彼方のボーダーライン 作:丸米
──恐らく、二宮隊とは今期最後の対決となるだろう。
ここで勝利すれば、弓場隊の一位浮上も充分に見えてくる。
だからこそ、ここに後悔を残したくない。
それ故に。
二宮隊の分析と研究は──これまで以上に熱を入れて、加山は行っていた。
「...」
前回の戦いでは。
二宮隊の戦術や連携といった、ランク戦現場における実体的な部分に目を向け対策を行った。
しかし──その結果として、弓場隊の戦術を見極められ、敗北をしてしまう事となった。
何故負けたのか。
一言で言うならば、二宮隊はこちらの戦術を読んでいて、逆にこちら側が読み切れていなかったからだ。
──表面上の部分ではない。そもそもの思考の傾向を読まなければいけないと気付いた。
「──よぉ、加山。久しぶりだな」
「久しぶりっすね、出水先輩」
加山は太刀川隊作戦室にいた。
テーブルを挟んで向かい合うは、出水公平。
作戦室の奥では国近が何やら追い詰められた表情で「引いてよ! ここで突っ込んでどうするの敵に見つかる~!」と悲鳴じみた声を上げながらコントローラーを握り、太刀川はソファの上で爆睡をしている。唯我は加山が来た瞬間に出水からパシリ指令を受け飲み物を買ってきている最中である。
「二宮さんかぁ。そういや次の相手だったな~」
「そうなんですよね。──聞くところによれば、出水先輩はあの人の師匠だとか」
「んな大層なもんじゃねぇよ。まあ、でも二宮さんについては結構知っている自信はあるな」
”く....風間さん! オプショントリガーのオプショントリガーだと.....! カメレオンにトリオン吸収機能が付いたなんて....そ、そんな....! ”
太刀川の寝言が響く中。
加山と出水の会話が続けられていく。
「以前俺達が二宮隊とやってた試合、見てました?」
「見てたぜ~。中々楽しい試合だった」
「おお。それなら話が早い。あの試合の記録を持ってきたんですけど....」
”個人ソロポイントを犠牲に.....単位に引き換えれるだと? 5000ポイントで1単位か。おっしゃ! すぐに変えてくれ! 取り敢えず2単位だ! 10000くらいまたすぐ取り返してやるさあっはっはっは”
「俺がはっきりと二宮さんの行動を読みそこなったのは、この場面ですね。ダミービーコン使って逃走しようとしている時に、サラマンダーじゃなくてホーネット使った場面。面攻撃じゃなく追尾による点攻撃を使った時ですね」
「あー。この場面か...」
”うーん....俺が落としたのはこの金の弧月か....銀の弧月か....。いや、俺は黒い弧月だよ。落としたのは。金も銀も要らねぇや。え? 旋空の性能が上がっているってマジ? ちょ、ちょっと。月見待って超待って。俺欲しい。メッチャ欲しい金の弧月”
「加山、お前この前の段階で犬飼先輩を香取ちゃん動かして釣りだして撃破しているだろ」
「うっす。そうっすね」
「二宮さんはそういう事をけっこうするのよな。──正面からの戦いには正面からのごり押しで仕留めていくし。駆け引きで勝負を仕掛けられたなら、あちらも駆け引きで応じる」
「あ....成程....!」
”ぐえ! 何してんだ国近.....! ”
”太刀川さん寝言がうるさい~! 足音聞き逃して殺されちゃったじゃん~! ”
加山は、心の底から納得をした。
そうか。
二宮は──そういう手合いか、と。
「.....そうか。二宮さんは」
「ん?」
「──めっちゃプライド高いんですね」
そう加山が呟いた瞬間。
出水は顔面を横に向け、一つ吹き出していた。
「そりゃそうだろ。あの人ほどプライド高い人はいねぇよ」
「いや。何というか──俺が想定していたプライドの高さと、少し違っていましたね」
ふむん、と出水は呟く。
「へぇ。ちと興味があるな。どう違っていたんだ?」
「例えばですけど。ウチの隊長だって滅茶苦茶プライド高いじゃないですか」
「弓場さんか....。ん、そうだな」
「あの人はとにかく自分のやり方を通す事で、自分のプライドを守っている。挑戦されたら確実に受けるし、帯島辺りと連携していなければランク戦の最中であってもタイマンを張る可能性が高い。ある種、自分のやり方で相手を上回る事が隊長にとっては重要な訳です」
「成程ね。それで──二宮さんはどうだと?」
「あの人の場合は、──相手が取ってきた手段を、同じ手段でもって叩き潰す事が重要なんだと思います」
弓場は数々の個人戦で磨き上げてきた技術に対して強いプライドを持っている。
彼は──相手がどのような手段で戦ってこようとも、自分の戦い方で勝とうとするだろう。
二宮は。
相手の土俵に乗ったうえで勝つ事を優先する傾向がある、と加山は想定する。
以前のラウンドであると。
加山は自ら引き入れた香取隊をコントロールし、犬飼を追い詰め撃破した。
その行動に──二宮は同調行動を行ったのだ。
ダミービーコンを吹き飛ばして加山の位置を晒し上げて叩き潰すのではなく。
そう見せかけてホーネットによって加山の足を動かした上で辻に襲わせる──という方法を。
「二宮さんは──正面からの戦いでも、戦術での戦いでも、相手より上である事を重視するんです。だからこそプライドが高い。相手が取ってきた手段をそのまま返して勝つことをかなり意識しているように思います」
「....とはいえ。そんなに解りやすく作戦を変える人じゃないぜ」
「それは理解しています。あくまで、どちらも自分の方が上だと認識している場面においてですね。東さんや冬島さん相手に戦術勝負は仕掛けないでしょうし、太刀川さん相手に下手に正面から仕掛ける事もしないでしょう。そこら辺をしっかり弁えられる能力があるという前提の上で──ただ、俺に対してはどうか、と言うと。恐らくは──力も戦術も、どちらも自分の方が上だと認識しているはずです」
「お前、自己評価ひっくいなぁ―」
「個人総合2位の化物に勝っている部分があるなんて自惚れちゃいねぇっすよ。──とはいえ、二宮さんは割と判断基準が感情的だと認識できたのは大きいですね」
同調行動は、プライドが高い人物であればある程しやすい。
二宮の根底部分には──自身が相手より上であることを認めさせる事に対する拘りがあるのだろう、と。そう加山は思った。
とはいえ。
それはどんな手段を取ろうとも相手を上回れる自信があるが故である。依然、強敵であることは変わりない。
「──出水先輩」
「お、なんだ?」
「ちょっと、訓練に付き合ってもらっても構いませんか?」
※
そうして。
太刀川隊作戦室訓練室内。
そこには、トリオン体に換装した出水公平と加山雄吾の姿。
そして。
「何故ボクまでこんな事に付き合わなければいけないのですか!」
唯我尊(16)の姿もあった。
「ご協力感謝します唯我先輩ー」
「か、加山君! こんな誰にでも出来る事でボクを使うのではなくてだね! ──ほ、ほら。この前美味しいアップルパイを焼いてくれるお店があったんだ! そこに連れていくから! ね!?」
「いえいえ。唯我先輩の協力こそが必要なんですよこの訓練では」
さて、と。
加山は呟く。
「──今度は、二宮さんと同じトリオンに設定すればいいんだな」
「うす。そして可能な限り二宮さんと同じ戦い方でお願いします。バイパーと、高速の合成弾の使用は控えて頂けると嬉しいです」
「オッケーオッケー。二宮さんと同じトリガー構成にしたからそこら辺は安心しろ」
「ありがとうございます~」
「そんで。今回はどんな訓練をするの?」
出水がそう尋ねると。
加山は一つ頷く。
「今回、弓場隊と二宮隊と鈴鳴第一の三つ巴戦です。二宮隊だけが、狙撃手がいません」
「だな」
「だからこそ──最優先で狙撃手を殺しにかかる可能性があります。理想で言えば、狙撃手を存命させて二宮さんのフルアタックを封じ込めた上で戦うのが理想的なんですけど。──やっぱり狙撃手がいない中戦う事も想定しなければならない」
「ふんふむ」
「そして。狙撃の心配もなくなった二宮さんが俺とサシで向かい合った時。あの人は多分──タイマンに付き合ってくれると。そう踏んでいます」
その時の訓練をしたい、と。
加山は言う。
「そう簡単に行くかね。──二宮さんも前回の戦いは見ているだろう。普通に脅威として認識しているだろ」
「仮に俺が二宮さんを倒せると仮定すると。──これだと思うんですよね」
腰裏のホルスターから、拳銃を取り出す。
「①ハウンドでシールドの拡張をさせての拳銃での射撃。②二宮さんのフルアタックが解禁された瞬間での拳銃での射撃。この二択しかない。何故拳銃かと言えば」
「言えば?」
「これだけが──二宮さんよりも速く攻撃できる武器だから、です」
二宮の強さというのは、単純なトリオン量による圧殺能力とは別に。
射手トリガーを生成してから放つまでの速さにもある。
恐らく加山が放つハウンドよりも、メテオラよりも、二宮は速い。
しかし。
拳銃による銃撃だけは──二宮のあらゆる攻撃よりも速く、攻撃の行使ができる。
「二宮さんは俺と戦ううえで、これを強く警戒するはずです。逆に言えば──こいつが届かない間合いの中での戦いなら、タイマンに乗ってくる可能性が高いという事です」
加山が持つ、アステロイド拳銃。
これだけが二宮のシールドを砕き、二宮よりも速いタイミングで攻撃できる手段。
「そこから考えられる俺と二宮さんの戦いは、この銃が届かない25メートルの間合いが空いている状態です。この間合いでいるうちは二宮さんは俺を一方的に攻撃出来て、そして俺としてはタイマンの状態を維持できる」
「へぇ....成程ね」
「そして──ここからが、唯我先輩の出番です」
「へ?」
加山は出水と唯我、双方を見る。
「俺の作戦としては──このタイマン状態を続けて時間稼ぎをして、援軍を呼ぶ事なんです」
「ああ──成程」
「二十五メートルの間合いが空いた戦い。この間合い、って結構微妙な距離だと思うんですよね。フルアタックするにしては距離が離れすぎず近すぎずでやりにくい。互いにシールドを張ったまま、片側のトリガー同士の撃ち合いになると思うんですよね。特に俺の手札にはエスクードもありますからね」
つまりは。
この訓練は──加山が二宮相手に距離を保ちつつ時間を稼ぎ。
援軍(唯我)が辿り着くまで耐える訓練である。
「中々ハードな設定だな」
「うす。──とはいえ、最悪を常に想定してやっていかないと」
「おっけおっけ。──唯我のいい訓練にもなるだろうし。付き合ってやるよ」
こうして。
出水公平と唯我尊との訓練が始まったのであった。
「それじゃあ――行くぞ!」