彼方のボーダーライン   作:丸米

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時間空けたのに少なくてすみません.....。


感情論者共

「....ヒュースが使っていた武器は覚えています?」

「覚えているわよ。あの黒い欠片が集まった気持ち悪い武器でしょ」

「あれはランビリスという武器で、あの欠片をバラしたり集めたり形を拵えてブレードにしたりと──自由度が高い武器な分、とんでもなく繊細なトリオンコントロール能力が求められるトリガーです」

「....成程ね」

「恐らくは、出水先輩に匹敵するトリオンコントロール能力を持っています」

 

 その後。

 加山は香取の要望通り──ヒュースについての情報を提供していた。

 

「恐らくはバイパーをリアルタイムで引ける能力も持っています」

「....マスターランクレベルの弧月使いで、角で強化されたトリオンも持って、そして射手としても優秀。非の打ちどころがないわね」

「玉狛にそんな奴が入るのか...」

 

 香取隊は前回に引き続き玉狛と戦う事となる。

 雨取千佳と空閑遊真の存在だけでもとんでもない脅威であるのに、そこにヒュースまで加わるとなれば──紛うことなく、二宮隊よりも遥かに強力な部隊と言えるだろう。

 

「....噂を流してせめて初見殺しだけでも防ぎたい気持ちも解るわね。情報提供感謝するわ」

 

 香取はヒュースの情報を頭の中に纏めると、溜息を一つ。

 

「....アンタの中の勝利条件としては、こいつをそもそも遠征から締め出すことが出来ればまずOKということなのね」

「ですね。──とはいえかなりキツイ条件だとも思っています」

「....でしょうね」

「それじゃあ──俺はこの辺りで失礼します」

 加山はヒュースについての情報を香取隊に伝え終えると、一礼して作戦室を去っていった。

 

 その後──無言の時間が過ぎていく。

 静寂を破ったのは、若村の声であった。

 

 

「な、なあ....葉子。お前、そいつ殺すのに協力するのって...」

「マジよ」

 香取は。

 冷たい声音で、そう断言した。

 

「──実際どうするつもりなのよ。仮に玉狛が遠征についていくとして、そんな爆弾が船の中にいるのよ。アフトクラトルに着いた瞬間にそいつに船を爆破されて帰れなくなるなんてアタシは嫌よ」

「....まあ、そうだけどさ。だからって殺すって」

「それに。アタシはもう蚊帳の外は嫌なの」

「....蚊帳の外?」

 

 染井華が、香取の言葉のうちの一つを拾い上げ、反芻する。

 

「そう。蚊帳の外。──この情報だって、加山が教えてくれなければ何も解らないままだった。でも、情報を知ったからにはアタシは蚊帳の中に入ることが出来る。これはチャンスよ」

「...」

「次の遠征──個人選抜だろうが何だろうが、意地でも入り込んでやる」

 

 

 そうして。

 時は来る。

 

 ──3月1日。ROUND7、昼の部。

 

 

「こんにちは。実況の綾辻です。ランク戦ROUND7を担当させていただきます。そして解説には──」

「奈良坂です」

「時枝です」

 

「以上三名でお送りさせてい頂きます」

 

 ランク戦第7ラウンド昼の部は──。

 

 人でごった返していた。

 観戦席はすべて埋まり、中には壁に寄りかかり立ち見している人間もいる。

 

「今日は観覧席の賑わいが凄いですね!」

「前回のランク戦での玉狛第二の活躍は凄まじいものがありましたからね。その上で更に大注目の新隊員のヒュース君の初陣でもあります」

「──前回二宮隊を下して、それでも尚油断せずに新規戦力を追加してくるとは....。玉狛の取る手は大胆ですね」

 

 玉狛第二は、現在二つの意味で注目を集めている。

 一つは、怪物級のトリオンによる広域破壊戦術で二宮を討ち取った雨取千佳。

 

 そして、もう一つは。

 ──入隊から数日足らずでB級に昇格し、玉狛に入隊したヒュース・クローニン。

 

「他の部隊も頭を痛めているでしょうね。ただでさえ雨取さんへの対策に頭を痛めている時に、ここに来て対策のしようがない新隊員。玉狛のこの選択がどう転ぶのか、非常に楽しみですね──」

 

 

「....」

 

 いつもの通り、加山は観客席に座る。

 早い時間から取っていてよかった。立ち見をするには加山の身長はあまりにも頼りない。

 

 加山はふぅ、と一つ息を吐き。

 隣を見る。

 

 そこには──。

 

「げ」

「随分な反応ね、加山君」

 

 嵐山隊万能手、木虎藍がそこにいた。

 

「前向きに考えるか。こういう所で不運を使ったからこそ、ランク戦じゃ多少でもいい風向きになるだろう、と」

「頼りないわね。運に頼っているなんて」

「しゃーない。ランク戦の三要素は戦力と戦術と運ですよ。あの髭の二十歳もどきも言っていた。運だけはどうにもならない要素だからな」

「不運を跳ねのけられる程の実力を示せばいいだけよ」

「ちっ、うっせーな。なんなら転送位置最悪の状況下から二宮隊倒してみろ」

「ああ。そういえば次の対戦相手二宮隊だったわね。ご愁傷様」

「言ってろ。目にもの見せてやる」

 

 ほらほら始まる。

 こういう言い争いが。

 

「──話、聞いたわよ。あの人が変わったような豹変ぶりは黒トリガー由来なのね」

「....情報が速いですねぇ」

「大丈夫なの?」

「へぇ。お前でも俺の心配なんかするんだ。やべぇな背筋が凍り付くようだ。明日は雪が降るか弧月が降るか」

「貴方の事なんてまあ心底どうでもいいんだけど。──また別人格か何かで迷惑をかけられるのは困るのよ」

「──そっちに関しちゃもう大丈夫よ」

「──そう」

 

 それで、と。

 木虎は話題を変える。

 

「随分と玉狛の妨害にご執心みたいね」

「へっへっへ。やっぱりお前らの耳には届いているか」

「そりゃそうよ。東さんの噂流しに一枚噛んでいるのはウチよ。──こういうやり方するキャラだったの貴方?」

「そういうキャラになっちまいましたね。案外陰湿ですよ俺は」

「....それじゃあ事前に他の部隊への根回しもしていると見ていいのかしら」

「さあね~。それはどうでしょうね~」

 

 にこにこ笑みながら、加山は答える。

 

 その笑みを見つつ木虎は、

 

 ──内心、相当に怒っていたんでしょうね。

 

 と思った。

 

 加山の方針は本当に解りやすい。

 同じ近界民であっても──空閑遊真は積極的にボーダーに入隊させる事に全力を傾けていた。

 

 それは空閑遊真が敵ではなく、協力的で、そして相当な戦力と情報を持っていたから。

 近界民であることが加山にとって敵である条件ではない。

 

 ──その彼にしてみれば、ヒュースは許されざる人間であろう。

 

 ヒュースは今であっても──近界国家の軍人だ。

 それ故に、敵として蹴落とさねばならない人間であり、味方として扱うなど言語道断であると──そう思っているのだろう。

 

 加山の指針を木虎は知っている。

 自分の立ち位置も評価も、どうでもいい人間であったはずだ。

 恐らく──玉狛がいなければ、無理して遠征を狙うという行為もしていなかったはずだ。

 自分の行為によってランク戦に不均衡が起こる事を嫌っていたであろう。

 

 それでも。

 加山は手段を選ばず玉狛に不利な盤外行為を行った。

 東が流した噂に乗っかり別口の噂を流し。

 恐らくは他部隊にヒュースについての情報も流しているのだろう。

 

 間違いなく――加山は切羽詰まっている。

 玉狛を敵視し、その妨害の為に全力を尽くしている。

 

「まあ──いいんじゃない?」

「何がだよ」

「以前の合理性だけで動いていた時よりも、今の貴方の方がよっぽどマシに見えるわ」

「....」

「そもそも迅さんも上層部もあのヒュースの件は黙認しているって事は、所詮はその程度の脅威って事でしょう。それが解らない貴方じゃなかった。それなのに──意地になって止めようとしているのは何故?」

「.....痛い所を突くじゃないか」

「単に──許せないだけでしょ。感情的な理由じゃない」

「まあ、そうだなぁ。感情だよなぁ。──多分、ヒュースだけじゃなくて。迅さんへの感情も入ってんだろうな。俺の場合」

 

 理解している。

 今の自分の行動原理に──感情がしっかり入っているという事も。

 

「よく解っているじゃない」

「まあ、今回ばかりは俺も引くつもりはない。──しかし俺としても意外だ」

「何が?」

「まあ控えめに言って──尊大な正論吐き出しマウントガールのお前が、今の俺の方がマシだと評価する事が」

 

 その物言いに青筋を立てながらも──木虎は言葉を返す。

 

「ふん。──貴方は私を対等なものとして見ていたのかもしれないけど。私から見たら、貴方は私を上から見下げていたように感じていたのよ」

「奇遇だな。俺もお前からそう感じていたぞ」

「黙って聞きなさい。──私はね、他人から無償の施しを受けるのが嫌いなの」

「だろうな」

「そんな私にとって貴方は本当に嫌いだった。施そうとするじゃない。そのくせ人には頼ろうとしない」

「...」

「だから──体裁も関係なく、切羽詰まって、色々と手を回している今の貴方は昔よりも余程愉快なのよ。解った?」

「おう解った。──うん。やっぱりお前は尊大な正論吐き出しマウントガールだわ」

 

 そう加山が言いきると。

 

 各部隊の転送が始まった。

 

 ──ランク戦ROUND7昼の部がスタートした。

 

 

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