彼方のボーダーライン   作:丸米

115 / 166
ランク戦ROUND6 ④

「.....ここでカゲが倒れるかー。カゲがポイントを取れずに死んじゃうの、割と久しぶりな気がするね」

 犬飼は──影浦が撃破されざわめく会場の中、そう呟いた。

 

「どう? 雨取ちゃん。今の攻防で印象に残っている部分は」

「えっと....那須隊が乱入してきた後の、弓場隊の二人の動きが、とても器用だなって」

「ほうほう~。器用、と来ましたか。その心は?」

「加山先輩と帯島ちゃんは、影浦先輩を押していたと思います。でも那須隊が乱入した事で、影浦先輩をその場で倒す事を諦めて、乱戦を避けるためにすぐに退いた。この辺りに切り替えというか、割り切りの早さと、それを即座に実行できる器用さが、凄いな、って」

 うんうん、と。

 犬飼は千佳の言葉に頷く。

 

「単純に加山君自身が前のラウンドあたりからすんごく強くなっているんだよね。以前からサポーターとして滅茶苦茶強かったんだけど、単騎での戦闘力が飛躍的に上がった。だから、今は立ち回りに余裕がある」

「帯島ちゃんと連携を取っているとはいえ、以前までの加山君なら速攻で影浦隊長から逃げているだろうからね~」

 

 これまでの加山の戦い方は。

 エースと戦う場面においては、必ず弓場との連携を行ったうえで対峙していた。

 

 ROUND1での遊真。ROUND3における村上。ROUND4における二宮。

 共に地形条件を整えた上で、エースである弓場と連携を取ったうえで対峙している。

 

 それは加山自身がエース格の人間と真正面から対峙できる地力がない事をしっかり認識できていたから。

 しかし、この試合においては──北添の爆撃に爆撃で返し、むしろ影浦をおびき寄せる形を取った。

 

「那須隊があそこに乱入するという事は、あの中で得点を取れる算段があったという事で。──転じてそれは、狙撃手の日浦ちゃんと連携が取れる状況だという事でもある。加山君はそれを理解して、那須隊の攻撃対象をカゲに押し付けた形になったわけだ」

 

 加山は自身と帯島をエスクードで分断を行い。

 そして熊谷に攻撃を仕掛け足を止めさせ──影浦に襲撃をかけさせた。

 

 その結果として那須隊は影浦の対処に連携を使わざるを得なくなり。

 加山に連携の手口と、日浦の居所の情報を与える事となり。

 そして──結果的には影浦というこのランク戦における最大の脅威をローコストで排除することに成功した。

 

 その後の展開としても。

 影浦を仕留めた矢先、真っ先に熊谷に襲撃を仕掛けポイントを奪い。

 そして居所が割れた日浦を帯島に狩りに向かわせることも出来た。

 

 そして──この場面で加山が那須を仕留める事さえ出来れば、那須隊をここで完全に仕留めることが出来る。

 

「乱戦になると、被害を相手に押し付けて安全に点を取る立ち回りを徹底する。自分で戦況をコントロールできるだけの実力を手に入れてから、よりエスクードの使い方が悪辣になってきたね~」

 

 笑みを浮かべながら。

 犬飼はそう呟いた。

 

 それは──加山の立ち回りに対する、深い理解と共感からのものであった。

 

 

 ──那須隊は鈴鳴に近い部隊思想をしている、と加山は分析していた。

 

 いい意味でも悪い意味でも、部隊員同士の絆が深い。

 それ故に基本的に合流中心の作戦を立てやすく、窮地に陥っている仲間を放っておけない。

 

 那須は今こう言った。

()()()倒してあげる、と。

 

 この一言からも加山は那須の思考をある程度読んでいた。

 

 日浦を追っている帯島の動きを放置するつもりはないという事。

 だからこそ加山を仕留めるに辺り時間をかけるつもりもないのだという事。

 

 ──なら。那須にとって一番やられたくないのは、時間を稼がれる事。

 

 那須のバイパーが放たれる前に、こちらもハウンドを放つ。

 

 ──結局の所、那須が加山を即時的に仕留められる方法は、一つしかない。

 ──ある程度近距離からのバイパーのフルアタックだ。

 

 距離を取られると威力が落ち、加山のシールドを貫通することが出来ない。

 那須の機動力をもってすれば、加山に近付く事そのものは難しくはない。

 しかし、フルアタックが難しい。

 

「....」

 

 那須はハウンド弾を幾つか避け、そして避けきれない部分をシールドで弾きつつ迎撃のバイパーを撃つ。

 

 加山もまた、迎撃に放たれたバイパーをシールドで防ぎつつ、ハウンドを撃ち返す。

 

 こうなる。

 加山のハウンドを処理する為に、シールドを手放すわけにはいかずフルアタックが行使できない。

 

 この攻防を行いつつ、加山は──日浦がいる位置と真逆の方向へ引いていく。

 退く動きに連動して、那須も無論追う。

 

 そして加山は時折──ハウンドを射出するふりをして、周囲の建造物をメテオラで崩しにかかる。

 

「.....く」

 

 那須は、障害物を盾に機動力でもって相手を追い詰めていくスタイルを取っている。

 射撃戦において、本来邪魔にしかならない障害物は、自在に弾を曲げられる那須にとっては心強い味方となる。自身の機動力でその背後に向かい、敵の攻撃を防ぎつつ自身の攻撃を通すという立ち回りが可能となるから。

 

 だから崩す。

 加山の通り道の中で──那須にとって都合がよさそうな建物を加山は爆撃で消していく。

 

 ──建物も崩されて、その上でトリオン量に差がある相手。本来ならば撤退して好機を狙った方がいい場面だ。

 

 着々と那須にとって不利な条件が整えられていく。

 その不利な状況から逃れ、自身が有利な条件で戦える機会を待った方がいい。

 

 しかし──ここで引く事は、すなわち日浦の死と同義。

 

 那須が撤退したならば、加山もまた日浦を狩りに向かうのだろう。

 合成弾で爆撃を降らせて居場所を炙り出し、帯島に狩らせる。そうなる事が目に見えている。

 

 だから逃げられない。

 不利な条件で戦わざるを得ない。

 

 加山は日浦とは真逆な方向に逃げていっている。

 これを追えば追うほど。

 日浦との距離が開き、より那須が救援に向かう為にかかる時間が長引いていく。

 

 ──那須にとって、貴重な時間が刻々と過ぎ去っていく。

 

「....」

 

 ──判断に迷っているんだろうなぁ。でも結局那須さんは一気にここで仕留めにかかるしかない。

 

 このまま逃げる加山に付き合い時間を過ごせば、日浦を助けられない。

 

 ──ほら。丁度爆破できずにそのまま残っている家屋が二つあるだろう。ここが攻撃を仕掛けるチャンスなんじゃないの? このタイミングで倒しておかないともう帯島に追いつくことは出来ないかもしれないぞ? 

 

 加山は敢えて、ある程度の高さを備えた木造の家屋を二つ残していた。

 

 

 ──来た。

 

 那須がシールドを解除しフルアタックを仕掛けてくる。

 加山から見て、家屋の裏側。

 上を確認し──弾丸は見えない。

 

 となると。

 

 ──家屋の両端から弾を曲げに来ている。

 

 加山がいる位置。

 その左右から弾丸が迫ってくる。

 

 加山は即座にハウンドを解除し、自らの左右にエスクードを発動する。

 

 ──ここから、反撃開始だ。

 

 

 弾丸の半数以上がエスクードにかき消されていく中。

 加山もまたシールドを解除する。

 

 分割したハウンドキューブを身体に纏わせ、拳銃を手にする。

 

「──ハウンド」

 

 加山は上空にハウンドを撃ちあげると同時に、家屋を蹴破り真っすぐに突貫していく。

 

 ここで──距離を詰める。

 

 

 那須は加山が打ち上げ、自身に向かってくるハウンドを一瞥し即座にシールドに切り替え、防ぐ。

 

 那須はエスクードに阻まれ届かなかった自身のバイパーと。

 上から飛んでくるハウンドに意識を向けた。

 

 その一瞬。

 

「──!」

 

 自身の眼前にある壁から。

 

 三連射の弾丸が──自らの身体に叩き込まれる。

 

 一撃で壁を破砕し。

 二撃、三撃を開いた壁から放つ。

 

 三発の弾丸は、共に那須の腹部と心臓部を大きく穿ち──トリオン供給体の破損により、那須は緊急脱出する事となった。

 

 

 ──攻め気を出した瞬間に、直線で那須を仕留める。

 

 これが加山の、那須との戦い方であった。

 

 家屋を挟み、自らと那須が相対する場合。

 

 当然その家屋を盾代わりに那須は加山を仕留めんとフルアタックを仕掛けるであろう。

 

 そうなった際の、那須の選択は二つ。

 

 上と横のバイパーの連携か。

 もしくは両端からのバイパーによる挟撃。

 

 

 家屋は那須にとっての盾でもあるが。

 同時にバイパーの軌道を制限する障害物でもある。

 

 よって。

 家屋を迂回する、という性質が容易に想像できるため──加山のエスクードによる防御が成り立つ。

 

 それ故に。

 加山が家屋をぶち抜いての直線行動が可能となった。

 

 木造の家屋であるならば、トリオン体の身体性能をもってその壁ごと蹴破る事は容易であり。

 アステロイドの弾丸によって壁越しに抜くことも可能であると、加山は認識していた。

 

 加山として見ても。

 勝利条件は那須と肉薄したうえでの、拳銃攻撃かハウンドのフルアタックであると踏んでいた。

 

 よって。

 那須が近寄らざるを得ない状況を設定し、そして自らの条件だけを通した。

 

「さて。──帯島」

「はい」

「那須さんを仕留めた。──日浦の潜伏位置を教えて。爆撃するから」

「了解ッス」

 

 その後。

 那須を仕留めた加山は、家屋の中で合成弾を形作り──帯島経由で藤丸から伝えられたマーキング部分に、爆撃を放つ。

 

 山なりの爆撃で建造物を砕く中、──日浦がバッグワームを解き、トリオン反応をレーダーに浮かび上がらせる。

 

 それに向け加山はハウンドのフルアタックを浴びせ足を止めさせ、帯島にその背後からバッサリと狩らせた。

 

「これで──那須隊は全滅か」

「ッス」

「ほいじゃあ。──隊長と外岡先輩の援護に向かおうかね」

「了解ッス」

 

 そうして。

 加山と帯島は合流し、──生駒隊と影浦隊の残存兵が残るマップの外側の区画へと向かって行った。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。