彼方のボーダーライン   作:丸米

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ランク戦ROUND7 ②

「──つまり。モールの分電盤を操作して、電気のオンオフを切り替えて戦うって事ですよね」

「そ。こっちは事前に電源をつけるかどうかの判断が出来るから、オペレーターが暗視をつけるタイミングと合わせることが出来る。対して相手はそれが出来ないから、暗闇になってから暗視を付けなきゃならない。そのタイムラグの間、一方的にこちらが攻撃できる」

 

 加山が、電気室からの電源のオンオフを利用した戦い方を説明する。

 

 要するに相手の視界を暗闇と発光を繰り返させて欺く手法。

 

 周囲から光を奪い、視界を欺き。

 

 暗視を相手が入れたら、今度は電気を入れる。

 暗視状態のまま明るい場所に出ると、視界がフラッシュしたかのように光で見えなくなる。

 

 こちらは常に最適な視界が担保されている状態で戦うことが可能となり、

 敵は電源のオンオフに合わせてオペレーターが暗視の切り替えを行うまで視界がジャックされた状態で戦う事となる。

 

「とはいえ。鈴鳴も当然分電盤を狙ってくる。多分モールではあんまり機能しない別役先輩が分電盤の操作に向かうと思いますが──最初に電気室を取れるかどうかは完全に運ですね」

「....だよねぇ」

「...」

 

 特に、加山は分電盤の操作を行う際にビーコンの仕込みと幾つかのギミックの仕込みをしなければならない。

 太一が先に分電盤を抑えている可能性も十分に想定される。

 

「まあ別役先輩が先に抑えた所ですぐに始末はしますけど。その場合、俺が別役をぶっ殺す(電気室を抑える)までは普通に鈴鳴から逃げてください。──多分あっちも弓場さんの拳銃を見たらウチの狙いも同じだって気付くはずですし」

「.....それって、多分鈴鳴第一も同じことをすると思うんです」

「ん?」

 

 帯島が真っすぐにこちらを見て、呟く。

 

「多分、加山先輩が電気室を抑えた、ってなったらウチからすぐに逃げる事になると。そう思うッス」

「ああ.....確かにな―」

 

 武装を黒に統一するとなると、当然鈴鳴もこちらの狙いを事前に察することになるだろう。

 その上でまともに相手をするとは考えられない。

 

「なので、こちらとしても一回目の電気の切り替えで──仕留められるか、そうでなくとも足を止められる手段があれば、って思ったんです」

 

 その後。

 帯島は──その作戦の内容を伝えた。

 

 

 辺りが暗闇に落とされる瞬間。

 どちらの部隊の動きも実に迅速であった。

 

 暗視が効かない村上と来馬は即座にその場を離れ、

 弓場と帯島は即座に攻撃に移る。

 

 弓場はシールドを解除し二丁拳銃を。

 帯島は村上と来馬の退路を塞ぐようにハウンドの軌道を設定し放つ。

 共に、狙うは急所。トリオン供給器官が存在する心臓部と、頭部へと。

 

「──すぐに暗視を入れるから、耐えて!」

「だが、暗視を入れたら今度は.....!」

 

 暗視を入れれば今度は電源を入れられ、今度は光で視界を塞いでいくのだろう。

 

 ──暗闇の中。それでも発射される瞬間のトリオンの光は見える。

 その光源を目印に、村上と来馬は防護を行う。

 

 威力の高い弓場の弾丸は村上のレイガストが。

 帯島のハウンド弾は来馬のシールドが。

 

 それぞれを防ぐ。

 

「──ここだ帯島。ぶっ放せ!」

「ッス!」

 

 敵が暗視を入れる直前。

 弓場と帯島の連携で──トリオンの光源に視線を向けるこの瞬間。

 

 

 ──帯島は、漆黒の弾丸を生成した。

 

 

 光が奪われし空間の中。

 闇に溶け込む色をしたそれは。

 

 

 ──射手トリガーと組み合わせた、鉛弾。

 

 

「──隊長!」

 

 

 暗視を入れ、周囲の視界を確保した村上が見た光景は。

 左足と右手。

 それぞれ鉛弾を食らい、黒色の重石が生え出ている来馬の姿。

 

 

 ──視線誘導。

 

 

 この一連の電源のオンオフによる視界ジャック作戦を行使するに辺り、弓場隊が事前に決めた戦術であった。

 積極的に相手の視線を動かし続け、意識の配分を強制的に変えさせながら敵を仕留める。

 

 

 弓場と帯島は加山が電源を落とす前より、村上と来馬の周囲を動きながら挟撃するという形で攻撃を行ってきた。

 この行為は鈴鳴の新陣形への対策として持ち込んだ方法であり、かつ──村上と来馬が二人分の視界をそれぞれ弓場と帯島に向けさせる目的もあった。

 

 これにより。

 村上と来馬それぞれ別方向へ視界を置かせることによって、互いの姿が視線に映らないように立ち回っていた。

 

 

 そして。

 暗闇が落ちた後に、弓場と帯島はそれぞれ通常弾での攻撃を心臓部と頭部に向け撃つ。

 

 その攻撃に対し、村上は弓場の弾丸を、来馬は帯島の弾丸をそれぞれ防ぐという役割を自然に振らせ

 そして、急所への攻撃を意識させ足元への警戒を緩めさせた。

 

 これにて。

 暗視の入った帯島の視線誘導により放たれた鉛弾は──幾度もの視線誘導により意識から外された足元から来馬を襲う事となる。

 結果。

 通常弾よりも速度が遅くなる欠点を抱えた鉛弾はシールドを張る来馬の防御をすり抜け、左足と右手に喰らう事となる。

 

 

 この帯島の鉛弾は──仮に太一が加山よりも電気室を抑えた場合の対抗策でもあった。

 

 その場合弓場と帯島は逃亡を行う事になる為、足止めが可能でシールドをすり抜けられる鉛弾は非常に有用な手になる。

 

 

「加山。──オンだ」

 

 鈴鳴が暗視を入れた事を察知すると。

 弓場は加山に即座に指示を飛ばす。

 

「了解」

 

 指示を受けると加山は、天井から生え出るエスクードを仕舞い、今度は床下から生やす。

 そうするだけで──紐づいたスイッチが跳ね上げられスイッチを入れる。

 

 

 瞬間。

 鈴鳴の二人に襲い掛かる──視界を埋め尽くす眩さ。

 

 

「──鋼! 逃げるんだ!」

 

 そう来馬は叫ぶと同時。

 視界を埋め尽くす光の中から射出された弓場の弾丸により、頭部が吹き飛ばされ──緊急脱出。

 

 

「く....!」

 

 暗視が解かれた村上は、そのまま吹き抜けより飛び降り──スラスターを起動し下へ逃れる。

 

 

「──加山。村上が下に向かっていった。気を付けろよ」

「了解っす」

 

 

 これにて。

 弓場隊は鈴鳴の二人を撃破し二得点を獲得した。

 

 

「──二宮隊の動きが妙に静かなのが気になるな。外岡ァ。外の様子はどうだ?」

 

「二宮隊は全員モールに入ったぽいですね。このまま俺は距離を詰めます」

「おうそうしてくれ。──二宮隊が中に入ったなら、流石にもうこの戦術は使えないだろう。お前も折を見て一階から離れろよ」

「了解。──お、噂をすれば」

「どうした?」

「村上先輩が一階に来ましたね」

 

 聞こえてくる加山の声は、何処か楽し気だった。

 

 

「──いやー。何というか、序盤からすんごい展開でしたね~」

「いやー。おもしれー攻防だった。ねぇ東さん」

「ああ。──ああやってトリガーでの攻防以外の要素が絡んだ展開というのは中々に見応えがありましたね」

 

 電気室の分電盤からの、電源のオンオフ。

 これを切り替えることによる弓場隊の猛攻と。

 そして──その前にあった加山と太一との電気室を巡る戦い。

 

 

「今回マップ選択をしたのは鈴鳴第一ですので、当然彼等はこの電気室からの電源のオンオフを利用した戦術を前提として作戦を組んでいたと思われます」

「だろうなぁ。多分太一あたりの発案だろうけど」

「恐らくは弓場隊は──この作戦を事前に読み、自分たちも利用する作戦を取ったのでしょう。だからこそ、電気室で太一を待ち伏せするという行動を、加山が取れた」

「ああ~。成程」

 

 加山は一階での仕込みを終えると、電気室へ向かい──すぐに電源の切り替えによる作戦を実行するでなく、待ち伏せをしていた。

 これは太一がやってくると。そう事前の想定が行われていなければ出来ない事だろう。

 

「その上で加山は。分電盤の操作を自らの手で行う事に対するリスクも事前に想定し、エスクードにより電源のオンオフを行う手段も用意していた。──正直、俺としてもかなり驚いている。マップ選択を自分たちでしたわけでもないのに、あまりにも手際が良すぎる」

「あー。そういえば、加山は以前米屋(槍バカ)と即興での部隊戦やった時に──分電盤ぶっ壊して電気系統を止める戦術使ってたみたいなんすよね。多分、あの発想の下地みたいなもんを事前に持っていたとは思います」

「ほう。成程な...」

「成程~。弓場隊はこれまでもかなり奇策に近い手法を用いてきた部隊ですけど、今度のもまたまた予想外というか...」

「予想外を序盤に叩きつけて主導権を取る、というのが弓場隊の基本的な方針なのかもしれないですね。──しかし、事前の備えが弓場隊はかなり徹底している感じがありますね」

「事前の備え、ですか」

 

 ああ、と東は言う。

 

「分電盤を利用した戦術というはじまりの部分においては弓場隊も鈴鳴第一も同じだったのですが。加山は分電盤を直接操作する危険性を考え遠隔操作を行うべく、一階へのダミービーコンの仕込みとそれを行える道具の調達も抜け目なくやっていました。帯島の鉛弾も、仮に電気室を先に太一が抑えた場合も考慮した結果の選択だったとも考えられます」

 

 太一よりも加山の方が転送位置がよかった、という事もあるが。

 その幸運を活かすための備えを加山はしていた。

 

 何という事はない。

 

 電気室に向け鈴鳴は直接戦闘では無力に近い太一という駒を送り込んだのに対して、

 弓場隊は戦力として運用できる加山を敢えて送り込んだ。

 

 その為──電気室をエスクードを利用したギミックによる遠隔操作を可能とし、電気室へ向かった太一の排除もつつがなく完了させることが出来た。

 

 同じ戦術を行使するのならば──より実力があり、より備えていた方が競り勝つ。

 

 好機は──よりそれを掴める備えをしたものの手中にのみ生まれるのだ。

 

「そして──二宮隊の動きも流石ですね」

 

 東は、そう呟く。

 

「二宮隊はここまで非常に静かですが──三人それぞれ合流を完了させ、モール東端の非常階段からそれぞれ別階層にて身を潜めています」

「二宮隊もまた、マップ選択を行った鈴鳴の狙いがイマイチ読めなかったのでしょう。だから全員がバッグワームを着込み身を隠しながら鈴鳴と弓場隊との戦いを観察し、答えを得た。見てください」

 

 最初の電気の切り替えが行われた時。

 その時既に──三人それぞれ非常階段に備えられた電気系統を順繰りに破壊していった。

 

「非常階段は他のフロアと比べ極端に電気が少ない地点ですので、破壊するのにさほど時間はかからない。最初から電気系統を破壊する事で電源のオンオフによる視界ジャックの影響は受けずに済む。──結果、弓場隊に2ポイント与える事にはなりましたが、この弓場隊の作戦の被害を鈴鳴一部隊に集中させる事にも成功した、とも言える訳です」

「な、成程~」

 

 作戦を読み、事前の備えを抜け目なく行いポイントを稼いだ弓場隊と。

 不確かな相手の狙いを読むべく、序盤は見に徹していた二宮隊。

 

「そして──恐らく、ここから二宮隊は動き出します」

 

 

 上階からスラスターにより加速を行い。

 村上は一階に降りていた。

 

 ──やっぱり。

 

 そして見えるのは。

 各フロアへ繋がる通路をエスクードで封鎖し、その背後にダミービーコンを設置している光景。

 

 そして。

 電気室周辺を、周囲一帯六枚ずつのエスクードにて厚い壁を設置している光景。

 

 試しに。

 左隣のエスクードを旋空にて斬り裂く。

 すると──置き弾のメテオラに切っ先が触れ、爆発が巻き起こる。

 

「──加山は、電気室にいないのか」

 

 これだけのエスクードで電気室周辺を塗り固めているという事は、もう加山はそこにいないのかという疑念が沸き起こる。

 わざわざ自ら退路を塞いでいることは無いだろう、と。そう村上は思った。

 

 

「いや」

 

 だが。

 加山ならむしろ──天井か、それとも壁を壊して別の退路を用意しててもおかしくはない。

 

 

 ──村上は知らない。

 ──加山が遠隔の操作によってスイッチのオンオフを切り替えている事実を。

 

 

 電気室周辺に何枚も重ねられたエスクードを叩き切る。

 

 分電盤を破壊する恐れのあるメテオラを仕込むことは無いだろうと予測し、実際にそれは当たっていた。

 

 そして。

 村上は──電気室の中を見る。

 

 そこには。

 

 穴の開いたエスクードと、その穴を通してスイッチと紐づけられた電線コードがあって。

 .....加山雄吾の姿は、無かった。

 

 そして。

 天井部より、ガコン、とエスクードが降り落ち。

 

 周囲がまた──暗闇に飲み込まれる。

 

「......!」

 

 そうして。

 暗闇の中、ハウンドが村上の頭上を通り迫る。

 

 村上は振り返ると同時──光源を追い、ハウンドをレイガストで防ぐ。

 

 頭上から来るハウンドに対して、レイガストで反応した。

 

 この状況に大いなる既視感を抱いた村上は──視線は、下に向ける。

 

 

 発砲音と共に。

 自身の足元に迫る弾丸の軌跡を見咎めた。

 

「く....!」

 

 直前に足の位置を動かしたため、完全に吹き飛ばされる所まではいかずとも。

 それでも腿の部分が三分の一程削れることとなる。

 

「....アレを回避しますか。いやはや、マジで」

 

 光源を頼りに。

 村上もまた──旋空の一撃。

 

 

 追撃をかけようとする加山の前に、伸び上がるブレードが目前へ迫る。

 この回避行動によって加山は追撃の手が止まり。

 村上には暗視が入る。

 

「久しぶりですね村上先輩」

「ああ。──個人戦ぶりだな。なあ、覚えているか加山。あの時に俺が言ったことを」

「うっす。──必ず上位まで這い上がって、個人戦したことを後悔させてやる、でしたっけ?」

「そうそう。──有言実行させてもらおう」

「そういうのは、俺を仕留めてから言ってください。あの時よりも圧倒的に不利ですぜ」

 

 拳銃とハウンド。

 双方を射出の準備を行い──加山はビーコンの群れから出てくる。

 

「──潰してやりますよ」

「ああ。存分に来い」

 

 

 互いの息が合い。

 暗闇の中──攻防が開始されんと踏み込んだ瞬間。

 

 

 その斜め上より。

 光が見えた。

 

 

 その光は。

 

 塊であった。

 トリオンを凝縮し、打ち出した大きな塊。

 

 

 その塊は──丁度二人の頭上に存在していた吹き抜けの階層を粉々に粉砕していた。

 

 

 そして。

 

「ハウンド」

 

 と。

 

 同じく上層より声が響く。

 

 

 

 その追尾弾は──。

 

 

「げ」

 

 加山は即座にシールドを張りつつ、エスクードの物陰に隠れ。

 村上はレイガストにて防護を行う。

 

 

 両者の頭上に降り落ちる。

 

 

 そして。

 別の軌道で枝分かれした弾雨の一部。

 

 

 それは村上の背後を通り過ぎ

 

 ──その先にあった、分電盤を貫いていた。

 

 

 

「──小細工は終わりだ」

 

 冷徹な声が聞こえてきた。

 

 B級においてそれは──紛う事なき悪魔の声に等しい。

 

 

「──撃ち堕とす」

 

 

 漆黒の闇に溶け込む黒色のスーツを着込んだ射手の王が。

 上層に顕現していた。

 

 

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