彼方のボーダーライン 作:丸米
「各部隊、転送完了~」
国近がユルイ感じでそう告げると。
マップに転送データが映される。
「それぞれの転送はこんな感じか~」
最大級の広さを誇る市街地Bのマップ上に、広く分布し転送される。
マップの中央部には、加山、帯島、影浦、熊谷
そこから東の位置には、那須、北添、隠岐
西には、水上、弓場、南沢
北には、生駒、日浦
南には、外岡、絵馬
「どの隊も転送位置ではそんなに有利不利はない感じだね。弓場隊は加山君と帯島ちゃんが、生駒隊は海君と水上君が、那須隊は日浦ちゃんと熊谷ちゃんがそれぞれ近い。影浦隊はそれぞれ真逆の方向にいるけど、あの部隊は別に合流どうこうで弱くなる部隊じゃない」
「....ただ、あの位置だと熊谷先輩が..」
「うん。結構きついね」
加山と帯島は位置が近い事もあり、早速合流に向かっている。
そして、影浦は周囲を動き回り索敵を行っている。
「那須隊は中位で二回連続で勝って上位に進めたのは、日浦ちゃんを基軸にした狙撃戦術の確立が大きかった。──ただ、どうしても加山君とカゲには狙撃が通りにくい。でもあの位置に熊谷ちゃんがいるって事は、どうしても日浦ちゃんは援護せざるを得ない」
加山は警戒心が強く、自在に射線を切れる手段も持ち合わせている駒であり。
影浦は、そもそも狙撃が通らない。
熊谷はどちらかに見つかれば即座に落とされる可能性が高い。加山に見つかればもれなく帯島との連携が叩き込まれる事となり、影浦は元々攻撃手ランキング上位の精鋭で歯が立たない。
「だから、熊谷ちゃんは即座に身を隠しつつ那須ちゃんの所に向かっている。このまま隠れ切れればいいけど──」
中央に向かう那須の動きにつられ。
各隊の狙撃手が中央を包囲するような位置取りに動き始める。
しかし、ある程度の距離を取って。
そして周囲にいる攻撃手、銃手、射手も──動かない。
なぜならば。
何が来るか、彼等は理解しているのだ。
いや。中央に向かっている那須もまた理解している。理解しているが故に、向かっている。
「──来るね」
那須の動きを見守るように背後に潜んでいた、影浦隊銃手北添。
彼の手には──擲弾銃が握られている。
「ゾエの、適当メテオラが」
ばしゅ、ばしゅ、という空気が押し出されるような音と共に。
マップ中央部に、爆撃が降り落ちていく。
※
北添尋。
通称ゾエ。
彼が持つメテオラグレネードによる爆撃は、これによって相手を倒す事や、ダメージを与える事は極めて稀である。
だがグレネードによる間接射撃かつ面攻撃の雨が降り注ぐことによって──その爆撃を防ぐために多くの隊員がバッグワームを解き、その身を晒す必要性を生じさせることが一番の効用と言える。
「──さて。予想通り来ましたな。帯島、シールド頼む」
「了解っす」
爆撃が降り注ぐ中。
合流を果たした加山と帯島は、エスクードで舗装した建物の中に立て籠っていた。
「外岡先輩。このまま東側に上がって下さい。藤丸さんからマーカー来ていると思うので。そっちに移ってこっちの援護を頼みます」
コンクリ製の建物の上階に二人して上がり。
窓ガラスを肘鉄で叩き割っていく。
「──成程ね。爆撃で熊谷先輩の居所が割れた。那須さんはこの爆撃の中合流しに来たわけか」
割った窓枠の背後より、両手にキューブを生み出す。
「爆撃されたら、やり返す。──倍返しっすゾエ先輩」
それらが瞬時に合一化し。
──大空に放たれた。
※
加山が放ったそれは、ハウンドとメテオラを組み合わせた合成弾──サラマンダーであった。
その半分が、北添が爆撃を放っている地点へ向かい。
もう半分が、那須と熊谷の合流地点へと向かう。
「──おーい、ヒカリちゃん。ゾエさんの所に何か恐ろしい弾が来ていない?」
北添は上空に向かっているトリオンの軌跡を見つつ、そう呟く。
影浦隊オペレーター、仁礼光は──そうだよ、と返す。
「おう、加山の合成弾だ」
「え? 普通にやばくね? ──ゾエさん、逃げます!」
「逃げてもいいし死んでもいいけどちゃんと爆撃は撃てよ~。死ぬなら粘って死ね」
「ゾエさんの扱い酷くない?」
こちらに向かい曲がりくる弾丸を見て、北添は走り出す。
「ひええええ!」
言動とは裏腹に、──北添は加山の豹変を解説席から見ている。高速で合成弾を作った瞬間も、しっかり記憶に刻まれている。
想定はしていた。
北添はすぐさま建物の裏手側にまわり、擲弾銃から突撃銃に装備を切り替える。弾丸で予め壁を破壊し脱出路を確保し──シールドと建物の壁で爆撃をやり過ごす。
爆撃が止むと同時、また北添はトリガーを切り替え空中に向かいて撃つ。
「うわ。やっぱり早い」
爆撃が止むと同時に、また新たな合成弾が放たれる。
その速度は本当に凄まじい。爆撃が終わって恐らく数秒もたっていない。
また爆撃を防ぐべく用意した脱出路から次なる防御地点へと向かおうとして。
その合成弾の動きに──以前に見た二宮隊の記録を思い出す。
あの弾の動きに、既視感があった。
「あ」
北添は脱出路を渡るのではなく。
その場に留まり、フルガードで身を守る事を選択。
その合成弾は。
──建物の隙間を縫うような特殊な軌道で北添の周囲を取り囲み、殺到する。
「サラマンダーに見せかけての、ホーネット。──二宮さんがこの前やっていたやつだね」
という事は。
あの合成弾は自分を別の経路に導き、仕留めんとする為に放たれたものだろう。
「ヒカリちゃん。今のホーネットの弾道計測お願いしていい?」
「しゃーねーなー。全く。お前らはアタシがいねーと何も出来ないんだから...」
弾道からして。
この脱出路を渡った先に──何らかの罠があると考えるべきだ。
「よっと」
攻撃手の待ち伏せか、狙撃手の伏兵の二つの可能性を思い浮かべ。
北添は瞬時に狙撃手だろうな、と結論を下す。
初手の爆撃であちこちに射線が空いた状態で、狙撃が非常にやりやすい環境になっている。
その為。
北添はその場より動かず──射線から逆算した位置への爆撃に切り替え、狙撃手の炙り出しを行う事とした。
※
「よし。──これで暫くはあの鬱陶しい爆撃は来ない」
加山は一つ息を吐く。
「──ゾエ先輩。爆撃場所を変えたッスね」
「そ。爆撃で射線を空けて、ホーネットで追い込みかけるような軌道で仕掛けたら、当然狙撃手を警戒するっしょ? ゾエさんあれでクッソ警戒能力高いし。気づいてくれるものと信じてた」
北添は、影浦周辺の地点に向かって爆撃を放っていた。
これは影浦が狩りやすいように隠れている駒を暴くと同時に、爆撃で場を乱す事を目的としていた。
その目的を切り替える。
爆撃を行使している自分を狙っているかもしれない狙撃手を迎撃する、という目的に。
「今回、どの隊も狙撃手を抱えているのよ。そして影浦隊はその中で絵馬っていうとびっきり優秀な狙撃手を抱えているくせに、エースが狙撃が効かない。他部隊の狙撃手が生きていれば生きているほど、俺達が不利になっていく」
このランク戦における狙撃手の思考として、
”影浦隊からは点を取れないから、他部隊の排除を最優先しよう”
となっているはずだ。
他部隊が影浦隊を避ける分、避けた分のリソースがこちらに向かってくる。
この図式がある限り、大きな動きが中々出来ない。こちらの行動の制限にもつながってくる。
「だから。ゾエさんの爆撃っていうカードで狙撃手が潜んでそうな場所を順繰りに暴いてもらう。そうすると──ほら」
加山が指差す先。
そこには──グラスホッパーで空中から地上へ降り立った、生駒隊狙撃手隠岐の姿が見えた。
「──藤丸先輩、マーキング頼みます。外岡先輩。隠岐先輩について下さい。ゾエさん狙いになったら遠慮なく撃っちゃえ」
よしよし。
これで一人居場所を割れた。
「さ、帯島」
「ッス」
「気張れよ。──これから影浦パイセンが来るからな」
そう加山が言うと。
帯島は一つ頷いた。
「──訓練通りにやれば多分大丈夫だ。まあ、しっかり頑張ろうぜ」
※
爆撃を仕掛けてきたら、加山の合成弾で撃ち返す。
この作戦は、弓場隊で最初に決めた方針であった。
爆撃が続いて外岡の居所が割れてしまうと、狙撃手が四人いるランク戦の中一気に不利になってしまう。
その為爆撃の方向をこちら側でコントロールする手段として、爆撃の仕返しを行う。
しかしこの作戦を行えば──加山を積極的に狙ってくるであろう影浦をむざむざ呼び込んでしまう事になる。
「──影浦先輩は”感情受信体質”っていう副作用を持っているんですよね」
「ああ」
加山の疑問に、弓場は一つ頷く。
「それって、発動の条件はどういう感じなんでしょうね。視界の中に影浦先輩を収めて、影浦先輩に対して何らかの感情発信を行う。これで発動ですかね?」
「だな。俺で言えば、奴を視界に捉えて、さあ撃つぞって意識した瞬間に。奴はその撃つぞ、って感情を捉えるんだよ。”どこに撃ってくるか”まで含めてな。厄介極まりない」
「成程。──つまり、視界にさえ収めてなければ、発動しない訳ですね」
ああ、と弓場は頷く。
「なら──俺のトリガーの中で有用になるのは、ハウンドとエスクードですね」
エスクードは、影浦を視界に映すことなく発動できる。ハウンドも同様だ。トリオン反応に追うように設定し放てば影浦を視界に収める必要は無くなる。
「とはいえ。エスクード張って、ハウンド撃って、──って二段構えの攻撃が早々通用する手合いじゃねぇぞ。奴は素の戦闘力でも間違いなく上位だ」
「うっす。──だからこそ。俺はむしろあの人の副作用を利用して、勝ちたいんですよね」
ほう、と弓場は呟く。
「例えばなんですけど。俺が実際には撃つ気なんてさらさらないのに影浦先輩に向けて”撃つぞ! ”って思ったとして。影浦先輩には撃つふりして撃たない感情が刺さるだけですぐにバレるんですよね。あの人は思考じゃなくて、感情を読むから」
「そういう事になるわな」
「だったら。──例えば影浦先輩が対象じゃない感情でも、あの人の視界に収まれば刺さるのかな、って。思ったんですよね」
「どういうこった?」
「例えば。めっちゃ不機嫌で、イライラの感情がいっぱいで八つ当たりしたくてしょうがない気分の人がいるとしましょう。その人は別に影浦先輩個人に対して恨みがある訳じゃないですけど、思わず視界に収めてしまった。影浦先輩個人のものではない、その人の内心に発生している対象のない感情も──あの人に刺さるのかな、と」
「.....恐らくは、刺さるんじゃないか」
「俺もそう思います」
あくまで。
影浦が受信しているものは、思考ではなく感情だ。感情が、他者の視線に乗ってあの人の肌を刺すという感覚なのだろう。
思考が関係ないのなら、その感情が影浦由来のものであるかどうかは関係ない。
「なら。大丈夫です。──俺と影浦先輩の相性は、そこまで悪くない」
うん、と一つ加山は頷いて。
「──影浦先輩は、俺が倒しますよ」
加山の頭の中には。
影浦の勝ち筋が──既に出来上がっていた。
※
「よぉ、壁張りチビ。──思う存分、遊ぼうじゃねぇか」
コンクリのテナントの中。
壁を斬り裂き影浦が入ってきた。
「それじゃあ──打合せ通りにな。帯島。頼むぜ」
「....了解!」
大きく開かれたテナントの室内。
そのエスクードの背後に忍びつつ。
加山は呟く。
「メテオラ」
その呟きと共に。
影浦が入ってきた左右の置き弾が、けたたましい爆音と共に、爆ぜた。