御門先生と一般男性が恋愛を始めたようです 作:ヘル・レーベンシュタイン
初めて恋愛ジャンルに挑戦することになりましたが、しっかりと完結できるように頑張っていきたいと思います。
勇気と無謀は表裏一体だ、たった一つの行動が失敗したら身を滅ぼす可能性だってある。
「あ、あの....そこの方、ちょっと良いですか?」
「あら、私ですか?」
例えば、ただでさえ普段の生活で女性と関わることが少ない男が女性に声をかけるとしよう。話の最中で緊張のあまり不審な行動をすれば相手を不愉快にさせてしまうだろうし、最悪嫌悪感を抱かれてしまうと思い込んでしまう人は多いかもしれない。
少なくとも俺の場合はまさしくそれだ。女性と目を合わせるだけでもとても緊張する。
「えっと、よくここで見かけていて....すごく綺麗な方だなぁって思ってました。」
「あら、ふふふ....それはありがとうございます。それで、何か用ですか?」
「え、えっと、その....よければですけど、あの....」
ましてや今まさに呼びかけた女性はとても美人だ。スタイルも抜群で、モデルじゃないのかと思えるほどだ。だからちょっとでもいいから話ができたらと思ったが、やはり緊張してしまって声が出ない。
そんな感じで固まってしまってる俺を気にしてか、女性はクスッと笑って声を掛けた。
「もう、そんなに緊張しなくても大丈夫よ。ちゃんと話は聞くから、用件を聞かせて頂戴。」
「あ、はい....ごめんなさい。」
ゆったりとした口調で、まさに大人の余裕を感じさせる言い回しだった。俺は緊張のあまりしっかりと話せなかった自分を恥じる。
しかしせっかく貰ったチャンスを無駄にはできない。一度呼吸を整え、激しく鳴る心臓の鼓動を抑え、しっかりと相手の目を見る。そして自分の言いたかった言葉を、勇気を振り絞って口に出す。
「よろしければ、ご一緒に食事なんていかがでしょうか!」
場所は変わって近くのカフェ。
「ふふふ、本当に驚いたわ。あまりの声の大きさで周りの人達が注目してたわよ。」
「本当に、ご迷惑をおかけしました....」
結論から言うと、俺のお誘いはOKを貰えた。ただし俺のはまた緊張のあまりでかい声を出し過ぎて、周りの人たちの注目を集めてしまった。女性の方も少し恥ずかしそうだったため、罪悪感を覚えてしまう。
「良いわよ、その勇気に免じて忘れることにするから。そうね、まずは名前を教えてもらえる?私は御門涼子、高校の保険医をやっているわ。」
「あ、失礼しました。俺は藤田龍弥、会社員をやっています。」
気を取り直してお互い自己紹介をする。どうやら俺が声を掛けた女性、御門さんは学校の保険医をやっているようだ。これほど綺麗な保険医なら、男子生徒なら眼福目的で用がなくても保健室に来そうなものだ。
「高校の保険医ですか....御門さんほどキレイな人が保険医なら、男子生徒が列を作って保健室に訪れそうですね。」
「あら、そんなことないわよ。校内で怪我した子や、相談したいことがある生徒が来るくらいだわ。後は....そうね、校長先生がたまに来たりとかね。」
「え、校長先生が?」
「そう、結構ハレンチな人でね。何が目的かは察して欲しいのだけど....あ、ちなみに私は一度も被害は遭ってないわよ?」
「ひ、被害って....大変な学校なのですね。御門さんも多忙なのでは?」
「ふふふ、けど楽しくて素敵な場所よ。」
話を聞いてて思わず俺は苦笑してしまった。最初は怪我をするほど多忙な校長先生なのかと思ったが、御門さんの話でただのスケベな人だと察した。そんな人がトップだなんて、どんな高校なのだろうか.....しかし冷静に考えてみると、話を聞く限りでは保健室はまともに機能しているようだ。そう考えると、そこの生徒達は真面目な子が多い印象を感じた。話をしている御門さんも苦労や悩みを抱えている様子もない。寧ろ良い笑顔で話をしていたから、本当に良い学校なのかもしれない。そう考えると、その校長先生はスケベなだけで実は優秀だったりするのだろうか?
「そう言うあなたは、会社ではどんな仕事をしてるのかしら?」
「俺はそんな....大した仕事はしてませんよ。地味な事務職をやってるだけで....」
「へぇ、事務職ね....確かに派手な仕事じゃないかもしれないわ。けど、事務職は同じ場所で高い集中力を求められる仕事だと思うわ。それって、とても素敵なことよ?」
「あ、ありがとうございます....けど、医者である御門さんもかなり集中力を求められる仕事なんじゃ....」
「私は私で、ちゃんと適度に息抜きしてるから大丈夫。」
クスッと微笑みながら御門さんはそう返した。俺は社交辞令と分かっていながらも、褒められてしまい顔を赤くしてしまう。微笑みながら話をしている御門さんがとても色気があって綺麗で、思わず見惚れてしまう。我ながらよく声を掛けたものだと思ってしまった。
「あ、そうそう。もう敬語は良いと思うわ。お互い歳の差はそこまで激しくないでしょうし。私の事を他人だと意識しないで、もっとソフトな雰囲気でお話しをしましょう。」
「え、でもそんな急に....」
「それとも.....敢えて『他人の関係』を維持したまま、もっと私の事を観察したい?」
御門さんは小悪魔なような雰囲気を出しながら、その様な台詞を言い放つ。思わず色気にやれてイヤらしいことを頭なの中で思い浮かべてしまうが、自分の内側で燃える劣情をグッと堪える。
「.....ご好意に甘えて敬語は控えます。」
「ふふ、お約束ね。」
「あ....恥ずかしい。」
「けど嬉しいわ、男性のお友達って私なかなかできたことがなくてね....」
「え、御門さんが?」
「ええ、親しい男子生徒や女性の友人は居るんだけどね。」
御門さんの意外な事実に驚いてしまう。俺の中では両手の指じゃ数え切れないほどの男性の知人がいると勝手に思い込んでいたが、どうやらそれは誤解なようだ。
「だから、これからよろしくね私の初めてのボーイフレンドさん。」
「ボ、ボーイフレンド!?」
「そうね、まずはお互いの連絡先を交換しましょう。一緒に色んなところへ遊びに行きましょうね。ふふ、楽しみだわ....」
「は、はい.....こちらこそよろしく。」
こんな感じで俺は御門さんの連絡先をゲットした。まさか彼女から連絡先の交換を施されるなんて夢にも思ってなかった。しかも冗談まじりとはいえボーイフレンドとまで呼んでもらった。
俺は果たして、この人と一緒に居られる男になることはできるのだろうか?