名探偵コナン&金田一少年の事件簿の犯人たちの事件簿 作:三柱 努
渇いた人の心には、苦労の謎が役に立つ。
今日の事件は一種の流鏑馬。走って撃ってまた走る。
たった一つの真実隠す。見た目は平気、中身はドキドキ。それは犯人!
僕の名前は松尾貴史、人気番組「まる見え」の司会も務めるタレントさ。
だけど今、「まる見え」を降ろされる危機。僕がプロデューサーの諏訪ちゃんと考えた番組なのに、その諏訪ちゃんが突然降板を突きつけてきたんだ。視聴率を上げるために人気キャスターに変えたり、Hなコーナーを増やしたいんだと。
僕が手柄を譲って、しかも一生懸命頑張ってきたから今があるのに。
怒りを通り越して呆れるだろ。
裏切りは許せない。
だから僕は諏訪ちゃんを殺すことにした。
トリックを考えるのは得意なんだ。毎週考えてるし。「まる見え」の生放送中に殺す予定。
だけど問題がある。時間が無いことだ。来月早々には記者会見で僕の降板が決まって、その頃に殺したら僕が一番に疑われてしまう。だから実行は次回の放送中しか機会が無い。
なのにもう決まっちゃってるんだゲスト。
それは現在、新聞紙上を最も騒がせている言わずと知れた名探偵の毛利小五郎!
つまり殺人事件の天敵を避けられない状況にあるのさ僕は。
負けられない戦いが・・・ここにはある。
そして到来、決戦の日。今週もはじまりました「日本まる見え探偵局」。司会はご存じ松尾貴史とアシスタントの永井亜矢子、ゲストの毛利小五郎でお送りします。
諏訪ちゃんは4階のミーティングルーム。ここが殺害予定現場。
「下着ドロを捕まえろ」のコーナーを経て、盗聴器の話題に触れて、次の「犯人はお前だ!」の4分間のVTR中に殺しに行く予定。
だが盗聴器コーナー中、その事件は起こった。
僕の携帯を奪った毛利小五郎が
「女房?いーのいーのどーせ別居中! 今夜は熱い夜を過ごそーねー♡」
と、全国の浮気・不倫中の人達に警告するアドリブを炸裂させやがった。
生放送中ってことを忘れて、とんでもない放送事故をぶち込んできやがって。
しかも内容的にも倫理的にヤバいだろ、浮気・不倫の援護射撃するような炎上案件。
まぁ、炎上はしないか。僕が今からする殺人のほうがドデカいニュースになるわけだし。
でも、そもそも打ち合わせにない事するな。犯人が今から殺すところでしょうが!
そしてやっと始まった「犯人はお前だ」のVTR。スタジオのスタッフもお客さんも、全員がモニターに釘付けになるこの4分間が勝負だ。
まずはこっそりスタジオを抜け出して諏訪ちゃんに電話。4階のミーティングルームから見えるように自殺してやると伝える。
こうやって迫れば僕を止めるために窓から身を乗り出してくれるはず。無視されたら・・・詰み。
だけど僕は一流(は言い過ぎだけど)タレントの端くれ。その程度の誘導は迫真の演技で引き出してみせるさ。たとえ走りながらでも!
そしてスタジオから走って2分、防犯カメラに映らないで移動できる範囲内にある第7倉庫に到着。その窓から覗けば、諏訪ちゃんが身を乗り出した窓がまる見えになるって算段さ!
さぁ、今からが一番の勝負どころ。
なんせ時間が無い。4分のリミットの中で移動時間が2分。1秒で殺して、2分で帰らないとVTRが終わってしまう。
さらに言えば、僕が銃を向けている姿を諏訪ちゃんに見られてしまうと、さすがに驚いて部屋の中に逃げられてしまう。
だから狙いを定めている暇は1秒すらない。勝負は一瞬。
えっ? でも真下にいる相手を狙い撃ちするなら、そんなに難しい事じゃないだろって?
これが楽なら、『二階から目薬』ってことわざが『ほとんど無理』な事の意味で使われないさ。
まして僕がやるのは7階から4階。できるものならやってみろ!
だが僕は出来る!
ハワイで知り合いに習ったからね!
モデルガンでも、投げ捨てた写真の、標的の顔だけ撃ちぬくことすらできる銃の腕前なのさ。
ついたあだ名は『日売テレビの野比のび太』!
そんな野比のび太の腕で楽々撃ちぬいた諏訪ちゃんの眉間。
あとは拳銃を窓から落として部屋の中に入れ、諏訪ちゃんの死体がズルズルと崩れれば窓が閉まる。
あらかじめ部屋の壁に銃弾を撃ち込んで、薬莢も転がしておいたから、諏訪ちゃんはドアから入ってきた犯人に窓際に追い詰められて殺されたように見えるのさ。
あとは急いでスタジオに戻って、何食わぬ顔で「犯人はお前だ」の答え合わせをして・・・犯人は僕だけど。
『では、みなさんまた来週』すればほらこの通り。すごく忙しい完全犯罪達成。
あとはミーティングルームにスタッフを向かわせれば、僕も一緒に現場に駆けつけて死体確認(答え合わせ)できる。
「なに! 諏訪さんが血まみれ!」
スタッフからの電話で勝利確信♪ 急いで現場にダッシュ!
と、ここで想定外が1つ。エレベーターが来ない。
そりゃそうか、局内で死体が見つかったって騒ぎがあれば、エレベーターで現場に向かう局員が一杯。
そして今の僕の立場上、急いで現場に行かないわけにはいかない。そう、走らないわけにはいかない。9階から4階まで!
心臓が止まるぞコレ。
全力疾走坂の企画するテレビ番組・・・あれって非人道的な企画なんだな。今思った。
でもそんな疲れも吹っ飛ぶのが諏訪死体。こういう達成感があるから仕事も頑張れるんだよ。
その後、警察が到着して実況見分開始。
そこで話を聞かれた僕は涙を流して、知人を殺された悔しさをアピール!
普通の犯人が悩む演技力も、タレントの僕には朝飯前。
直後に来た報道陣の前でも楽々「犯人(僕)に対する挑戦状宣言」を叫んで、目の肥えた報道陣すら欺いてみせるのさ!
かつて、ここまで出来る犯人はいたでしょうか?
こんな完璧な犯人。捕まるわけが・・・
えっ? メガネの子供がいるだろ、だって?
いるよ。
僕のアリバイの4分間の空白を指摘してきたよ。賢い子だよね、将来が楽しみ。
えっ? 呑気な事言ってるって? 大丈夫さ。
だって往復に最低でも6分かかるって、毛利小五郎が身をもって体験してくれたからね。
ただ1つ残念だったのが、惜しいことをしたことさ。
だって、毛利小五郎の全力疾走なんて、絶対に絵になるじゃないか。数字取れるじゃないか。なのに誰1人、カメラ持ってそれを追いかけないんだもの。
みなさ~ん、ここテレビ局ですよ! 仕事しようね!
まぁおかげで警部さんも毛利小五郎も僕を容疑者から外す方向に進んでくれたわけで。
しばらく捜査に付き合って、あとは帰るだけ。
「待ってください松尾さん」
その時突然、現場にあるテレビが付いたかと思うと、そこに毛利小五郎が映し出された。
ん? こんな映像を撮った記憶は無い。
「困るんですよ。これから私の推理ショーをおっぱじめようというのに、あなたに抜けられては。犯人役の松尾さん、あなたにはね!」
な、なんだって!?
私の驚く横から入ってきた音声と証明スタッフ。どうやらこれは毛利小五郎からの中継らしい。
キリッと目を輝かせた警部さんが僕を擁護してくれたが、毛利小五郎は不敵に笑うと、僕のトリックを説明し始めた。
ヤバい・・・
もちろん、トリックがバレることがヤバいんじゃない。それはあくまでアリバイが崩れるだけであって、証拠になるわけではないから。
そうじゃなく、毛利小五郎の代わりに、拳銃を持って窓から身を乗り出したコナンくんという子供が「うわっ、落ちるぅ助けて!」と落ちそうになっていたからだ。
「お、おい毛利!何しとる!早く助けん・・・」
あぁ、諏訪ちゃんもこんな気持ちだったんだぁ。と呆然としている僕が反応に遅れている横で、諏訪ちゃんと同じ気分を味わった警部さんが急いで窓から身を乗り出した。
その時!
パシュ
数時間前の僕のように、撃ち放ったコナンくんのペイント弾が警部さんの側頭部に命中した。
あんな子供が
ヘッドショットだと!?
前にも言ったように、この狙撃の難しさは常識レベルでは語れない。
よっぽど僕みたいにハワイで誰かから習ってきた腕前じゃない限りは不可能なショット。
僕のことを棚に上げて言わせてもらうけど・・・
警察よ、この子を早く捕まえるんだ。
じゃないと、きっと将来、死体の山が築かれるだろう。
その後、毛利小五郎が決定的な証拠として、番組中の放送事故になった携帯の発信履歴を僕に突きつけ・・・
こうして、謎は全て解かれた。
いかがでしたでしょうか? テレビ局殺人事件。
敗因ですか? そりゃ毛利小五郎の存在の他無いですよ。
証拠なんて、あのリダイヤルさえ無ければ言い逃れできたのに。
えっ? スマホには着信履歴の時間も表示する機能があるって?
スマホって何? 未来の携帯電話だって?
携帯電話は電源を切れば、リダイヤルの履歴が消えるんだけど・・・・そうか、未来の科学力は事件を起こしにくい時代を作るんですね。
科学の力ってすげー、ですね。