彼方のボーダーライン   作:丸米

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白黒混じり、灰色

「──処分なし、ですか」

 

 ガロプラ騒動の後。

 加山はその足で上層部へと現状の報告を行った。

 

 黒トリガーによる人格の上書き。それによる暴走と殺人未遂。

 余すところなく伝えた。

 

 最低でも記憶処置。最悪クビすらも覚悟していた。

 

「ああ。君を処分して、こちらにとってメリットがない」

 

 城戸司令は、いつものように滔々とした口調で加山に語り掛ける。

 

「そして君の行為を証言するものもいない。迅も、その玉狛の捕虜も、そして玉狛支部にいるあの子供も。君に関しての証言を拒否した」

「....」

 

 迅は解る。

 あのお子ちゃまも.....何となく解る。

 

 だが、ヒュースに関しては何故証言を拒否した? 

 証言を言うだけで、自らの祖国を滅ぼそうとしている男をボーダーから追い出すことが出来るというのに。

 

「それに。我々も、遠からずこうなる事は迅の報告で理解していた。その上で放置していた。何故だか解るかね?」

「....」

「君を処分してしまったら、あの危険な黒トリガーにせっかく適応した者をわざわざ追い出す事になってしまう。これから先、あの黒トリガーに適応する者が現れても、おちおち使わせるわけにもいかない。──迅がいれば抑え込めることは解っていた。問題が発生することを予見し、それでも放置していた我々にも相応の責任がある。だからこそ、別段の被害もなかった今回の件で君を処分することは無い」

 

 成程、と加山は思った。

 全て、迅の掌の上だった訳だ。

 

 ──俺達からすれば、お前は敵じゃない。

 

 そうだろうな、と加山は思った。

 迅という男にとって、この世界にあるあらゆるものが盤上の駒だろう。

 

 自身が制御し、望む方向へ向かわせるための駒。

 

 敵意を持とうが何だろうが。

 あの男にとっては、駒の性質の一つでしかない。

 

「....ありがとう、ございました」

 

 処分なしの伝達を受け。

 ただ加山は頭を下げた。

 

 ──掌の上で踊らされた帰結だとしても。

 ──自分は今、弓場隊も、周りの人も、裏切らずに済んだ。

 

 それが全て、敵として見ている男のおかげであることも同時に理解してしまって。

 

 どうにも、加山は感情の置き所が解らなくなってしまった。

 

 

「....生きていたか、レギー」

「....」

 

 ガロプラ遠征艦の中。

 レギンデッツは、実に憔悴した状態で艦の中で項垂れていた。

 その左腕には、ぐるぐると巻かれた包帯に固定具がくっついていた。

 

「──いやはや。偶然拾えてよかった。やはりあの黒トリガーは一筋縄ではいかんな」

 

 わはは、と笑いながら──アフトクラトルの軍人であるランバネインはそう言った。

 

 トリオンの大半を消し飛ばされたランバネインは、最早任務の続行は不可能と脱出したその先──生身の姿のまま意識を失っていたレギンデッツを見かけ、そのまま拾って脱出したという経緯がある。

 レギンデッツはトリガー同士の戦いの余波で左腕が折れ、激痛と共に失神。そのままうつ伏せのまま倒れ伏していたのだという。

 

「俺も失敗し、お前たちも失敗した。上手くいかないものだな、本当に」

「....」

 

 この作戦。

 こちら側の狙いが全て読まれていた。

 

 こちらの狙いが遠征艦の破壊であることも。

 外の陽動の動きまで。

 

 ガトリンは目頭を押さえ、一つ息を吐いた。

 

「──何処からか情報が洩れているのかもしれないな」

「とはいえ、どうするの? もう戦力も大きく削れてしまっている訳だけど」

「.....少し考える」

 

 アフトクラトルの新型トリオン兵を投じてまで決行したこの作戦。

 結局の所──いたずらに兵力を削っただけで終わってしまった。

 

 それでもまだ、玄界の軌道から外れるまで時間はある。

 

「そうだな。──重々考えておいたほうがよいだろうな。俺はともかく、兄者は恐ろしい男だからな」

 

 ガハハと笑って。

 そんな事をランバネインは言っていた。

 

 

 

 

 ガロプラ騒動の後。

 加山は以前の調子を取り戻していた。

 

 あれだけ苦しんでいた人格障害の影響も消え、元の日常を送ることが出来ている。

 

 そうして。

 

「次の相手が決まった」

 

 ランク戦、ラウンド6。

 

「影浦隊、生駒隊、那須隊の四つ巴戦だ」

 

 弓場拓磨が、次なる対戦相手を告げる。

 

 へ、と加山が声を上げる。

 

「え。那須隊上位に入ったんですか?」

「おう。前回のラウンドで独り勝ちして一挙六得点で上位入りだ。──熊谷のメテオラ戦法がようやく板についてきて、その上で日浦の動きがちょい特殊になってきた。あとで記録見て確認しとけ」

「了解っす。──いやー。正直言ってくっそ意外でしたね」

 那須隊は、隊長の那須を中心として非常に纏まりを持った部隊だ。

 攻撃手、射手、狙撃手と遠中近のバランスが取れている。が、得点力の中心である那須が指揮も担っているという部隊の構成上、隊長の那須に非常に負荷がかかる状況が続いていた。

 ここにきて上位になったという事は。その部分に何かしらの解決が図れたのだろうか。

 

「.....何気に、影浦隊と当たるの始めてなんですよね」

「ですねぇ」

 外岡の声に、加山も頷く。

 

「真面目に初対戦ってのが嫌ですね、影浦隊。動きも狙いも読めないのに、影浦隊長っていう特大の爆弾がある」

 

 影浦隊はおよそその動きに戦略性はない。

 序盤の戦術はおおよそ決まっていて、銃手の北添の爆撃で敵を炙り出しての影浦の単騎特攻。

 

 大雑把にも程がある部隊戦術である。

 自らの位置を隠す気もなくただただ得点を奪いに来る影浦は、普通ならば狙撃手のいい餌だろう。

 

 されど。

 影浦には狙撃は、まずもって効かない。

 

 彼の副作用──『感情受信体質』によって。

 彼は自身に向けられる感情を、皮膚に突き刺す感覚として発生し、その位置まで読んでくるのだという。

 下手に狙撃を行うと、避けられた挙句にその狙撃手が狩られるという悪循環に陥る。

 

 

「実際──外岡先輩は、影浦隊長に一撃でも狙撃当てれたことがありますか?」

「ないね。アレは無理」

「無理すか.....。ちなみにB級の狙撃手であの人を当てた人って誰かいます?」

「覚えている限りでは、東隊長だけだね」

「何なのあの人...」

 

 本当に何なのだろうあの人。

 そろそろ同じ人間としてカテゴライズしてもいいのか真面目に考えなければいけない気がしてきた。

 

「まあ。──こちらとしても、特大の隠し玉が出来たわけだ。影浦隊にも引けを取らねぇ。──なぁ、加山」

「うす」

「それで。──もうトリガー構成は固まったのか?」

「固まりましたね。こんな感じですね」

 

 加山は、苦心しつつようやく固まったトリガー構成を見せる。

 

「メインがアステロイド拳銃、ハウンド、エスクード、ダミービーコン。サブがメテオラ、ハウンド、シールド、バッグワーム。色々悩みましたけど、こうなりました」

 

 加山は──現在、エネドラの記憶と経験を同一化させている。

 エネドラが積み上げてきた経験を、真の意味で取り込めた状態にある。

 

 その為、出来ることが単純に増え、トリガー構成を変える事を決断した。

 

「高速で合成弾作れる強みを手に入れたんで、そこも活かしつつ。いつもの通り攪乱をやりつつ、けどこっちも戦闘に参加できるように....と色々考えていたらこんな感じになりましたね」

 

 拳銃は、弓場と同じリボルバー型の威力弾速重視のもの。

 これで攻撃手に対しての対抗手段を持ちつつ、ハウンド二枚とメテオラを入れ合成弾も作りつつエスクードとダミービーコンで従来の攪乱の役割もこなす。

 

「次回からは、俺も積極的に攻撃に参加します。前回迷惑をかけた分、どうにか取り返します」

 

 現在。

 加山もまた──十二分にエースを張れるだけの実力を手に入れた。

 

「──実際に攻撃手相手と戦うってんなら、個人ランク戦で経験積んどけ。影浦は強いぞ」

「了解っす」

 

 弓場のありがたい忠告を素直に聞き入れ。

 早速加山は個人ランク戦ブースに向かった。

 

 

 何と言うか。

 あまりにも現金に映るかもしれない。

 

 エネドラの記憶を引き継いで。

 前線で堂々と戦える力を持ったから個人ランク戦に向かう、というのは。

 

 ──現在。エネドラの記憶と経験、そしてその感覚までも加山の中に渦巻いている。

 

 エネドラの──戦闘が大好きである感覚もまた、自らの中に根付いている。

 かつて戦う事そのものが嫌いでゲロを吐いていた男が。

 別の記憶を取り入れたとたんにこれだ。

 笑えてくる。

 

 しかしまあ。

 そういう部分も含めて受け入れると覚悟したからこその現状である。

 積極的な戦いを望む内心とどうにか折り合いをつけるべく。加山は時間があれば弓場と訓練室で戦いを重ね、そして──現在は個人ランク戦を時間があれば行っている。

 

 受け入れるしかない。

 

「さあて。誰かいるかな~?」

 

 周囲を見渡す。

 

 正面を見て~

 左右を見て~

 

 背後を見て.....

 

 

 

「やあ」

「うおあああああ!!」

 

 背後を振り返ると。

 もふもふとした白髪の少年がいた。

 

「びっくりしたわ!」

 その正体は──玉狛第二の空閑遊真であった。

「それは失礼、カヤマ。そして──別の人もいる」

「よぉ」

「....あ? なんだこのガキ」

 

「村上先輩に....影浦隊長ですか」

 

 同期の村上先輩に、次の対戦相手の影浦隊長も、その背後にいた。

 

「記録見てないのか、カゲ。弓場隊の新人だぞ」

「ああ? 弓場隊、新人入ったのか? .....何か見覚えある気がするな....?」

 

 ああ。

 そういえば大規模侵攻の時に、最後に共闘した記憶がぼんやりある。

 

「それで....トップランカーとポイント詐欺師二人が何しにこちらに?」

「誰がポイント詐欺師だとコラ」

「どうどう」

 

 だって.....片や新人からトップランカーとバチバチにやり合える化物と、一万ポイント没収という離れ業でランキングを転がり落ちた二人がそこにいる。

「4000ポイント台の人かー。手合わせには丁度いいかもなー」なんて軽い気持ちで挑んできた連中がどれほどの涙を流したのか。想像に難くない。

 

「そりゃ個人ランク戦してたわけだが。お前もそうだろ」

「うっす。隊長命令で。──攻撃手相手の経験積んで来いって」

 

 へぇ、と。

 

 三人が頷く。

 

「とはいえ。おれもかげうら先輩も、当たる可能性が高いからな。あんまり戦いたくないだろう?」

「ケ。こんなガキ、頼まれたって戦うのは御免だぜ。時間の無駄だ」

 

「──なら。俺とやるか?」

 

 村上が、そう声をかけた。

 

「いいんですか?」

「ああ。──だが。俺も今は中位だが、次に絶対上がる。その時に後悔しないというならば、やるといい」

 

 成程、と加山は呟く。

 いいなぁ。

 

 こういう挑発に、心が熱くなる感覚。

 今まで持ち合わせていなかった、こういう諸々が、何だか心地いい。

 

「十本でいいですか?」

「ああ」

 

 という訳で。

 

 急遽──村上鋼との個人ランク戦を行う事となった。




加山雄吾 パラメーター変化
トリオン10
攻撃7→8
援護・防御10
射程4
機動5→7
技術7→8
指揮5
特殊戦術8→9

total 56→61
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