彼方のボーダーライン   作:丸米

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その心、真っ赤に染まれ

「――で、俺を呼び出してどうしたんすか」

「頼みがある」

「何すか?」

 

加山雄吾は、上層部へのプレゼンを終え、久しぶりの睡眠を満喫し、当然のように中学をサボりボーダー本部で訓練を行っていると――若村麓郎から夕方に呼び出された。

 

「しかも三浦先輩に染井先輩まで-----」

「こんにちわ、加山君」

「こんにちわ。麓郎君がお世話になったみたいね。ありがとうございました」

 

呼び出されたその先には、同じ香取隊の三浦雄太や染井華まで来ていた。

場所は、個人ブース。

加山はじぃ、と――少し不満げに若村を見やる。

 

「渡したランク戦の記録。――まさかこの二人にも見せたんじゃないでしょうね---?」

「------すまん」

残り二人に目をやる。

三浦は少しばつが悪そうに目を逸らし、そして染井は素直に首肯した。

 

「まさかまさか、香取先輩にも?」

「それはないから安心してくれ」

 

割とあの記録には香取の事も辛辣に書いている自覚があった。香取の性格上、見られたらこちらに文句を言いに来るだろう。そうなると非常に面倒くさい。

その事も解っているのか、若村は真っ先に否定した。

 

「その-----俺もこれを見てさ、どうにか改善が出来れば、と思ったんだ」

「いい事じゃありませんか」

「でも、――根本的な原因として、俺は視野が浅い事もあると思うんだ」

でしょうね、と加山は呟く。

 

「そりゃ視野が広ければああはなりませんから」

「だから。雄太や華さんにも相談したんだ」

「はあ」

「それで――視野の広さは、単純な訓練ではどうにもならない、って結論が出て」

「出て?」

「――すまん。お前に協力してもらいたいんだ」

「協力って------何をですか」

「――索敵訓練。加山君には、その部分を協力してもらいたいの」

 

染井が、言葉を続ける。

 

「私と、麓郎君と雄太で、逃走をする貴方を追いかける。時間内まで逃げるか、どちらかを仕留めれば加山君の勝ち。二人とも生存した上で加山君を仕留めたら、こちらの勝ち。この勝負をしてもらいたいの」

「俺にはオペレーターの支援は無しですか」

「いえ。勿論この訓練をする時は、こちらがもう一人オペレーターを連れてくるわ。――貴方の時間が空いた時で大丈夫だから」

 

ふむん、と一つ加山は呟く。

――思ったよりも、悪くない話だ。

こちらとしても、訓練の相手が出来るのは喜ばしい事だ。それも、敵に追われながら逃走をするという――この先、自分がいくらでもぶち当たる局面での訓練。しかも、オペレーターも用意してくれると。

 

「いや、訓練自体は俺も凄く助かるのでいいんですけど」

「けど?」

「------いや、いいっす。訓練自体は付き合いますよ」

 

いや、いいんだけども。

そもそもの香取隊の一番の問題は、あの隊長ではないのだろうか。

そうは思ったが。

取り敢えず口を噤むことにした。

 

「じゃあ、早速やりましょうか」

「わかったわ。――待ってて。今オペレーターをもう一人連れてくるから」

 

 

「それじゃあ、ルールを説明します」

 

今回のルールは、以下の通り。

・若村・三浦ペアから三十メートル以内の地点から加山がバッグワームを付けレーダーから反応を消してからスタート。

・制限時間は、バッグワームの起動から十分。十分以内に加山を仕留めれば若村・三浦の勝利。十分間逃げ切るか、加山が若村・三浦のどちらかを仕留めれば加山の勝利。

・加山はブース入室後五分間、自由にマップを動き”仕込み”を行う時間が与えられる。

「了解です。――それじゃあ、さっさと仕込みを始めますか」

成程、と加山は思った。

中々に考えられている。

加山は若村と三浦がしっかりと連携を取って戦えば勝てる駒だ。だが、単独では勝てない。

だからこそ、若村と三浦の勝利は――逃走する加山を「二人で」相手取る必要がある。

加山は五分の仕込み時間でダミービーコン・エスクードを仕込む時間を与えられる。両者を分断する仕掛けを十分に設置できる。

故に。

加山がどのように二人を分断してくるかを読みながら若村・三浦は動き、仕留めねばならない。

若村・三浦の連携の練度を上げると同時に、互いに視野を広く持つ為の訓練としても成立する。

 

「よろしくっす、三上先輩」

「はい、よろしくお願いしますね、加山君」

染井が呼んできたオペレーターは、本日はA級風間隊のオペレーター、三上歌歩であった。

ショートカットの髪に小柄な体躯、そして何より優し気で母性的な表情が何より眩しい。――その上で、隠密主体の近接連携が肝の風間隊のオペレートをこなしている傑物でもあるのだが。

「しかし、よかったんですか。こんな訓練に付き合って」

「大丈夫。私としても、オペレーターの訓練として普通にありがたいから」

「ほうほう。――お、あの建物仕込みに使えそうですね。エスクードで出入口塞いで、ダミービーコン仕込んで、と」

「------面白いトリガー構成だね、加山君。エスクードにダミービーコンの両方をセットしている人はじめてかも」

「よく言われますね。わはは」

「隊に一人いればすごく助かりそう。隊にはまだ所属していないんだね」

「うす。――まあまだちょっと勉強中ですね。これもその一環と言う事で」

 

隊に所属するならば。

一番を目指したい。

 

何処かの隊に所属しなければ、遠征にも参加できないのだから。

だからこそ。――隊に所属する時には、自力である程度の力がついてからにしたい。

 

「よし、仕込みは終わり」

加山はそう言うと、若村と三浦のいる位置の五十メートル範囲にまで移動する。

 

「それじゃあ――始め」

 

加山はバッグワームを起動し、勝負が始まる。

 

場所は市街地B

加山がバッグワームを起動した場所は、狭い路地であった。

 

エスクードで次々と路地を封鎖していき、そこにダミービーコンを置いていく。

 

「三上先輩。これからビーコン起動しますので、仕込んだ分のコントロールをよろしくお願いします」

「了解」

 

ダミービーコンは使用者と、オペレーターの双方がコントロールをすることが出来る。今回は、事前に仕込んだダミービーコンを三上が、新たに追加したダミービーコンを加山がそれぞれコントロールしている事となる。

 

「さあて、どう動いてくるかな」

加山は周囲に耳を澄ます。

 

音は聞こえない。

 

「まだ近づいてきてはいないみたいっすね。――じゃあまだ仕込んでいこうか」

 

加山は周囲を走り回りながら、周囲にダミービーコンを撒いていく。

 

「とはいえ、エスクードが破壊されている様子もないし、ルートはもう決まっているようなもんですけど」

加山はビーコンを隠すようにエスクードを敷いていく。

音が、聞こえてくる。

これは――三浦の足音だ。

攻撃手の三浦の足音を聞いた瞬間、拳銃とハウンドをセット。

 

「はい、そこ」

 

新たに出現したビーコンの反応に釣られた三浦の姿を捕捉すると、加山はハウンドを放つと同時、拳銃を引き抜く。

上空からやってくるハウンドを避けんと路地に現れた三浦を拳銃で仕留め、三浦は緊急脱出する。

 

「――はい、一勝」

 

 

それから。

「このエスクードの先に反応が-----あ」

「ろっくん!そこは違う」

 

エスクードに隠されたダミービーコンに釣られ、ハウンドの射線に入り込み、それを食らう。緊急脱出。

二勝。

 

 

「このルートを通ったのは視認できた----ここからなら、隠れ場所はここしかねぇ!」

「------麓郎君!このルート、エスクードで分断された!」

「え-----がっ!」

追跡ルートを先回りした加山により三浦と若村を分断。その後若村にエスクードで射線を切りつつ接近戦を仕掛け、若村緊急脱出。

三勝。

 

「またエスクードで塞がれてる-----。この先反応があるけど」

「無暗に踏み込むわけにはいかないね。どうする?」

「仕方ない。このまま回り込んで――あ」

 

がしゃん、とエスクードが開かれ、ビーコンに紛れた加山のハウンドを背中から受ける。

四勝。

 

こんな繰り返しが、あと三度続いた。

本日の成果としては、若村・三浦コンビは一勝も出来ずに終わってしまう。

 

 

二日目。

 

同じく、五度やって五度とも同じ結果が出る。

 

「-----これ、どうすればいいんだ」

加山のダミービーコンとエスクードの組み合わせは、想像していたよりもずっと手強い。

加山は、若村と三浦の動きに対して全て解答を出している。

二手に分かれてビーコンの反応を追う→即座に片方の居場所を割り出し、エスクードで挟み込んで仕留める。

常に二人で合流したまま動く→動きが鈍くなる状況を利用し新しくビーコンを生成していき、自らを隠蔽させ、制限時間に焦る隙をつきエスクードで分断させ各個撃破。

 

二手に分かれても、合流しても、対応される。

ビーコンをエスクードで隠し、エスクードを破壊しなければそこに本人がいるかどうか解らない状況を作る。

しかし、エスクードを破壊すると、その音を聞き咎め、向かうルートを先回りされ仕留められる。

 

加山は拳銃とハウンド、そしてスコーピオンを持っている。

純銃手である若村に対してはエスクードで射線を切りながらの接近戦。攻撃手の三浦に対しては距離を取っての拳銃とハウンドの波状攻撃。両者に対してタイマンで確実に勝てる筋を持っている。

 

エスクード・ダミービーコンの組み合わせで二人を分断していく、そしてタイマンに持っていかれ片方が落とされる。

取れる手段全てに、負け筋が通っている。

途方に暮れそうになるが。それでも。

思考しなければならない。

ここで思考放棄をしてしまえば、以前の自分たちと全く変わらない。

しかし、いくら考えても打開策が見いだせない。

 

「――おお、頑張っているねろっくん」

そんな時。

ブースから離れ、いったん休憩している所に、何者かが現れる。

「犬飼先輩に、辻先輩」

 

二宮隊、犬飼澄晴と辻新之助がその場に現れた。

 

「随分熱心に訓練しているみたいじゃないか。何をしているんだい?」

「実は-----」

 

若村は、訓練の内容を伝えた。

 

「ふむ-----」

 

犬飼は、顎に手をやると――その内容に一つ頷く。

 

「連携と、視野を広くする訓練か」

犬飼はその話を聞き終えると、辻に目配せする。

 

それに、一つ辻は頷く。

 

「ねえ、ろっくん」

「はい」

「手本って訳じゃないけどさ。――その訓練、俺等二人でやってみるよ」

 

にこりと笑み――犬飼は、そう言った。

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