御門先生と一般男性が恋愛を始めたようです   作:ヘル・レーベンシュタイン

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今回の話は、少しシリアスな雰囲気の話となっています。


第五話 隠し事

 

 

「....それで、ドクターミカドはそんな姿になっていたのですか。」

「ええ、そういうことよ。」

 

龍弥の自宅から出た後、御門はティアーユの運転した車に乗って自宅へと帰宅した。そしてシャワーを浴びて着替えると、ティアーユ達にさっきまでの出来事を説明した。

聞き終えた後、ティアーユと一緒にいた金色の闇が厳しい視線を送る。

 

「....信じられませんがそんな姿のドクターミカドと2人きりで、本当にその男性はエッチなことはしなかったのですね。」

「ええ、私も少し予想外だったわ。彼はちゃんと約束を守れる誠実な人だったのよ。」

「ところで、その男の人にはドクターが宇宙人であることは伝えているのですか?」

「えっ?」

「そのまま関係が進展して、恋人同士になったらその男性はドクターが宇宙人である事実とも向き合うことになると思うのですが.....」

「そ、そうね....確かにその通りだわ。」

 

金色の闇の言葉を聞いて、思わず御門は動揺しまった。確かに自分が宇宙人であることは彼には伝えていない。その事を何処かで明かさないといけないだろう。

そしてもう一つ、御門の頭では恋人という言葉が焼き付いていた。

 

(恋人.....藤田さんとは、そういう関係になってるのかしら?)

 

恋人、聞き慣れた単語だが自分がそれに当てはまるのか考え込んでしまう。そもそも恋人の定義とは?どのくらい異性と付き合えば当てはまるのか、そういう関係になったら、秘密は明かさないといけないのか....などなど、色々な疑問が脳内をかき回していく。

 

「あ、あのミカド?難しそうな顔してるけど、大丈夫?」

「え?あ、ごめんなさいね。あまり慣れない事だったからつい....」

 

ティアーユの声を聞いて、ようやく御門は我にかえった。その様子を見ていた闇とお静は感嘆の声を上げる。

 

「....ドクターミカドがここまで頭を悩ませるなんて、珍しいですね。」

「そうですねぇ、普段の御門先生ならサラッと答えが出てくるはずなのですが。」

 

2人の話が耳に入り、御門は我ながら呆れてしまった。確かに彼女たちのいう通り、答えの出せてない自分に少し恥じらいを覚えてしまう。自分はここまで恋愛ごとに関して無知だったのだろうか?

ふと気になって、スマホで恋の意味について調べてみた。

 

(恋.....それは特定の人物のことを好きだと感じ、一緒にいたいと思うこと、か。)

 

確かに好きか嫌いのどちらかと聞かれたら、充分好きだと言えるだろう。それに一緒にいると不快感どころか、話も合うので居心地だっていいと感じ始めていたのだ。

 

(確かに一緒に居たいとなったら、当然この屋敷に彼を連れて来たいとは思ってるけど....宇宙人ってバレたらやはり忌避感とか生まれるのかしら?)

 

確かに意味としてはピッタリと当てはまるのかもしれない。しかし人との関係は論理性だけで成立するとは限らない。時には人の大きな感情が論理を凌駕することだってあり得るのだから。

 

「ねぇティアーユ、貴方にもし気になる異性がいたとして、どのくらい付き合ったら恋同棲とか始めるのかしら?」

「えぇ!?きゅ、急にそんなことを聞かれても....えっと、一週間、いや一ヶ月、それとも一年かしら?ご、ごめんなさい分からないわ....」

「いえ私もごめんなさい、急に聞かれても困るわよね....」

 

急な御門の質問に対し、ティアーユはあたふたと慌ててしまう。恋愛経験のない女性に聞いても質問された側は困るのが当たり前だ。であれば.....

 

「お静ちゃん、貴方はどう思うかしら?」

「え、私ですか?えっと、そうですね....」

 

今度はお静へと質問をしてみた。御門は仮にも400年幽霊をしているので、その経験から何か良いヒントが聞けないかと考えたのだ。しかし実際のところ、彼女自身は恐らく恋愛経験はないかもしれないが.....

 

(西連寺さんは、どうなんだろう?)

 

ふと、西連寺春菜に取り憑いた時の事を思い出す。その時に結城リトヘ恋心を抱いていることに気づき、もしも2人が結ばれた事を想像してみた。そして.....

 

「....正直なところ、あまり分かりません。けど、その2人がきっと本気なら、どんなタイミングで恋人として同棲しても大丈夫だと思いますよ。」

「お静ちゃん....」

 

お静は微笑みながらその答えを口に出した。その真摯な返答と微笑みに、思わず御門達は感心してしまう。

 

「なるほど、参考になったわ。ありがとう、お静ちゃん。」

「そ、そうですか?力になったようで何よりです。」

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして女子同士の話が終わり、各々ベッドに入って就寝することとなった。しかし、御門はベッドに入り、無意識に考えてしまう。

 

(あの人は、私が宇宙人だとわかったらどうするのだろう?)

 

現状、あくまで1人の医師として見られている。御門は見た目からして普通の人間として溶け込んでおり、誰も宇宙人だと説明されない限り分からないだろう。

だがしかし、それは裏を返せば分かってしまえば対応を変えてしまう可能性もあるのだ。人間は慣れてしまう生き物だが、未知を恐れてしまう生物でもある。もし藤田が御門のことを宇宙人だと分かってしまったら、対応を変えてしまう可能性だってあるのだ。

 

(それは多分、好きな相手だったとして忌避するかもしれない.....)

 

そんな未来が訪れることは覚悟している。だけど反面、どこか不安を感じて胸が疼いてしまう。そんなジレンマに頭を悩ませていた時、ふと龍弥との初めての出会った時のことを思い出した。

顔を赤くしながら、勇気を振り絞って自分へと声を掛けていた。不安もあっただろうし、決して余裕さなんて感じられなかった。ただ精一杯に勇気を振り絞って想いを伝えることに専念していた。

 

(そうね....彼も勇気を出したのだから、今度は私が出す番よね。)

 

そう思いながら覚悟を決めて、御門は目を閉じて就寝した。

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後。

御門さんからメッセージが届き、またデートをすることになった。待ち合わせ場所は彼女の初めて出会ったあの街だ。

 

 

「お待たせ、御門さん。」

「こんにちは藤田さん、待っていたわ。」

「ここって、俺たちが初めて出会った場所だよね。」

「ええ、もっともあなたはその前から私に注目してたみたいだけど?」

「うっ、我ながら恥ずかしいな....」

「ふふ、大丈夫よ。別に私は迷惑だったなんて思ってないから。」

 

御門さんはそう言いながら微笑みを浮かべ、俺の手を握った。急に握られてしまい、俺の心臓が跳ね上がる。

 

「え、御門さん?」

「ちょっと寄りたいところがあるの、付いてきて。」

「え、勿論良いけど....」

 

普段と何か様子が違う、そう思いながらも俺は御門さんに何処かへと連れて行かれる。しかしすぐに目的の場所についたようだ。

そこは、なんの変哲もない公園だった。だけど中にはほとんど人がいない。

 

「ここって、公園だよね?」

「ええ、そうよ。ちょっと話をするのに良い場所かなって思って。」

「話、一体どんな話を....」

「それは....歩きながら話すわ。」

 

御門さんはそう言って手を離し、ゆっくりと歩きながら公園へと入った。俺は御門さんの後についていく形で彼女の後を追う。

 

「先に結論から話すと、私は宇宙人なのよ。」

「えっ....御門さん宇宙人だったの?」

「フフ、驚いた?実は貴方が知らないだけで、結構宇宙人ってたくさんいるのよ。そして、そんな彼らの病気を私が治しているの。死んでいなければ、大抵の病気は治すことができるわ。」

「す、凄い....というか、宇宙人でも病気はするんだ。」

 

と、俺はつい感心してそんな感想を漏らしてしまう。しかし御門さんは、意外そうな表情を浮かべていた。

 

「あら、驚くポイントそこなの?私が宇宙人だと言うことには驚かないの?」

「それは驚いたけど....ああ、もしかして御門さんが実は宇宙人だったから、俺が避けるかもって思った?」

「.....ええ、その通りよ。この事実を知って、貴方がどう感じるのか確かめたかったの。」

 

そう言う御門さんの表情に、少し陰りを感じた。なるほど、だから人気のいない公園に俺を呼んだわけか、と俺は納得した。確かに人によっては宇宙人との接触は避けたいと感じる人もいるのかもしれない。けど俺は、御門さんの目を見据えてしっかりと俺の思いを伝える。

 

「御門さん、ありがとうちゃんと話してくれて。けど、俺の気持ちは変わらない。」

「えっ?」

「俺は人間としての御門さんが好きじゃなくて、あくまで御門さんの事が好きでお付き合いがしたいんだ。そこに宇宙人だから差別するとか、そんな理屈は無いよ。」

「.....藤田さん。本当に大丈夫なの?私で良いの?」

「ああ、何度だって言うよ。俺は御門さんと一緒に居たいんだ。」

 

俺の言葉を聞いた御門さんは、どこか安心したように微笑みを浮かべた。俺も御門さんのそのような顔見て、良かったと思えた。自分の判断に間違いはなかったのだと、改めて実感できた。

 

「ありがとう藤田さん....あと、今まで隠していてごめんなさい。」

「いや仕方ないよ、御門さんなりに気を使ってたんだろうし謝るような事じゃ無いよ。」

「.....少し喉乾いたんじゃ無い?そこのベンチで待ってて、買ってくるわ。」

「え?あ、行っちゃった....」

 

御門さんは、少し離れた場所にある自販機へと向かっていった。俺は言われた通り、すぐそばにあるベンチに腰を下ろした。

 

「御門さんが来たら、買ってもらった分のお金は渡すか....」

 

そう呟きつつ、俺はさっきまで御門さんと話してたことの内容を少し振り返る。

彼女は元宇宙人で、学校の保険医だけでなく、宇宙人の治療もしているとのこと.....宇宙人の治療にどれだけのスキルが必要かは分からない。だが死んでなければ大抵は治せると言ってる辺り、とにかく彼女のスペックの高いと言わざるを得ない。

 

(....俺、釣り合ってるのかなぁ?)

 

彼女は宇宙人として忌避される事を不安に思っていたようだが、俺個人としてはそんな不安の方が大きかった。何せ平凡なサラリーマンなのだから、彼女ほどの大きな実績をあげた事なんてまず無い。

 

(なんてネガティブなこと考えてられるか。自分で選んだんだ、気合入れて付いていくしかないだろえ。)

 

そう考えながら気を引き締めていると、御門さんが俺のところへと向かっている姿が見えた。そして缶ジュースを両手に持って俺の前へと来た。

 

「お待たせ藤田さん、はいこれ。」

「あ、来た来た。ありがとう御門さん....」

 

そう言いつつ俺はベンチから腰を上げ、差し出された缶ジュースを受け取った。そして顔を上げて御門さんと目を合わせようとした瞬間だった。

 

「えっ」

 

急に感じた女性特有の甘い香りと同時に、頬に柔らかい感触がきた。急な出来事で脳が一瞬凍りつくが、すぐさま何をされたのか理解し、恥ずかしさと衝撃、それと同時に喜びの感情が一気にきてどうにかなってしまいそうだ。

御門さんは今、俺の頬にキスをしたんだ。

 

「こんな私を受け入れてくれたお礼よ、ありがとう....私の優しいボーイフレンドさん。」

「あ、あ.....ありがとう。」

 

俺は思考停止した状態でどうにか振り絞ってありきたりな言葉を返した。だって仕方ない、今の俺は喜びでいっぱいなのだから、もっとかっこいい返事とかそんな事をする余裕なんてない。

けど....

 

「これからも、恋人としてのお付き合いをよろしくね。」

「ああ....勿論だよ。」

 

彼女もまた、こんな俺を選んでくれたことには変わりはない。だから俺は、彼女が安心にて笑っていられるように、一緒に歩み続けていこうと決意したのだった。




というわけで、今回の話で2人は晴れて恋仲となりました。ちょっと早いかもしれませんが、2人の信頼関係も深まった気がするので、2人の距離を縮めることにしました。

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