彼方のボーダーライン 作:丸米
「おおー。派手に爆発が起きとるなー」
「いやいやイコさん。そんな能天気にしている場合じゃないっすよ」
「何や隠岐。今の爆発でお前のイケメンな顔が潰れてしもうたんか?」
「顔が潰れるくらいどうだっていいんですけど。──今の爆撃で多分、俺の位置が割れましたわ」
一方、生駒隊。
水上と海の位置が近くすんなりと合流できた二人は、北添の地点に近い隠岐と合流を図るべく移動を行っていた。
隠岐はバッグワームを装着したまま合流路を辿り、周囲の索敵を行いつつ狙撃を敢行するつもりであった。
移動し始めたタイミングとしては、北添の爆撃が開始されたと同時。
爆撃によって周囲の意識が爆撃地点に向かう隙に、移動する魂胆であった。
──が。
爆撃が開始すると同時、加山による合成弾の二段攻撃が行使された事で、北添の爆撃地点に変化が生じる。
その余波として──各狙撃地点が爆撃される事なり、隠岐の居所も割れてしまう事となる。
「──このままゾエさん狙撃したらこっちも吹き飛びますわ」
「そりゃ一大事や。隠岐のイケメン顔が吹っ飛んだらこっちの特徴なんか何もなくなってしまう」
「なんでやねん」
「アカンで、隠岐。お前はあの砲撃ゴリラの爆撃で死んで、今度はゾエの爆撃で死ぬんか? ──何やお前二連続ゴリラに吹き飛ばされることになるやん。おもしろ」
「死んでもらいたいのかそうじゃないのかはっきりしてくださいよ──げ」
グラスホッパーで爆撃から逃れている中。
着地時の一瞬の硬直時間を狙われ──心臓部に、一撃叩き込まれる。
「あー、しくった。さいなら~」
爆撃路を迂回し隠岐の動きを追っていた弓場隊狙撃手の外岡により、隠岐が撃破される。
弓場隊に一点が加算され、──これで生駒隊に外岡の居所が露見される事となる。
「イコさん。今の場所から東側に迂回。そのまま外岡沈めましょ」
「東に迂回。外岡沈める。了解」
「外岡の逃げ道に弓場さんが襲撃することもあり得るんで、そっちも注意してな」
「弓場ちゃんの襲撃、注意。了解」
このタイミングで隠岐を撃った、という事は。
その後の襲撃から逃げ切れる算段が外岡にあるという事だ。
その可能性として考えられるのは加山の合成弾による援護か、弓場との合流の二択。
現在加山はマップ中央部で交戦を行っているとの細井から報告が上がっている。
故に──考えられるのは弓場と外岡の合流であろう。
東に迂回する生駒の視界に、外岡が映る。
弧月を手に、フッと息を吐く。
距離はおよそ三十メートル程。
生駒旋空
有効射程──およそ四十メートル。
長射程の必殺が、踏み込みと共に行使される──直前。
生駒は──視界の外から足音を捉え。
そちらに、視線を送る。
「──よぉ。生駒」
口元を笑みの形に象った弓場拓磨が、既に二丁を握りしめてそこにいた。
銃声が、響く。
※
「──来ると思うてたわ、弓場ちゃん」
踏み込んだ足を基軸に、膝を曲げ上体を後ろに反らす。
側面から放たれた弾丸をシールドと合わせ回避した生駒達人は、反らした上体を、地面に刺した弧月を杖代わりに支えて正常に戻す。
そして。
地面に突き刺した弧月を解除し、フルガードにて急所を中心にシールドを複数に分割し自らの身を守る。
襲い来るは必殺の早撃ちから放たれる、威力十分の弾丸。
こちらの攻撃よりも前に仕掛けられた時点で、並の攻撃手ならばもう詰んでいる。
しかし。
彼は──生駒達人である。
ボーダー攻撃手ランク6位の実力者であり、旋空の名手。
弧月はトリガーを解除したところで、その実体は消えない。ただトリオンがなくなる事で、ブレードの切断力がなくなるだけだ。
よって生駒は弾丸が襲い来る中、地面にささった弧月を上体を曲げ握りグッと前側に力を込めた。
当然、切断力のない物質でしかない弧月はコンクリートの地面を斬る事は出来ず、ただ刀に力が籠められるだけ。
これにて。
──旋空を使用するに必要なタメの時間を終わらせる。
後は。
シールドを解除し
弧月と旋空をセットする。
それだけで──込められた力がそのまま地面を斬り裂き、上方向に振り上げる。
溜めにより行使された斬撃は高速の斬撃として行使され──0.2秒の行使時間の間で、自らの頭上までの振り上げまでを終わらせる。
下から上へと行使されたその斬撃は──旋空を纏い、伸び上がる。
その挙動に斬撃の気配を察知していた弓場は、サイドステップにより回避。
しかし。
この瞬間に──弓場は射撃を止めてしまう事となる。
その隙を逃さず。
下から上へ振り上げた斬撃を、踏み込みと共にそのまま振り下ろしの斬撃へと転化する。
その斬撃は弓場の左肩を大きく斬り裂き。
同時に放たれた弾丸が、生駒の腹部を吹き飛ばす。
「.....やってくれたなァ、生駒」
「.....流石は、ゴリラ討ちの同士や。この程度じゃ仕留められへんか」
生駒達人。
損傷は右肩、左足の腿、及び腹部。共に弾丸を叩き込まれ、大穴が開きトリオンが漏れている。
大ダメージには違いないが──弓場拓磨の急襲から、脱出を果たした。
弓場に視線を置き、再度構えようとした瞬間。
自らの頭部に向かう銃弾を認識し、絞ったシールドにて防ぐ。
「──ち。これでは仕留められねぇか」
弓場の襲撃によって近場の路地裏に隠れていた外岡のイーグレット。
それを当然の如く弾き返し、生駒の視線は弓場から外れることなく正道に構えられている。
「──どちらが真のゴリラ狩りか、決めるんや」
「そんな称号いらねェ」
弓場の手首が返り。
生駒の両腕が振りかぶられ。
──生駒と弓場のタイマンが、開始された。
※
──マップ中央部は、非常に混沌としていた。
「──くまちゃん、大丈夫!」
「な、なんとか....」
合流時に叩き込まれた合成弾を受けた二人は。
二人分のフルガードによりその難を逃れてはいた。
しかし。
爆撃の間身動きが取れなかった間に、一気に状況が動き出した。
加山・帯島と影浦が交戦をはじめ、またそれ以外の人間が中央を包囲するように動いている。
「....どうする、玲?」
「...」
今、彼女らの選択は二つに一つ。
影浦、加山の魔境の如き交戦地域に向かうか。
それとも狙撃手が跋扈し、爆撃が飛び交う外側へ向かうか。
前者を選べば、タイムラグなしに日浦の援護を受けられる。
その代わり、攻撃手上位の影浦と出水と同格のトリオンコントロール能力を持つ加山の二人の相手をする羽目になる。
後者を選べば。
単純に爆撃と狙撃というこちらの認識外の脅威に晒されながらの戦いを余儀なくされる。
「....くまちゃん」
那須玲は。
隊長として、自らの決定を伝えた。
その返答に──熊谷は、強く頷いた。
※
置き弾の爆発と同時、加山と帯島は建造物の外へと飛び出す。
「──今影浦隊長はシールドを張ってる。マンティスの心配はない。思い切り撃て」
「了解ッス!」
加山は外へ着地すると同時、周囲をエスクードで張り巡らせながら──帯島と共に爆炎の中の影浦へハウンドを浴びせていく。
視線誘導ではなくトリオン誘導に切り替え、視界をエスクードで分断しながら。
帯島もまた、同じくエスクードの横側からハウンドを放っている。
「....チッ」
自動追尾するハウンド。そして視界を妨げるエスクード。
これらは──対影浦との攻防において非常に有用なトリガーである。
上から降り落ちるハウンドをシールドで防ぎ。
更に──横側から大きく分割されたハウンドが影浦に襲い掛かる。
──上から来ているのと、横から来ているの。両方で微妙にスピードが違う。
本来であるならば、同時に放って同時に弾丸を到来させた方がダメージが通りやすいであろう。
それでも時間差で弾丸こちらに放っているのは──恐らくは時間稼ぎの為であろう。
シールドで固め、足を止めている間。
着々と加山はエスクードで影浦を囲んでいっている。
少しでも──エスクードを作る時間を稼ぐために、こうしているのだろう。
「──おもしれぇ」
しっかり対策を練っているのだろう。
それでいい。
「──少しは、楽しめそうじゃねぇか」
※
エスクードを乗り越え、影浦が踊り出る。
影浦は右腕からスコーピオンを鞭状に変化させ、引き伸ばす。
引き伸ばしたそれは、二つのスコーピオンを繋げたもの。
影浦が操るそれは──ボーダー内でマンティス、と呼ばれている。
それを、加山に放った。
蛇のようにうねり、障害物を避けながら──加山の喉元へと。
加山は分割シールドをマンティスの前に展開する。
展開されたそれを避けようとマンティスが迂回する──その瞬間。
アステロイド拳銃をその迂回路に向け、放った。
シールドを迂回しようと曲がったマンティスの切っ先。シールドで軌道を限定させられたそれは、銃弾に阻まれ撃ち砕かれる。
加山はマンティスが破砕されたのを確認すると同時。
シールドを解除し、ハウンドをセット。キューブを生成・分割し──その場に留まらせる。
ハウンドの置き弾をそのままに。
加山は拳銃を両手に握り込み影浦の側面へと走りだす。
走り出すと同時に、影浦に向かって放たれるハウンド。
影浦はそれをシールドで防ぐ。
そして。
──当然のように、自身の左半身に突き刺さる、加山の感情。
「甘ぇ」
突き刺さった感情の方向から、加山は銃弾を放っていた。
ハウンドをシールドで押し付け、加山の銃弾はステップによって避ける。
「──成程。こういう感じか」
弓場の言う通り。
影浦に撃つ、という害意。
その害意を影浦は読み取っている。
人間は基本的に①感情を発生させる→②行動するという順番で攻撃を行う。
相手に害をなすために、必要な意思。覚悟。そういうものを纏めて害意とするならば。
攻撃を放つまでの瞬間、害意の存在を抹消することは余程の人間でなければ出来ないだろう。
こいつに攻撃するぞ、という意思そのものが相手に伝わる。
それも、攻撃の方向や自分の肉体のどの部分に視線を向けているかも含めて。
そして。
ならばと撃つ気もないのに視線を向けた所で。
影浦は「撃つ意思のない」感情を受信し、隙とみて襲い来る。
意思を発生させなければ、人は撃つことが出来ないのに。
その意思を読み取り、影浦は攻撃を仕掛けていく。
成程。
これは厄介だ。
──とはいえ。いつまでもエスクードの裏からチクチクハウンドを撃っているだけで倒せる手合いでもない。
だからこそ。
結局の所──加山は影浦を視界に収めつつ、攻撃を通さなければ勝ち筋はない。
影浦は加山の銃弾を避けると同時。
背後を振り返り、ぶんと左腕を横薙ぎに振るう。
「ぐ....!」
加山の攻撃に合わせ背後より急襲をかけた帯島に、マンティスを叩き込む。
帯島は何とか弧月にてそれを弾くが、弾いた際に指を巻き込んだようで、右手の中指と小指が斬り飛ばされていた。
されど。
帯島の身体に隠れたハウンドが──影浦に追撃をかける。
「同じ手は、通用しねぇ!」
影浦は即座にシールドへ切り替えを行い、ハウンドの射出地点に先んじてシールドを張り、弾丸を防ぐ。
加山のハウンドの置き弾からの銃撃。
帯島の斬撃からのハウンドの置き弾。
これら二つをしっかり処理しながら──影浦はぐるり周囲を回る。
影浦の動きに合わせるように、マンティスの刃が左右に斬撃をまき散らす。
地面を斬り裂き、上空より飛来し、死角から突如として現れる。
曲線も直線も関係なく、変幻自在に振り回されるその斬撃は──加山と帯島の両者を、バックステップで背後へと退かせた。
──バケモン。
斬り裂かれた肩口と、脇腹を見つつ加山は心中、そう呟いた。
エスクードからのハウンド。置き弾からの拳銃弾。そして帯島との連携。
それら全て完璧に対処され、人数差で有利を取っているはずのこちらが押されている。
──だが。十分に倒せる材料は揃っている。
加山は一つ深呼吸し。瞼を閉じた。
──ここからが、奥の手の時間だ。