御門先生と一般男性が恋愛を始めたようです 作:ヘル・レーベンシュタイン
これほど多くの方々に自分の作品を読んでくれて本当に嬉しく思います。これからも満足できる作品作りに励んでいこうと思います!
「ねぇ、2人から御門さんのことについて聞いても良い?」
開口一番、俺はお静ちゃんと闇ちゃんにそう言った。すると闇ちゃんはジトッとした目線をしながら口を開く、
「あなた、ドクターミカドの事を知らずに口説いたのですか?」
「あ、あはははは....そうだね、俺は勢いで御門さんに近付いたよ。だけど、友達になってもっとお互いについて知ろうと思ったんだ。」
「そうですね、御門先生もそんな感じで付き合ってると聞きました。」
「....なるほど、なら彼女のことを詳しく知らないのも無理はないですね。」
すると、闇ちゃんの視線が険しくなる。もしかして何か恐ろしいことでも話すのだろうかと思った。そしてその予感は的中した。
「私もドクターミカドにはよくお世話になってましたが、実は彼女は過去のソルゲムという評判の悪い組織との関わりがありました。」
「わ、悪い組織って....けど、過去形になっているということは....」
「ええ、一時はその組織から圧力に屈しそうになりましたが私も彼女には借りがあったので手助けをするのにしました。」
「そ、そうだったのか....俺はその時には関わりすらなかったけど、御門さんのことを助けてくれてありがとうね。」
「....別に、あなたに感謝されるいわれはないです。ただ、彼女にはあんな組織は似合わないと思っただけです.....あと、私1人の力だけでもないですし。」
闇ちゃんは俺から視線を逸らしながらそう呟いていた。詳しいことはわからないが、かなり厳しい過去があったことを察した。そして闇ちゃん達の助力があってその組織との関係は決裂したそうだ。それを聞いた俺は闇ちゃんに感謝しざるを得なかった。
なぜなら、もし彼女達の助力がなければ今の御門さんは居なかったのかもしれない。当然俺が彼女と出会える可能性なんて皆無だろう。
「そうか、御門さんは昔はそんな危ない組織と関わりがあったんだな....」
「はい、ですが今はそんな危ない研究なんてしてませんよ。それにほら、幽霊だった私にちゃんとぴったりな体だって作ってくれたんですから!」
「ゆ、幽霊だって!?」
「は、はい。もしかして藤田さんは幽霊の存在を信じてないとか?ほら、こんな風に....」
「お、おぉ....凄い」
唐突な真実を明かされて俺は戸惑ってしまった。どうやらお静ちゃんは幽霊だったようだ。実際に目の前で霊体の姿を見せたのだから、信じるしかない。俺は昔から幽霊の存在は半信半疑だったが、このような形でお目にかかれるとは思わなかった。
「しかし、御門さんがこの体を作ったんだね....これも凄いな。」
「はい。おかげで現代の学校にも通えるようになって、私もとても嬉しかったです!」
そう言いながらお静ちゃんは満面の笑みを浮かべていた。このような技術を使って誰かを喜ばせる、御門さんにはそう言う力があるのだなと俺は感じた。改めて彼女への敬意が強くなった。
「お待たせ、食事の用意ができたわ。」
「ティアーユ、貴方料理ができたのですか?」
「わ、私はあくまでちょっとしたお手伝いをしただけだから....」
そう考えていると、御門さんとティアーユさんが食事を運んできた。どれも高級そうな料理でとても美味しいそうだ。一方で闇ちゃんは少し微妙そうな視線をティアーユさんへ送った。どうやら彼女はあまり料理は得意ではないらしい。
「さ、細かいことは抜きで今日は食事会を楽しみましょう。もちろん、藤田さんの歓迎会も兼ねて、ね?」
「あ、ありがとう.....ございます。」
「うふふ、また敬語が出てしまったわね。」
御門さんは小悪魔っぽく微笑みながら俺に向かってそう言ってきた。それが可愛く見えて、照れてしまう。そしてそれを見てみた周りの女子達が興味深そうにみていた。
「おお、お二人はそんな風に普段話しているのですね....」
「これは、ドクターミカドの方がなんだか優勢ですね。尻に敷かれそうな未来が見えました、」
「ま、まだ付き合いが短いからそうかもしれないわよ?」
と、女子達は俺たちの様子を見て喋り始めた。これもこれで俺からしたら照れ臭いが、決して悪い空気ではなかった。むしろ微笑ましく見えて、俺も自然と笑みが浮かび上がった。
「ところで、さっきはなんの話をしてたのかしら?」
「ああ、それは....」
御門さんがそう聞いてきたので、俺はさっき闇ちゃんとお静ちゃんと話してた内容を御門さんに伝えた。
「なるほど、ソルゲムとの関係をね....我ながら恥ずかしい過去だわ。」
「あはは....でも、もう関係は切ったんでしょ?だったらもう大丈夫なんじゃないかな?」
「ええ、もう二度と関わりたくないわ。」
「そうだよね....ところで御門さんお酒飲んでる?」
「ええ、ワインよ。」
ふと御門さんの顔を見てみると、顔がほんのりと赤くなっていた。普段とは違った色っぽさを感じる。
「よければ貴方も飲む?」
「....そうだね、折角の機会だし。」
そう言って俺はグラスにワインを注いだ。俺はお酒の類は基本的にビールで、友達との付き添いでたまに日本酒を飲むくらいだ。ワインは飲んだことはないが、前から飲んでみたいなとは思っていた。
「....なんか、不思議な味だな。」
「ふふ、けど後から癖になるかもしれないわよ?」
確かに御門さんの言う通り、自然と無意識に口に運んでしまうような味わいだった。
それからはと言うと、色々と楽しんだ気はするが、酔いが回りすぎて記憶が曖昧になる程飲んでじまったのだった。
そして
「んん?」
俺はふと目覚めた、どうやら酒を飲んで酔いに負けて寝入ってしまったようだ。僅かに頭から感じる痛みを抑えつつ体を起こす。どうやら俺は御門さんの家のソファーで寝ていたようだ。
ボーッとする頭の喉の渇きが我慢できない。そして俺は、食事会でワインを飲んでいたいた事を思い出す。
(ああ、そういえばワインを飲んでたな.....酔いが回って眠ってしまったんだな....まずは顔を洗ってからにするか....)
そう思いつつ俺は洗面台のありそうな浴場場所へと向かっていった。まだ残っている眠気に耐えつつ、俺は浴場のドアの部を掴んで開いた。
「....え?」
「....へ?」
だがそこには、俺の予想外の光景が目に広がっていた。俺の目に映ったのは、真っ裸な御門さんの姿だったのだ。髪や体には水気が纏われており、そして衣服を着ていればまず目に映らないようデリケートな部分まで見えてしまった。はっきり言って、さっきまで感じていた眠気なんて無くなっていた。しかし、数秒の沈黙の後、俺は今置かれている状況があまりに不味いことに気付き、すぐさま謝ることにした。
「え、いやそのごめっ」
「し、静かにして!騒いじゃだめよ....」
だが俺が謝ろうとした瞬間、御門さんは手を俺の口に押しつけて開いていたドアを閉めた。あまりに急な出来事で俺は呆気取られてしまう。すると、御門さんは小声で俺に向かって呟いてきた。
「落ち着いて、大声なんてあげてしまったら闇ちゃんが反応して大変なことになるわ。だから、お互い大きな音を出さないことを心がけましょう。良いわね?」
「.....」
御門さんの言葉を聞いて俺はうなずいた。そして御門さんは俺の口から手を離し、タオルを体に巻き付かせた。
「...ごめんなさいね、ここの屋敷には女の子しか住んでないからつい鍵をかけることを忘れてしまってたわ。」
「いや、それだとしても俺もごめんなさい。酔いが残っていたとはいえ、誰かが中にいるとも確認しないで開けてしまって....」
「はぁ....こんな事になるなら、やはり鍵をかける習慣をつけないとね。みんな女子だから鍵をかける事あまりなかったのよ....」
「ああ....」
俺は少しだけ納得した。男同士はともかく、女子同士の間ならば確かなわざわざ警戒して風呂に入る必要もあまりないのだろう。場合によっては風呂好きな女子同士で一緒に入るなんてこともあるのかもしれない。もっとも、これはあくまで俺の推測に過ぎず、その限りではない人もいるのかもしれないが、
「と、とりあえず俺は外に....」
「....ドクターミカド、大丈夫ですか?」
俺はそそくさと室内から出ようとした瞬間、突如ドアの向こうから闇ちゃんの声が聞こえた。俺は思わず叫びそうになるが、背後から御門さんの手が伸びて口を塞いだ。
「落ち着いて、暫くこの中で隠れていて。」
俺は頷いて御門さんの指差す掃除用具入れの中に入った。呼吸を抑えるが、高鳴る心臓音は止まらない。
「....ドクター?」
「ヤミちゃん、どうしたの?」
俺は掃除道具入れの隙間からその様子を覗き込んだ。御門さんはタオル姿のままドアを開け、闇ちゃんと話をする。
「いえ、少し物音があったので気になったのです。何かありましたか?まさか、あの男が何か変なことを....」
「そんなことないわよ、少し物を落としただけだから安心して。」
御門さんは決して動揺するような表情を浮かべず、あくまでいつも通りの笑顔を浮かべながら言葉を返す。しかしそれで闇ちゃんの警戒心は無くならないようだ。
「そうですか、では念のために中を確認させてください。すぐに済みますから。」
「ヤ、ヤミちゃん?貴女今日は結構強引ね.....何か気になることでもあるの?」
「.....僅かですが、男の匂いが感じるのです。もしかしたらあの男か、もしくは侵入者かと思うのです。」
闇ちゃんの言葉を聞いて、俺の心臓は跳ね上がりそうになる。俺は必死に口を手で抑えて呼吸でバレないようにする。
「もう、それは考えすぎよ。貴女も眠たそうな顔をしてるし、無理はしちゃダメ。」
「ですが、私はドクターのことが心配で....」
「ヤミちゃん。」
すると御門さんは闇ちゃんの頬に手を添えて、微笑みながら言葉を発した。
「ヤミちゃん、本当に危なかったらちゃんと貴女達のことは頼るわよ。自分1人で背追い込むような真似はしないから、そこは信じて欲しいわ。」
「ドクター....わかりました。そこまで言うのなら私は戻るとします。それでは....おやすみなさい。」
「ええ、お休みなさい。」
闇ちゃんはどこか納得した表情を浮かべながらこの部屋を後にした。そして御門さんが清掃用具入れへと近付きドアを開けてくれた。
「どうにかヤミちゃんは行ってくれたわ。顔を洗ったらバレないように慎重に戻ってね。」
「あ、うん....ありがとう。すごく助かりました。」
「良いのよ、貴方が疑われると私も困るもの。困ったときはお互い様よ。」
「わかった、本当にありがとうね。」
そう言いながら御門さんは微笑みを浮かべてくれた。俺はゆっくりと扉を開けて、周りをしっかりと確認しながら廊下へと出た。最初は闇ちゃんが居るかと思ったが、特に誰かがいる様子はなさそうだ。
(み、見てしまったな.....)
俺は闇ちゃんに見つかりそうな恐怖よりも、着替え中の御門さんの姿を見てしまったことが強く記憶に残っていた。前にはバスタオル姿を見たが、あれとは見た瞬間の威力が全然違った。
加えて、普段落ち着きのある御門さんが明らかに動揺していたのもまた新鮮だった。あの人もあんなふうに驚くことがあるのだなと思ってしまった。
「....ひとまず寝ようか。」
俺は水を一杯飲み、高鳴っていた鼓動を落ち着かせる。まだ先程の出来事が脳裏に残っているが、それ以上に再び襲いかかってきた眠気に耐えきれなくなっていた。そして俺はソファーへと身を沈めたのだった。