彼方のボーダーライン   作:丸米

111 / 166
デンドロビウム千佳ちゃん(仮)

トリオン  38
攻撃    2→16    
防御・援護 5
機動 3
技術 6
射程 8
指揮 1
特殊戦術 1→3
トータル 64→80

追記

メイン:アイビス ハウンド ライトニング エスクード
サブ :バッグワーム アステロイド シールド メテオラ





魔王

「.....」

 

 最早。

 言葉もなかった。

 

「王子先輩?」

「うん?」

「どうします? あれ.....」

「どうしようかな.....」

 

 共に、半笑いでその光景を眺めていた。

 

「....二宮さんとアマトリチャーナとの距離は、およそ四十メートル程。クーガーがあそこに二宮さんを呼び寄せた、って事はあの距離がフルアタックを行使できる限界距離なんだろうね」

 

 四十メートル。

 つまり。

 

 ──雨取千佳より四十メートル以内で孤立している駒は、例外なくあのフルアタックが襲い掛かってくるわけだ。事実上、四十メートル圏内の開けた場所で一人残されれば死亡が決定する事と同義だ。

 

 あのフルアタックの何が厄介かと言えば。

 雨取千佳は真っ先に仕留めにかからなければならない駒でもある事。

 

 アイビスとエスクードによる地形破壊。メテオラによる広域爆撃。ライトニングによる超高速のスナイピング。

 

 放置すればトリオンの飽和攻撃によって雑に点が取られる。

 

 しかし下手に近付けば必殺のフルアタックが襲い掛かってくる。

 

 放置しても近づけど、あまりにも巨大な脅威となる。

 文字通り──雨取千佳は砲台と化した。

 爆撃と鉄雨を振りまく──戦術兵器に。

 

 

「──手は、無いことは無いけどね。二宮さんとスミ君くらいレベルの高い連携を常に行使出来れば爆撃を防ぐ事は出来る」

「無茶言うな」

「でも、それもスミ君が仕留められて一気に手詰まりになった感じだ。──アレに加えて、近界民の追加メンバーが入る訳だ」

「....」

 

 そうだ。

 アレに加えて、玉狛はヒュースという隠し弾も同時に持つ事となるのだ。

 

 空閑・ヒュースというエース級の駒が二枚。

 そして──雨取千佳という広域破壊兵器。

 

 割と相手にするには絶望的な戦力な気がする。

 恐らくA級でも上位につける戦力だとも思う。

 

「──考えなければならないことがどうしようもなく増えていくな....」

 

 はぁ、と。

 一つ溜息を吐いた。

 

「なら。今日の所は僕の負けだね。約束通り、焼き肉を奢ろうじゃないか」

「うっす」

「──まあ、お互い夜の部で勝ち切って美味しい夕ご飯にしようじゃないか」

 

 

「──ヤバいよヤバいよ。雨取ちゃんマジでヤバいよなにあれ?」

「....」

 

 影浦隊作戦室内。

 

 加山や王子と同じく──昼の部の観戦を行っていた北添が、その所感を述べていた。

 

 ずっと雨取ちゃんやばい、しか言っていないが。

 

「....二宮さんを倒しちゃったよ」

「ゾエ」

 

 北添の背後から──影浦隊オペレーター仁礼光が近づき。

 ポン、とその肩を叩く。

 

「お前の個性、消えちまったな!」

「え。酷くない?」

 

 ガハハと笑いながらボンボン肩を叩き、遂には背中にまでバシバシ叩き出す。

 

「....」

 

 その様を見つつ。

 絵馬ユズルもまた、観戦時に目に焼き付けた光景を思い出していた。

 

 思い出すのは....必死ながらも、辛さが滲み出た表情で狙撃爆撃を行う雨取千佳の姿。

 

「....」

 

 同じ狙撃手で、時折その姿を訓練で見かけていた。

 彼女はC級の出穂と仲が良く、そして出穂経由でA級の当真と話している様子も何度か見かけた。

 

 しかし。

 軽く挨拶をする事はあれど──あまり話したことは無い。

 

「....」

 

 絵馬ユズル。

 彼はとても純情であった。

 

 そして。

 

「....」

 

 影浦もまた。

 ソファの背もたれに全身を預けながら。

 端末で、記録を見ていた。

 

「....あぁ? 何だコイツ?」

 

 見ていたのは、弓場隊の記録。

 以前個人ランク戦で見かけ、興味が湧き──気まぐれに見ていた。

 

 そこに映る、弓場隊隊員加山雄吾は。

 

 ラウンド4の終盤からラウンド5にかけて──急激に動きが変わっていた。

 そこまでは、立ち回りの上手さと戦術の特異性が目立ち、特段に戦闘での強さがあるようには思えなかったが。

 

 ──その後からは、明らかに動きが変わった。

 

 トリオン体を入れ替えた別人だと言われても信じられる程に。

 

「....」

 

 色々と怪しいが、別段影浦は気にしてはいなかった。

 どうでもいい。

 

 ──腕が立つというなら、こっちで戦りあえばいいだけだ。

 

 

「弓場隊。ヤバいな」

 

 所変わって。

 生駒隊作戦室。

 

「え? ヤバない? マジでヤバない? 弓場ちゃん、ワープしとるんやけど」

「ワープしてますね」

「マジで? あんなんやられたら旋空避けられるやん。どないすればええねん」

「どないすればいいんでしょうね.....」

「く...! 弓場ちゃん、大規模侵攻の時のゴリラに触れて、機動力にも魅せられてしまったのか....!」

「ちゃうやろ」

 

 生駒達人(19)

 変わらぬペースを貫いていた。

 

「俺は....まだまだ強くならなあかん。俺には”宿敵”が出来てしもうたから」

「まだあのゴリラ取り逃がしたの引き摺ってるんですかい? いい加減目ぇ覚ませ」

「そんな....そんな冷たい事言わんといてくれやマリオちゃん。あれから俺....俺....」

「何や?」

「スマ〇ラでドンキーしか使わんようにしとるんや」

「....」

「....ツッコんでや」

「いっぺん本物のゴリラにぶん殴られればええんちゃう?」

 

 

「気を取りなおそか。──今回、那須隊が上がってきてマップもあっちが選択するんで。多分狙撃が通りやすくて那須さんが暴れやすい地形を選んでくると思うんすよね。ここ最近の戦い方の変化とかも見る限り」

「那須さん.....あ、」

「何や。何か気づいたことでもあったんか?」

 

 那須、の言葉を聞き。

 

 のそのそと生駒がソファから立ち上がり、自身の荷物を漁る。

 

「....昼飯食べんの忘れとった」

 

 そう言ってテーブルから取り出したのは。

 プラスチックの容器に乗せられたカレー。

 

 そのルーの中には。

 素揚げされた茄子が乗っかっている。

 

「....」

「いや。俺の好物は当然ナスカレーやからな。試合直前にこれを食べる....なんか勝負飯っぽいな。いい感じや。──痛い」

 

 至極当然の如く。

 オペレーター、細井真織は無言のまま生駒の頭上をシバいた。

 

 

「皆さんこんにちわ~。太刀川隊オペレーターの国近で~す。ランク戦夜の部の実況を担当させてもらいますね~」

 

 そうして。

 様々な爪痕を残したランク戦昼の部終了から時間が過ぎ。

 

 夜の部が始まろうとしていた。

 

「解説は二宮隊の犬飼君と──」

 

 実況の国近は、実ににこやかな顔で

 その名を告げた。

 

「玉狛第二の、雨取千佳ちゃんです~」

 

 ざわ、と。

 観客席から大きなどよめきが響き渡る。

 

 

「いや~ド派手な試合でしたなぁ、犬飼君や」

「ド派手でしたねぇ。いやぁ。雨取さん、よくぞあのおっかない隊長倒したね。ナイスキル」

「あ、はい。ありがとうございます.....」

 

 あたふたとしつつ。解説席にちょこんと座る雨取千佳はどことなく所在なさげだ。

 

 説明しよう。

 何故ここに千佳がいるのか。

 

「いきなり解説頼んじゃってごめんね~。本当はね、ここに私含めて18歳トリオの一角がここに座っているはずだったんだけどね~」

「真木ちゃんに捕まって引き摺られていっちゃった。いきなり頼み込んでごめんね」

「い、いえ....頑張ります....」

 

 色々と人生の相談が必要になった当真勇(18)が解説が出来なくなり、代わりに当真から駆り出されここに呼ばれたという経緯がある。終わり。

 

「さあてさてさて。色々とぶっ飛んだ試合が終わったと思いきや。──またもや色々と注目が集まっているカードだねぇ」

「ね~」

 

 弓場隊、影浦隊、生駒隊、那須隊の四つ巴戦。

 

 那須隊が選んだマップは──。

 

「市街地Bを那須隊は選びましたね~。さて。どのような意図があると思うかね、犬飼君や?」

「う~ん。多分那須さんを中心に据えて戦うための策だと思いますね。市街地B、建物が多いですし」

「ほうほう」

「今回のメンバーの中で、明確に那須さんよりも動ける駒が無いんですよね。障害物を盾にぴょんぴょん跳ねて敵を倒していく那須さんのスタイルに、広くてマップが建物でごちゃついている市街地Bはあっている。浮いた駒も狩りやすいしね。今のところ言えるのはこの程度かな」

「成程~。ただ広くてごちゃついているなら、ゾエ君のメテオラとか、加山君のエスクードなんかも特に刺さりそうだね~」

「だろうね~。多分そこも覚悟の上、って感じなのかもしれないね。エスクードと言えば、雨取ちゃんも使っていたね」

「あ、は、はい」

 突如話題を振られた千佳は、戸惑いながらもなんとか答える。

「実際。市街地でエスクードを使おうとするなら、どういう運用をするかな? 雨取ちゃんなら」

「えっと....」

 

 必死に考える。

 仮に、自分がこのマップで動く事があるなら。

 どう使うのだろうか。

 

「その....エスクードは、自分で好きな風に地形を変えることが出来るのが、一番便利なので」

 

 うんうん、と犬飼は頷く。

 

「だから.....狙撃するときの逃げ場をなくしたり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、そういう風に使うので。今回、とても広いマップなので、それぞれの部隊の通り道を塞いで合流を遅らせる目的で使うと思います」

 

 必死ゆえに。

 ....自身のトリオンを前提とした話をする事となったのである。まる。

 

 しっかりと場を凍らせ、自身の発言にハッと気づきあたふたとして、

 ニコニコと微笑みながら、国近は告げる。

 

「それでは──転送開始まであと僅か。試合を見ていきましょう~」

 

 

「市街地Bですね。──まあ特段こっちが不利になることは無いでしょ」

「大体、お前が入る前はこっちの主戦場だったんだ。何も問題はねェ」

 

 弓場隊作戦室内。

 最後の打ち合わせが行われていた。

 

「初動は同じだ。俺は浮いた攻撃手を、加山は浮いた射手・銃手を。それぞれ各個撃破していく。帯島は俺か加山か、近い方に合流。そして外岡は加山の援護。──今回も変わらねぇ。点を取るぞ」

「了解!」

「恐らくは那須隊も影浦隊も、浮いたところから狩っていく。だったら気にするこたねぇ。襲い掛かってくれば返り討ちにする。──加山」

「うす」

「お前のいう事を信じると──影浦はお前を狙ってくるらしいな」

「そうみたいっすね」

「よし。──なら、影浦は任せた。いいな?」

「了解っす。──任せておいてください」

 

 まだまだ。

 まだまだ点が足りない。

 

 影浦隊も生駒隊も知った事ではない。

 

 こちらはただ貪欲に──点を取りに行くだけだ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。