんって。
えっ? また私、何かやっちゃいました?
『転生してチートスキル持ち』みたいなことしてんじゃねぇよって? 私が持ってるスキルなんて車掌登用試験合格くらいなもんです。
実際、私も結局は逮捕されているじゃないですか。
まぁ、その死神って言われている少年、私が留置所に移された時にもまだ捕まったままでしたけどね。
ですが、せっかく最強犯人の称号を頂けたので。
私が異世界転生した小説でも、誰か書いてくれませんかね。ご褒美に。