彼方のボーダーライン   作:丸米

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100話目ですって.....。
いいですね。

そしてガロプラ編は一応終わり


傑作のジョーク②

「俺はさ」

 

 迅悠一は、語り掛ける。

 届けるべき者に届くわけもない声を。

 

「お前には()()であってほしかったんだ」

 

 その言葉が届いた瞬間。

 加山の中にある、加山雄吾としての記憶が幾つも再起する。

 

 それは、かつて加古望からかけられた言葉であり、弓場拓磨が見せてくれた姿であり、眼前の迅悠一であり、そして──玉狛第二の姿であった。

 

「今。こうして別人格に乗っ取られている姿も──以前のお前に比べれば、随分と人間らしく思える」

 

 青春をしろ、という迅悠一の言葉は。

 人間であれ、という言葉と同義であった。

 

「この先。お前がどんな決断をしようとも──人間として、葛藤も苦しみも抱えながら、してほしい」

 

 逃げるな、という加古望の声が浮かび上がる。

 そうだ。

 逃げていた。

 目を背けていた。

 自分が他者に向けられた視線から。

 そして、何より──自分もまた、ちっぽけな一人の人間であるというどうしようもない事実に。

 

 蓋をして。

 目を背けて。

 その帰結として──今の姿がある。

 

「──そう願うからこそ。俺はお前がそうなる事を解ったうえで行動していた。そして、これからちゃんとお前を取り戻す」

 

 幾層にもゆらめく、マフラーのような帯を纏った刃。

 それを向ける。

 

「──OK。何であれお前はここで俺を見てしまったんだ」

 ああ。

 こいつが黒トリガーでよかった。

 

 緊急脱出装置なんてくだらねぇものはない。

 生身に戻して、瓦礫の下に埋めてやればお陀仏だ。

 

「──ぶっ殺してやる」

 

 両腕に電流を宿し。

 加山もまた──迅と対峙した。

 

 

 ガロプラ側は、もう手詰まりも手詰まりであった。

 戦術は見抜かれ、戦列は瓦解した。

 

 玄界の戦力に挟撃され、挟撃から包囲に変わり、一方的に戦力を削られ続けている。

 

「くそ....!」

 

 そして。

 コスケロを失い、外の指揮を一任されたレギンデッツは混乱の最中にいた。

 手を打とうにも、最早敵の布陣に穴がない。

 ならば無理やりにでも穴をあけなければいけないのに、その為の戦力もない。

 

「だったら....!」

 

 レギンデッツは、それでも諦めなかった。

 戦力でもって穴をあけられないのならば。

 ──奴等の急所をもって、穴を空けさせてやる。

 

「──レギー。何をしているの?」

「市街地に向かう! こうすれば、連中も戦力をこっちに向けざるをえなくなるはずだ!」

「市街地を攻撃するなって隊長がいっていただろう?」

「解ってる! 向かうフリをするだけだ。そうすれば──」

 

 ドグを引き連れ、市街地に向かうレギンデッツ。

 

 されど。

 悲しいくらいに、誰もその誘いに乗ってこなかった.....。

 

「何だよ....!」

 

 その静寂の中で。

 

「──俺なんかじゃ、怖くもねぇってのか!」

 

 自身が、何の脅威にもなっていない現実と、周囲のどうしようもない侘しさに。

 レギンデッツは、そんな風に叫んだ。

 

 

 その時であった。

 

「──がぁ!」

 

 上空より。

 電流が降り落ちる。

 

 

「──単騎で餌まで引き連れてウロウロしている馬鹿がいたと思ったら、何だこれは笑えるぜ。丁度いい。手勢が欲しかったところだ」

 近くの住宅から飛び上がり、地上に降りた加山。

 その隣に、レギンデッツがいた。

 

 振り落ちた電流がトリオン体の形を崩していく。

 トリガーを起動しようにも、出来ない。

 トリオンの流れが、乱れている。起動が上手くいかない。

 

 加山の足元に、一筋の線が浮かぶ。

 ニコリ笑って、その線の上に立ち止まっているレギンデッツの背後に回り、その線の上に電流を帯びた左足で蹴飛ばす。

 

「あがぁ!」

 

 ブレードが、自らの腹を貫く。

 その時。トリオン体ではありえない、身体を斬り裂かれる痛みを十全に味わわされながら。

 

 ぶしゅう、と膨張したトリオンが爆発するように煙を噴き上げて。

 

 とどめに──緊急脱出用の『門』が起動しない、という現実が襲い掛かる。

 

 トリオン体が崩壊し、生身の肉体が投げ出される先が──この玄界の地である事実に、表情が青ざめる。

「に、逃げねぇと....うおぉ!」

 

 足元に流れていくトリオンの電流。

 幾つもの筋を引きながら飛び出てくるブレード。

 

 そして──先程まで自らに従っていたドグたちが、当たり前のようにその戦いに参列している様を見て。

 

 ただでさえ混乱状態にいたレギンデッツは──更なる混迷の海に叩き落される事となった。

 

 

 ──自身の足元に。左右の壁に。

 それぞれ走るトリオンの筋から、ブレードが飛び出してくる。

 

 ──成程な。こいつは確かにうぜぇ。

 

 射程は無限と言ってもいい。トリオンが尽きるまで、この遠隔によるブレードは放たれ続ける。

 あのマフラーみたいな帯の数が、恐らくは弾数であろう。

 

 しかし。

 対応策はある。

 

 加山は周囲に力場を形成し、そこに微量のトリオンを流す。

 

 あの遠隔のブレードも、トリオンで作られている。

 ならば、力場でその場所を察知することは可能だ。

 

 迅と風刃の組み合わせは、未来視と合わさり強烈な武器となる。

 未来視でその相手が追い詰められるであろう場所に、あらかじめブレードを仕込む、という手法によって。

 

 しかし。

 加山の黒トリガーの索敵能力もまた、彼自身の副作用も合わさり強力なものとなっている。

 

 力場内に流している自らのトリオンと、その力場内にある他のトリオンが衝突した際の音を色分けする。

 それ故。

 加山は何処にブレードが仕込まれているのか、その全容を理解していた。

 

 ──俺に、負ける要素はない。

 

 

 そう思う加山の脳内に。

 

 せせら笑う声が、響く。

 

 

 

 ──自惚れんな。

 

 

 その声は、かつて塗り潰した、元々の人格からの声であった。

 

 

 ──未来視が化物ってわけじゃねぇんだよ。迅悠一が、化物なんだよ。

 

 

 そう。

 別の加山雄吾が、そう脳内で言っていた。

 

 

 戦いは。

 電流を広域に撒きながら迅との距離を取る加山と、

 ブレードで追撃をしつつ距離を取る迅という構図であった。

 

 加山は力場でブレードの位置を観測しながら、的確に立ち回りつつ迅を近づけさせず。

 迅は未来視でその攻撃を見切りつつ徐々に距離を詰めていく。

 

 ──電流の放射元は、加山の身体からでしかない。

 目に見える電流は両腕から放ち。

 そして──自身の足元から、地面を通じて相手に放射する技法も、この黒トリガーには存在する。

 

 それすらも、迅は避けていく。

 

 ──まあ、焦ることはねぇ。

 この程度で倒せるとは、こちらも思っていない。

 

 ──俺は今、奴の目を見ちゃいねぇ。つまり、俺からの情報で奴はこっちを攻撃してはいない。他の連中から集めた未来の情報で、奴は俺と戦っている。

 

 つまりは、過去に集めた未来のストックで奴は今戦っている。

 ならば、いずれ読み違える時が来るはずだ。

 

 それに。

 動かせるものは──動かせばいい。

 

「俺は──手段は選ばねぇ。そこの馬鹿みたいになぁ!」

 

 加山は。

 手勢に迎えたドグを──市街地へと走らせていく。

 

「成程ね....」

 加山は本気だ。

 レギンデッツと違い、本気でトリオン兵でもって市街地への襲撃をかけようとしている。

 

 どうせここで襲撃をかけた所で、ガロプラの責任になるだけだ。

 その目撃者である迅を殺せば問題はない。

 

「ここだろうな」

 迅はぽつりと呟き。

 

 市街地へ向かうドグ全員に風刃を走らせる。

 

 駆け抜けるドグよりも速く走らせたブレードがそれを貫いた瞬間。

 

 ──左右から、更にドグが襲い掛かる。

 

 迅はそれを身を屈め体幹を回した斬撃で斬り裂く。

 

 

 残る風刃の数は二。

 そして──遠隔斬撃を走らせた動作からの、ドグの急襲への対応に、足を止める。

 

 ここで。加山はフルパワーでの攻撃をそのまま迅に叩きつける。

 

 両腕からの広域電流放射と両足からの地面伝播による左右からのトリオン電流の叩きつけ。

 

 足を止めたタイミングで、行使した。

 

 

「──それは甘い」

 

 足を止めたとて。

 迅には──風刃がある。

 

 

 左の壁を、迅は風刃のブレードで斬り裂き電流の通り道を潰すと、

 そこに身を倒しつつ、斬り裂かれた壁の破片を正面の電流に叩きつける。

 

「トリオン干渉型のトリガーは、ただの物質に弱い。──お前のそれも、その例に違う事は無かったわけだ」

 

 その時。

 仕留めに入っていたため真っすぐに正面のビルの屋上から迅を見据えていた加山の目を、ここで迅は見る。

 

「──勝負あり」

 

 崩れていく壁の中に身を隠し、使い切った帯を再装填。

 

 力場の中に──加山の周囲を取り囲むように風刃を走らせる。

 

「こんなもん無駄だろうが....!」

 

 幾ら斬撃を走らせたところで。

 予見できるのだから意味がない。

 

 

「ところがどっこい」

 

 その時、加山は複数ある逃走経路の中で、右手側から飛び降りる、という選択肢を取った。

 

「──俺の副作用が、ここに来ると言っている」

 

 その場に。

 迅は真っすぐに向かっていた。

 

「クソが.....!」

「よう...」

 

 加山は黒トリガーの影響で強化された反射神経をもって、迅に殴りかかる。

 されど。

 

「畜生が....畜生がァァァ!」

 

 その腕ごと、風刃の刃で縦に斬り裂かれる。

 

「それじゃあ──」

 

 腕を斬り裂いた迅が加山の足元に身を潜らせ。

 腹先を斬り上げる。

 

「──加山を、返してもらうぞ」

 

 

 ──クソが! クソが! 

 

 叫ぶ。

 

 エネドラもどきの声が、脳内に響く。

 

 

 ──どうしてだ! どうして攻撃が届かねぇ! 

 

 

 そして。

 漁る。

 勝機を、漁る。

 

 自らの記憶にないものを。

 漁る。

 

 

 加山雄吾が迅悠一と共に過ごし

 共に戦った記憶の中から。

 

 奴を打倒できる記憶を、漁る。

 

 

 

「バーカ」

 

 

 

 声が聞こえた。

 

 

 

「──俺の記憶をアテにしようとした時点で、お前の負けだよ」

 

 

 

 記憶を深掘りする中で。

 

 

 彼の脳内に──存在しないはずの記憶が、流れ込んでくる。

 

 

 

「な....何だよ! 何だよ、これ!」

 

 

 それは。

 加山雄吾が積み上げた憎悪の記憶と

 エネドラが積み上げた憎悪の記憶と。

 

 そして──それが組み合わさり、二人分の記憶の結晶と化した膨大な記憶の本流であった。

 

 

「──お前は今、積極的に俺の記憶に触れようとしただろ? そうなったらこうなるに決まっている。本来の人格は俺で、お前はそこに横槍を入れただけに過ぎない」

 

 ざまあみろ、と。

 加山雄吾は、エネドラもどきに言う。

 

 

「お前はエネドラですらない。ただの()()()だ。エネドラの足跡を実際に味わったわけでもない。奴が狂っていく様を体験したわけでもない。その記憶から新しく生まれた赤子の様な人格に過ぎない。そして赤子にすら負けてしまうほどに俺が参っていたから、人格を横取りできたに過ぎない」

 

 笑う。

 加山は、笑う。

 

「だがもうそれも終わりだ。お前は俺の記憶の中に入り込んできた。──そのまま取り込まれてしまえ」

 

 記憶の本流の中。

 加山雄吾の姿がある。

 

「あ.....あああああ.....!」

 

 その加山はエネドラもどきの頭を掴み。

 その目を見る。

 

 流れ込む。

 

 

 ──加山が味わった、地獄の音色が更新していく様を。

 

 

「俺はもう、、エネドラの地獄を受け入れたぞ。──お前は俺の地獄を受け入れられるか?」

 

 死の色が。

 うねりを上げて音声と共に雪崩れ込んでいく。

 

 

 それはエネドラの外殻を纏った新しい人格を飲み込んでいき。

 そのうねりごと──加山雄吾はその中に、受け入れた。

 

 

 腹と両腕を斬り裂かれ、

 そのまま首を落とそうとした迅の腕が──止まる。

 

 

「戻ったか、加山」

 

 にこり微笑み

 迅は声をかけた。

 

 

「──えらく、迷惑をかけたみたいっすね」

「まあそうだな。でも気にするな。俺はこれを止めることも出来たけど──敢えてしなかったんだから。俺にも責任がある」

「すまねぇっすね」

「──そういう事もあるさ。何せ、俺達は人間なんだ。──ところで」

「....」

「お前の名前を聞いてもいいか?」

 

 迅悠一は、尋ねる。

 

 加山雄吾は──迷うことなく、答える。

 

「加山雄吾ですよ」

 と。

 

 その返答を聞き、一つ迅は頷く。

 

「エネドラじゃなくて?」

「あいつは死にました。それはどうしようもない事実で、それ故に──俺の身体を乗っ取った奴は、誰が何と言おうとエネドラなんかじゃない」

 

 だから。

 

「あいつの地獄を受け入れても尚──それでも、俺は加山雄吾です」

 

 加山は。

 再度叩き込まれたエネドラの記憶と、向き合っていた。

 向き合う中で、自身もまたその記憶を追憶していた。

 

 適合者として選ばれた喜びも。

 黒トリガーを使って祖国の繁栄を心から願っていたその在り方も。

 その思いが砕かれていく様も。

 コントロールできなくなる自我も。

 そして──最後の結末も。

 

 

 その全てを、目を逸らさずに受け入れた。

 

 受け入れて尚。

 

 それでも。

 

 加山雄吾は──あの地獄から出てきた記憶が、根幹にある。

 

「.....じゃあな」

 

 

 加山は。

 ただ、そう呟いていた。

 

 




レギーがどうなったのかは、次のお話で....。
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