御門先生と一般男性が恋愛を始めたようです 作:ヘル・レーベンシュタイン
今回でお家デートは一旦終了です、少々短めとなっていますが是非お楽しみください。
「ふう、ごちそうさまでした。」
「お粗末様です。」
涼子さんの手料理を平らげて俺はそう呟いた。涼子さんは柔らかな笑みを浮かべながら平らになった食器をまとめてくれている。しかし涼子さんの手料理は本当に美味しかった。我ながら、久々に満腹になるまで食べ尽くしたものだ。
しかし、これから何をしようか....
「龍弥さん。」
「あ、はい?」
そう考えていると背後から涼子さんが俺に呼びかけてきた。振り返ると、彼女の手にはDVDのディスクがあった。よく見ると、少し前にネットでかなり怖いと定評のあったホラー映画のDVDだった。
「よかったら、一緒に見てみない?ホラー系の映画なんだけど。」
「勿論あるけど、涼子さんもそういうの見るんだね。」
「ええ、非日常的で刺激的ですもの。それに学校でも割と話題になっていたのよ。」
それはまた意外だった。何となくだけど、医者なんだから根拠の無いものはバッサリと否定して関わらないようなイメージを抱いていたからだ。
しかしよく考えれば幽霊であるお静ちゃんを助手にしているんだから、そんな訳ないか。
「それじゃ、折角だし俺も見ようかな。」
「じゃあ一緒に見ましょう。」
こうして俺と涼子さんは2人でホラー映画を見ることにした。DVDを受け取ってテレビへと差し込む。
内容はどうやら日本の学校にまつわる怪談のようだ。俺の印象的に日本のホラーはひっそりと恐怖感を煽ってくるから、油断していると一気に突き込まれるイメージが強い。
「ほら、お菓子も持ってきたわ。」
「あ、ありがとう.....」
涼子さんが差し出したビニール袋の中を見てみた。中にはチョコやクッキー、そしてポップコーン等が入っていた。完全にホラー映画を見る気で来ていたようだ。
(もしかして、俺がビビる様子を見るために来たとか?)
だとしたら、その予想は裏切らせてもらおう。何故なら俺はこれでも動画とかでホラー系のものをよく見ている。所謂怖いもの見たさに釣られてって奴だが、それでも一定の耐性は付いていると自負している。だから、余程の演出でもない限り、そうそうビビるなんて事はないだろう。
「ほら、そろそろ始まるわよ。」
そう言いながら涼子さんが俺の隣へと座り込む。丁度お互いの肩がぶつかる程の距離で、フワッと香水の香りが漂い、俺の鼻を刺激する。その香りが、ホラーを見るという緊張感を少し和らげてくれる。
恋人と一緒に映画を見る。そんな初のイベントに胸を弾ませながら、俺たちの映画鑑賞が始まった。
映画を見始めてから数十分後。
『ガアァァァァッ!』
「〜〜〜〜〜ッ!?」
ドアップで迫る幽霊の顔がテレビに映る。その予想外、或いは予想を超えた恐怖演出が俺の恐怖心を煽り立てる。悲鳴をあげそうになるも、唾を飲み込むように抑え込む。
なんだこれは.....動画で見る迫力と全然違うじゃないか。まるで物語の一つになったように、本当に自分が幽霊と邂逅してるかのように錯覚してしまう。恐怖演出と同時に体が本能的にゾワゾワとしてしまう。ダメだ、中盤の時点でこんな様じゃ終盤で悲鳴をあげてしまうかもしれない。
そんな焦りを感じてた時だった、手からヒンヤリと心地良い感触がした。手元を見てみると、涼子さんの細い手が俺の手を握っていた。
「涼子さん?」
「....」
涼子さんの顔を見ると、ゆっくり微笑んで俺の方を見ていた。すると、その微笑みを見た事で焦っていた心も落ち着いてきた。そして再び2人で映画を再びみ始めた。
そしてエンディングを迎え、映画を見終えた。
涼子さんと手を繋ぎながら見ていたものの、やはりどうしても怖い部分があり、何度心臓が跳ね上がったか俺自身分からなかった。
(我ながらカッコ悪いなぁ.....)
そう心の中で思っていると、涼子さんのクスッと笑った声が聞こえた。涼子さんの方へと視線を移すと、困ったように苦笑を浮かべていた。
「ふふ.....もう、そんなに無理して我慢しなくて良いのに.....ホラー映画が怖いなんて、当たり前でしょ?」
「い、いや.....でもほら、俺も良い歳をした大人だし。」
「確かに赤ちゃんみたいに不恰好に泣き喚いたりしてるとカッコ悪いと私も思うわ。けど、大人でも結局は人なんだから、人並みに怖いと思う部分はあると思うし、そこは無理して我慢する事はないわ。得体の知れない存在に恐怖心を抱く事は、人として当たり前の感情なんだから....ね?」
「....ありがとう、涼子さん。」
「別にお礼だなんて....元々付き合ってもらってるのは、私の方なんだし。」
涼子さんは俺の手を両手で握り、自分の胸元に寄せながらそう宥めてくれた。手を握ってくれたことといい、本当にこの人と付き合えて良かったと思えた。
「それにしても、涼子さんはほとんど驚かなかったよね....もしかして、お静ちゃんと一緒にいる事で耐性がついたとか?」
「いや、それはどうかしら.....あの子はすごく純粋だから、悪霊とは良い意味で比較にならないとは思うわよ。」
「た、確かに....」
お静ちゃんは幽霊だが、そう感じさせないほど純粋で優しい女の子だ。あんなにホラー映画で恐怖してた俺ですら、何日か顔合わせしただけであっさりと慣れてしまえるほど、彼女は良い子だ。もはや1人の人間としてみてしまっているのだろう。そしてそれは、多分涼子さんも同じだ。
「そうね....強いていうなら、色々と経験してきたから、かしら。」
「は、はぁ....なるほど、経験かぁ。」
(実は、本当は私も要所要所で驚いていたのだけどね.....龍弥さんの手を握って誤魔化していただけなんだけど。)
ホラーになれる経験って、いったい何をしたのだろうか。めちゃくちゃ見まくってたのかな?無論、俺に涼子さんの心の内が分かるわけもなく、明確な答えを導き出すことができなかった。
なんて考えていたら、もうかなり暗い時間になろうとしていた。
「あ、もうこんな時間になっていたね。」
「あら、そうね。流石にそろそろ戻らないと....」
そういって涼子さんは帰宅の準備をして、玄関へと向かった。少々名残惜しく感じるものの、今日はここでお別れだ。一緒に暮らすことができれば良いのだが.....などと考えてしまう。
「それじゃ....あ、いけない。忘れ物をしてたわ。」
「え、ケータイとか?」
「いいえ、それは....」
そう言いながら涼子さんは俺の頬に手を添えて、ゆっくりと口を重ねた。その瞬間、俺の口から甘く蕩ける感触が広がる。
そして俺からも涼子さんの頭に手を添えて、更に深く口を絡める。互いに熱くキスを交え終えると、ゆっくりと口を離した。
「それじゃ改めて、さようなら。また一緒に楽しみましょう。」
「うん....じゃあまた。」
そう言って彼女は俺の部屋から立ち去っていった。俺は口に残った幸せな心地と、今日楽しんだ出来事を思い返しながら、今日一日を終えたのであった。