彼方のボーダーライン 作:丸米
影浦及び那須隊を排除した加山は、周囲をエスクードで囲み、ダミービーコンを設置していく。
今までは、この行為は敵が多くいる中で隠れながら行わなければならず、初動で大きく時間を割く必要が生じていた。
しかし。
現在は初動で敵を排除し、安全に素早く仕掛けることが出来ている。
この手札が増えた事は非常にありがたい。
「──でも。今ここでダミービーコン撒いても、北添先輩からの爆撃で吹き飛ばされませんか?」
「爆撃は絶対にあり得ないぜ帯島。今ゾエさん達は影浦先輩を失っている。しかも現在得点なしだ。そうなると現状否応なしに残されたゾエさん、絵馬で得点を取らざるを得ない訳だろ?」
「.....成程。ダミービーコンを破壊する余裕がない訳ですね」
「そういう事。──ダミービーコンってさ。処理する役割って基本的に貧乏くじなんだよね」
ダミービーコンそのものを処理することはそうそう難しい事ではない。
メテオラで爆撃すれば消え去る。クリアリングしていけば判別も可能だ。でもその役割を担って、位置を晒したり時間を稼ぐ行為そのものが利敵行為となる。
まだ生駒隊が生き残っている状況下。
影浦というエースを失っている北添が、ポイントを取る事に直結しにくいビーコンの妨害をやる訳もない。
「だから。終盤互いに余裕がなくなってきたところで使うのがとてもいい。処理するのを皆嫌がる」
ビーコンで偽の反応を作り出しておいて。
バッグワームで紛れる。
そこから──エスクードで射出地点を隠したうえでトリオン追跡機能を持つハウンドを放つ。
これをするだけで、あらゆるリスクを排除したうえで一方的に相手に攻撃を浴びせられる。
この攻撃を帯島と組んで何度か繰り返す。
「こっちに敵の意識をある程度向けさせたら。隊長の援護に向かおうかね」
敵への牽制。
そして現在交戦中の弓場の援護。
それぞれに役割を持たせた弾丸を飛ばし──加山と帯島は中央地帯より離れていった。
※
弾丸と刃が交差する。
二丁拳銃を一丁に変え、ステップを踏みながら弾丸を放つ弓場拓磨。
弾丸を掻い潜りつつ弓場に肉薄する生駒。
──弓場ちゃんの片手が空いてる。
可能性としては二つ。
シールドか。
テレポーターか。
シールドに関していえば、弧月相手にはほぼ無力と言って差し支えない。多少斬撃が鈍化する可能性はあるが、その程度で躱せるほど甘い斬撃を生駒は振っていない。
ならば──テレポーターであろうか。
弓場のアステロイドの有効射程は25メートル程度。
こちらの旋空は40メートルはある。
それ故に弓場はむしろ相対距離を大いに近づけ、生駒と対峙している。
生駒旋空は放つのに一瞬のタメが必要となる。
そのタメの時間を作らせない為に──弓場は肉薄し弾丸を放つ。
──弓場ちゃんはこっちの旋空が飛んできた瞬間に、テレポーターで避けて仕留めるつもりや。
互いが肉薄しているこの状態。
仮に生駒が弓場に対し生駒旋空を放てるタメを作り、放てたとしても──テレポーターによって生駒の死角側に回り撃破するつもりだろう。
──いや。
──弓場ちゃんの性格上、仮に旋空を放てたら、なんて保険をかけるような思考は好まへんやろ。そんな保険をかけるくらいなら二丁拳銃でガンガン攻めてくる。それよりも──こっちの旋空をジャストタイミングで誘って仕留めにかかる方がらしい。
そのジャストタイミングとは何か。
恐らくは──狙撃の射線が切れるタイミングだろうな、と生駒は推測した。
──今影浦隊のユズル君が生きてる。
テレポーターの弱点は、何よりも移動先を視線で読まれやすい事。
一級の技量を持つ狙撃手なら、テレポーターで移送場所に弾丸を置くことも可能だろう。
絵馬ユズルは、間違いなくそれが出来る駒だ。
──なら。建造物が多くて狙撃がしにくい場所に入り込めば。こちらの生駒旋空を誘う動きをしてくるはずや。
「──隊長。中央地帯が弓場隊に落とされたで。今ダミービーコンめっちゃ撒かれとる。さっさとここを片付けんと加山君と帯島ちゃんこっち来るで」
その報告が入った瞬間。
生駒の脳裏にもう一つの可能性がよぎり。
──その可能性が実現した事を知った。
「──隊長! ビーコン地帯からハウンドが来とる!」
エスクードとダミービーコンにより発射地点と発射タイミングの双方が隠蔽された加山の追尾弾が、生駒目掛けて放たれる。
──足止めたら死ぬ。
ここでハウンドを処理する為に足を止めたら間違いなくハチの巣となる。
だから、ハウンドはシールドで防ぐのではなく、何らかの障害物に当てて避けるのが望ましい。
それ故に。
生駒は──弓場に都合のいい、建物が乱立する地帯に向け走り出す必要が生じてしまった。
「弓場ちゃん.....策士!」
自身がこのタイマンで勝利する可能性が著しく減ったことを認識しつつ、それでも生駒は仕方なく走った。
「あ」
その時。
光線のような弾丸が──その身を貫いた。
「しもた」
それは。
ハウンドにより足を動かされ、当てやすい的となった生駒に対して放たれた──絵馬ユズルのアイビスであった。
光線は、生駒のシールドを撃ち砕きながら腹部を貫く。
腹部から上を吹き飛ばされ、十分なまでのトリオンを漏出させた生駒は──緊急脱出。
「──ナイス加山」
弓場はぼそり呟いた。
※
「──あ」
生駒と同じセリフを。
生駒と全く同じタイミングで──雨取千佳は呟いていた。
「加山君のハウンドで無事狙撃地点に釣りだされたか―」
生駒が狙撃に沈む瞬間を見届けた犬飼もまた、そう呟いた。
「何というか。──弓場隊は今回敵の駒を使って狙撃手の居所を割り出す戦術を使ってくるね。カゲ然り、イコさん然り。どちらも加山君のハウンドで敵を釣りだす事で行っている」
影浦はハウンドで足を止めた熊谷を餌に釣りだし。
ユズルは生駒の足を動かして釣りだした。
「狙撃手は、最初の一発を撃つまでが最大の脅威だからね。その最大の脅威となる一撃を敵に押し付ける。──加山君、元から冷静ではあったけど、余裕も持つようになって視野が広がった感じがするね」
加山と帯島は影浦と。弓場は生駒と。
どちらもB級トップクラスの駒と衝突しながらも──どちらもある程度の余力を残して生き残っている。
「....あの場面。絵馬君は自分の射線が切れる境目の場所に陣取っていました。多分、狙撃の脅威を嫌って直線にそこに入ろうとする人を誘い込むために」
「そ。お互い狙撃を警戒していて、更に片手が空いている状況。シールドで防がれる可能性が高いから、ユズル君としたらアイビスで仕留めたい。そして──弾速の遅いアイビスで確実に仕留める為に、どちらかがあの建物が多くなる地区に入り込むために直線で向かおうとする動きを狙っていた」
ユズルとして最悪の事態は。
自らが放った弾丸が防がれた上に、その防ぐ行為によって敵の撃破をアシストすること。
例えばあの状況下で生駒に撃ってしまい防がれるか回避されるかされてしまうと、弓場はその隙に二丁拳銃で攻めかかり落とされてしまう。
そうなるとユズルは、自分の居所が割れた上に点にもならないという最悪の事態となってしまう。
なので。
どちらかが交戦から離れ、狙撃が入らない地帯に走っていく──そのタイミングを狙いつつ。
どちらかが相手を倒し交戦を終えて孤立する場面で撃とうとしていた。
弓場か加山かがその事に気づき、──絵馬に生駒を撃たせるべくハウンドを放ち、生駒をあの場所に追い込んだ。
「これで、全員分の狙撃手の位置が割れた訳だけど──これからどう戦っていくのかな」
※
「──何とか一ポイント取ったけど。どうしようか?」
「うーん。出来れば弓場隊から点を取りたいけどな―。全員生き残っているし」
「....そういえば、カゲさんどうしているの?」
先程から、序盤に倒され緊急脱出した影浦の声が聞こえない。
「あー。今アイツ、気分が悪いつってちょっと休んでる」
「なに? 体調不良?」
「....まあ、そういう事だ。まあ気にすんな。お前ら二人程度オペんのにカゲのサポートなんざ要らねぇよ」
それよりお前らどうすんだよ、という仁礼光の声が二人に響き。
双方すぐさま戦いに頭を切り替えた。
「今加山君と帯島ちゃんがこっちに来ているね。そっちに海君と水上君が向かっている」
「弓場隊に点がこれ以上はいるのは嫌だな....2対2の状況の時にカゲさん倒したの落とそうか」
「アイツ、これまでの立ち回りで射線に入り込んで戦っているとこ一回もなかったぞ。エスクードで全部カバーして戦っている。狙撃通すのマジでムズイぞ」
「....なら。ゾエさんの爆撃で射線を空けるか、銃撃で追い込めばいい。それなら狙撃が通る」
おお、と北添の声が聞こえる。
「ゾエさん責任重大だぁ。ドキドキ。──いや。普通に戦ったら機動力がある分普通にゾエさん死んじゃうと思うけど」
「追い込めばいいだけだ。それさえ出来れば別にお前が死んでも構わないんだよ。弾幕張って狙撃地点に追い込め」
「あれ? ゾエさんの命軽くない?」
「頑張って死なないようにして。この先オレ一人だと一位まで取るの無理そうだし」
「あれれ~」
大雑把に作戦を決めると。
北添とユズルは特に調子を変えることなく走り出した。
※
「くそう。挟撃仕掛けるつもりが失敗してもうた」
「ああ~。イコさん死んじゃった」
「死んでもうたわ。──く。隠岐も俺も狙撃で死んでもうた。どうせなら腹に手をやってかっこよく死んでしまいたかったわ」
「あんた上半身と下半身バイバイしとったやんけ。無理や無理」
さあて、と水上は呟く。
「こっからやけど。まず加山君と帯島ちゃん分断するで。──多分ユズル辺りが横槍入れてくるやろけど、入れさせてええ。多分連中の狙いはカゲ仕留めた加山君や。ならこっちは帯島ちゃん狙いで行く」
「──了解」
「多分加山君、こっから弓場さんとの合流に向かうやろ。合流が済めばマジで手がつけられん。焦りは禁物やけど、スピード勝負で行くで」
※
「──藤丸先輩。あと試合時間どのくらいあります?」
「あと三十分はあるぞ」
「了解です。──なら焦ることは無いね」
加山はピタリ、と足を止める。
「帯島。ここで足を止めるから、狙撃の警戒よろしく」
「どうしたんですか?」
「ここは待ちの戦術がいい。──こっちは四点を取ってて、更にフルメンバーが揃っているんだ。焦る事は無いさ~」
加山は足を止めると。
周囲の地形を確認する。
住宅街だ。
背の低い住宅地の中に、ポツポツと大きな高層マンションがある。
加山は帯島を連れ、高層マンションの中に入り込む。
「よしよし。──ここから」
加山は高層マンションの周囲をエスクードで塞ぐ。
エスクードの裏手に回りながら──合成弾を作る。
「──影浦隊の手を潰していこうかね」
※
弓場の位置まで真っすぐに向かっていた加山と帯島は。
途中で道を逸れ住宅街に入り、その中の高層マンション内に入っていった。
そして行ったのが──合成弾による、周囲の住宅への爆撃であった。
高層マンション内の余計な障害物を徹底して均し、そしてコントロール可能なエスクードのみを残す。
加山と帯島は二手に分かれ監視を行う。
残る敵のメンバーは、北添とユズル、水上に海。
エスクードで塗り固めた高層マンション内に斬り込めるだけの戦力はなく。
遺された手段は──北添による爆撃であるが。
「....ゾエ! 撃つなよ! 撃ったら多分外岡の狙撃が来るぞ!」
「解っているよ~ヒカリちゃん...」
むしろ──爆撃を誘っていた。
爆撃により北添の位置を割り出し、狩ることが出来れば──もう影浦隊の勝ち筋は無くなる。
その後。
影浦隊、生駒隊は、ならばと合流に向かう弓場隊長を真っ先に仕留める作戦へと変更を加える。
しかし。
外岡と加山の射程範囲をなぞるように動き合流に向かっていた弓場は──襲い来る生駒隊コンビを外岡との連携で海を落とす事で追い払った後に、北添と連携したユズルの狙撃によって仕留められる。
その後ユズルを追跡した水上によってユズルが撃たれ。
北添はマンションから出た加山に追い詰められ緊急脱出。
弓場隊を除き一人残された水上は、そのまま自発的に緊急脱出を行った。
こうして。
弓場隊は──ランク戦ROUND6を生存点含め8ポイントを奪取し、勝利を収めた。
最後駆け足ですみません.....