彼方のボーダーライン   作:丸米

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怒りし者①

 今回のランク戦、マップ選択権を持つ香取隊が選んだマップは市街地B。

 全マップの中で随一の広さを持ち、射線が切れやすいこのマップを選択したのも──ひとえに雨取千佳を警戒しての事であろう。

 

 そして。

 この試合──転送が終わる瞬間過去に例のない事態に、玉狛は遭遇することになる。

 

 それは。

 

 玉狛第二の攻撃手二枚を除いて──影浦雅人以外の戦闘員全員が、バッグワームによりその姿をくらましている、という事態に。

 

 

「──こうなるか」

「こうなるのね」

 

 まあ妥当だな、と加山は呟く。

 転送が始まると同時。加山も木虎も双方憎まれ口の応酬を止めて

 

「雨取さんという戦術兵器が存在している分、序盤から自身の位置を晒すわけにはいかない。狙撃が通じない影浦隊長以外は、まあ位置を隠すでしょうね」

「とはいえ──。あれじゃあ影浦先輩のところに集まっちまうぞ」

 

 前回のランク戦から考えられる雨取千佳の対応策は、

 ① 見つからないこと

 ② 密集しないこと

 ③ ①.②を受けて障害物のない開けた場にいない事。

 

 全て実行するとなると非常に窮屈な戦いを強いられる。

 その最初の段階が──このバッグワームによる雲隠れ戦術となる訳だ。

 

「それに、どの部隊も基本的に固まらない方針みたいだな」

 

 転送してからの各部隊は、ある程度距離をとっての合流を行なっている。

 狙撃手は100メートル以上部隊から離れた位置に。

 銃手、射手は軸となる攻撃手を中心におよそ40メートルほどの間隔を空けて。

 

 それぞれ、バラけた位置の中で合流を行なっている。

 

「一つ所に集まって爆撃の的にされたらたまったものじゃないでしょう」

「とはいえ──あれじゃあ雨取さんを避けられても、空閑とヒュースに銃手、射手が狙われたらひとたまりもないぞ」

 

 浮いた銃手や射手は、狩られやすい。

 特に遊真のような機動力に富んだ攻撃手には。

 

 距離が開いた分、彼等に対応できる攻撃手が庇えるまでの時間が長くなり、浮いた駒が落とされやすい状況。

 

 こうなると、点が欲しい玉狛は、遊真・ヒュースを狩りに向かわせるだろう。

 

「あ、でも──そうか」

 

 それすらも──相手の狙いかもしれない。

 

「相手からすれば、玉狛の攻撃手二枚が前に出てきてくれるなら大歓迎でしょ。その分──間違いなく雨取さんを撃破できるチャンスが増える」

 

 雨取千佳に対処するとともに。

 相手は──早いうちに雨取千佳を落とさなければならない。

 

 その為の第一条件は、攻撃手二枚を雨取千佳から引き剥がす事。

 

「──位置関係上、空閑君もヒュースもそれぞれ離れてる。合流した上で仕掛けるわけにはいかない。……が」

「敵は見えないけど、玉狛以外で影浦隊長を中心に敵が集まって、潰し合いを行う可能性が高い。──単独でも攻め込んで行くしかない」

 

 序盤の展開は──ヒュースと遊真が序盤に生き残れるかにかかっているようだ。

 

 

「……予想はしていたが、やはり全員バッグワームで身を隠しているか。空閑、ヒュース、誰か確認できたか?」

「こっちは生駒隊の射手の人が見えるな。ごわごわした髪の人」

「水上先輩だな。ヒュースは?」

「ワカムラを発見した。襲撃をかけるか?」

 

 転送を終え。

 序盤は──本当に静かな滑り出しとなった。

 

 なにせ、バッグワームを転送時から解除していたのが三人のみ。

 影浦に遊真にヒュース。

 

 千佳の砲撃と爆撃を警戒したのだろう。全員が序盤に攻勢をかけられる事を嫌い、合流はおろか移動すらも時間をかけて行っていた。

 

 敵の狙いは解っている。

 攻撃手二人を、誘い出す事。

 

 現在、遊真とヒュースの転送位置は東西に分かれて真逆に位置している。合流するまでにどうしても時間がかかってしまう。

 

「……ヒュースは攻撃を仕掛けて、空閑はそのまま合流を目指してくれ」

 

 修は思考の末、そう指示を出した。

 

「合流してから仕掛けるのがベストだったが、合流するまでに点がとられてしまったら遠征の道が閉ざされる。各隊が影浦隊長の所に集まる前に、取れる点は取るんだ」

 

 両者は共に了解、と頷き。

 それぞれの行動を開始した。

 

 遊真は敵部隊を迂回しつつヒュースとの合流を目指し。

 ヒュースは──武装を変える。

 

 手にするは、大型の機関銃。

 そして身に纏うは、バイパーのキューブ群。

 

「──速やかに点を取らせてもらう」

 ヒュースは自身の左手側にあるオフィスの窓枠を蹴り上げ、屋上まで飛び上がる。

 そして。

 そこから20メートル程先のビル群を抜け合流を目指している若村を視界に収めた。

 

 

 一瞬だった。

 ビル群の隙間から光塵を垣間見た若村は即座にバッグワームを解き、シールドを装着。

 その光はビルの間を抜けて──自身の左手側から一気に弾丸が迫り来る。

 

「く……」

 

 ──ヒュースはリアルタイムでバイパーが使える。

 

 加山の言うことは正しかった。

 だから、若村の行動は早かった。

 部隊にヒュースの存在を知らせた後に、その軌道から流れるように走る。

 ビルを抜け、シールドでその弾丸を打ち消しながら──必死に。

 

 ここを生き残れれば、作戦通り連携してヒュースをやれる。

 ──気張れ! 

 

 若村は必死の形相で、その弾丸から逃れて行く。

 数が。数が多い。

 逃げるだけでも、恐ろしく難しい。

 

 シールドはとうに砕かれ、手足のいくつかと腹部が削れて行くが。

 それでも──走る。

 

 そうして。

 ビル群を抜け、噴水公園が目の前に広がったとき。

 バイパー弾は、消えていた。

 生き残れた安堵が心身に行き渡るよりも早く。

 

 重々しい銃声が、響き渡る。

 

「──え?」

 

 周囲は公園。

 自らを遮る何もかもがないその場所に──彼方からの弾丸がその全身に叩き込まれた。

 

 ──バイパーで追い込みをかけ、重機関銃で仕留める。

 二つの異なるトリガーによる、回避不能のコンビネーションにて──若村は仕留められ、玉狛に1ポイント目が入ることとなる。

 

 

「──今のタマコマは、チカに多くの警戒が割かれる事が予想される」

 

 ヒュースは事前の打ち合わせにて、まずそう呟いた。

 

「見る限り、前回チカが倒したニノミヤ以上の駒はB級にはいない。それを反撃も許さず封殺したチカを、きっと他の隊は警戒する。具体的には──半径40メートルの範囲と、100メートルの範囲」

「ふむん。40メートルと100メートルの範囲」

「40メートルが、あのフルアタックの範囲。100メートルがあの壁のトリガーや銃による破壊行動や、爆撃。敵は100メートル範囲で戦闘すれば著しい不利を被ると考え、40メートル範囲に入れば否応無く死ぬ事を覚悟するだろう。──そこから考えられる敵の動きは」

 

 序盤は、千佳の位置を把握する為の動き。

 後半は、千佳の居所から流れる動き。

 

 この二つの範囲から逃れて行く動きをしてくる筈だ、と。

 ヒュースは言う。

 

「だから。──オレがこの部隊で果たす役割は、浮いた駒を中距離から仕留め、逃れて行く連中を堰き止める形でポイントを稼ぐ事だと判断した」

 

 序盤はきっと、敵は合流すらも躊躇うほど慎重に行動するだろう。

 序盤を過ぎれば、千佳の範囲から逃れようとする敵が出てくるだろう。

 

「その動きが解っていれば幾らでも手が打てる。オサムは序盤の敵が静かなうちにチカの範囲外に糸を張っていけばいい。そして序盤に浮いた駒がいればオレとユーマが合同で仕留めていき、その後は逃れて行く敵をチカと挟み込むように動いて行く」

 

 千佳からの攻撃を嫌がりその範囲外に流れる動きをすれば。

 その先にはヒュースのバイパーと機関銃の弾雨と、その間を自在に駆け巡る遊真が待っている。

 

 

「この部隊に足りないのは、自由に動かせる中距離の駒だ。オレは──その役割を果たそうと思う」

 

 千佳の脅威の外を、物量にて押し返す。

 その役割を担いて──ヒュースは玉狛第二に入隊したのであった。

 

 

 若村を仕留め終えると、ヒュースはオフィスから飛び降り走って行く。

 

 ──これでオレを仕留めに向かってくるやつも出てくるはずだ。

 

 ヒュースは走って行く。

 向かう場所は。

 

 遊真との合流地点であり、

 そして──千佳の潜伏地点よりほど近い場所。

 

 ──そいつらを引き連れて、チカのエスクードで逃げ道を塞いで各個撃破する。そうすればある程度のポイントが手に入るはずだ。

 

 噴水公園を走り抜けていく。

 ヒュースは誘っていた。

 自身に襲いかかってくる敵を。

 

 そして。

 ──狙撃手を。

 

 ギン、という金切り音が響く。

 

「──そこか」

 

 周囲に建造物が一切ない公園。

 当然──ヒュースは狙撃の警戒も怠っていなかった。

 自身の死角側から放たれた弾丸を、難なくシールドにて防いでいた。

 

 その弾道の先。

 

「うわ。マジか」

 

 生駒隊狙撃手、隠岐がそうボヤいていた。

 

「死角から撃ったのに、あれ避けられたら堪らんわ。さっさと逃げるわ。──というか、特にシールド絞ってないのにイーグレット防げるとか。マジでトリオンも二宮さん以上の可能性もあるなありゃ」

 

 隠岐は狙撃を敢行するにあたり、

 死角側の建物に回り込み、

 手に持っている武装を確認しフルガードの可能性を排除する

 

 という二つの手続きを経て、仕留められるとの確信を得て狙撃を行なった。

 

 死角から放たれて即座にシールドでは防げまい。

 反応できたとしても、フルガードでもなければシールドをかなり絞らねばなるまい。

 

 その思考を巡らせ放った一撃は──されど当然の如く防がれることとなる。

 

 隠岐はそそくさとビルから飛び降り、イーグレットを消去しグラスホッパーを装着。そのままその場より逃れていく。

 

 ヒュースは。

 足を止め、一瞬隠岐の方向に視線をやる──フリ、をして。

 

 自身の背後より移動してくる人影に──引金を引いた。

 

 その人影の輪郭を把握するよりも早く、何ならそれを視界に収めるよりも早く──ヒュースは機関銃を撃ち放つ。

 

 人影を攫うような掃射が凪ぐと同時に、人影は姿勢をギリギリまで降ろし、掃射方向から逃れつつヒュースの左手側へと移動する。

 

 重々しい銃声に隠れ、

 乾いた三連射の音と、それがシールドにて弾かれる音もまた響いていた。

 

「──チっ」

 

 狙撃の隙をついての急襲を至極あっさり対応された香取葉子が、一つ舌打つ。

 

 ヒュースは機関銃を孤月に切り替え、香取に斬りかかる。

 バックステップにてその斬撃を避けつつ。香取もまたトリガーを拳銃からスコーピオンに切り替える。

 

 ──知っているわよ。

 

 ヒュースは斬撃を行使する前。

 空いている片手を──自身の背後に向かわせているのを、香取は確認していた。

 

「バイパーでしょ」

 

 バックステップで宙に浮いた香取に対して──襲いくるバイパーの群れ。

 

 香取もまた、

 

「──死ね。近界民」

 

 空いた片腕を背後に回し。

 グラスホッパーを生成し、触れていた。

 置き弾による時間差攻撃。

 ──当然、読んでいるわよ。

 

 グラスホッパーによる高速移動により──香取はヒュースの右手側へと飛んでいく。

 

 首目掛けた、スコーピオンの斬撃と共に。

 

 ギイン、と。

 音が響き。

 

 ぶしゅ、とヒュースの頬からトリオンが吹き抜け。

 移動を終えた香取のスコーピオンが根元から折れる。

 

「──あそこから、防いだのか……」

 

 少し悔しげに香取はそうボヤいた。

 

 ヒュースは、斬撃を行使し、腕を振り降ろした体勢から。

 体軸を背中側に回した二撃目の振り上げによる斬撃を行使。

 

 それは一寸早く香取のスコーピオンに触れ──首から頰に斬撃をズラした。

 

「……よく防いだじゃない。──アタシの顔に見覚えはないかしら、近界民?」

 嫌味ったらしく。

 皮肉もたっぷり込めて

 そして──隠そうとして隠しきれぬ激情も込めて。

 そう、香取は言った。

 

「……お前。あの時……」

 ヒュースもまた──その感情を、読み取る。

 

「ええ。そうよ。──あの時。アンタとあのジジイと、陰険そうな動物野郎がC級を襲撃している様をしっかり見てたわ。クソ野郎」

 

 ヒュースの前に立つ、香取葉子は。

 明瞭な怒りをその目に宿していた。

 

「アンタと玉狛が──何を思って上層部からこっちに口止めさせてまで遠征に行こうとしているかなんて、知らないし知るつもりもない」

 

 許さない。

 何があっても──許しはしない。

 

「遠征には行かせない」

 

 その目のまま。

 香取葉子は──ヒュースを見据え、構えていた。

 

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