彼方のボーダーライン   作:丸米

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加山雄吾 パラメーター
トリオン10
攻撃7
援護・防御10
射程4
機動5
技術7
指揮5
特殊戦術8

total 56

※ 暗視はオペの視覚支援によるものとの指摘がありましたので、修正。申し訳ございません。


戦いの色は、静謐な水色

いいか、巴――そう加山は言う。

 

「気を付けろ。本当に気を付けろ。――これからだな、お前は思春期に入る。そして俺は入っている」

「思春期-----ですか」

「そうだ。思春期だ。子供から大人へと思考形態が変わりだす大事な時期だ。その中で、俺達は今まで子供だった思考を、大人にしなければならなくなるんだ」

「成程------」

「だがな。その大人らしい思考の解釈を間違えると、残念な人間が出来上がってしまう」

「解釈------?」

「そう。解釈。――例えばだ、巴の眼から見て、二宮隊長はカッコいいと思う?」

そう問われると、巴ははにかみながら

「はい。思います」

と言った。

うんうんと加山は頷き、

「ああいう風になりたい、と思う?」

と更に畳みかける。

すると、

「---とは、思いませんね。というか、なれないというのが正直なところで-----」

と返ってきた。

加山は、

「------」

「------」

「巴」

「はい」

「お前は何の心配もいらない」

思わず心の中でガッツポーズを掲げていた。

 

心配いらなかった。

 

そう。

 

子供から大人へと、身体も思考も変わっていくこの日々の中。

しかも、ボーダーという特殊な兵器を使って異世界からの化物をなぎ倒しながら市民を守っているという正義感と満足感に悦に浸らせられる特殊環境下。

 

きっと。

きっと。

発症者がいるはずだ。

 

中二病。

 

その忌むべき病に発症する人間が。

子供が考える大人のカッコよさを拡大解釈し、その解釈のまま自身の人格に積み込もうと考える阿呆の極致の如き人間が。

 

別にいいんだ。その辺の塵芥が頭が可哀そうに見える病気に発症しようが。勝手に病気になって勝手に死んでくれ。そして大人になってからも黒歴史として永劫語り継がれ自身の身内の中で一生ネタにされてくたばっていけ。発症したのが悪い。トリガーによる攻撃時とかに独自の技名とか叫んでいる所をしっかり記録に残されて死んで行け。

 

でも。

でも。

 

巴だけは。

この可愛くて仕方がない後輩だけは、この病から守らねばならない。そう加山は心に誓っていた。

 

だが、何の心配もいらない。

二宮を見て「かっこいいと思う」と世辞を吐き、その上で「ああはなれない」と返答を返す。完璧。完璧だ。これはまさに大人としての完全なる模範解答。

いやもう。ボーダー女性オペのアイドルは伊達じゃない。

 

巴虎太郎。

加山にとっては目に入れても痛くないほどの可愛い後輩だった。

 

「で。何の用だったっけ?」

現在、二人は個人戦ブースの中に

「えーと-----僕も、米屋先輩に呼び出されてここに来ていて」

「げ」

マジかよ、と呟きながら加山は顔を顰める。

 

「おいーっす。巴、加山」

その声の方向を振り返ると、

 

A級三輪隊隊員米屋陽介がそこにいた。

 

「こんにちわ、米屋先輩」

「よぅ、巴。――さあて、加山。バトってもらうぜ」

米屋はニカリと加山に笑いかける。

「やですよ。米屋先輩。この前貴方俺の事散々ボコったばかりじゃないですか」

「まあまあ。今回はチーム戦だからさ」

 

そして、続々と人が集まってくる。

 

「お、チーム戦やるのか?いいじゃねぇか。虎太郎もいることだしな」

B級柿崎隊、柿崎国治。

「が、頑張るッス!」

B級弓場隊 帯島ユカリ

「面白そうじゃない。あたしも参加するよ」

B級那須隊 熊谷友子

 

続々と集まるこの人間を呼び出したのは誰か。

それは、眼前のカチューシャつけたこの男――米屋陽介の底なしのコミュ力のなせる技なのであろう。

 

「----どうチーム分けするんすか」

「うーん。俺とお前でやりあいたかったから、一人ずつ交互に選んでいく形にするか」

「了解っす。順番はじゃんけんで?」

「お前から交互でいいよ」

「お。それじゃあ、俺ザキさん」

「帯島」

「巴」

「自動的に熊谷ね。――それじゃあやっていこうかね。じゃあ、マップもお前が決めてもいいよ」

「いいっすか?」

「おう」

「市街地D。そんで夜ね」

「了解。それじゃあ、やっていこうかね」

「オペはいます?」

「二人ちゃんと呼んでいるぜ。――じゃあ、やろうか」

 

 

という訳で。

柿崎隊から照屋の代わりに加山が入った状態で、個人戦が始まった。

 

市街地Dは中央に巨大なショッピングモールが存在するマップである。

マップ自体は狭く、大通りで囲まれている。その為、狙撃を嫌い攻撃手は建物の中に逃げ込むことが多く、必然的に屋内での戦いが多くなる。

 

「――こちら加山。ショッピングモールの最下層に転送されました。お二方はー?」

「こちら柿崎。ショッピングモールのすぐ東。すぐに合流できると思う」

「こちら巴。西側です」

「了解です。――で、いいんですか。俺が指揮しても」

「ああ。いつもは俺が指揮する側だからな。こういうのも新鮮でいい。ばっちり頼む」

「ういっす。何か緊張しますね。――取り敢えず、ザキさんと巴は合流を優先してくださいな。出来れば上階に向かう形で」

「上階に向かう形?」

「うす。俺は下の階から上の階にかけて仕込んでいくので。ザキさんと巴は上階の索敵を頼みます。で、巴」

「はい」

「指定した場所にダミービーコン置いていって。後で仕掛けに使うから。まあ仕掛け言っても、そんな複雑なものじゃないけど」

「了解です」

「それじゃあ。やっていきましょうか。――米屋先輩。流石に舐めすぎっすよ」

加山雄吾の特性は。

閉鎖空間であればあるほど、その真価を発揮する。

 

加山は柿崎が取れた時点で、次に巴を選ぶことを決めていた。

理由は、単純に両者の練度。

同じ隊であり、隊を組んでの連携に定評のある柿崎隊。あの人選で選ぶならこの二人だと考えていた。

即興での連携に期待するよりも、この方がよっぽどいい。

 

「――お、あったあった」

二コリと笑みながら、加山は最下層にあるとあるブツの前に立つ。

電気管理用の機械であった。

 

「そいじゃあ。――派手にやっていきましょうかね」

 

加山はその前に、ポイと何かを投げ捨てた。

それは――メテオラキューブであった。

 

 

そして。

 

一方の米屋チーム。

 

「俺マップの南の結構遠い所に転送されちまったな」

「――自分はモールの上階に移送されたッス」

「あたしももうモールの中に入れた」

「了解。取り敢えず二人合流しといて」

「了解ッス。――あ」

その時。

レーダーにぽつりぽつりと反応が記されていく。

 

「――下の階と、上の階の両方にトリオン反応が出てるッス」

 

「――加山と、あと巴のダミービーコンかな」

 

ダミービーコン。

それは、偽のトリオン反応を作り出すオプショントリガーである。

 

基本的にレーダーは、敵の持つトリオン反応によってその位置を捕捉する。

そのトリオン反応を隠すトリガーがバッグワームで、偽のトリオン反応を作り出しレーダーを欺く道具がダミービーコン。

今、加山はそれを使ったのだろう。

 

「――まあ、市街地Dになった時点でこうなる事はある程度織り込み済みだけどねぇ」

「加山君だっけ?ダミービーコンセットしているなんて珍しいね」

「あいつは本当に色々な意味で珍しい奴だから気を付けろよ」

 

「――あ」

 

そして。

「-----上階へと続く階段が、全部エスクードで封鎖されているねこりゃ」

 

頭を掻きながら、熊谷がそう報告する。

「多分、加山君は1階にいるね。上に向かう動きを妨害しながら上階に向かっている。――どうしようか?弧月で斬ってく?」

「------熊谷先輩。その先、トリオン反応があるッス」

階段を挟んだ踊り場。

そこに、幾つも存在するトリオン反応のうち一つが、そこに点滅している。

「------厄介だね。こういう状況の時、本当に本人の反応なのかどうなのか解らないってのは」

そこに待ち伏せをされている可能性があるかもしれない――そう思考が働くにつれて動きが制限されていく。

ダミービーコンは、視界が制限されているという状況下――つまりは待ち伏せや罠を警戒しなければならない中において、相手の足を止めさせる機能もあるのだ。

 

「------吹き抜けからジャンプしていく方法もあるけど」

その方法を取ると、それはそれで居場所を知られるかもしれないリスクがある。

 

ダミービーコンの効果が切れるまでそのまま1階を索敵する方法もあるが、それはそれで合流を遅らせることに成功する事になり、相手の思惑に乗る事になる。

 

どの選択を取ろうとも、相手に確かな利がある。

 

「――ここは早く合流しなきゃね」

 

熊谷は待ち伏せに最大限の警戒を払いながら、エスクードを斬る。

斬った先にあった踊り場には、ダミービーコンと、

 

「え」

 

がしゃがしゃ。

斬ったエスクードのまたその手前で射出される音。

上階へ向かう場所にもまたエスクードで封鎖されている。

 

逃げ場はない。

そこにはダミービーコンと、

 

四方に散った大量のメテオラキューブがあった。

 

熊谷は背後を振り返り即座に逃げようとするが。

 

それよりも――メテオラが爆発するスピードの方が速かった。

 

――熊谷、緊急脱出。

 

 

メテオラが爆発した瞬間。

モール全体が暗闇に落とされる。

 

「-----嘘!」

即座にオペレーターに視覚支援を入れさせ、上階で熊谷を待っていた帯島は身構える。

 

「――帯島。無事?」

「米屋先輩!どうやってここまで」

「多分、熊谷を爆発でやったついでに、電源を爆発で飛ばしやがったな加山の野郎。――暗いから、多分吹き抜けを飛び越えてもそう簡単には気付かねぇだろ。だからジャンプしてきた」

「電源を落とした?そんな------視界が制限されたら、困るのはあっちも同じじゃ-----」

「柿崎・巴のコンビはともかく、加山はむしろ暗闇の方が活きる駒だ。特に、こういう閉鎖空間の中だと。多分、副作用でこっちの位置は完全に把握できてる」

「どういう----」

 

「――ほれ。来たぞ」

 

がしゃがしゃ。

がしゃがしゃ。

 

米屋と帯島の正面・背後からもエスクードが生え出ていく。

そして、

 

「来たな――巴!」

 

巴虎太郎がそのエスクードの間隙を縫うようにハウンドを放ち側面から米屋に斬りかかる。

米屋は突きで牽制を入れると、旋空でエスクードを斬り裂いていく。

 

巴は無理せず一撃だけ放つと、その場を離れる。

離れる動きと連動し、――生え出たエスクードの影から柿崎が弾幕を張り、巴の脱出を援護する。

 

「帯島、頼む」

「ッス」

 

帯島もまたエスクードの影に移動しながら、柿崎・巴にハウンドを放つ。

それを防いでいるうちに、米屋が動く。

 

巴・柿崎が隠れるエスクードを斬り裂き、

「まずはザキさん」

 

米屋は――この場において弾幕を放つ事の出来る柿崎に襲い掛かる。

「――虎太郎!この場を離れろ!」

柿崎もまた弾幕を張り、米屋を削りつつ――正確無比な突きでトリオン供給体を破壊されたことで緊急脱出。

 

その瞬間、巴は米屋の背後に向かって行く。

 

当然、狙うは帯島であろう。

 

その背後に更に突きを入れようと振り返ると。

 

更に、エスクードが生え出る。

 

「――成程、ねぇ」

エスクードにより移動の制限をかけることで帯島が援護→米屋が接近戦を仕掛けるという図式を作り両者を切り離したのち、その間にエスクードを更に生やす。

 

ここで帯島は巴と、

 

「――よーやく出番っすねぇ!」

柿崎・巴がいた反対側に身を潜めていた加山の二人を相手取る事になる。

 

「――く」

帯島はハウンドで巴の背後からの動きに牽制を入れつつ、加山に弧月で斬り込んでいく。

加山は拳銃を構えると、帯島に向け引金に指をかける。

 

弾丸は、速く、そして重い。

恐らく、射程を削り威力を上げているのだろう。自身の隊長である弓場と全く同じトリオンの振り方だ。

それを避けると、背後のエスクードすらも貫いていく。

 

加山は銃弾を散発的に放ちながら、腰を下ろし、膝を曲げ、姿勢を低くし、もう片手にスコーピオンを構えながら突っ込んでいく。

 

姿勢を下げた状態から拳銃を放ち、足を動かし――帯島の足先からスコーピオンを振っていく。

小柄な体躯を活かし、視界を下に制限させたうえで戦うのが加山の接近戦でのスタイルなのだろう。

そして、

視界が下に行くと言う事は、

 

「――あ」

背後から迫る巴が、上から急襲をかける。

その動きに対応すること叶わず――帯島もまた、緊急脱出した。

 

 

その瞬間に。

エスクードを斬り裂いた米屋陽介が更に巴の背後から斬りかかる。

 

加山は即座にトリガーを切り替え、エスクードを地面から生やし、米屋の身体にぶつける。

「おお!」

米屋が上へ吹っ飛ばされ、天井に叩き付けられると同時。

巴のハウンドと加山のハウンドが両側面から襲い掛かる。

米屋はそれをぶつけられた天井に即座に両足をかけ急加速で地面に着地する事で、何とか避ける。ただ、やはり幾つかは被弾し足が削れる。

 

「足が削れたな。一気に仕掛けまっせ」

「了解です」

 

加山が左側からハウンドを放ち、巴が右側から同じようにハウンドを放つ。

その上で巴が正面から斬り込む。

 

「ああ、こりゃ」

負けだな、と呟き。

巴の弧月が喉元を貫く感覚と共に――米屋陽介は、緊急脱出した。

 

 

「この前の個人戦でのリベンジは果たせましたぜ、米屋先輩」

「いやー負けた負けた。やっぱりお前、戦い方うざいなぁ。言っとくけど、褒めてるんだぜ」

「解ってますよぉ。ああいう場所こそが、俺の神髄ですから」

わはは、と米屋と加山が笑いあう中――。

 

「-----あれが、噂の頭のおかしな新人って奴か?」

「-----はい」

巴と柿崎は両者とも、じぃっと加山の姿を見ていた。

 

「――やるじゃない」

「あ、どもどもはじめまして熊谷先輩」

「私をあんな風に型に嵌め込むとはね。ところで、どうして私があのルートを通ると解ったの?上階に向かう階段は他にもあったでしょ?」

「副作用っす」

「へ?」

「まあまあ、そういうものです」

はぐらかしながら、加山はその視線の先に、

何やら困惑しているような帯島の姿を見かける。

 

「お、どうした帯島----ちゃん?君?わかんねーけど、よろしく」

「あ、自分は帯島ユカリッス。女です」

「おおう。了解。ありがとうこの場で教えてくれて。弓場さんにぶっ殺されるところだった」

「その----よろしければ、またこういう機会を設けてもらってもいいですか?」

「いいッスよ」

 

「――え?部隊に所属してないの、アイツ」

「はい」

「------何で?」

「さぁ---。何か、ランク戦の研究をしているとかなんとか」

「ううむ」

 

この試合の後から。

加山雄吾の噂は一つだけ更新されることになる。

 

ボーダー本部ラウンジには、割と腕のあるけど部隊にも所属せず奇声を発している加山雄吾という男がいる、と。

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