彼方のボーダーライン   作:丸米

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血濡れの王冠を沈めよ①

 二宮隊が、あの試合の後に振り返った内容として、

 

 ・雨取千佳は鳩原未来と異なり、根本的な生理的嫌悪感とは別の部分で撃てない理由がある。

 ・その理由の詳細は知り様がない。ただ、今のところ戦況が追い込まれる事で撃てなくなるのだと分析。

 ・ただ、一度撃てた事実から克服している可能性もある。その確認作業をまずもって行う必要がある。

 

 つまり。

 次の試合──二宮隊は確認をしてくれるという事だ。

 

 雨取千佳が人を撃てるようになったのか──という部分を。

 

「──観戦は必須だな」

 

 雨取千佳が人を撃てるのか。

 それとも撃てないのか。

 

 どちらにしても弓場隊としてはそれを利用するまでだ。

 

 玉狛と二宮隊....後に玉狛にヒュースまで追加されるとあらばこの二つが上位入りの壁となる可能性が高い。

 

 本来ならばヒュースが追加された状態の玉狛と二宮隊がぶつかってほしかったのが本音ではあるが。

 それでも──今回の戦いで玉狛の底をある程度知ることが出来るかもしれない。

 

 ──食い潰し合え。

 

「遠征に行くのは、弓場隊だ」

 

 加山はポツリ呟く。

 

 このまま二宮隊が玉狛を叩き潰すならば。

 ヒュースが追加されたとしても挽回不可能なほどの点差をこちらが取っておく。

 

 玉狛が二宮隊を叩くならば。

 こちらも二宮隊を引きずり降ろす準備を行う。

 

 ──出来るか? 

 

 随分と強くなりはしたが。

 それでも自分はヒュースに及ぶことが出来るか? 

 

 技量的にはヒュースに引けは取らない自信はある。

 しかし、奴は角で強化されたトリオンがある。恐らくは二宮以上の数値になっているはずだ。

 

「いや」

 

 違う。

 ──俺の戦い方は、そういう所にあるんじゃない。

 

 個人の技量で戦おうとするな。

 あくまで加山雄吾の戦い方を遵守しろ。

 自己の強さと他者を比較せんとする思考の流れを止め、──加山雄吾は自分に言い聞かせる。

 

 ──エネドラの技術を利用して、それでも加山雄吾としての戦い方を遵守しろ。

 

「別に俺が勝たなくてもいい。──部隊が勝てばいい」

 

 どうするにせよ。

 この二部隊の戦いから──底を見なければならない。

 

 

「やあ、ユーゴー」

 

 ランク戦昼の部が始まるまでの時間、個人戦をしようと立ち寄った個人ランク戦会場内。

 王子一彰がこちらに向け声をかけていた。

 

「うっす王子先輩。久しぶりですね」

「ああ。──こっちはもう中位落ちしてしまった。やれやれだね」

「見ましたよ順位表。那須隊と入れ替わっていましたね」

「まあ、中々この二戦の間点を取るチャンスが無くてね。中位でまた上位を狙って行くよ。──ところで」

「はい?」

「....僕には、君の豹変に関してネタバレはなしかな?」

 

 王子が、何処か悪戯っぽく加山に笑いかけた。

 この笑顔に騙され、何人もの女性隊員がこの男に惹かれては本性を知り波のように引いていくのだ。話してやりたいのは山々だが──。

 

「まあ、後々の楽しみという事で」

「ああ解った。──それじゃあ、ユーゴー」

「はい?」

「僕と個人戦をするくらいは許してくれるかな?」

「まあ。それ位なら喜んで...」

 

 ありがとう、と王子は呟いて。

 加山と共にブースに入っていった。

 

 

 その後。

 

 

「うーん。やっぱり強くなっているね」

 

 加山と王子の個人戦は、9本を加山が取り勝利する事となった。

 

「君が向上した能力は幾つかあるけど。その中でも顕著なのが、トリオンコントロール能力と身のこなしの二点かな。どうやったのかは想像すらつかないけど。──本当に強くなったね。個人戦では、あんまり勝ち筋が見えない」

「ありがとうございます」

「──本当に、勿体ないな。二宮隊、影浦隊、玉狛第二、そして弓場隊。このうち二つは二位以内から脱落してしまう。本来なら、四隊ともA級レベルであろうに」

「.....こう言っちゃなんですけど。その並びに俺達と玉狛が入っているんですね」

「ん? ──当り前じゃないか。玉狛はあの近界民が入る上に、アマトリチャーナがいよいよ撃てるようになったんだ。そして君たちは弓場さんというベテランのエースに、君までもいる。A級でも上位を狙えるだけの部隊に成長を遂げたのは、間違いない」

「....」

 

 あの一戦を見て。

 王子は──雨取千佳が「もう撃てる」と確信をしている。

 

「....もう撃てる、と王子先輩は思っているんですね」

「一度自分の意思で引金に指をかけられたなら、後は早い。それも追い詰められて──恐らくはオッサムの指示も撤退一択だったはずのあの状況下で撃てた、という事実が非常に強い。どうであれアマトリチャーナは、自分の意思で撃てたんだ。次も撃てるさ」

「....」

「”中位に落ちたくはない”という意思が”撃ちたくない”よりも勝ったんだ。”上に行きたい”が勝つのも時間の問題だ」

 

 王子は、聡い。

 合理的に、冷静に、何処か自然体で物事を見ている。

 

「次の試合を見れば解るさ。──どうだい? 一緒に見に行かないか?」

 

 

「──どうもこんにちは。ランク戦昼の部。実況を担当いたしますB級荒船隊、加賀美です」

 

 そうして。

 ──時間となった。

 

「解説はこの二人。鈴鳴第一の来馬隊長と、生駒隊の隠岐君です」

「よ、よろしくお願いします~」

「よろしゅう頼みますわ~」

 

 実況の加賀美に促され、解説の二人が挨拶を行う。何処か弱弱しい声と、瓢げた軽い声が実況ブースに響き渡った。

 

 

「....いよいよだね。そうだ、ユーゴー」

「何すか?」

 

 一方。

 観覧席後方に座る王子と加山は、実況の声を聞きながら会話をしていた。

 

「どこの部隊が勝つと思う? 二宮隊、香取隊、玉狛第二。──ちなみに僕は二宮隊だね」

「雨取さんが撃てたとしても?」

「ああ。撃てたとしても、だ。──あの怪物じみたトリオンは確かに脅威だけど。それでも捌き切れるだけの技量が二宮隊にはある。多分二宮隊も”撃てるようになっているかもしれない”とは思っているだろうから。前回ほど大胆には動かないだろうしね」

「成程....」

 

 あのインチキトリオンを最大限に生かす方法として。

 

 考えられるのは四つ。

 

 アイビスによる”砲撃”

 ライトニングによる”速射”

 射手トリガーによる”飽和攻撃”

 エスクードによる”地形変動”

 

 この四つに対して──二宮隊は正答を用意できているのか。

 

 二宮の強さは、どうしようもないほどの攻防の強固さだ。

 しかし──人を撃てる雨取千佳は、この「防」を崩す方法を備えている。

 

「──俺は、玉狛だと思います」

「へぇ」

「概ね、俺も王子先輩と同意見です。俺が二宮さんだったら、と考えると。割と手はある気がしています」

「ふむん」

「──ただ。それでも予想を超えてくる気がしている」

 

 こればかりは。

 加山も勘でしかない。

 こちらの想定を上回る何かを──きっと玉狛は提示してくるはずだ。

 

 そう信じていた。

 

「なら何か賭けようか。何がいい?」

「そうっすね。──俺、今日肉が食いたい気分です」

「....珍しいね。君は三大欲求が薄い人間だと思っていたよ」

「その辺りも変化が著しいですね。食事が結構楽しい」

 

 なにせ今の自分には──近界のまるで味のしない食事の記憶が同化している。

 こちら側の食事の素晴らしさが身に染みてしまった。

 

「解った。──予想が合った方に焼き肉を奢ろう。これで賭けは成立だ」

「いいですね」

 

 画面に大きくテンカウントが表示される。

 

 試合は、もうじきだ。

 

 

「ランク戦ラウンド6昼の部──」

 

 そして。

 

「開始です!」

 

 各部隊が、転送される。

 

 

 

 玉狛第二が選んだマップは、──市街地C。棚田状の地形が広がる市街地で、高低差が激しいマップだ。

 

 ここはセオリー通りというか。

 この戦場で唯一の狙撃手である雨取千佳を利用する為の選択であろう。

 

 しかし。

 当然これは──雨取千佳が人を撃てる事が前提となる作戦の様に思う。

 

 この選択だけでも──玉狛の本気度が伺えるような気がしていた。

 

 

 

「あ」

 

 

 そして。

 転送が開始され、映し出されたマップ。

 

 そこには──。

 

「──暴風雨!」

 

 吹き荒ぶ風と共に、大粒の雨が吹き荒れる。

 ──暴風雨が辺りを包んでいた。

 

 

 市街地Cと暴風雨の組み合わせ。

 これは──。

 

 

「玉狛は──君の戦い方を選ぶことにしたみたいだね」

 

 ランク戦、ラウンド2。

 加山がかつて、中位戦で行った戦術の一つ。

 急勾配の地形である市街地Cに暴風雨を降らし、上層から下層に向けて水を流す。

 

「ほら」

 

 加山雄吾は。

 エスクードとダミービーコンで自身の位置をかく乱しながら、水道管にメテオラを設置し濁流を引き起こした。

 

 雨取千佳は──。

 

 

 カメラが切り替わり、雨取千佳がアップされる。

 彼女はどうやら高所に転送されたようだ。暴雨風にバッグワームをたなびかせて、東側の狙撃地点まで動き出す。

 

 そして。

 

 ──彼女は、誰もいない地点へ、アイビスの銃身を向けていた。

 

 

 雨取千佳には、

 これがある。

 

「雨取隊員、東地区の住宅の上から──」

 

 引金が引かれ。

 

 レーザーの放射のような、慮外の砲撃が轟音と共に放たれる。

 

「上層の道路に向けて、アイビスを撃ち──!」

 

 放たれた砲撃は、誰に当たることも無く。

 ただ──地下に潜む、雨水を下水道に流す役割を持つ、雨水管に突き刺さる。

 

 その瞬間。

 

 上層の保水機能は破壊され尽くし──下層に向けて濁流が発生する。

 

 

「──やりやがったな」

 

 加山は。

 ポツリ、そう呟いていた。

 

 

 その後。

 雨取千佳は。

 砲撃でもって中央の道路に風穴を空け地盤を崩し。

 ハウンドで濁流下にある建造物を破砕し。

 

 ──下層と上層にある道を、いとも容易く分断した。

 

 

 

 転送位置を見る。

 

 

 上層には千佳、修、犬飼、若村

 下層には二宮、辻、空閑、香取、三浦。

 

 

 千佳の動きに連動して。

 修もまた千佳に至る経路をスパイダーで虱潰しに塞ぎながら、合流に向かう。

 

 

 

 ──────────────────────―

 

 

 

「さあて」

 

 襲い来る濁流を下層から眺めつつ。

 空閑遊真は笑った。

 

「これで、にのみや先輩とつじ先輩の二人と──いぬかい先輩が分断された」

 

 

 三雲修は。

 二宮隊の研究に明け暮れていた。

 

 攻防ともに隙のない彼等に対して──ヒュース抜きで、攻略の糸口を掴めぬものか、と。

 

 

 その果てに。

 攻略方法は──弓場隊との一戦にあるものだと、結論付けた。

 

 

「あの時加山がやったみたいに──まずはいぬかい先輩を倒す」

 

 一つ笑んで。

 空閑遊真は──上層へと向かって行った。

 

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