彼方のボーダーライン 作:丸米
すみません。
「さあて。──ここからは俺達の番だぜ」
そうして。
ランク戦昼の部を終え。
防衛任務を挟んで、その次の時間帯。
──ランク戦夜の部が始まる。
※
「皆さんこんにちは~。B級ランク戦第7ラウンド夜の部、実況はこの私宇井が担当しますー。さて、解説は──太刀川隊射手の出水先輩と、東隊狙撃手の東隊長です」
「よろしく~」
「よろしく頼む」
ランク戦第7ラウンド夜の部。
そこには、奇しくも二宮隊と関わりの深い二人が解説に訪れる。
出水公平。
東春秋。
両者それぞれ、二宮にとっての射手として、また戦術家としての師匠である。
「今回のランク戦、ずばり見所はどこでしょう?」
「今回、弓場隊も鈴鳴も双方とも大きな成長を遂げている。二宮隊相手に、この部隊がどう戦っていくのかに注目していますね」
「だな。鈴鳴第一は新陣形。そして弓場隊は点取り屋としての加山の成長。──今回は状況の転び方によっては二宮隊を食うのも全然あり得ると俺は思っていますね」
「ああ。──さて、鈴鳴第一が選んだマップは、市街地Dか」
市街地D。
それは中央地帯に大きなショッピングモールがでん、と存在しているマップである。
外は広い道路とビル群で構成され、開けた場所も多く弾トリガーが有利となる。
その為外を避けて中央のショッピングモールに入り込む人間が多く、そこでの戦いが非常に頻発する特色のあるマップである。
「──さて。この鈴鳴の選択はどういう意味があるのだろうな」
※
「市街地D....か」
加山はその鈴鳴の選択に関して、その意図を考える。
「鈴鳴の新陣形を考えれば合流しやすくて撃ち合いが有利になる工業地帯辺りを選ぶと思っていたんですけどね」
「それじゃあ普通に二宮隊が合流したら一巻の終わりだろう」
「ああ。それもそうっすね。──とはいえ合流のしやすさならここも大概でしょう。モールに人が集まるんですから」
その時。
加山は、一つ思い浮かんだ。
──ああ、そうだった。鈴鳴には悪知恵だけ働く阿呆がいたんだった。
「隊長、帯島」
「ん?」
「トリガーの外装変えてもらっていいすか? ──とりあえず俺も含めて武装は全部黒に統一しましょ」
この瞬間。
加山の中で序盤の動きは決定した。
※
「しかし──結構追い詰められているね。今回。弓場隊と三点差でしょ」
二宮隊作戦室。
そこでは、犬飼と辻が訓練を行っている。
訓練の内容は、壁が自動生成する空間内を動き回り、移動対象に弾丸を当てる訓練。
エスクードを持つ加山への対策であろうか。
「前回も結局俺が落とされているからね。今回は命大事にしていかなきゃ。ただでさえモールで奇襲トラップの宝庫だろうし。──その分攻撃手の駒がかなり重要になるから。頼んだよ」
「うん。──あ。そろそろ転送が始まるみたいだね」
二宮隊は特に気負うことなく。
揚々と転送を待つ。
※
そして。
転送が始まる。
※
──各部隊の転送が終わる。
「──やっぱりね」
加山は周囲を見渡し、二っと笑みを浮かべた。
「夜か」
その環境を見回し一つ笑みを浮かべ──加山はモールに向け走り出した。
その腰裏には。
黒色に染まったリボルバー拳銃を隠しながら。
※
「──やっぱり、どの部隊もモールに向かっていますね」
各部隊、転送が終わるや否や、モールに向け一直線に走り出している。
「転送位置を見ると、二宮隊が比較的モールから遠いですね。この感じだと弓場隊、鈴鳴よりもモールに入るのは遅くなりそうではあります」
「まあ遅くなるのはメリットでもある。ここで鈴鳴と弓場隊が潰し合って弱ったところを一掃....って流れも十分にあり得る訳で」
「その弓場隊ですが、弓場隊長と帯島隊員は合流したうえで屋上からモールに侵入。そして加山隊員は一階のウィンドウを肘で叩き割って侵入。外岡隊員は外で待機。三手に分かれての行動を行っているようです」
「恐らくは一階部分から加山がビーコンとエスクードで敵の移動範囲を制限していく形で進めていくつもりですかね」
「だろうなぁ」
と。
二人が意見の一致を見せた所で──加山は全く同じ事をしていく。
一階部分の物陰、もしくはカフェテリアの店内などを巡り──ビーコンを設置していく。
「そして──ん?」
「ほう?」
「ん?」
実況、解説ともに。
ビーコンを設置し終えた加山の行動に──眉を潜めていた。
※
「さて」
ふふん、と──別役太一は、そろそろ~っとした動きから流れるようなゴキブリ這いずり走法で一回の奥へと走っていく。
「ラッキー」
そう。
別役太一は比較的モールに近い場所に転送された。
その為──今回の作戦の主軸となるとある場所に、誰よりも早く到達出来た。
そして。
上階では既に戦闘が始まっているとの報告が入る。
──そして、隊長である来馬から「嫌な予感がするから気を付けるんだ」との言葉もまた同時に響く。
その声を聞き、太一は一応周囲を見渡す。
大丈夫だ。
辺りに人の気配はしない。
「相手は──弓場さんと帯島ちゃんかぁ。この二人を仕留められるならかなり大きい。本当にラッキー....」
別役太一の眼前。
そこには、電気室の扉があった。
それを開いた瞬間、
「いいや。──アンラッキーにも程があるってもんですぜ。別役せ~んぱい」
そんな声と共に。
「ぷぎゅう!」
壁が頭上より降り落ち、床面と挟み込まれる。
「な....なんで...」
「早いもの勝ちですよ、別役先輩」
倒れ伏し、見上げる先。
そこには──ニコニコと微笑む加山の姿があった。
「悪知恵が働くのが──アンタだけだと思ったら大間違いだ」
加山は拳銃を生成すると、太一のこめかみに置き──引金を引いた。
※
時は、少々前後する。
「よし。加山が太一よりも先に一階に入れたな。──後はこのモールに入ってきた連中を潰すぞ」
「はい!」
弓場と帯島は、屋上側よりモールに侵入すると、索敵をしつつ下の階に降りていく。
六階に到達し、下階から足音が聞こえてくる。
吹き抜けからその音の方向を見てみると──
「──来馬サンと村上を発見。襲撃をかける」
鈴鳴の二人が見えていた。
──見敵必殺の勢いをもって、弓場は上階から二人に向け弾丸を放つ。
「──弓場君を発見! 鋼、援護をお願い!」
「了解」
弓場の弾丸を村上がレイガストで弾き返し、来馬も突撃銃を弓場に向ける。
ハウンド弾が吹き抜けを通して弓場に向かうと、弓場は背後へと飛びずさり回避を行う。
その間に両者は階段まで上がり、周回構造になっているフロアを村上が先導し移動する。
──弓場と帯島と、同階にて相対する。
「....あ」
そして。
見た。
──こちらに弾丸を叩き込んできた弓場の拳銃が黒く染まっているのを。
「....」
現在。
村上の弧月も──その刀身を黒く染めている。
「よお、村上。──お揃いだなァ」
「....」
ここに弓場と帯島がいて。
そして加山がいない。
その構図に──村上も来馬も、言いようのない不安感が襲い掛かってきた。
「さあ──楽しい撃ち合いをしようじゃねぇか」
拳銃が向けられ。
引金に指をかける。
弾丸を放った瞬間、弓場はシールドを展開しつつ前に出る。
来馬の突撃銃の弾丸を防ぎつつ、こちらも弾丸を放つ。
村上はレイガストによる防御で前に出つつ、旋空による攻撃で弓場に牽制をかける。
弓場と村上・来馬が対峙する側面へ移動しつつ、吹き抜けからハウンドで攻勢をかける。
──弓場と帯島の連携では、純粋な弾丸の物量自体は劣る。
来馬が持つ突撃銃よりも弓場が持つ拳銃の方が一撃の重さはある。しかし純粋な連射性能には大きく劣る。
それ故に、ポジション取りで優位を取る。
弓場も帯島も動ける駒だ。
対して鈴鳴第一は──動けない来馬という駒に、防御する立ち回りを行う村上という構図になっており。基本は動けない。
その動けない二つの駒を、弓場と帯島は動きつつ挟み込む。
この動きはまた、もう一つの効果を生み出す。
「挟まれば──お前等の新陣形は使いにくいだろう。なぁ?」
「...」
鈴鳴第一が、前回のランク戦で大戦果を挙げ上位進出を果たした原動力となった新陣形による戦術。
それは。
隊長である来馬が突撃銃の二丁持ちでのフルアタックで猛攻を行い、村上がその防護を行う陣形である。
連射性能において比類のない突撃銃を二つ持ち防御を考えずフルアタック。単純であるが、これを実行するだけで中距離での威力は大きく向上した。
当然フルアタックの為防御面で問題が起こるが──それは村上が持つ類稀なる防御能力が埋め合わせる。
しかし。
村上のレイガストによる防御は、シールドよりも遥かな耐久性を持つものの──村上の腕の可動範囲内のみでしか防御が出来ないという弱点がある。
だからこそ。
機動力もあり、ハウンドで背中側に通す事の出来る帯島と。
早撃ちによりいつでも防御上の隙を付ける弓場と挟み込むことで──村上の防御上の隙をつく。
その為。
易々と来馬がフルアタックを行うことが出来ない。
この場において──主導権を取っているのは間違いなく弓場と帯島であった。
そして。
鈴鳴の二人にとって──更に最悪な報告が入る。
──太一が加山に仕留められた、という報告。
そして。
モール一階から湧き上がる夥しいトリオン反応。
「.....やっぱり」
嫌な予感は、当たっていた。
加山は。弓場隊は。
こちらと──全く同じものを狙っていた。
「これが──弓場隊の戦い方だ」
そう拳銃を向けつつ弓場が呟いたその時。
弓場の目に──暗視が入った。
辺りが、暗闇に包まれる。
※
そして。
太一を仕留めたと同時、加山はエスクードを幾重にも積み重ね電気室を完全に分離した。
その中に、加山はいない。
分電盤のスイッチのオンオフにより戦況を動かす、という計画を加山は持っていた。
恐らく太一もそうするつもりだったのだと思う。
しかし、懸念点もあった。
スイッチのオンオフを行うには、当然その場に加山が留まらなければならない。
普通に考えれば──後々二宮や村上といった実力者がこちらに来れば完全な詰みである。そのリスクを負いたくはない。
バッグワームを着込み、ビーコンを発動させたところで、分電盤の前にいれば自分の存在を誇示しているようなものだ。いずれ仕留められるか、上手く逃げられても電気室を手放さなければいけない。
故に。
加山は考えた。
スイッチのオンオフを──遠隔操作できる方法はないかと。
ビーコン地帯に紛れ、自らの存在を隠しながら。
遠隔での分電盤の操作を行う方法を。
加山はその為の道具を──ビーコンを一階に仕込む段階で手に入れていた。
持ってきたのは、カフェテリア内にあった吊り下げ式の電灯。
それを引きちぎり、ついでに先端の電灯も歯で噛み千切り──電線の部分だけを紐代わりに持っていった。
その後。
加山は分電盤の前にエスクードを作成し、拳銃でもって近い位置に穴を二つ開ける。
その穴に電線を通し結びつけると、電源の根本と括りつける。
そうすると。
エスクードと分電盤のスイッチとの間を、懸け橋のように電線が結びついた。
そして加山は電気室周辺の潜伏場所から。
その橋の上の天井から──更にエスクードを垂直となるように発生させる。
そうなると──電源と結びついた電線が、エスクードの圧力でスイッチがオフとなる。
「──これが。加山式電源操作法ですよ。見てる~? 太一パイセン~?」
これにて。
スイッチを更に入れたくなったならば──天井のエスクードを引っ込め、今度は床から同じようにエスクードを発生させる。そうすれば、スイッチを上方向に跳ね上げることができ、電気をつける事も出来る。
そして。
その操作を行っている人間は──バッグワームとダミービーコンに紛れ姿を隠している。
ただでさえ障害物が多く隠れ合いになりやすい場所である。探すだけでも相当な労力が強いられる。
こうして、可能となった。
電源の遠隔操作が。
「さて。ちゃちゃっと上を片付けてくださいな。隊長、帯島」
上から鳴り響く銃声を聞きながら、そう加山は呟いた。
一度はやってみたかった。
太一のエスクードサンド。かしこ。